話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

7,VSガルシャーク

 冗談キツいぜ。
 それが、戦闘開始1分半時点での俺の感想。


「うおわぁああぁ!?」
「鋼助様! うるさいです!」


 機械的な動作、と言う表現を時折耳にする事がある。
 機械の何かガショガショ的な、こう滑らかさの欠けた動きをそう表現するのだろう。
 そう、機械ってのは本来、もっとぎこちなく動くはずなんだ。


 それが何だ、あの鮫頭。
 神作画のアニメかよってくらいヌルヌル滑らかに挙動しやがる。
 機械としてそれはどうなんだと思うくらい、生物的に動き、襲いかかってくる。


 BJ3号機と遜色無いと言える程に、その挙動は人間に近……いや、人間よりも俊敏だ。獣に近い。
 冗談キツいぜマジで。つぅか何なんだ、この前のマーマンとか言う奴は機械として違和感無い挙動だったのに……
 ワンオフカスタム機は伊達じゃない……にしても、差があり過ぎだろ。
 ……いや、流石に、機体性能の差だけじゃないか、これは。
 ガルシャーク自身の操縦技術も相まって、今のギャングファングの挙動が顕現されている……そう考えるのが自然だ。


 波打ち際で2機の巨体が激しく動き回り、砂塵やら水飛沫やらが跳ねまくる。


『くっ……あの挙動の自由度……僕の時代の最新機に比肩するレベルですね……この時代、それも1国の科学力でここまでのモノを……!』


 最新の技術の粋を集める、ってのは、何も派手な武装を大量に積む事だけじゃない。
 あの鮫頭は全体の運動性能や各関節部ジョイントの駆動域、操縦指示反映速度などの基礎機能ベーススペックを極限まで研磨し、武装無しでもかなり高い水準の白兵戦を行える様に仕上げた、と言う訳か。


「って、感心してる場合かよ!」


 俺が「右足が動いた」と思った瞬間には蹴りが目の前に迫ってる。
 俺が「拳を握った」と認識した頃には既に拳撃が発射されている。


 ……もし俺が操縦してたら、既にスクラップにされているだろう。


 そんな鮫頭の猛攻に対し、一応こちらはまだ一撃ももらっちゃいない。
 トゥルティさん、騎士の称号は伊達では無いらしい。
 だが、押され気味の感は否めない。


 鮫頭の攻撃の手が激しすぎて、こちらが本格的に攻めに転じれないのだ。
 トゥルティさんだって、僅かな隙を突いて反撃を行っている。
 しかし、それらを全て適切に対処され、また攻め返される。


 こちらが一撃放つ隙を見つけるまでに向こうはその10倍は打ち込んでくるし、こちらがようやく放った一撃は簡単にいなされる。
 龍宮四天王、半端じゃ無い。


『このままではラチがあきません!』
「くっ……シールド装備の類があれば立ち回りの幅も広がるが……」
障壁バリアならありますよ』
「あ、あるんだ……」
『そりゃありますよ。ジョーカーシステムで斥力を精製してバリアとして展開するんです。大体、今時バリア機能無しとか不安設計にも程がありますよ』


 いや、そんな未来の標準装備とかトゥルティさんも俺も知らないから。


「では、バリアを前面に展開だ!」
斥力障壁リプレーション・バリア、展開!』


 BJ3号機と鮫頭の間に、青白い光の壁が展開される。


 ん? 斥力ってこんな電気みたいなんだっけ?
 何か引力の仲間みたいなモンだと聞いた記憶があったから、引力同様に不可視のエネルギー体だと思ってた。
 もしかしたら、バリアが展開しているのがわかりやすい様に加色処理をしてるのかも知れない。


