とある離島のインペリアルボーイ
16,とある女騎士の私情
「う、おぉわぁぁぁああぁぁぁぁあああぁあっ!?」
全力で悲鳴を上げたのは、何時ぶりだろう。
驚愕の叫びならガルシャークさんとの戦いの時に上げた記憶があるが、純粋な恐怖から来る悲鳴は10年ぶりくらいな気がする。
何で今、俺がそんな悲鳴を上げてんのかって?
そらお前、上空から巨大ロボットが4刀流振りかざして突っ込んできたら、悲鳴くらい上げんだろ。
まともに走って、逃げれるはずが無い。
俺は迷わずガードレールへ向かって走った。
ロボットに追い回された時の対処なんてわからん。
とりあえず、この島で最も脅威的存在、猪の成獣に出くわした時の対処法を適用させてもらう。
『覚悟!』
後方から追いかけてきた、スピーカー越しのヘアティルの声。
ふざけんな、そんな簡単に死を覚悟なんぞできるか。
ガードレールに手をかけて、跳ぶ。
その先に、大地は無い。あるのは、月明かりを受けながら静かに揺れる、細波の水面。
海へと落下する俺の直上を、巨大な物体が駆け抜けていく。カミキリザンキだ。
「っおぉうお!?」
カミキリザンキが巻き起こした風圧に煽られ、俺はめちゃくちゃな体勢で海へと着水する。
落下の勢いで、一気に水深3メートルくらいまで沈んだ。
俺は、泳ぎは得意な部類だ。島育ち舐めんな。海は庭だこの野郎。
日課の夕釣りの最中、何度か大物に引っ張られて橋から落っこちた事もあるから、着衣泳も慣れてる。
ただすっげぇ寒い。いくら亜熱帯のこの島でも、夜間に寒中水泳は体によろしくないに決まってる。
一瞬、心臓が変な鼓動を刻んだ。絶対今ちょっと寿命縮んだ。
でもまぁ、今すぐ死ぬよりはマシだ。
とにかく、このまま浮上すんのは不味い。
沈んだまま、俺は全力で水をかき、移動する。
つぅか、いきなりロボットで生身の人間に襲い掛かるってどうなんだ。お前はカミーユかって話だ。
ガルシャークさん達みたいにこっちが機体に乗るまで待てよ……同じ四天王のくせに、騎士道精神の欠片も無いな。
……まぁ、よくよく考えてみるとガルシャークさん達が待ってくれてた事の方が特殊なのか。
殺しのターゲットが戦う準備終わるまで待つなんて、暗殺者のする事じゃないわな。
「………………」
何か、色々と特殊だな、今回のケース。
あのヘアティルと言う女性は、何もかもが今までの刺客とは異なる。異質だ。
襲撃して来た時間帯、その姿、そのやり方。全部今までの連中とは全く違……いや、最初のフーグに関しては似た感じだったか。
うん、やっぱ他の四天王3人が特殊だっただけかも知んない。
あ、そう言えば……刺客としてでは無く、個人的な用件で俺を殺しに来たとか言ってたな。
何か「私の大切な存在に手を出した事を後悔しろ」とか言ってたが……全く身に覚えが無いぞ。
「うぶっふ」
うっ、そろそろ呼吸が限界だ。
まだ20メートル程しか進んじゃいないが、一旦水面に出るしか無い。
丁度そう考えた時だった。
俺の少し前方、何かが水中に飛び込んできた。
気泡の量からして、かなり大きい。
「っ、ぶぅ!?」
大きな質量が水に落ちれば、水面・水中でその衝撃が波と水流になる。
突如発生した大きな水流が、俺の体を強く圧迫。一気に10メートル程、後方へ吹っ飛ばされてしまった。
「…………!?」
体勢を立て直し、水流が来た方を見る。
暗い水中では、何が飛び込んで来たのか、その姿ははっきりとは捉えられない……のだが……
巨大な2つの緑光が、見えた。
それは、アイカメラの放つ光。
間違いなく、カミキリザンキだ。
「っ」
戦慄の余り、僅かに残っていた空気を吐き出してしまった。
そうだ、普通に考えりゃそうなんだ。
海底国家が開発した機動兵器が、水中戦に対応していない訳が無い。
突然過ぎる生命の危機に焦り、そんな事すら失明していた。
