B.L.O~JKがイケメンになってチェーンソーを振り回す冒険譚~

須方三城

02,朝日に誘われて……?



Burstバースト-Lightライト-ONlinオンライン】へようこそ。


■ガイダンス■


 聖グーリゴーリオ歴〇九九九年。世紀末。
 世界は魔王と魔物に包まれた。


 野にはとても獰猛な獣系魔王と魔物が跋扈し、空はすごく獰猛な鳥系魔王と魔物に覆われ、海はめちゃクソ獰猛な魚系魔王と魔物で埋め尽くされた。


 ―――……だが、人類は死滅していなかった!!


 世界に神がいたのか……人類は【光のオーブ】によって守られていたのである。


 光のオーブの加護により、世界中のあちらこちらに【魔王や魔物が入り込めないセーフティゾーン】が発生。
 凡庸人種ノーマリアンを始めとしエルフやサムライなどの亜人を含む全ての人類が、そこに生活圏を再建し、生き延びていたのだ。


 そして、光のオーブが人類に与えたのは、守りの力だけではない。


 光のオーブは、人類に【戦う力】も与えた。


 さぁ、戦士よ。光を帯びて立ち上がれ。
 魔王と言う概念がバーゲンセール状態のこの世界で、魔王と言う名称を過去の物にするのが君の使命だ。


 ……ん? なになに?
 独りで無数の魔王に立ち向かうなんて無謀じゃないか?


 大丈夫。光のオーブに選ばれた戦士も無数にいるから!!
 むしろ魔王よりいっぱいいるから!!


 オンラインは繋がる世界ッ!!
 魔王城、皆で攻めれば怖くない!!


 さぁ、皆で囲んで輝いて、魔王をぶっ倒せ!!




   ◆




 ……何が起きたのか。
 私は最初、何が何だか全く理解できなかった。


 ビーくんが無情にもカーテンを開け放ち、眩い朝日に網膜を焼き尽くされ、「いくらなんでもそれ女子としてどうなの」的な悲鳴を上げた所までは覚えている。
 そこから先が、おかしい。


 私はどう言う訳か、レンガ調の建物が並ぶヨーロピアンな町並みの中にいたのである。
 正確な時間はわからないが、とりあえず夜だ。闇の帳が降りきっており、蛍光灯の代わりにランプが吊り下げられた妙に古風な街灯で、ある程度の明るさが確保されている。


 何この風景。少なくとも地震大国日本でこんな町並みは有り得ないって言うか……似た様な景観を、ついさっき見た様な……?
 なんて首を傾げた時、更に妙な事に気付いた。


 じゃらん、と、何やら鎖の様な物が揺れる音がしたのである。


「ほぇ?」


 私が首を捻ったと同時に、今の音が……って言うか今の声何? 気持ち悪ッ。
 熟練のイケボ声優の超低音ボイスみたいな声で「ほぇ?」ってあんた。あざと過ぎて逆に萌えな…


 ……あれ? 待って、今の声……私の口から出てなかった?


 …………んん? 私は、いつの間にこんな派手なシルバーチェーンのネックレスを……? さっき鳴ったのはこれか……両手には何かピッカピカな鋼の手甲ガントレットを嵌めてるし……。ってか、え? ってか何これ。ふ、腹筋……? 板チョコなのって感じの褐色の腹筋が……え? これあれ? は?
 これ……私のお腹だ……一体どうしてこんな劇的シェイプアッ…ってか乳首丸出しなんだけどッ……!? セクシャルハラスメントッ……!!


「旦那。何を泡喰った様な顔して乳首を隠してんだい? 気持ち悪い」
「え、ぁうお、えぇ…ッ!? い、イケメン……!?」
「ん? ああ。旦那に褒めてもらえるたぁ光栄だ」


 私に声をかけて来たのは、低音ボイスが耳にご褒美な中年男性。日本人離れした掘りの深い激渋ハンサムフェイスが素晴らしい。無精髭に不潔感など微塵もなく超クール。首からもいで持ち帰りたい。
 どう言う訳か、ハンサム中年は下半身はきっちりタイトな革ズボンを履いているのに、上半身は赤いスカーフを二の腕に巻いているくらいだ。


 ……って、んんんんんんん……?


 このイケメン、どっかで見……


「……町案内のモブNPC……?」
「は? も、もぶえぬぴーし?」


 ……間違いない……この見た目、絶対にそうだ。


 私の推しゲー、BLOの各町の入口と広場でウロチョロしてる、町案内役のNPCだ。
 確か、ウィンドウに表示されるキャラ名は「○○タウンに詳しい男」。話しかけると、その町にはどう言う施設があるかを羅列し、「どの施設について聞きたい? 語るぜぇ?」と選択肢を表示してくるおっさんだ。


「何訳のわかんねー事を……さては寝ぼけてるなぁ旦那ァ。ここから真っ直ぐ行くと名物の【聖なる黄金水の噴水広場】がある。そこの噴水で顔を洗って来た方が良いんじゃあないか。一〇時間熟睡して目覚めたみてェーなバッチしの気分になれるぜェー」


