B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~
13,狂気の刃は振るえない。
『ヴラド・レイサーメル、ビギャン・ホームーガー、【jzわzむwqlzぬs LV一四二】とエンカウント』
エンカウントログ……まともに聞き取れない敵の名前……間違い無い。
あれが……モヤシーヌちゃんが……【歪みの魔王】……
「……光のオーブ。見てるなら粛々と業務連絡してないで説明して欲しい」
「そ、そそそうですよ!? ど、どう言う……も、モヤシーヌが、jzわzむwqlzぬs……!? しかもLV一四二って……」
『……事態は深刻です』
なんとなくそれはわかるから。馬鹿にしてんの?
助けるべき対象から倒すべき対象の変わり果てた姿っぽいのがニョキニョキ生えてんだから、とんでもない事になってんのは一目瞭然。
「そう言う思わせぶりなのは良いから、さっさと説明して」
『……【あの形態】こそ、【歪みの魔王】が【モヤシーヌ・クライシンカイスキーを拉致した目的】の様です』
「モヤシーヌを拐った目的……?」
『私が加護を授ける戦士……それは言い換えると、【特殊な力を外部から受容し、そして高める素養のある者】です。つまり、私の加護だけに限らず【その他の高次元的エネルギーを受容し、強化する事も可能な人材】なのです』
「……成程」
で、モヤシーヌちゃんは今……
『モヤシーヌ・クライシンカイスキーは今、【歪みの魔王】そのものを体内に受容している……貴方達が【私の加護を受け、その力を高めてどこまでも強くなれる戦士】である様に、今の彼女は【歪みの力をどこまでも高めるための触媒】と化しているんです』
「ッ……も、モヤシーヌの身体が【歪みの魔王】に乗っ取られてるって事ですか!?」
『…………そうなるはずだったんでしょう。少なくとも【歪みの魔王】はそのつもりだったはずです。そうやって、自身の力をより高め、強くなろうと考えていたはず……』
「はず……? 何でそんな何回もはずはずと……」
「……ビーくん(似アバター)、思い出して。今さっき、モヤシーヌちゃんは君と私の名前を呼んだ」
もしあれがガワだけモヤシーヌちゃんで中身は【歪みの魔王】だと言うのなら、私達の名前を知っているはずがない。
つまり……
「あれは正真正銘、モヤシーヌちゃん」
『どうやらモヤシーヌ・クライシンカイスキーは体を乗っ取ろうと体内へ侵入してきた【歪みの魔王】を逆に取り込み、その力を己の支配下に置いた様ですね』
「……は、はぁぁぁぁああああ!?」
『推測でしかありませんが……精神力でモヤシーヌ・クライシンカイスキーが【歪みの魔王】を上回っていたのでしょう』
パないねモヤシーヌちゃんの精神力。
まぁ、伊達で光のオーブの声を「外に出たくない働きたくない」の一点張りで退けてきた訳ではないのだろう。
引き篭りニートなんて相当な精神力が無いとできないもんね。
卑劣な母の泣き落とし攻撃により引き篭り大作戦を失敗した事がある私は、その辺よく知ってるよ。リスペクトしても良い。
「おいモヤシーヌ!! お前、ちゃんと意識あるのか!?」
「あのね、私、今すっごく気分が良いの」
「はぁ? おい、会話のキャッチボールが暴投気味…」
「気分が、良いのォォォォオオオオオオッ!!」
モヤシーヌちゃんが一層笑みを濃くした途端、彼女の隻翼が、吠えた。
「ゥヴ、ヴヴヴヴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!1」
まるで、首を絞められて無理矢理に力を絞り出されている様な……悲鳴的ニュアンスを多分に含んだ咆哮。
おそらく、ただエネルギーを搾取されるだけの家畜的存在に堕ちてしまった【歪みの魔王】の悲痛な叫びだ。
それに合わせて、隻翼が弾ける。無数の黒い欠片を、モヤシーヌちゃんを中心として全方位にバラまいた。