『おっと』


 突然展開されたバリアに、鮫頭は爪を束ねた貫手をモロに浴びせてきた。
 バリアがそれを盛大に弾き飛ばす。
 鮫頭の体勢が、崩れた。


「今だ!」


 トゥルティさんの声を合図に、BJ3号機に拳を振りかぶる。
 瞬間、鮫頭の爪が飛んだ。


『わっ!?』
「なっ!?」
「はぁっ!?」


 射出された10枚の鋭い爪が虚空を自在に泳ぎ、バリアの無いBJ3号機の背後へ。


 ちょっ……ファンネル的なのとかありかよ、ここ重力圏内だぞ。
 とか俺が心の中で突っ込んでる間に、トゥルティさんが素早くBJ3号機を反転させ、飛来した爪達をバリアで弾く。


『今のぁ少し、ひやっとしたな』


 こちらが爪撃を防いでいる合間に鮫頭は距離を取り、体勢を立て直していた。


『……察するに、操縦してんのぁトゥルティ卿か。地上でのほほんと生きてたはずの皇子サマが、こんなにマシンの操縦慣れしてるはずが無ぇ』


 射出された爪が、鮫頭の指へと戻っていく。


『ここまでヤる女だったとはなぁ……手合わせ所か面識すら無かったからなぁ、知らなかったわ。やっぱ惚れそうだわ』
「私の技量があなたと拮抗している訳ではありません。ほぼノーラグで指示通りに動いてくれる、この機体の性能のおかげです」
『僕のスペックをお褒めいただき光栄ですが、トゥルティさんの指示も大した物ですよ』


 ああ、俺が操縦してたら絶対にもう勝負ついてる自信がある。
 精神タンクに甘んじて正解だった。


『ま、機体性能だけじゃあ勝負は決まらねぇモンだ。自信を持って良ぃと思うぜぇトゥルティ卿。このまんまやり合えば多分俺が負ける流れになるわ、この勝負』


 そのつぶやきの後、鮫頭は見せつける様にその両腕を広げた。


『つぅ訳で、少し趣向を変えさせてもらう』


 鮫頭の背後で、海面が大きく隆起した。
 何かが飛び出した……のでは無い。
 海水そのものが何らかの意思の元に動かされているのだ。


「っ……噂の『水流掌握アクアジャグラー』か!」


 トゥルティさんが光の甲羅を発現させられる様に、龍宮人は魔法地味た超能力を持っている。
 ガルシャークの超能力は……その能力名と今起こっている現象からして……水を操る的な物か……?


 ……って事は、海辺と言うこの戦場は、ガルシャークのホームグラウンドじゃないか……!?


『さぁて……』


 海水の柱が、空中で球形にまとまった。
 軽くBJ3号機の倍近い体積を持った、海水の砲弾だ。


『行け、「激流烈波バーストウェーブ」』


 鮫頭が俺達の方へと腕を振るった。
 その動きに合わせて、海水の塊がすごい勢いでこちらへと飛んでくる。


「回避!」
『了解です!』


 トゥルティさんの指示に従い、BJ3号機はそれを回避しようとするが、


『1発屋だなんて、誰が言ったよ?』


 鮫頭の手の動きに合わせて、海水の砲弾も機動を変える。


「ホーミングって……!」
「厄介ですね!」
斥力障壁リプレーション・バリア!』


 可視化された斥力の壁に海水の砲弾が突っ込む。
 砲弾が砕け散り、海水が四方八方に飛散。


 海水に視界を遮断されたのは、ほんの1秒未満だった。
 ガルシャークには、充分な時間だったらしい。


 突然の衝撃。


 いつの間にか放たれていた鮫頭の爪が、背後からBJ3号機の装甲を食い破った衝撃だった。


『あっ』
「ぐぅ!?」


 機体が大きく崩れ、そして倒れてしまう。


「っ……」


 コントローラーのディスプレイに、機体の状況が表示される。
 どうやら、爪は全てBJ3号機の装甲を貫通。
 その際に右腕をもぎ取り、両膝も破壊、脇腹と左肩、臀部も抉り抜いて行った様だ。
 BJ3号機も人型兵器、両膝を砕かれれば、そら倒れる。


 これだけの損壊状態でありながら、コックピット付近は無傷……わざと逸したのか。
 この状態でコックピットを吹っ飛ばせばトゥルティさんも危険だと判断しての事だろう。
 ガルシャークの標的はあくまで俺だけ、と言う事らしい。