 流石。町の名所をしれっと日常会話に仕込んで……って、【聖なる黄金水の噴水広場】……ネットで通称【おしっこ広場】って言われてるアレだよね……
 BLO最初の町【ビギニングタウン】にある、三時間に一回、通貨アイテムを一切消費せずに体力とスキルパフォーマンスポイントをMAX値まで回復できる初心者応援のボーナス施設。
 期間限定でイベントタウンにも設置されたりする奴。


 私も初心者の頃はお世話になったー……ある程度進めると【時間経過やモンスター攻撃・撃破でHPとSPP回復】系のスキルがデフォになるし、宿屋で回復する時に消費するマネーなんて微々たるものに感じる様になるから、わざわざビギニングタウンまで戻ってまで利用しなくなるんだよねー……まさしく初心者応援用。


 って、懐かしんでる場合か。


 色々おかしいでしょ、本当に色々。


 おかしい。おかしいって……こんなのまるで……BLOの世界にダイブしちゃった的な……いやいや、BLOはただのMMOアクションゲーで、SF小説とかに出てくる様なVRゲーじゃないから。
 …………でも、この町並み……道行く人々のイケメン率と露出度の高さ……


「……え、待って。まさか……」


 じゃあ、この身に覚えのないのに私に張り付いている手甲やら腹筋やら低音ボイスは……ま、まさか……そうだ、おしっこ広場の噴水なら……




   ◆




 う、嘘でしょ……おしっこ広場の黄色い水面に映る【これ】は何……?


 今、この水面を覗き込んでいるのは私のはずだ。
 だのに……だのに水面に映っているのは……


 褐色肌に銀髪のイケメン青年……!! しかも耳が尖ってる……!!
 だ、ダークエルフのイケメン青年……!? 嘘なにこれカッコ良い。首から上だけ抱きしめたいィェァッ……!!
 そしてBLO男性NPCの例に漏れず半裸ッ!! 上半身の装備は首のシルバーチェーンのネックレスと前腕部の手甲だけ!! 上半身前面丸出し!! 胸筋腹筋上腕筋ナイスバディィィィ!!


「そうじゃああああねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!」


 なんじゃあああああこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ……!?


「お、ぉおおう? 旦那、どうしたんだい? いきなり奇声を張り上げて……」
「広場の方の町案内モブNPC……!! これどう言う事!? ねぇ!? 何で私こんなイケメンになっちゃってんの!?」
「す、すげぇテンションで自画自賛してるねぇ旦那……旦那は元々町で一・二を争うイケメンだろうよ」
「そうなの!? そんなイケメンなの私!? ヤバくない!? この町って結構精鋭揃いだよねって……あ?」


 ビギニングタウンで一・二を争うイケメン……で、半裸の銀髪ダークエルフ?


 ……知ってる。私、その設定のキャラ、知ってる。よく知ってる。


 キャラ名は【ヴラド・レイサーメル】。
 通称ヴッさん、もしくはヴの旦那。
 バンパイアとダークエルフのハーフで、【魔血ブラッド】系と【死霊レイス】系のSPスキルパフォ-マンスを極めており、レアモンスターのレアドロップ素材でしか作れないと言う鬼畜仕様の超レアな特殊剣装【マサクゥル】を腰に帯びた、超凄腕の【光のオーブに選ばれた戦士】。
 ……と言う設定のNPC。話しかけるとやたら「…………」の多い台詞で軽い自己紹介と「……お前も……選ばれた……のか……足掻けよ……」と言う意味深な台詞を吐く。


 そして……「何故に最初の町でそんな特殊設定のNPCが大人しく佇んでいるのか」と様々な考察を生んで話題になっていた……が、公式ディレクターがとあるインタビューで「明らかになってないんじゃなくて、考えてないんだよ」と言う爆弾発言を投下して全ての考察が無へと帰った。
 あれは悲しい事件だったね……おかげでヴッさんの過去を捏造する二次創作が健全不健全問わず大量に出回った時期があったっけ……最初の町にいただけのほぼほぼただのモブだのに、BLOキャラでトップクラスの知名度を誇るのもこの辺に由来している。


 …………で?


 ん? お? んお?
 それで、何で? いや何で?


 何で私が水面を覗き込むと、ヴッさんが映る訳?


「……ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「おう、どの施設について知りたいんだい?」
「いや、施設じゃあなくて……これ、私?」
「? これって……ああ、そりゃあ【聖なる黄金水の噴水広場】。触れただけで聖なる癒しをもたらしてくれる聖水が湧き出す噴水さ。ただし、薬草と同様に用法用量は守った法が良い。【回復酔い】しちまうぜ。そうだな、一度触れたら三時間くらいはスパンを空けた方が良いだろうな」
「うわー、なつかしー……その説明」


 良いだろうな、ってあくまで推奨だのに、ゲームシステム的にはきっかり三時間スパン空けないと効果無いんだよねー。まぁゲームだしその辺はしゃーな……じゃなくて。


「あの、違う。これ。この水面に映ってるの。これ、私?」
「……………………? 旦那、どうしたんだ? 熱でもあんのか? 口調も何か女っぽいぜ?」
「……うん。熱に浮かされて変な夢を見てると思いたい……」


 町案内大好きおじさんの反応からして、間違い無い。


 これ、私だ。私、ヴッさんになってる。


「…………はぁぁぁぁぁ……?」


 久しぶりに朝日を浴びたと思ったら、ゲームの中のキャラクター(それもイケメン)になってた……?


 な、何これ……?









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