「なッ……!?」
飛散した黒い欠片は、まるで邪悪な意思を固めた散弾。
「不味い……!!」
当たると痛そう、でも避け切るのは難しそう。
ここはブレイブストライクで正面に弾幕を張ろう。
私の意思に呼応して、マサクゥルが黄金のオーラを帯びる。よし、早速発射。
黄金のエネルギー波が、黒い散弾を巻き込んで弾けた。
「……へぇー……さっすが。引き篭りの私でも噂くらいは聞くベテラン戦士様」
「お、おま、モヤシーヌおまッ、危なおまァァァーーーッ!!」
「なぁに? 私に何か用? それよりもビーくん、私ね、さっきも言ったけどもう一度言うね。今すッッッごく気分が良いの。だってそうでしょ? こんなすごい力が手に入ったんだもの。ハイになるなって方が無理じゃない?」
……モヤシーヌちゃんのあの目……危ない奴の目だ。何かがおかしくなってる。
そう言えば、前に社会科の先生の雑談で聞いた事がある。
昔【クレジットカード破産問題】なんてのがあったと。
クレジットカードが普及し始めた頃……自分が現在いくら使ったのかを正確に把握できないシステムのせいで、買い物をし過ぎて翌月の支払いで血反吐を吐く輩が結構いて、社会問題にまでなったらしい。
特に、家計のためにと色んな物欲を抑圧されていた主婦層の被害者が多かったそうだ。
当時の主婦達は「お金を払わずに何でも手に入る、魔法使いにでもなった様な気分を錯覚していた」と死にそうな顔でワイドショーのインタビューに語っていたと言う。
おそらく、今のモヤシーヌちゃんの心理状態はそれに近い。
いきなり手に入った大きな力に振り回されて、感情のセーブができていない。
「これだけの力があれば、何ができると思う? 何でもできるわよきっと!! ぅはッ…ぁああははははははは!! これだけの力……私を外に出そうと鬱陶しい真似ばかりする両親やビーくんを暴力で黙らせるなんて簡単にできるに決まってる!! もう誰も、そう誰にも!! 私の引き篭り生活を邪魔させはしないッ!! 完全な引き篭りに、私はなるッ!!」
「お前は馬鹿なのか!?」
「馬鹿ァ? ……ビーくんにだけは言われたく……無いってのぉぉぉぉおおおおおおお!!」
うわ、また散弾を飛ばしてきた。
あーもう、ブレイブストライク。
「随分簡単に防いでくれるじゃない……ふふ……いいわよ、抵抗しなさい、抗いなさいよ。あんた達は試金石……私のこの力を試すための可愛いサンドバックちゃんん!! 特にヴラド・レイサーメル……あんたすごく強いんでしょ? あんたに勝てば、私はそれ以上にすごく強いって事でしょ!? 私の完全なる引き篭り生活の実現は、あんたを倒せるかどうかで測れる気がすんのよォォォーーーッ!!」
「なんか、さっきから言動も行動もブッ飛んでるね」
「そりゃあ気分ハイハイハイのスカイハイだもの!! ブッ飛びもするわよォ!! もう一枚翼を出して実際飛んでみようかしらァァァ!! でも高所恐怖症気味だから私さァァァーーーッ!!」
会話が成立してるんだか、してないんだか。
笑顔に関しても、目ん玉かっ開きだし、涎は撒き散らし放題だし、こめかみの辺りに青筋ビキビキしてたりでマジキチ感がすごい。年頃の乙女スマイルじゃないよアレ。
頭のネジがダース単位で外れちゃってる感じがする。
ないわー……ああ言う狂った感じの人とはあんまり関わりたくない。
『【歪みの魔王】から主導権こそ奪えてはいますが、精神汚染の影響をかなり受けている様ですね。言わば【暴走状態】です。人間性…理性による感情制御を完全に失っています』
野生動物の様に、その場で思い付いた【自分の利益になりそうな事】を本能だけで実行に移している。
ただし、その実行する行為の判断基準は思考回路の機能不全により支離滅裂。理不尽。何が自身の利益に成り得るのか、論理的に判別できていない。
それが今のモヤシーヌちゃんの状態と言う事だろう。