海に飛び込んだのは、完全にミスチョイスだ。
そうだよ、そもそも相手は猪じゃねぇもん。
冷静に動いたつもりだったが、全然冷静じゃなかった。
今、完全にパニクってるわ俺。
パニクり過ぎて逆に余計な思考がフル回転な感じだこれ。
そろそろ走馬灯が見えるかも知れな……
「っ!?」
そんな余計な思考をグルグルさせていた最中、違和感が俺の全身を包む。
まるで巨大な掌に優しく握りこまれた様な、そんなやんわりした圧迫感を全身に感じる。
そして、カミキリザンキがこちらに突進開始する直前、俺は思いっきり上へ、押し上げられた。
「ぶへあっ!?」
そのまま、勢い良く海上へ。
よくわからんが助かった。やっと肺に新鮮な空気を取り込める。
「つぅか……み、水の手……?」
俺を海上に運び出してくれたのは、何か、海水で構築された巨大な手。
その手が俺をわし掴みにして上昇し、現在に至る様だ。
『無事でしたか、鋼助さん!』
「!」
水の手に持ち上げられた状態の俺の目の前に、夜闇よりも黒い巨大ロボットが舞い降りる。
戦闘モードのBJ3号機だ。
BJ3号機はそのまま、当然の様に海面を踏みしめ、立った。
え、お前水上歩行とかできたっけ?
『うーっす、皇子サマ、助けに来たぜぇ』
「その声……ガルシャークさん!?」
BJ3号機の外部スピーカーから響いた無気力な声、絶対にガルシャークさんだ。
そうか、この俺を持ち上げている水の手も、BJ3号機が水面に立っているのも、全部ガルシャークさんの『水流掌握』の成せる技か。
「な、何でガルシャークさんがBJに……」
『なぁんか高エネルギー反応を検知したとか、このロボットが言いだしてなぁ。操縦者が必要だってんで、俺が代行したって訳だ』
ああ、そう言えばBJ3号機は刺客警戒のため、常にエネルギーセンサーを全開にしているんだ。
カミキリザンキの反応を検知し、駆けつけてくれたらしい。
「ってかガルシャークさん……よく俺を助ける気になりましたね……」
元々あんたは龍宮帝国側の刺客なのに。
『当然だろ? もうお前さんが龍宮帝国に狙われる理由は無いんだ。オアシスを提供してもらってる礼もある』
「ああ、そういう……」
情けは人のためならず。
人に優しくするといつか自分に返ってくるってのは、ガチだった様だ。
『にしても……何故、刺客が……? しかもこんな時間に……』
BJ3号機が疑問を口にしたと同時、海面が弾け、カミキリザンキも海上へと踊り出た。
『……噂の機動兵器か……!』
舌打ち混じりなヘアティルさんの声。
『! ……その声、ヘアティル卿か?』
『なっ……ガルシャーク卿!? 何故地上に!?』
『……まぁ、その辺は……』
ガルシャークさんだって家庭的な意味で色々とあるのである。
「と、とにかくBJ、俺をコックピットに入れてくれ……」
ぐしょ濡れで夜風に晒されてる現状はキツイ。
『了解しました』
BJ3号機の胸部が開き、コックピット内部が露出。
前部座席にはガルシャークさんが座っていた。
おお、この乗り方は初めてだ、とかどうでも良い感想を抱きつつ、俺はコックピットに入り、後部座席へ。
「BJ、ガルシャークさん、本当にありがとうございます。今回はマジで死ぬかと思った……」
「そいつぁどぉも……で、ヘアティル卿、どう言う事だよこいつぁ」
そうだ、もう龍宮帝国が俺に刺客を送り込むはずが無い。
そしてヘアティル自身も個人的な事だと言っていた。
俺の生命を狙う程の理由、教えてもらわなきゃ納得できない。
もしガルシャークさんの問いかけにまともな返答が無ければ、絶対問答を使わせてもらう。
『その男は……鉄軒鋼助は……』
「どりゃああぁぁああぁぁぁあぁああああ!!」
『にゃぶちっ!?』
ヘアティル卿が語り始めようとした丁度その時、翡翠色の流星がカミキリザンキの横腹に直撃した。
