悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R84,俺様系は大体ツンデレ(偏見)



 魂の還る場所……とか何とか言うけど、最近そんな描写無いどころかまず登場すらしていないダフマの森。


 その森の中心地に生える馬鹿デカい御神木の内部には、やたらカジュアルチックなフローリングの3LDKが広がっている。
 立地と内装のギャップだけでもツッコミ所が半端無いのだが、そこに住んでいるのがかつて【悪竜の王】と呼ばれていた精霊亜竜と【偉大なる精霊の女王グラン・ティターニア】と崇められている精霊少女のコンビだと言うのだからもうなんでもありバーリトゥード感が止めどない。


「精霊風邪、だァ?」


 フローリングの床にベタ座りした可愛らしい黒ドラゴンのぬいぐるみ…に見える精霊亜竜・ドラングリムことグリムが呆れた様な声を上げる。


「け、けふっ……あい、そうみたいれふ……」


 グリムに応えたのは、呂律の怪しいガラガラ声。完全に喉がやられている。
 グリムの目の前のベッドの上にぐでーっと転がっている精霊少女、グラの声だ。


 普段は太陽の様に輝き、ふんわりと柔らかなウェーブがかかっている彼女の山吹色の長髪も、今ではさながら萎びた黄色ニンジンイエロースティックの様相。


 見るからに弱りきっている。


「阿呆は風邪引かねぇっつぅか、引いても気付かず普段と変わらねぇんじゃあなかったのかよ」
「けふぃ……わ、私は阿呆ではないと言う事れすね……」
「あァ? 冬も間近だってのにちょっと夏日が来たからってクーラーをガンガンに効かせて腹出して寝くさった挙句、何度毛布をかけても蹴り飛ばしやがった結果そんな素敵なザマを晒してる奴が阿呆じゃあねぇってか? ズイブンと斬新で愉快な理論だなァおい。一丁論文にまとめてみろよ、テメェと同レベルの阿呆共がさぞかし祭り上げてくれると思うぜ」
「優しさが! 病人に対する優しさと配慮が欠片もッ!! しゃ、しゃては相当怒ってますね!?」
「別に。だァからアレほど朝方にゃあ冷えるからタイマーかけろっつったのによォ……しかも、ご丁寧に俺様に設定いじられない様にリモコン隠しやがってこのクソッタレが…………なァんて欠片も思ってねぇよド阿呆」
「ぜ、絶対に怒ってる……!」


 しかもリモコンを隠したグラ自身が「……アレ、どこに隠しましたっけ?」と言うドングリを埋めた場所を忘れたリス状態なので、未だにリモコンは行方不明だ。クーラーは本体を操作して止めた。
 ちなみに隠し場所は冷蔵庫の製氷用水を入れておく容器の中である。


「けふぅ……だって、暑かったんですもん……グリムにリモコン触らせると絶対に二八度以下にはしてくれないし……」
「……ったく……」


 やれやれと呆れ溜息を吐き捨て、グリムはよっこらせと立ち上がる。


「え、あれ? ぐ、グリム? どこか行く気ですか……?」
「あァ。風邪っ引きの世話の仕方なんて知らねぇしな。俺様はどこか遠くのフライドチキン屋のイートインの中から見守っててやるよ。だから安静に寝てろ」
「見守る気が感じられないれすよそれ!? わ、わたひもチキン食べたひッ!!」
「風邪の子にはあげません」
「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」










 ところ変わって、とあるボロアパート。


「さて、と……」


 その一室にて、元自称勇者な男子大学生・ガイアは溜まって来た古雑誌の整理をしていた。


 ガイアは漫画雑誌からゴシップ誌まで幅広く手を出すので、雑誌類はすぐに溜まってしまう。
 なので定期的に雑誌をダンボールに詰めて、古本の出張買取サービスを招く習慣が付いていた。


 カッチョ良い武器の広告とか愛読している漫画の胸熱回が載っている雑誌数冊のみを残し、全てダンボールに収納完了。


「あとは出張買取に電話を…」
「ガイアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
「きゃあああああああああああああああああああッッッ!?」


 バリーンッドンガラガッシャーン、と愉快な破壊音が連続する。
 思わず、ガイアは乙女チックな悲鳴。


 何か黒い塊が、窓を突き破って室内に吶喊してきた挙句、雑誌をまとめたダンボールにえらい勢いで衝突。衝撃でダンボールが爆ぜ散り、中身の雑誌共がさながら散弾の如く飛散したのだ。


「な、なんだ!? テロか!? テロなのか!? 一般ピーポーだのに王族連中と親しくなり過ぎたばっかりに狙われてるのか俺!? ……って、あ? グリム?」
「おう、俺様だこの野郎」


