悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
R68,SMってもう世間に許容されてる感あるよね(気のせいです)
ナスタチウム王国、王城。
第一王女こと阿呆姫テレサは今日も無駄に元気。
鼻歌混じりに軽快な調子で廊下を歩いていた。
「お、快晴ですね!」
ふと窓の外の空を見上げてみると、これでもかと言う程に空は澄み渡っていた。
良い天気の日は、何をしても楽しい事になりそうな予感がする。
太陽の光は浴びていて心地良いし、気分が明るくなる。結果、元気が三割くらい増す。
元気を以て臨めば、大抵の事は楽しくなるモノだ。
陽光には、世界を楽しくする力がある。
さぁ、今日は何をしようか。
とりあえず、魔地悪威絶商会に向かおうか。
それとも、まずはお城で楽しそうな何かを探そうか。
どっちにしても楽しい事には間違いない。
テレサが贅沢な選択肢に悩みながら廊下を歩いていると……
「あ、エキドナさん! おはようございます!」
「おお、姫か。今日も無駄に元気そうだな」
テレサが前方に見つけたのは、青髪の女騎士エキドナ。
彼女本来の姿はドラゴンであり、その名残である角と牙が特徴的だ。
エキドナは廊下の途中で立ち止まり、窓の外を見下ろしていた。
「何かあるんですか?」
エキドナの横に並び、テレサは背伸びして窓の外を見下ろしてみる。
すると、真剣で切り結ぶ二人の騎士の姿が見えた。
「何してるんですかあの人達!?」
「まぁ、文字通り真剣勝負だろうな」
「ちょっ、さっきまでの平和な雰囲気は一体!? どう考えても『無血コメディはっじまるよー!』みたいな流れでしたよ!? どんでん返しが早いッ!」
「姫はやはり元気だなぁ。ヴァハッハッハッハ」
「って言うかエキドナさん騎士団の副団長ですよね!? 笑ってる場合ですか!? 止めましょうよッ!」
「いや、割といつもの事だしアレ」
「ひぇっ!? いつからウチの騎士団はそんな世紀末仕様に!?」
「? 何か勘違いしてないか姫。あんな事をしているのは『連中』だけだ。他の騎士はそうそうあんな事しないぞ」
「連中?」
「SMT。『シノ様に無表情で踏まれ隊』、だったか?」
「ああ、あの……」
ナスタチウム王国王立騎士団、非公式部隊『シノ様に無表情で踏まれ隊』こと通称SMT。
この城のメイド達を取り仕切る極クール系メイド長シノにストンピングされる妄想で日夜幸福感を得ている変態集団だ。騎士団内に結構いっぱいある非公式部隊の中で最も勢力の大きい部隊でもある。
それだけシノが人気と言う事か。はたまた偶然にもそう言う性癖の奴が騎士団内に集まっていたのか。
テレサもとある忍者襲撃事件の際にその存在を知った。
「あれはそのSMTの中でも『無表情で蔑まれながら踏まれたい派』と『無表情で黙々と踏まれたい派』の決闘だな」
「そ、そんな事で決闘が……」
「と言っても、いつも決着もそこそこに終わるがな」
結局の所、対立していても根っこは同好の志。
本気で殺し合っている訳では無いのだろう。
ただ、少しぶつからなきゃ収まりが付かなくなる日もある、と言う話だ。
「ちなみに聞いた話だが、創立初期からこの二派閥で揉めてるらしい。しかも最近、新たに第三勢力『無表情で世間話をしながら踏まれたい派』が台頭してきて、戦況は新たな局面を迎えつつあるとか……」
「何だかんだ結局、皆さんシノさんに踏まれたいんですね……」
「そうらしい。何故かは知らんがな」
「あれですよ、多分『どえむ』って奴です」
「何だそれは」
「虐められて喜ぶ人の事です。デレラさんの一件の時、ガイアさんが言ってました」
「虐められて喜ぶ……やはり変態か」
「ですね」
「しかし……ならば何故メイド長に拘る? ただ虐められたいだけなら、誰でも良いのでは無いか?」
「うーん……アレじゃないですか? シノさん美人ですし」
「要するに、連中は美人に踏まれると歓喜する、と言う事か?」
「だと思います。多分、エキドナさんもイケますよ!」
「ふむ……あ、そう言えば…団長も『妻の尻に敷かれる日々は苦しいがそれ以上に楽しくて仕方無い』とか言っていたな……」
もしかしたら奴も同様の人種か、とエキドナの中で激しい勘違いが発生。
そして「今度、労いを兼ねて全力で踏んでやるか」ととんでも無い事を考え始める。
「あ、見てくださいエキドナさん。何かお互いに理解し合ったっぽいですよ」
テレサの実況通り、眼下で剣を交えていた騎士二人が戦闘をやめ、唐突に熱い握手を交わし始めていた。
何かしらお互いに落とし所が見つかったのだろう。
「青春してますね。……衝突の理由が少々アレでしたが」
「まぁ、来週にはまた剣を交えているだろうがな」
「……騎士団って暇なんですか?」
「姫に言われたくは無いが……正味、かなりな。基本、トレーニングしてるか暇してるかの二択だ」
結局、騎士同士で真剣勝負なんて物騒な事ができるのも、平和が故である。
「何だかこう、漫画とかで見る『騎士道に生きて散りぬるをー!』みたいな熱いノリは無いんですね……」
「このご時世じゃ散る機会はそうそう無いしな。まぁ、格好良くは無いかも知れんが、その方が何かと都合も気分も良いだろう?」
「それはそうですね。平和が一番です!」
「うむ」
「じゃあ、私は行きますね!」
「何か用事か?」
「いえ、特には! 強いて言うなら、とりあえず楽しそうな事を探す旅です! あ、そうだ! エキドナさんも一緒に行きませんか!?」
「いや、私はこのあと、メイド長に少々用がある」
「シノさんに?」
「ああ。実は以前、私なりに尽力してアップルパイを作ったのだがな……」
「へぇ、エキドナさんにしては何か女子女子してますね!」
「……結果は凄惨なモノだった。まさか、あんなあたら若き青年が異世界に転移して死にかける事態にまで発展するとは……」
「あ、あの…アップルパイを作ったんですよね……?」
※詳しくはR41~42辺りを参照。
「今後、またアップルパイを作る機会が無いとも限らない。丁度暇だし、メイド長に教えを乞うてアップルパイ作りをマスターしようと思ってな」
「そうなんですね。それは頑張り所で…ん? アップルパイが作れる様になったらアップルパイ食べ放題……はっ! エキドナさん! 私もご一緒して良いですか!?」
「む? 構わんが……姫は料理ができるのか?」
「できると思います?」
「全く」
「ですよね。そう言う事です! 二人でアップルパイマエストロになりましょう!」
「ふむ、そうだな。無勢より多勢が良いのは世の常だ」
と言う訳で、
「では、共にメイド長の元へ乗り込むか!」
「ガッテンです!」
このあと、シノだけが不幸になったのは言うまでも無い。
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