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とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

9,四天王の閃き

 夕暮れ時、俺は日課の釣りに出かけていた。


 離れ小島へと続くコンクリ橋の上、クーラーボックスに腰掛け、釣り糸を垂らす。隣りではBJ3号機がジベタリアンしながら、俺の予備竿で一緒に釣りをしている。


 BJ3号機とは反対側の俺の隣りでは、キャンプ用の組立式座椅子に腰掛けて読書に勤しむトゥルティさん。初めて会った時のあの甲冑姿に、デスクワークや読み物の際のみに使うと言うフレームの細い眼鏡を着用している。
 読んでいる本はブックカバーが掛かっているので不明だが、先日の事もあって「何読んでんの?」と聞くのが恐い。触らぬ何とかは何とやら、だ。


『お』


 ここでBJ3号機の竿にヒット。BJ3号機は初心者らしいぎこちない手つきながらも、見事その当たりを物にした。
 獲物の大きさは大体60センチくらいか。この辺じゃそこそこの大物だ。


『おお、これは中々……』
「ガーラだな」
『ガーラ? 聞いた事の無い魚ですね』
「ガーラっつぅのはアジ系の平たい魚の総称だ」


 婆ちゃんが言ってた。細かい種類は知らんが、とにかくそれはガーラである。


『地方特有の呼称、ですか?』
「さぁ? んなことは無いと思うけど……」


 この島の釣り人は皆こういう平たくて銀色に光るアジ系の魚をガーラと呼ぶ。
 釣り用語の類……だと思ってたが、どうなんだろう。島の外の人と釣りをした事ないからな、ガーラと言う呼称がマイナーかメジャーかはイマイチわからん。
 あとで調べてみよう。


 俺は一旦立ち上がり、椅子にしていたクーラーボックスにBJ3号機の釣ったガーラを収納する。
 ガーラは塩煮にしても美味しいし、バターでこんがり焼いても美味しい。


「うし、もうそろそろ引き上げるか」


 50センチオーバーが3匹、充分過ぎる収穫だ。
 いつもなら非リリース級が2匹ってだけでも多い方だし。


 俺の提案に「そうですね」と軽く同意し、トゥルティさんが本を閉じた。


「…………そういや、ガルシャークさん大丈夫かな」


 ふと、茜色に焦がされた海面を見つめて考えてしまう。


「悪の組織じゃあるまいし、1度しくじったくらいで大した処罰は受けませんよ。せいぜい報告書に渾身の謝罪文を添付する程度でしょう」
「いや、そういう心配じゃなくてさ……」