 身構えたガイアの視線の先でムクッと起き上がった黒い塊……間違いない、ぬいぐるみの様なもふっとスタイルの黒ドラゴン、グリムだ。


「なんか久しぶりだな……久しぶりでこの仕打ちは何だよ……」
「いや、ちょォっと聞きたい事があってなァ」
「聞きたい事? 俺にか?」
「あァ。風邪引いた奴ってのはどう扱えば早く治ンだ?」
「……風邪?」
「グラの奴が、精霊風邪とか言うのにかかりやがってな……俺様は病気とかそう言うの無縁だったからよ、看病のイロハって奴が欠片もわかんねぇんだよ」
「ああ、そう言う……で、心配の余り居ても立ってもいられず吶喊か……」


 理由は微笑ましい限りだが、もうちょっとスピード感と言うか、訪ねてくる勢いを考えて欲しかったモノである。


「あァ? 別に心配してねぇよ。あの阿呆が風邪引いたのは自業自得だからな。ただ目の前でけふけふやられてっと鬱陶しいから切に早く元気になって欲しいだけだマジで。だから風邪を早く治す方法教えろや。さもないとこの国を丸ごと更地にすんぞ」
「パンピー大学生に何て規模の脅しかけてんだ!? 気持ちはわかるけど一回落ち着けよ!」
「あァァん!? 俺様が心配の余りに冷静さを欠いてるってかァ!? んな事あるかゴルァ!! 俺様は悪竜の王だぞテメェ舐めんなよ!! たかがあんな阿呆ガキが風邪でめちゃんこ辛そうにしてるからって動揺するかァァァァ!! ドラゴンは狼狽えねぇんだよダボスケがッ!! 良いからさっさと風邪の特効薬開発しろや!! テメェ確かファミリーネーム生姜の森ジンジャーバルトだろ!? 生姜は風邪によく効くってもっぱらの噂を聞いてんぞゴルァァァァァ!!」
「すごい理屈だなおい!? やっぱあんた取り乱してるだろ!?」


 何と言うか、子供が風邪引いて慌ててるおかんを通り越して、初孫が風邪引いてしまった時のジジババ級に取り乱している気がする。


「良いから風邪の特効薬を出せェェェ!! そこかァァァ!!」
「きゃあああああああああああ!? 何!? 何で俺白昼堂々と悪竜の王にシャツビリされてんの!? つぅかあんた最近キャラ崩壊が著しいぞ!? テレサの対比で正統派ダークヒーローやってた頃のあんたは何処へ消えた!? 悪党相手に生命『だけ』は助けてやるよとかやってた頃のダークサイド何処に捨ててきたんだよ!?」
「何年前の話してんだテメェはァァァ!! もォ誰も覚えてねぇよそんなエピソードはよォォォ!! ンな事よりどこだ、風邪の特効薬はァァァ!!」
「んなもん最初から無いってば!!」
「わかったぞ、その未使用感溢れる色合いの乳首かァァァ!! その乳首を捻れば薬が出るんだなァァァ!! 人体の神秘ィィィッ!!」
「未使用で悪かったなァァァ!! 全年齢向けコンテンツの主人公なんだから仕方無いだろォォォ!? 使いたくてもコンプライアンスが……つぅか出るかァァァ!! 落ち着けつってんだろうがァァァ!!」












 しばらくして、ダフマの森。


「つぅ訳で、ガイア特製のネギ生姜玉子粥をタッパーにもらって来た。これでも食って安静にしてろド阿呆」
「わぁ、流石はグリムッ! なんだかんだで優し……って、アレ? 何れそんにゃにテンション低いんれすか?」
「……いや、なんつぅか……冷静に思い返してみると、我ながらとんでもない事をしてたなと自己嫌悪だ……」


 悪竜の王だって反省はする。


「よくわかりませんが……有り難くいだたきまふね。ありがとう、グリム」
「あァん? 何で俺様に礼を言うんだよ。そいつを作ったのはガイアだ」
「でも、グリムは私の事を心配ひて、ガイアさんにこれを貰いに行ってくれはんれふよね?」
「………………んな訳あるか。誰が自業自得で風邪引いた阿呆の心配なんてするかよ。ガイアとは偶然チキン屋で会って、テメェの事を話したら野郎がお節介してきただけで……ンだよ、その不愉快なニヤケ面は」
「いえいえ。まぁグリムにもプライド的なモノがあるとアダルティックな私は何でも察する良い女…あひゅッ!? このお粥あひゅい!? 最近のタッパーの保温力すごッ!?」
「あー……ったく。水入れてくるから待ってろ阿呆」
「ジュースが良いれす」
「………………………………」
「ああ!! 嘘れす!! 嘘れすから!! 無言で外出しようとしらいでお水を!! ギブミーお水!!」



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