悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R48,何事も慣れ(住めば都と言いますし)

 魔地悪威絶商会オフィス。


「いい加減、あの精霊さんがどこにいるのか教えてよ」


 ソファーに座るやや鼻高な少年。
 彼の名はピノキオ。


 大分前にこの魔地悪威絶商会に依頼に来たことがあり、その際、商会で史上唯一『依頼放棄』された客である。


 彼の鼻には、『嘘を吐くとすごい勢いで鼻が伸びる』と言う呪詛魔法がかけられている。その呪いを解くことが、ピノキオの依頼だった。
 しかし、その呪いをかけた精霊ディーネに対し、ピノキオが祖父と共にエゲつないセクハラをしていた事実が発覚。


 嘘を吐けない人生を送ることで、真っ直ぐな人間に育ち、下衆な品性が改善されてくれれば。
 ディーネはそんな淡い期待を込めてピノキオの鼻に呪いをかけたのだ。


 それを知った上でガイアとテレサが呪いを解こうと思うはずも無く、依頼放棄に至った、と言う訳である。


 ちなみに、現在ディーネは王城に匿われている。
 ピノキオとその祖父の魔の手から守るためだ。


 だのにピノキオは、いけしゃあしゃあとディーネの居場所を聞きに来ている。


「絶対に教えません。居場所を知ったら、またディーネさんにセクハラしに行くつもりでしょう?」
「そんな訳ないよ!」


 ズドンッ、とピノキオの鼻がすごい勢いで伸びる。


「ぼ、僕はすごく反省してるんだ!」


 ボボンッ、とピノキオの鼻がまだまだ伸びる。


「あうっ、いやっ、本当に! 本当に反省してるよ!?」


 ギャオンッ、とピノキオの鼻が以下略。


「う、うぉおおおぉぉぉお! 僕は、僕はぁ! あの精霊さんにきちんと謝罪がしたいだけ! 他意は無いッ! 無いんだよぉぉぉぉ!」


 パリーンッ! とピノキオの鼻が窓を突き破り、遥か彼方へ。


「なぁテレサ。前も提案したけどよ、やっぱこの鼻へし折った方が良いんじゃないか?」
「そうですね、根元からイっちゃった方が良いと思います。アシリアちゃんを呼びましょう」
「ストップストップ! ごめんごめんごめん! 本当にごめん! 嘘です! はい全部嘘です! 力の限りセクハラするつもりでした! 反省? 何それ美味しいのとか思ってましたぁ!」


 それが本当に本心だったのだろう。ピノキオの鼻が縮み始めた。


「お前な……いい加減に真っ当な道に戻れよ……」
「一度エロスの道に堕ちた男が、子供に戻れる訳ないだろッ!? もうこっちは一皮剥けちゃってんだよ! エロス以上に素敵な世界がこの世に存在するの!? いいや、しない! 最早この身が朽ち果てるまで僕は性欲の奴隷エロスサーバントだよ! フォォォエヴァーッ!」
「そ、そう言わずに頑張ってみましょうよ。ね? 更生のお手伝いなら、喜んで手をお貸ししますよ?」
「黙れ非乳ひにゅう!」
「ひ、非乳!? 失礼な! どれだけ小さくてもおっぱいおっぱいですよ!? あ、いや、私のはそんな小さくないですけど!? 着やせしてるだけですけどね!? ねぇガイアさん!?」
「………………」
「ガイアさん!? 何でそんな悲しそうな顔で私を見るんですか!?」


 残念ながら、ガイアはテレサのビキニ姿を見たことがある。
 テレサが必死に絞り出したであろう「着やせ」と言う虚言に対し、可能性を感じてあげる余地が無い。


「なるほど、悲乳か! くたばれ悲乳!」
「……わかりました。私の敗けで良いのでお願いです。せめて貧乳って言ってくれませんか!?」
「悲しみの非乳ッ!」
「きーっ!」
「………………」
「ガイアさんはいつまでその顔やってんですか!? あ、さてはわざとですね!? 私を泣かしに来てますね!? いつもみたいに☆を出して私をコケにするパターンの奴ですね!? いい加減にしないと本気で泣きますよ!? 近年稀に見る号泣を披露しますよ!?」
「A以上に非ずんば乳に非ずッ!」
「………………☆」
「もぉぉおぉぉおおおぉおぉぉおぉぉおぉぉおぉおおおおおおおおおぉぉおぉぉぉおぉおおおおおおおッッッ!!!!」














 少しして、ピノキオが去った魔地悪威絶商会オフィス。


「ほれ、今話題の最新コンビニスイーツ買ってきたぞ。これ食って泣きやめって」
「うぶぅ……そんなモノで私の傷付いた心は癒されませんよ……?」


 などと言いつつ、テレサはいそいそとスイーツを受け取り開封。


「うぅ、今回ばかりはガイアさん許すまじ……この恨み、決して忘れ…はうあぁっ!? なんですかこのネットリと舌を蹂躙する新感覚生クリームッ!? それでいて後味はしっとり爽やか!? 一体どんな魔法がかかってるんですかこれ!?」
「そんなに凄いの?」
「そりゃあもうッ! さぁアシリアちゃんもこの衝撃を分かち合いましょう! あーんしてください!」
「うに……、ッ! おいしい!」
「でしょっ!? これは素晴らしい出会いですよ! 私ミーツ新たなる世界! ファンタスティック・ディスティニーッ! 流石は私のガイアさんです!」
「へいへいどーも」


 すっかり元通りになったテレサを確認し、ガイアは「任務完了」とばかりに一息。
 スイーツのついでに買ってきたゴシップ誌を広げながら、ソファーに腰を下ろす。


 そこに、コウメがお茶を持って来た。


「……ガイアさん、何かこう……相変わらず、手馴れてますね……」


 コウメも拗ねたテレサの相手をしたことはあるが、手当たり次第に甘いモノを与えるだけでは復旧にかなり時間がかかった。


 ガイアの手際は、テレサの好みを完全に把握しているからこそだろう。


「ん? あぁ。泣かし慣れてるし、なだめ慣れてるからな」


 伊達にあの阿呆姫とダラダラ時間を過ごしちゃいないと言うことだ。


「あと、コウメ。ほい」
「?」


 ガイアがコウメに手渡したコンビニ袋の中身は、現在テレサが食しているスイーツと同じものが三つ。


「これは……」
「お前とアシリアの分。あと、あの阿呆は一個で満足しないだろうから予備の分」
「え……」
「ねぇガイア、アシリアも素晴らしい出会いしたい!」
「どうしてくれるんですかガイアさん! 胸の高鳴りが止まりませんよ! 私は毅然と再会おかわりを要求します!」
「な?」
「は、ははは……」


 慣れってすごいな、と素直に感心したコウメだった。



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