 ストレス的な物の心配である。
 帰り際、既に「胃が痛い」とか言い出してたから、一応市販の胃薬とお守り代わりの塩を持たせたが……大丈夫だろうか。










 龍宮帝国、皇帝の居城。


 暗い一室にて。


「ガルシャークがやれた様だな」


 大地を揺るがす様なハスキーボイス。


「ふふふ……彼は四天王の中で最強……」


 ハスキーボイスに答えたのは、好青年を思わせる爽やかな声。


「要するに、もうヤバいな」
「全くですね」
「……お宅らは人の執務室に集まって何してんだ、明かりも付けずに」


 パチン、と室内灯の電源を入れたのは、ついさっき龍宮帝国へと渋々帰還したガルシャーク。


 ガルシャークの執務室、来客様のソファーには2人の男が腰掛けていた。


 1人は身長2メートルを軽く越える筋肉マッスルな巨漢、ホエル。
 ホエルに対面する形で座っているのは糸目の優形青年、ツナー。


 2人共ガルシャークと同じく龍宮四天王と呼ばれる、そこそこ強い騎士である。


「お帰りなさいガルシャーク卿」
「ふぅむ、てっきりもう帰って来ないかと思ったぞ」
「まぁ、地上に残留計画企ててたんだがね……皇子サマに追い出された」


 あんたが不在の間に生じる問題の責任なんて取れない。
 そう言って、鋼助は渋るガルシャークを龍宮帝国へと帰還させた。


 帰り際に胃薬やお守りをくれた気遣いには感謝するが、できれば後1泊だけで良いから泊めて欲しかった、と言うのがガルシャークの本音である。


「ちなみにもう技術部から出頭命令食らっちまった。……あー、説教とか聞きたくねぇ……」
「カスタム機を大破させた訳ですからねー、仕方無いですよ」


 ツナーは他人事だからと笑い飛ばす。


「しっかしギャングファングに乗るガルシャーク卿がやられるとなると……もうヘアティルさんくらいしか勝目なくないですか?」
「うむ、ワシらにゃ到底無理だな」


 ヘアティルと言うのは、この場にいない最後の四天王だ。
 ガルシャークと並ぶ強者である。


「でもヘアティルさんの専用機、大幅カスタマイズがどうとかでまだ動かせないんですよねー」
「しかし、大臣殿はワシらにどうにかしろと言ってきとる」


 四天王の1人が負けた。
 流石の大臣も、鋼助暗殺のために四天王以上の働きが期待できる大部隊を動かす、と言うのは難しい。
 ならば他の四天王を動かすしか無いだろう。


「ガルシャーク卿が負けた相手に僕やホエルさんが単身で挑んで勝てる訳無いのにねー」
「全くだ」
「お宅ら、自分で言ってて情けなくないのか?」
「全然」
「ワシらとお前さんじゃ生まれ持ったモンが違う」
「さいですか……」
「にしても、本当にどうしよっかねー……」


 正面から挑まず暗殺らしく暗殺する、と言う発想はツナー達にはない。
 その理由は2つ。仮にも彼らは騎士である事、そして何より、暗殺に向いている深夜や早朝は勤務時間外である、と言う事だ。


「はっきり言ってあんまりモチベーションも上がんないんだよねー……だって、この暗殺計画って、皇帝陛下やカイドー様のご意向は完全無視な訳じゃん?」


 鋼助の件で騒いでいるのはカイドーの支持派と純血派の権力者達。
 決してカイドー自身が鋼助を疎んでいる訳では無い。


 そして四天王は皆、カイドー支持派でも純血派でも無い。
 ただ龍宮帝国軍組織の上層部が軒並みその両派であるため、その部下である彼らはその決定に従わざるを得ないだけだ。


 四天王は『騎士』ではあるが『正義の味方』では無い。
 例え非道に思える行為でも「国益になる」と上司が判断を下してしまった以上、軍に所属する騎士としては、それに従うのみ。
 それができないなら、そもそも軍属なんてやってられない。
 受けた命令に対し、彼らは細かな手段は選べても、その最終目的を覆す事はできないのだ。


 現状、彼ら自身は気が進まなくても、どうしようも無いのだ。
 だが、そんなモチベーションで勝目の無い戦いに挑んだって、結果は目に見えている。


「皇帝陛下に直訴してやめさせるにも、証拠集めが面倒臭そうだし……やっぱ殺るしか無いよなぁ」


 この計画を止めるには、確固たる証拠、それも上層部連中の権力を以てしても握りつぶせない程の物が必要だ。
 しかし上手く行っても、今後上層部と繋がりのある者達を敵に回す事になる。
 四天王としては、そんな手間とリスクを背負ってまで、鋼助を助ける義理は無い。


 何故なら鋼助は、龍宮帝国とは全くの無縁状態で生きてきた人物である上に、現状、皇位継承権を破棄しているのだから。
 そんな存在に「一応皇族の血が入ってるから」と言う理由だけで生命掛けの忠節を尽くす程、この国の騎士達の脳みそは単純では無い。


「可哀想だとは思うけど、ね」


 同情はする。でも、仕方無い。


 ……と言っても、結局ツナー達に勝ち目が無い事は変わらない。


 しかし、興の乗らない仕事と言えど、引き受けた以上成功させるのが騎士の矜持。
 ツナーとホエルが揃って頭を抱える中、ガルシャークは他人事の如く無関心な素振りでコートをハンガーに下げる。


「うーん……僕とホエルさんの2人で間を開けずに攻めればどうにかなるかもだけど……」
「確かになぁ……ん?」
「…………あ、それだ」



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