だから行動は暴力的に粗野で知性を感じない。幼馴染や同郷の相手にも何の躊躇いもなく攻撃できる。
思考がまともに働いていないから、それがどう言う行為なのかちゃんと理解できてない。
……いや、もしかしたら何か常人には理解し難い方程式が頭の中で構築されていて、私達を攻撃する事が自身の幸福に繋がると本気で思っている可能性すらある。
言動も、思った事をただ肉声化して垂れ流してるだけだから、理性的でなくて会話が成立しない。
こちらの言葉を少しは理解して反応している様だが、文脈からニュアンスを拾う脳機能が完全に死んでて単語単語にしか反応できてないのが伺える。
つまり、今のあの子の声は、とてもじゃないが【意思の疎通を目的としたツール】として機能していない訳だ。良くて独りよがりな感想文、悪く言えば獣の雄叫びや変態の喘ぎ声と大差無い。
私達まっとうな人間の観点から言えば、彼女の現状は間違いなく【暴走状態】だろう。
「モヤシーヌを止める方法は!?」
『単純明快、倒してしまえば良いんです。彼女本体を。貴方達の祝福された武器なら彼女の中に囚われている【歪みの魔王】……そしてその中に在る【歪みの核】を破壊できる。【歪みの核】を破壊すれば、【歪み】の副産物である彼女の力は消え失せます』
「大丈夫なの、それ。モヤシーヌちゃんの身体」
『問題ありません。私の加護下にある戦士は【私の力を利用して人類種を不当に傷付ける事はできない】』
ああ、その設定は知ってる。
だから、BLOはプレイヤー同士で攻撃しあってものけぞりが発生するだけでダメージは入らないと言う仕様なのだ。
つまり、モヤシーヌちゃんの扱いもプレイヤーアバター同様で、私達が今のモヤシーヌちゃんを攻撃しても、モヤシーヌちゃんの身体にダメージは入らず、【歪みの魔王】だけを攻撃できると。
なんだ、一時はどうなるかと思ったけど、簡単に解決できそ………………あ…………
ダメだ。これ詰んだ。
「そうと決まれば!! 行きましょう、ヴラドさん!!」
「…………ごめん、無理」
「えぇ!? 何でそんな急に弱気!?」
『どうしたのです、ヴラド・レイサーメル。一刻も早く、マサクゥルからキラキラを取り除きたいのではないのですか?』
え? ビーくん似アバターはともかく、光のオーブもわかんないの? 把握してないの? それとも馬鹿なの?
「……私、【バーサーカー】習得してるから」
「?」
『………………』
ビーくん似アバターはよくわかっていない様だけど、光のオーブの方は、押し黙った事から考えて理解できた様だ。
AS【バーサーカー】。そのマイナス効果の一つに、こんなのがある。
・自身の攻撃が味方アバターにヒットした時、ダメージが入る様になる。
つまり、フレンドリーファイアでプレイヤーキルが発生する。
「……私の攻撃は、モヤシーヌちゃんを殺せる」
結論、私は彼女を攻撃できない。
「え、えぇ……えぇぇ!? じゃ、じゃあ、お、俺……俺だけで、今のあいつを止めろと……!?」
うん、まぁ、ビーくん似アバターが青ざめるのも無理は無い。
だって、ビーくん似アバターは初期装備にちょっとプラスされた要素があるだけ。
対して、相手は【歪みの魔王】を取り込みLV一四二に達したイカレちゃんだ。
祝福を受けた武器と言っても、【歪み】に有効打を与えられる事以外は初期装備の凡剣とほぼ変わらないゴミクズ。
せいぜいLV一か二くらいのビーくん似アバターがそれを装備した所で、今のモヤシーヌちゃんに太刀打ちできるとは思えない。
「ごちゃごちゃと、何を相談してんのよぉ!! 私の【翼】も混ぜてあげてよぉ、ァァアーーーっはっははははははァァァ!!」
ヤバい、完全にクスリとかキメた感じの顔でモヤシーヌちゃんがこっち見てる。攻撃してくるつもりだ。
私の予想は的中。モヤシーヌちゃんは背中から生えた【歪みの魔王】の成れの果てっぽいビジュアルの黒翼を見せつける様に掲げ、肥大化させると、身体を捻って横方向へ薙ぎ払う形で振るってきた。
