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とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

12,吹きすさぶ魔法戦士



 現実と夢の狭間の世界。
 そこには、無数の幻想郷ファンタジアが広がっている。
 その1つに存在する魔法の国、ワクワクホリックランド……通称ワクホリ。


 基本的に喜劇に満ちたその国で、その悲劇は突然に起きてしまった。
 第297代目国王の娘、ハユル姫が、生まれながらに不治の病を患っていたのである。


 明日も知れぬ身でありながら、幼いハユル姫は日々を懸命に生きた。
 何故自分だけがこんな酷い運命を背負わなきゃならないのか。
 そんな悲痛な想いもあったはずだ。
 それでも彼女は生まれ落ちたその日から、最後の日を迎えるまで、決して笑みを絶やさなかった。


 国民は皆、そんな彼女を愛した。
 神に愛されなかった1人の少女を、皆で愛した。
 愛に満たされながら、彼女は最後の日を迎え、そして安らかに眠りに就いた。


 きっと、幸せな来世を。
 彼女の命日が来る度、皆がそう祈った。


 その祈りが通じたのだろう。
 彼女の死から10年が過ぎたある日、ワクホリ中の占い師がとある未来を見た。


 ハユル姫の魂が、新たな存在として生まれ出ずる時が来た。
 場所は現実世界の小さな島。
 平和な時が流れ、豊かな自然が暖かな心を育む場所。
 その場所で、彼女は健康体を得て生まれ変わると。
 しかも、ハユル姫の来世には「結ばれるべき運命の相手」もいる。
 この国では得られなかった、幸せな未来が約束されている。


 しかし、その幸せを確実に掴むためには力が必要だと言う。
 彼女の運命の相手は前途多難、まるで嵐の中を進む笹の船。その船を守る力が、必要だ。
 現実世界の只人として生まれ変わる姫に、そんな力があろうはずも無い。


 ワクホリの民達は察した。
 祈りの時は終わったのだ。
 今こそ、行動する時だ。


 悲運な人生を嘆こうとはせず、笑顔で全うしてみせた強き姫君。
 今度こそ、彼女に人並みの幸せを掴んでもらうために。
 涙をこらえて笑う必要など無い人生を歩んでもらうために。


 本来は禁忌である現実世界への干渉。
 ワクホリの者達は、迷わなかった。たった1人の少女に悲劇を押し付けた神々の言いつけなど、最早守る気が無かった。


 国中の皆の魔力を集め、その昔神々が閉ざしたと言う現実世界へのゲートを開く。
 計算上、そこから現実世界へ送り込めるのはただ1人。


 選ばれたのは、ワクホリ八大聖霊が一角、風の聖霊ウディム。
 転生せしハユル姫の元へ行き、その力となる使命を託された。






 ゲートを無理やりこじ開けた影響で時空の乱れが生じたため、結局ウディムが現実世界にやって来れたのは、ハユル姫の転生から15年が過ぎた頃だった。


 そして当のハユル姫の転生体、霊代悠葉はぶっちゃけこの話を欠片も信じちゃいなかった。
 何か自分を「姫」と呼ぶ不思議な幻聴が聞こえる、なにこれ恐い、くらいの認識だった。


 ワクホリの事、自分がハユル姫とやらの転生体である事、運命の人が笹舟マジやばい事、色々と聞かされたが、正直信じる気は無かった。
 一体この幻聴はいつ止むのだろう、とひたすら無視していた。


 しかし、彼女は知る。
 想いを寄せる幼馴染に生命の危機が迫っていた事を。


 運命の人が笹舟マジやばい。


 謎の幻聴が言っていたのは、こういう事だったのだ。
 そして幻聴はこうも言っていた。「その運命の人を守るための力になりに来た」と。


 それを脳内で整理した時、悠葉は思いついた。
 あの女騎士に、鋼助を奪われないで済むかも知れない方法を。


 女騎士をお役御免にしてしまえば良いのだ。
 鋼助を守るヒーロー、もといヒロインを捏造し、鋼助に「ああ、あの人がいるし、トゥルティさんはもう帰っていいよ」と言わせてしまえば良い。


 鋼助を自分の手で守れるし、危険な女騎士も穏便に排除できる。
 これだ、これが最善だ。


 だからあの日、悠葉は自らウディムに話しかけた。


 その魔法の力を借りて、この最善の計画を実行するために。








 重白兵戦・及び敵拠点破壊作戦特化BSM、ビッグプレッサ。
 全高推定23メートル。


 マジカル暴風戦士・風神天女カジウカミ……こと霊代悠葉。
 全高1,52メートル。


 あまりにも体格差が開いている1機と1人が対峙する。


「鋼助様、本当に任せちゃって良いんですか?」
「まぁ、大丈夫と思うよ」


 さっきのマグロロボの瞬殺っぷりからして、あの状態の悠葉はかなり強い。
 それに、


「あいつ、できない事に挑戦する様なタイプじゃないし」


 悠葉は勤勉と言う文字とは縁遠い。
 あいつは自分にできると思う事しかやらない。そういう奴だ。
 そんなあいつが「見てろ」と言うからには、1人で充分だと信じていいだろう。