凄まじい勢いで、カミキリザンキが海中へと消える。
空の星に届いちまうんじゃねぇか、と思うくらいすんごい水飛沫が跳ね上がった。
「………………」
「………………」
『………………』
「鋼助! 無事!?」
翡翠の流星の正体は、俺の幼馴染、悠葉……の魔法戦闘形態。
本人曰く、正義のヒロイン魔法戦士・風神天女。
もう正体を隠す必要は無いからか、あのイカレたデザインのヘルメットは被っていない。
「悠葉……お前どうしてまた突然……」
「何かすんごい嫌な予感がしたから駆けつけたのよ!」
どうやら直感で俺の危機を悟ったらしい。
エスパーかお前は。どこまで設定盛る気だ。
「……あの羽生えてるお嬢さんは一体……」
「俺の幼馴染です」
「……とんでもないな」
実にシンプルなガルシャークさんの感想。俺もそう思う。
「さて、とりあえず潜ってトドメさしてくるから……」
「ちょっと待て悠葉! お前血気盛ん過ぎ!」
「なによ、あんた、自分を殺しに来た相手を庇う訳?」
「いや、何か特殊な事情があるっぽいんだよ今回は!」
それを聞かずにヒャッハーなテンションでボコるのは何かアレだ。
ってかお前水中戦まで対応してんのかよ。
「……? まぁいいわ、じゃあ少しだけ待つわよ」
と、悠葉を抑える事に成功した直後、沖の方でザッパァンと言う水が弾ける音。
悠葉の蹴りで海の中へ消えたカミキリザンキが浮上したのだ。
……蹴り1発であんな所まで吹っ飛ばしたのか。
相変わらず、あの状態の悠葉の膂力はハンパじゃない。
そんな感じで俺が呆れていると、
「!」
ガルシャークさんが何かに反応した。
BJ3号機を構えさせる。
沖の方にいたカミキリザンキが、凄まじい速力で突っ込んできた。
『斥力障壁、展開!』
ガルシャークさんの指示で既に動いていたBJ3号機。
その眼前に斥力のバリアが展開され、カミキリザンキが振るった4本の大剣を受け止める。
「ちょいちょい……ヘアティル卿、まず質問に答えてくれないかねぇ……」
『答えようとしたら、仕掛けてきたのはそちらでしょうが! おかげで舌噛みましたよ!』
……そのお怒りはごもっともである。
「こっちも想定外のアクシデントだったんだ。俺に免じて少し大目に見てくれや、ヘアティル卿」
『……っ……了解しました』
なんだろう、ガルシャークさん、もしかしてヘアティルとは何かしら関係があるのだろうか。
ただの同僚にしては、ヘアティルの引き際がやたらに良い気がする。
そう言えば、ガルシャークさんは軍人学校で教鞭を取る事もあると言っていたし……その頃の教師と生徒だった、とかだろうか。
『……その男、鉄軒鋼助は……』
刀剣を引き、カミキリザンキを少し後退させながら、ヘアティルさんが衝撃の一言を吐いた。
『私の大事なトゥルティたんを、奪った……!』
………………トゥルティ……たん?
『ポッと出の皇子なんぞがトゥルティたんと「結婚」するなんて……絶対に許さない! 私は10年以上も前……同じ小学校に通ってる時からロックオンしてたのよ!?』
「……え、……は?」
『愛し合った末ならまだ割り切り様もあった……なのに、暗殺を回避するための形だけの結婚ですって……? そんな理由で、トゥルティたんの戸籍に汚点を残させてたまるモンですか! あの子の体も戸籍も、純潔をいただくのは私よ! そう、これは聖戦、真実の愛の戦い!』
……ちょっと待って欲しい。
何言ってんだ、この人。
「……あの女騎士さんと結婚って、どぉぉぉいう事かしらぁぁぁぁん?」
「おい、何か幼馴染さんまでこっちに敵意向けてきたけど、どうなってんだ? つぅか結婚って何だ?」
『僕も全く認知していない事ですね』
「俺もだよ」
ヤバい、全く意味がわからない。
何で俺とトゥルティさんが結婚する事になってんの?
そして何で悠葉はあんなにキレてんの?