欠片を飛ばす攻撃は効果が無いと判断しての事だろう。暴走してるくせに、最低限の戦闘勘はあるらしい。
「私のサンドバックちゃん達、せいぜい一発二発で弾けてくれないでねッ!!」
「ヴヴヴヴゥゥゥゥォォォオオオオオ!!」
「……調子に乗らないで」
その翼は、どう見てもモヤシーヌちゃんの身体じゃないよね。体内に取り込んだ【歪みの魔王】の部分だよね。
なら、私が攻撃したって問題無いはず。
鬱陶しいキラキラを纏ったマサクゥルを振り上げ、縦一線に打ち下ろす。
横薙ぎにこちらへ向かってくる黒翼を、斬撃で迎え撃つ。
マサクゥルの一撃は狙い通り、黒翼、その中心部の紅いぎょろ目に直撃。
「ヴべるッ」
汚い悲鳴と、ゴグシャアァと言う密度のある骨を砕く様な音を伴って、黒翼が粉砕。
……あんまり良い手応えは無い。むしろ、肩透かしを喰らった様な気持ち悪さがあった。
例えるなら、ドスケベなエロ漫画だと思って読み始めたら、主人公とヒロインがただイチャコラしてるだけで性的行為が一切無いままラストページを迎えた様な感じ。よくも騙したな案件。
ぜんぜん楽しくない……こんなゴミクソみたいな手応えは初めてだ。
「ひひッ、そうこなくっちゃ」
心底楽しそうでムカつく声に続いて、モヤシーヌちゃんの背面からゴボゴボと黒い何かがどんどん吹き出し、黒翼を再形成していく。さっきよりもデカい。
「……全く効いてる感じが無い……」
苦痛に表情の一つでも歪めてくれれば、少しは気分が出てモチベ上がるのに……
『あの翼は【歪みのエネルギー】を固めて武器化しているだけです。あれを破壊しても、【歪みの核】へのダメージにはなりません』
そう言われても、仕方無いでしょうに。
私はモヤシーヌちゃんの本体を攻撃できないし、ビーくん似アバターがモヤシーヌちゃんを止められるとは思えない。
こうなったら持久戦で、向こうがその【歪みのエネルギー】とやらを使い切るまで黒翼を叩き砕き続けるしか……
「ヴラドさん、お願いがあります……あの翼、もう一度破壊してください」
「? 言われなくても壊しまくるつもりだけど……」
「一回で充分です。そしたら再形成する前に、俺がモヤシーヌに突っ込みます」
「!」
そう言って、ビーくん似アバターが祝福でキラキラしてる凡剣を抜いた。
「そのワンチャンスで、決めます!!」
「本気? かなり危ないと思うけど」
「……あいつは俺の幼馴染です……あいつが道を間違えようとしているのなら、俺にはあいつを真っ当な道へ引き戻す責任がある!!」
いや、責任がどうこうとかの話じゃないんだけど……まぁ、いいや。
鼻息ふんすふんすとやる気になってる人間を止めるのは面倒臭い。
せいぜい上手くいく事を祈りながら協力してあげよう。
どーせプレイヤーアバターなら、死んだって所持金半額ボッシュートされて直近の町に戻されるだけで復活できるだろうしね。
いいねプレイヤー様は気楽で。イレギュラーなNPCである私とは死生観の次元が違うよ。
「わかった」
「ありがとうございます!!」
「まぁた何か相談してるゥ!! 仲間はずれにしないであげてってばァァアァ!!」
「きゃんきゃんうるさい」
「うぅるさくなァァァいッ!!」
モヤシーヌちゃんが笑いながら、背面の黒翼を掲げ見せつける様に振り上げ、肥大化させた。
その予備動作はついさっき見た。
黒翼での横薙ぎ攻撃が来る。
さっきの欠片飛ばし二連撃といい、もしかして同じ攻撃を二回一セットで撃ってくるルーチンだったりするのかな?
ま、それはともかく……その翼を直接砕いたって、何も楽しくないのは知ってる。
なら、わざわざ翼が来るのを待って迎え撃つ必要は無い。
攻撃を出す前に、その肥大化した翼を撃つ。
「ブレイブストライク」
マサクゥルに光のオーラを纏わせて、そのオーラもろとも強烈な衝撃波を発射するSP。
LV三桁台の魔王なら、充分有効打でしょ?