「……でも一応、万が一には備えててくれ」
『わかりました』


 まぁ必要無いとは思うがね。備えとくに越した事は無いだろう。


 ってな訳で、見物と行こう。
 何やら魔法の力とやらを手に入れたらしい、幼馴染の戦いっぷりを。


『ゆくぞ、奇っ怪な乱入者よ!』


 先に仕掛けたのは真ん丸ロボ、ビッグプレッサ。
 その丸みを帯びた巨腕を振り上げ、悠葉へと突進する。


「……あなたを吹き飛ばすのは、骨が折れそうね」


 静かにつぶやくと、悠葉はあの緑の魔法陣を両掌に展開。


「まず、飛ばしやすいサイズにまで、削る」


 魔法陣を纏った手を、振るう。
 肉眼では捉えられない突風の刃が、砂を吹き飛ばしながらビッグプレッサの元へ。


 風の刃はビッグプレッサに直撃。
 瞬間、ビッグプレッサの表面が波打ち、その背後の砂が弾け飛んだ。


「!」
『ビッグプレッサの装甲を侮ったな!』


 刃を作るために用いた風力を、全てそのまま背後へ受け流されてしまった。そんな感じだった。


 そういや、BSMの装甲って衝撃を拡散させる性質のモノで作られてるとかBJ3号機が言ってたっけ。
 どうやらあの機体、その極致な技術を全身の装甲に実装しているらしい。


 敵拠点破壊、つまり敵拠点への殴り込みを想定した機体だ。
 防御力は高くて当然、と言う事か。


『潰れよ!』


 ホエルの声に続き、ビッグプレッサが拳を振り下ろす。
 悠葉は翼を軽く振るってそれを回避、そのまま上空へと離脱した。


「……厄介な装甲ね」


 ビッグプレッサの特殊装甲、策無しで打ち破るのは容易では無いだろう。


「でも、私は頭使うのが嫌いなの」


 正面から潰す。
 悠葉は静かにそうつぶやき、自身の目の前に大きな魔法陣を展開。
 今までの緑色のモノとは違う。白く輝く五芒星だ。
 しかも1つじゃない。無数の純白の魔法陣が、幾重にも折り重なって展開されている。


肉体強化属性魔法フィジカルレイズ・スタイル、『膂力倍加ブレイクアップ』」


 翼を大きく広げ、悠葉が動く。


「私が使えるのが風属性魔法ウィンド・スタイルだけだと思ったら、大間違い」


 そう告げて、自らが展開した魔法陣を、殴り壊した。
 その魔法陣を砕き散らした拳に、白銀の光が迸る。


『何をする気かは知らんが……その位置取り、遠慮はせんぞ!』


 ビッグプレッサの背部装甲が開き、内に収納されていた大量の穴が露出する。
 あの穴の感じは、まさか……


『全弾持っていくが良い!』


 悠葉は今、上空高くに滞空している。あの位置で大きな爆発があっても、地上に被害が及ぶ事は無い……ホエルはそう判断したのだろう。
 背部の穴と言う穴からありったけの小型ミサイル弾を、悠葉へ向けて発射した。小型、と言っても拠点破壊戦特化を謳う機体から発射された物だ、見た目通りの控えめな威力とは考えにくい。


「悠葉!」


 思わず叫んでしまったが、杞憂に終わった。


 ミサイルは、悠葉には当たらない。
 遅い、そう全身で言い表す様に、ヒラリヒラリと蝶の様に優雅な軌道でミサイルを躱していく。


 躱されたミサイル同士が衝突し、次々に爆発してゆく。
 やはり、その小ささに不釣り合いな爆力を有していた様だ。穏やかな空が、爆煙と閃光に埋め尽くされていく。


「うるさっ」


 爆発の轟音に対してか、閃光の目やかましさに対してか、もしくはその両方に対してか。悠葉は軽く文句を漏らしつつ、急降下を開始。
 青色の翼を少し畳み、獲物へ向かって真っ直ぐに降下するその翡翠の衣を纏った姿は、翡翠鳥カワセミを彷彿とさせる。


 そして降下の最中、悠葉が白銀の光を滞留させ続ける拳を振りかぶった。


「壊れなさい」


 シンプルな一言を告げ、ビッグプレッサの頭部へ、その拳を打ち下ろす。


 装甲には自信があっただろうが、何か直感的に不味いと感じたのだろう。
 ホエルはビッグプレッサの両腕を交差させ、悠葉の拳撃に対して防御姿勢を取った。


 だが、無駄だった。


 悠葉の白銀に輝く拳はビッグプレッサの腕もろとも、その頭部を圧砕する。


『っなぁぁあああぁ!?』


 スピーカーを通して発信される、ホエルの驚愕の声。
 衝撃の拡散性にすぐれたはずの装甲が、少女の小さな拳によって破壊された。それも、継戦が難しくなる、致命傷足り得る程の破壊。


 何故ビッグプレッサご自慢の装甲は打ち砕かれてしまったのか。
 ……どう見ても、ゴリ押し。衝撃の拡散が間に合わない程の速度で、凄まじい一撃を叩き込まれた。たったそれだけのシンプルな理由である。


 両腕をもがれ、頭部を潰された巨人が、ゆっくりと傾き始める。


「剛能く柔を断つ。力こそ正義よ」


 そう断言し、悠葉はトドメの蹴りをビッグプレッサの腹部へと叩き込んだ。
 既にバランス制御を失っていたその巨体は、あっさりと倒れた。ド派手な砂塵を伴って。


「私の勝ち」


 舞い踊る砂塵を背に仁王立ちで浮かぶその堂々たる姿は……正義の味方と言うよりも「降臨せし魔王」って感じだった。



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