『速い……! しかも僕の装甲を、あんなにも簡単に貫くなんて……!』
「ってか、おい、やばくないか!?」


 この損壊、もう戦える状況じゃ……


「このままでは……」
『あ、その辺はご心配なく』
「え?」


 不意に、両手に違和感。
 精神エネルギーが一気に大量徴収されている。


 そして数秒後、BJ3号機のもがれた腕と、装甲の穴が再生、綺麗に元通りになった。
 ……いや、再生と言うより、再構築、か?


『精神エネルギーさえあれば、装甲なんていくらでも貼り直せます!』


 ……チート懸かってんな、ジョーカーシステム……
 そういや、精神エネルギーを物質化もできるとか、メンテに必要な部品の精製だってできるとかしれっと言ってたな。


『……再生機能、ねぇ……こら厄介極まれり、って感じだなぁおい……』


 呆れた様なガルシャークの声。


『トゥルティ卿も乗ってるから気は進まねぇが……こりゃ、コックピットを潰すのが1番手っ取り早そうだ』


 鮫頭は戻って来た爪を再度射出、自身の周囲に滞空させる。そして海水の砲弾も大量に精製。
 砲弾だけでは無い、何やら蛇の様にしなる太い縄の様なモノもいくつか形成し始めた。
 向こうも向こうでチート懸ってるな……
 あれで一斉攻撃を仕掛けるつもりらしい。


 水と言うのは、実はかなりの凶器だと聞いた事がある。
 プール一杯分の水を一気に叩き付ければ、大型車両をも粘土細工か何かの様に簡単にグシャグシャにできるらしいし、一点集中して高速で噴射すれば鉄板に穴を開ける事さえあると言う。
 津波が建物を薙ぎ払い、風景を一変させてしまうニュース映像なんてのも過去に見た記憶がある。
 水を自在に操る能力ってのは、言葉の印象を遥かに超えて破壊的だ。


 あれだけの規模の水を操れるとなると……ガルシャークがその気になれば、地形を変えてしまうレベルの破壊も巻き起こせるだろう。


『水を操る能力……このまま物量で攻め続けられれば、こちらが圧倒的に不利ですね……!』
「くっ……バリアを全方位展開して……」
『あれだけのラッシュを防ぎ切るだけのバリアを全面展開し続けていては、流石にそう長くは持ちませんよ?』


 いくら俺が精神タンクとして搭乗しているとは言え、精神エネルギーは無限では無い。


「しかし、一気に決めるにも……」
「そうだ……BJ、ワープであいつの背後に回り込んだりとかはできないのか?」


 確かこの状態のお前+成人3人分くらいなら安全にワープできるんだろ?


『ワープを戦闘中に使用するのは推奨しません。座標演算中や跳躍中に激しい衝撃を受けた場合、暴発の危険性があります』


 暴発……ワープに使用するエネルギーの暴走・爆発か……そら戦闘中には使えないな。


「って事は……ヤバくね?」
『1つ、手があります。相手の背後は海……この配置なら、問題は無いはずです』
「何か隠し球があるのか?」
『ジョーカーシステムを応用した最終兵器、切り札中の切り札……「バスターナックル」です!』
「ば、バスターナックル?」


 何か、いかにも必殺技っぽい名前ではあるが……
 ナックルって言うと、この場合ナックルダスター、いわゆるメリケンサック的な要素を指すのだろう。
 殴る系の必殺技だろうか。
 スーパーロボットの王道だな。