「……ってか、待てよ……暗殺を回避するためだけの結婚?」
ヘアティルさんは今、確かにそう言ったな。
まさか……
「……ヘアティルさん、1つよろしいでしょうか」
『なによこの泥棒猫』
「……俺は、マリーヌ家に移籍するだけであって、トゥルティさんと入籍する訳では無いんですが」
『…………え?』
……やはり、そういう事か。
「俺はタトスのおっさんの養子になるんであって、トゥルティさんの婿になる訳じゃないです」
噂だ。
俺のマリーヌ家移籍計画について、トゥルティさんは軽く噂を流したと言っていた。
その噂がどこかで「マリーヌ家へ移籍」→「トゥルティ卿と入籍」になってしまったのだろう。
そしてそれが、ヘアティルの耳に届いてしまった。
『え……? ちょ…………はぁぁ?』
非常に狼狽えまくっているヘアティルさんの声が、スピーカーに乗る。
『……じ、じゃあ、私は……』
「……勘違いで不必要に皇子を殺そぉとした挙句、幼少期からの特殊性癖を暴露した、だけだなぁ」
ガルシャークさんが簡単にまとめた後……
羞恥に満ちたヘアティルの絶叫が、夜の海に響き渡った。
全力で悲鳴を上げたのは、何時ぶりだろう。
驚愕の叫びならガルシャークさんとの戦いの時に上げた記憶があるが、純粋な恐怖から来る悲鳴は10年ぶりくらいな気がする。
何で今、俺がそんな悲鳴を上げてんのかって?
そらお前、上空から巨大ロボットが4刀流振りかざして突っ込んできたら、悲鳴くらい上げんだろ。
まともに走って、逃げれるはずが無い。
俺は迷わずガードレールへ向かって走った。
ロボットに追い回された時の対処なんてわからん。
とりあえず、この島で最も脅威的存在、猪の成獣に出くわした時の対処法を適用させてもらう。
『覚悟!』
後方から追いかけてきた、スピーカー越しのヘアティルの声。
ふざけんな、そんな簡単に死を覚悟なんぞできるか。
ガードレールに手をかけて、跳ぶ。
その先に、大地は無い。あるのは、月明かりを受けながら静かに揺れる、細波の水面。
海へと落下する俺の直上を、巨大な物体が駆け抜けていく。カミキリザンキだ。
「っおぉうお!?」
カミキリザンキが巻き起こした風圧に煽られ、俺はめちゃくちゃな体勢で海へと着水する。
落下の勢いで、一気に水深3メートルくらいまで沈んだ。
俺は、泳ぎは得意な部類だ。島育ち舐めんな。海は庭だこの野郎。
日課の夕釣りの最中、何度か大物に引っ張られて橋から落っこちた事もあるから、着衣泳も慣れてる。
ただすっげぇ寒い。いくら亜熱帯のこの島でも、夜間に寒中水泳は体によろしくないに決まってる。
一瞬、心臓が変な鼓動を刻んだ。絶対今ちょっと寿命縮んだ。
でもまぁ、今すぐ死ぬよりはマシだ。
とにかく、このまま浮上すんのは不味い。
沈んだまま、俺は全力で水をかき、移動する。
つぅか、いきなりロボットで生身の人間に襲い掛かるってどうなんだ。お前はカミーユかって話だ。
ガルシャークさん達みたいにこっちが機体に乗るまで待てよ……同じ四天王のくせに、騎士道精神の欠片も無いな。
……まぁ、よくよく考えてみるとガルシャークさん達が待ってくれてた事の方が特殊なのか。
殺しのターゲットが戦う準備終わるまで待つなんて、暗殺者のする事じゃないわな。
「………………」
何か、色々と特殊だな、今回のケース。
あのヘアティルと言う女性は、何もかもが今までの刺客とは異なる。異質だ。
襲撃して来た時間帯、その姿、そのやり方。全部今までの連中とは全く違……いや、最初のフーグに関しては似た感じだったか。
うん、やっぱ他の四天王3人が特殊だっただけかも知んない。
あ、そう言えば……刺客としてでは無く、個人的な用件で俺を殺しに来たとか言ってたな。
何か「私の大切な存在に手を出した事を後悔しろ」とか言ってたが……全く身に覚えが無いぞ。
「うぶっふ」
うっ、そろそろ呼吸が限界だ。
まだ20メートル程しか進んじゃいないが、一旦水面に出るしか無い。
丁度そう考えた時だった。
俺の少し前方、何かが水中に飛び込んできた。
気泡の量からして、かなり大きい。
「っ、ぶぅ!?」
大きな質量が水に落ちれば、水面・水中でその衝撃が波と水流になる。
突如発生した大きな水流が、俺の体を強く圧迫。一気に10メートル程、後方へ吹っ飛ばされてしまった。
「…………!?」
体勢を立て直し、水流が来た方を見る。
暗い水中では、何が飛び込んで来たのか、その姿ははっきりとは捉えられない……のだが……