照準はモヤシーヌちゃんが振り上げた黒翼の中心、紅い目玉。
「発射」
刹那に駆け抜けた光の衝撃波が、モヤシーヌちゃんの黒翼を粉々に吹き飛ばした。
「ァなッ……!?」
うん、綺麗に翼だけイったね。我ながら上手く使える様になってきたじゃん。
今なら町案内のモブNPCを吹き飛ばさずに救出できそうだ。今度また瓦礫に埋まってたら試してみよう。
っと、今はそれどうでもいいね。
「はい。今の内」
「了解です、ヴラドさん!!」
ビーくん似アバターの突進。真っ直ぐ、モヤシーヌちゃんの元へ。
今の私ほどじゃないけど、そこそこ足早いね、ビーくん似アバター。宣言通り、黒翼が再形成される前にモヤシーヌちゃんの懐に入った。
「び、ビーくんんんッ!?」
「ああ俺だよこの馬鹿ッ!! 妙な力を手に入れて調子に乗ってんなよ!! 今すぐシバいてやっからなァ!!」
「ひッ……」
「ッ……!」
あ、ちょッ。
モヤシーヌちゃんが怯えた様な仕草を見せた瞬間、ビーくん似アバターの動きが止まった。
何やってんの。どうせ君の剣じゃダメージ通らないんだからバサーッと一気に……
「ぐ……で、できねぇ……!!」
は? 何言い出してんの彼。
「いくらダメージが通らないと言っても……俺は……モヤシーヌを斬れない……!!」
「…………び、ビーくんん? は、はは! ビーくんってばやっぱり馬ァ鹿☆ 隙ありじゃんこれェェェーーーッ!!」
「くッ……」
……………………ねぇ、何やってんの、あの二人。
今度は、黒い何かを纏った拳を振り上げたモヤシーヌちゃんの方が止まっちゃったんだけど。
……なーんか……こう言うのはアレだけど……茶番の予感が……
「ぐィィッ……!? こ、拳が動かない……な、何でェ……!?」
「……モヤシーヌ……?」
「何で……わ、私は、いつも私を外へ連れ出そうと躍起なビーくんが鬱陶しくて嫌いだったはずだのに……ぐぅ、な、何で殴れない……何で傷付けられないィィ……!!」
「モヤシーヌ……お前もなんだな……お前も、俺を傷付けたくないと思ってくれているんだな!?」
「ち、ちが、違う……違うゥゥゥ!! そんな訳が……私を散々外に誘っておいて……そのくせ、そのくせェェ光のオーブに選ばれた途端、私を置き去りにして戦士として冒険に出ようとした裏切り者なんかァァァ……!!」
「ッ、それこそ違うッ!! 確かに俺が冒険の旅に出る大きな理由の一つは光のオーブに選ばれた誉れだ……でも、それだけじゃあねぇよ! 約束を忘れたのかよ、お前は!!」
「や、約束……? ………………?」
「本当に忘れてるのかよ!? 俺が強くなったら一緒に海行こうぜって約束だ!!」
「!! 忘れてたそれェェ!!」
「その約束を果せるくらい強くなるために、俺は魔物を駆逐する冒険に出るって決めたんだよ!!」
「び、ビーくん……!!」
……………………はぁ。
「……ねぇ光のオーブ。多分これもうあれだよ。何か愛の力とかそう言う小奇麗なので良い感じに解決しそうな流れだよ。私もう帰っていい? サブイボが……」
『台無しですか』
いや、だってもう何かコテコテの茶番過ぎて……何で私こんなん見せつけられなきゃなんないの?感が止めどないんだもの。
漫画で読むぶんには鼻で一笑して済ます展開なんだけど、リアルガチの目の前でやられると拒否反応がどうしようもない。
「あんな約束を果たすために……本気で……? 冒険って、死ぬかも知れないんだよ……!? どうしてそこまでするの……?」
「そ、それは……その……ッ……この際だ!! もうこの場で言ってやる!!」
「へ? 何を?」
「俺は、お前がァァァ……」
「え、ちょ、ビーくん? 何か顔が近……」
「好きだァァァァァァーーーッ!!」
「え、ふぁ、ぶッ!?」
……………………多分、今、ビーくん似アバターは、告白の勢いのまま、モヤシーヌちゃんの唇を奪おうとしたんだと思う。
要するに、おキッスしようとしたんだろうね。お熱いことで。ひゅーひゅーとでも囃し立てれば良いのかな?
……ただ、少々勢いに任せ過ぎたのだろう。
二人の唇が重なる事はなく、すごい勢いで額と額が接触した様だ。
……あれじゃあ、ただの頭突きだ。
ここまでゴチンッて鈍い音が聞こえてきた。すごく痛そう。
「ぁべ、も、もや、しーぬ……」
「な、はッ…び、びー、きゅ、ん……」
ドサッ……と言う音が連続して、両者ノックアウト。
二人とも、完全に白目を剥いてブッ倒れていらっしゃる……
『……小奇麗で良い感じに解決とはいきませんでしたね』
うん。もはや軽く悲劇かつ喜劇だねこれ。
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