『使用許可をいただければ、僕の方で調整してブチかましますよ!』
「ふむ……わかった、任せる」


 こちらの意見がまとまったと同時、丁度ガルシャークの方も準備が整ったらしい。
 鮫頭の背後の景色を塗りつぶす様に、無数の水球と水縄が滞空している。


 それだけじゃない。
 鮫頭の背ビレが背面装甲ごと真っ二つに裂け、そこからあのホーミングしてくる爪の追加が飛び出した。


『さぁ、「飛爪クロウズ」の予備もまとめて大盤振る舞いだ……じゃあな、トゥルティ卿、それと皇子サマ……せめて、極楽浄土ニーラカーナへ逝ける事を祈ってやるよ』


 鮫頭が、静かにその手を振り下ろす。
 運動会のかけっこのスタートの合図を彷彿とさせる動きだった。
 だが、その動きを合図に始まるのはほんわかした児戯かけっこなどでは無いだろう。
 これから始まるのはおそらく、圧倒的物量による理不尽な蹂躙だ。


『「波乱万浄ストームスイーパー」』


 海そのものが敵に回った様に錯覚してしまう程の、膨大な量の海水達が迫る。
 加えて、BJ3号機の装甲をあっさりと食い破ったあの爪も20枚、真っ直ぐコックピットを狙って突っ込んでくる。


 余りの光景に俺が思わず絶叫しそうになる中、BJ3号機は静かに動いた。


 その漆黒の右手を大きく振りかぶったのだ。野球選手のサイドスローっぽい構えだ。
 振りかぶられた右手の先が、変形する。
 この形は……大砲?


 その右手が変化した大砲の先から、何か眩い青白い閃光が溢れ始める。


『全て、薙ぎ払います!』


 右手を、振るう。
 その途中で、右手の先、砲門から放たれたの青白い光の柱。一瞬しか見えなかったが、柱の先端は何やら拳の様な形をしていた。


 光の柱を放出する右手を、BJ3号機は横薙ぎに力いっぱい振るった。


『バスタァァァナックル! ラリアットモードッ!』


 鞭の様にしなりながら、光の柱が駆け抜ける。


 襲い来る海水の球や縄を蹴散らし、蒸発させる。
 直接触れていない球や縄さえ、余波だけで崩壊させてしまった。
 飛来した爪達も砕き散らし、そのエネルギーの濁流の中で消滅させる。


 そして、光の柱によるラリアットは鮫頭に直撃。直撃の寸前、跳躍しようとしているのが見えたが、間に合わなかった。突然のビーム兵器に驚き、反応がやや遅れてしまったのだろう。


 BJ3号機は直撃ギリギリでラリアットの軌道を下方修正。光は鮫頭の下半身を飲み込み、そして芥1つ残さず消し飛ばした。


 ガルシャークは胸部に乗り込んでいたし、多分大丈夫だろう。
 俺の推測を裏付ける様に、砂浜に落下した鮫頭上部のスピーカーから『……マジで?』と言うガルシャークの声が響いた。


「……つぅか、ただのビームじゃねぇか」


 何がバスターナックルだ。
 どう見てもバスタービームとか、バスターライフルってノリだろ今の。


『あれ、見えませんでした? ビームの先っちょが拳になってたでしょう?』
「そんだけでナックル名乗るのは無理が無いか……?」
「まぁ、技の名など些細な事です」
『トゥルティさんの言う通りですよ』


 ……何か納得いかねぇ。
 でも、まぁ良いか。
 とりあえず、見た感じ俺らの勝利だ。
 流石にこっちと違ってあの鮫頭に再生機能は無いだろう。
 スピーカーはかろうじて生きている様だが、鮫頭のアイカメラは消灯している。
 機関系に致命的なダメージを負ったと言う事だ。
 もう動きはしないはず。


『参ったねぇ……ハッチも開かないわ……あー、トゥルティ卿、投降するからさ、そっちからハッチ壊してもらえねぇかな』
「ご自身の能力でハッチを破壊すれば良いのでは?」
『俺、視認した水しか操れないんだわ。今、操作系統がシステムダウンしててディスプレイが真っ暗なんだよねぇ』
「……いかがなさいますか、鋼助様」
「まぁ、投降するって言ってるし……助けてあげれば?」


 いくら刺客とは言え、ガルシャーク自体は悪い人では無さそうだった。
 降参の意思を示している以上、追い打ちをかける必要も無いだろう。



「とある離島のインペリアルボーイ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く