巨大な2つの緑光が、見えた。
それは、アイカメラの放つ光。
間違いなく、カミキリザンキだ。
「っ」
戦慄の余り、僅かに残っていた空気を吐き出してしまった。
そうだ、普通に考えりゃそうなんだ。
海底国家が開発した機動兵器が、水中戦に対応していない訳が無い。
突然過ぎる生命の危機に焦り、そんな事すら失明していた。
海に飛び込んだのは、完全にミスチョイスだ。
そうだよ、そもそも相手は猪じゃねぇもん。
冷静に動いたつもりだったが、全然冷静じゃなかった。
今、完全にパニクってるわ俺。
パニクり過ぎて逆に余計な思考がフル回転な感じだこれ。
そろそろ走馬灯が見えるかも知れな……
「っ!?」
そんな余計な思考をグルグルさせていた最中、違和感が俺の全身を包む。
まるで巨大な掌に優しく握りこまれた様な、そんなやんわりした圧迫感を全身に感じる。
そして、カミキリザンキがこちらに突進開始する直前、俺は思いっきり上へ、押し上げられた。
「ぶへあっ!?」
そのまま、勢い良く海上へ。
よくわからんが助かった。やっと肺に新鮮な空気を取り込める。
「つぅか……み、水の手……?」
俺を海上に運び出してくれたのは、何か、海水で構築された巨大な手。
その手が俺をわし掴みにして上昇し、現在に至る様だ。
『無事でしたか、鋼助さん!』
「!」
水の手に持ち上げられた状態の俺の目の前に、夜闇よりも黒い巨大ロボットが舞い降りる。
戦闘モードのBJ3号機だ。
BJ3号機はそのまま、当然の様に海面を踏みしめ、立った。
え、お前水上歩行とかできたっけ?
『うーっす、皇子サマ、助けに来たぜぇ』
「その声……ガルシャークさん!?」
BJ3号機の外部スピーカーから響いた無気力な声、絶対にガルシャークさんだ。
そうか、この俺を持ち上げている水の手も、BJ3号機が水面に立っているのも、全部ガルシャークさんの『水流掌握』の成せる技か。
「な、何でガルシャークさんがBJに……」
『なぁんか高エネルギー反応を検知したとか、このロボットが言いだしてなぁ。操縦者が必要だってんで、俺が代行したって訳だ』
ああ、そう言えばBJ3号機は刺客警戒のため、常にエネルギーセンサーを全開にしているんだ。
カミキリザンキの反応を検知し、駆けつけてくれたらしい。
「ってかガルシャークさん……よく俺を助ける気になりましたね……」
元々あんたは龍宮帝国側の刺客なのに。
『当然だろ? もうお前さんが龍宮帝国に狙われる理由は無いんだ。オアシスを提供してもらってる礼もある』
「ああ、そういう……」
情けは人のためならず。
人に優しくするといつか自分に返ってくるってのは、ガチだった様だ。
『にしても……何故、刺客が……? しかもこんな時間に……』
BJ3号機が疑問を口にしたと同時、海面が弾け、カミキリザンキも海上へと踊り出た。
『……噂の機動兵器か……!』
舌打ち混じりなヘアティルさんの声。
『! ……その声、ヘアティル卿か?』
『なっ……ガルシャーク卿!? 何故地上に!?』
『……まぁ、その辺は……』
ガルシャークさんだって家庭的な意味で色々とあるのである。
「と、とにかくBJ、俺をコックピットに入れてくれ……」
ぐしょ濡れで夜風に晒されてる現状はキツイ。
『了解しました』
BJ3号機の胸部が開き、コックピット内部が露出。
前部座席にはガルシャークさんが座っていた。
おお、この乗り方は初めてだ、とかどうでも良い感想を抱きつつ、俺はコックピットに入り、後部座席へ。
「BJ、ガルシャークさん、本当にありがとうございます。今回はマジで死ぬかと思った……」
「そいつぁどぉも……で、ヘアティル卿、どう言う事だよこいつぁ」
そうだ、もう龍宮帝国が俺に刺客を送り込むはずが無い。
そしてヘアティル自身も個人的な事だと言っていた。
俺の生命を狙う程の理由、教えてもらわなきゃ納得できない。
もしガルシャークさんの問いかけにまともな返答が無ければ、絶対問答を使わせてもらう。
『その男は……鉄軒鋼助は……』
「どりゃああぁぁああぁぁぁあぁああああ!!」
『にゃぶちっ!?』
ヘアティル卿が語り始めようとした丁度その時、翡翠色の流星がカミキリザンキの横腹に直撃した。
凄まじい勢いで、カミキリザンキが海中へと消える。
空の星に届いちまうんじゃねぇか、と思うくらいすんごい水飛沫が跳ね上がった。
「………………」
「………………」
『………………』
「鋼助! 無事!?」
