醤油とシーサーとモハメドの鋭いパンチ。

須方三城

11,醤油が紡いだシェアルーム。



 肉じゃがを作ろうと思い、具材を煮込んでいた鍋に醤油を足したら、虹色の大爆発が起きた。


 ……などと、下手人のダークエルフもどきは意味不明かつ愉快な供述をしている。


「ギャモさん。俺が知っている肉じゃがは、調理過程で爆発反応を起こしたりはしません」
「私が知るニック・ジャガーもそのはずでしタ……」


 ……ああ、にしても、随分と部屋が広くなったな。


 それもそうだ。
 隣室との壁が大胆にも爆破工事によって取り払われてしまったのだから。


 顔面の青筋を隠し切れない俺と、綺麗な正座を披露しながら俯くギャモ野郎の間には、本来なら壁があったはずなのだ。


 それを、ギャモ野郎が愉快な飯爆テロで跡形もなく吹き飛ばしてくれたのである。


 幸い、壁が破壊されその瓦礫が散乱している程度で、俺の私物に目立った被害は出ていない。
 ギャモ野郎の部屋は悲惨の限りだが、仕事の早い大家が既にドアや窓は応急処置を済ませてある。


 だが、流石の大家もこの完膚なきまでにブチ抜かれた壁はお手上げさんだった様だ。


「この壁の修理は一体いつになる事やら……」
「あ、さっき大家さん言ってマシタよ。来週には業者さん入るデス」
「……来週……」


 め、目眩が……


「えへへ……それまではルームシェアみたいな感じデスね!! お醤油が借りやすくなりまシタ!!」
「しゃうしゃうしゃう!」
 ※やったねマスター! 家族が増えたさ!
「賑やかになりそうであるな」
CHOちょCHUちゅNEIねい
「わお!? 喋る本に強そうなボクサー!? いつの間にか愉快な同居人さんが増えてマスね!!」
「…………………………」


 何か、胃が痛い。


 どうしてこうなった。
 俺は来月まで独りを満喫できるはずではなかったのか。


 ……思えば……【醤油】だ。
 全部、醤油から始まっている。


 醤油のせいでギャモ野郎と頻繁に会わなくてはならないストレスを抱えた。
 そのストレスを解消しようと試みた結果、畜生野郎を飼う事になった。
 畜生野郎との関係改善に努めた散歩の末、彩椎古書店に行き着き、ブックスを買ってしまった。
 ブックスを買ってしまったがために、愉快極まる三人組がトコトコとやってきた。
 ブックスが招いた三人組を追い払うために、モハメドが覚醒した。


 そして、ギャモ野郎が鍋に醤油を加えたら、壁が吹き飛んだ。


 ……もし醤油に神がいるのなら、いつかブン殴りに行きたい所存だ。


 醤油なんて大嫌いだ。ただの嫌いじゃないぞ、大嫌いだ。


「改めてよろしくデスね、ヨッシーさん!!」
「…………………………………………よろしく、はい」


 腹の奥底から絞り出した建前一〇〇%の社交辞令に対し、ギャモ野郎は相変わらずのキラキラエフェクト笑顔。


 ああ……法と道徳が許すのならば殴りたい、この笑顔。

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