翡翠の流星の正体は、俺の幼馴染、悠葉……の魔法戦闘形態。
本人曰く、正義のヒロイン魔法戦士・風神天女。
もう正体を隠す必要は無いからか、あのイカレたデザインのヘルメットは被っていない。
「悠葉……お前どうしてまた突然……」
「何かすんごい嫌な予感がしたから駆けつけたのよ!」
どうやら直感で俺の危機を悟ったらしい。
エスパーかお前は。どこまで設定盛る気だ。
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実にシンプルなガルシャークさんの感想。俺もそう思う。
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「なによ、あんた、自分を殺しに来た相手を庇う訳?」
「いや、何か特殊な事情があるっぽいんだよ今回は!」
それを聞かずにヒャッハーなテンションでボコるのは何かアレだ。
ってかお前水中戦まで対応してんのかよ。
「……? まぁいいわ、じゃあ少しだけ待つわよ」
と、悠葉を抑える事に成功した直後、沖の方でザッパァンと言う水が弾ける音。
悠葉の蹴りで海の中へ消えたカミキリザンキが浮上したのだ。
……蹴り1発であんな所まで吹っ飛ばしたのか。
相変わらず、あの状態の悠葉の膂力はハンパじゃない。
そんな感じで俺が呆れていると、
「!」
ガルシャークさんが何かに反応した。
BJ3号機を構えさせる。
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『斥力障壁、展開!』
ガルシャークさんの指示で既に動いていたBJ3号機。
その眼前に斥力のバリアが展開され、カミキリザンキが振るった4本の大剣を受け止める。
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『答えようとしたら、仕掛けてきたのはそちらでしょうが! おかげで舌噛みましたよ!』
……そのお怒りはごもっともである。
「こっちも想定外のアクシデントだったんだ。俺に免じて少し大目に見てくれや、ヘアティル卿」
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なんだろう、ガルシャークさん、もしかしてヘアティルとは何かしら関係があるのだろうか。
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刀剣を引き、カミキリザンキを少し後退させながら、ヘアティルさんが衝撃の一言を吐いた。
『私の大事なトゥルティたんを、奪った……!』
………………トゥルティ……たん?
『ポッと出の皇子なんぞがトゥルティたんと「結婚」するなんて……絶対に許さない! 私は10年以上も前……同じ小学校に通ってる時からロックオンしてたのよ!?』
「……え、……は?」
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……ちょっと待って欲しい。
何言ってんだ、この人。
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『僕も全く認知していない事ですね』
「俺もだよ」
ヤバい、全く意味がわからない。
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まさか……
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『なによこの泥棒猫』
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『…………え?』
……やはり、そういう事か。
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噂だ。
俺のマリーヌ家移籍計画について、トゥルティさんは軽く噂を流したと言っていた。
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『え……? ちょ…………はぁぁ?』
非常に狼狽えまくっているヘアティルさんの声が、スピーカーに乗る。
『……じ、じゃあ、私は……』
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