悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R36,使命に燃える増田(プルプル)

 快晴と言う言葉がよくマッチするお昼頃。


「うぅ、昨日は酷い目にあったのである……」


 小枝を杖代わりに、単眼白饅頭、アフラ増田は土手の上の道をのそのそと移動していた。


「おりょ? なんか変てこなのがいますよカゲヌイさん!」
「ほほう、これは確かに奇っ怪ですね」
「むむっ?」


 増田が遭遇したのは、ダボダボの黒ローブを纏った幼い少女と忍者スタイルの女性。


 テレサとカゲヌイだ。


「おお、そっちのチンマリしたのは微妙であるが、忍者の貴様の適正値はかなり高めである!」
「ち、ちんまりって私のことですか!? 失礼な! あなたよりは大きいですよ!?」
「テレサ氏、そのサイズの生き物と体の大きさを競って虚しくはならないのですか」
「とにかく、おい貴様、我輩と契約して共に悪を討つのである!」
「ほうほう、何やら面白気な響きですね。魔法少女的な展開が待っていそうでぶっちゃけワクワクします……が、これ以上属性を抱えてもあれなので自重しませう」
「頼むのである! 我輩は早くまともな契約者が欲しいのである!」


 一応、既にデレラと契約済みだが、あれを「まとも」と言えるほど増田は血迷っていない。


「我輩と契約すると多分良いことがたくさんあるのである! 例えば……」
「む、魔地悪威絶商会の2人ではないか」


 と、ここで横から声が割り込んできた。
 土手の下、河川敷の方からだ。


「あ、タルトフロマージュさん!」
「タルウィタート氏ですよテレサ氏。あと、当然の様にオフィスにいたりしますが実は私は魔地悪威絶商会に所属していません」
「って、あ、あれはぁッ!?」


 声の主は、巨漢型ジャージ部アーリマン、タルウィタート。
 その手にはゴミ拾いの時に使う大きなトングと大きなゴミ袋。


 タルウィタートの周りには、同じ様な装備でゴミを求めて彷徨う黒服の者達。
 アーリマン・アヴェスターズ実行部隊の下っ端さん達だ。


「な、何故にアーリマンがゴミ拾いなんぞしているのであるッ!? 柄じゃないにも程があるのである!」
「ん? なんだその白いのは?」
「へ? さぁ? 私達もよくわかりません。で、タルt…ウィタートさんと、部下の方達ですか? 何でゴミ拾いを?」
「これはな……」
「はっ! わかったのである! こうして町中を綺麗にすることで『あ、ポイ捨てしても片付けてくれる人がいるんだー。じゃわざわざゴミ箱探さなくてイイじゃんポイー』と若者達を堕落させ世の中をダメにするつもりであるな!」
「いや、普通に依頼があって自治体の清掃活動を手伝っているだけだが……」


 アーリマン・アヴェスターズも今となっては悪の組織(笑)。
 職務内容は魔地悪威絶商会と同様。
 ゴミ拾いだって立派なお仕事なのである。


 下っ端の方々も「なんか最近俺ら悪くなくね?」「まぁ良いんじゃね? 誰も困んねぇし」「んだべ」くらいのノリである。
 あの幹部たちにしてこの部下たち在り、と言う感じだ。


「精が出ますね。あ、そうだ。私達も手伝っちゃいましょう!」
「ふむ、まぁ、たまには善行を積んでおくのも損では無いでしょう。ぶっちゃけ暇ですし」
「あ、ちょ……」


 増田を置いて、テレサ達もタルウィタート達と合流。
 魔法で召喚したゴミハサミと袋で清掃活動に加わってしまった。


 ひとり取り残された増田はポカーンとそれを眺める。


「……馬鹿な……何故アーリマンと他種族が仲良く河川敷でゴミ拾いなど……」


 増田の製造された時代には有り得ない光景だ。
 アーリマンは絶対悪。あらゆる者達から恐れられ、避けられる。そんな種族だったはずだ。


 それが何をどう間違えたら、白昼の河川敷で皆でゴミ拾いを……


「ふぅん、君がドゥル子の言ってたアフラ・マズダのお手製白饅頭か」
「ッ!?」


 いつの間にか、増田の隣りに佇んでいたひとりの少年。
 褐色の肌に緑の髪、そして蒼い瞳。
 この少年もアーリマンだ。


「おぉ、お、おのれアーリマンいつの間に……!?」
「僕はアンラ・マンユ。覚えてね」


 にっこりと笑いながら軽く自己紹介。


「っ……! わ、我輩をどうするつもりであるか!?」


 今、増田は契約者がいない。
 第1契約者であるデレラは今も山でカラスと戯れているはずだ。


 つまり、増田は完全に無防備。
 最早子供に蹴られただけでも泣く。


「しかし、このアフラ増田…どれだけ不利だろうとアーリマン相手に情けなく逃げ去る姿を晒す訳には……!」
「いやぁー、にしてもあのジィさん、いくらなんでも適当に作り過ぎでしょ。超ウケる」
「あ、やめっ、つまむなである! きーっ! またこれであるかチクショーッ! プルプルするだけのこの体が憎いのである!」
「って言うか、アフラ増田て(笑)」
「人の名前を笑うなである!」
「あーめんごめんご」


 増田を開放し、アンラは軽く笑う。


「くそぅ、アーリマンめ……! 覚えてろである!」


 のたのたとアンラから逃げようとする増田。
 だが当然、増田のナメクジ以下の移動速度ではあっさり回り込まれる。


「ひぃっ!? 追い打ちとは卑劣な!?」
「あれあれ~? アーリマン相手に情けなく逃げ去る姿は晒せないんじゃないの~?」
「うぐっ……!」


 アンラは悪戯小僧スマイルで増田をつつく。その度に増田が波打つ。
 増田は、「悔しい、でも震えちゃう」と言う悔プル状態。だって増田だもの。


「い、いやしかし、これは未来的な利益を見越した戦略撤退であってその……」
「あ、アンラさんだ! アンラさんもゴミ拾いしませんかー?」
「ん? あー、そうだねぇ。僕も暇だし、いっちょやろうかな」
「え、ちょ……」
「何? もっとつついて欲しいの?」
「いや、そう言う訳じゃないのであるが……」
「じゃ、また機会があったらねー」
「……………………………………」
「あぁ、そうだ。一応忠告しとくよ増田。タルウィやブーシュは絡んでも適当にあしらってくれるだろうけど…ドゥル子とアストは気分によっては園児相手でも本気でド突く。あの2人にちょっかい出すのはやめといた方が良い。現に昨日、ドゥル子の能力で結構酷い目に遭ったんじゃない?」
「うっ……」


 増田は昨日、ドゥル子にちょっかいを出したせいで、危うくカラスの糞になる所だった。
 デレラを囮にし(と言うかデレラが勝手に囮になり)、這う這うの体でどうにか逃げ延び、増田はなんとか助かった。


 増田が今プルプルできているのは、あの時一緒に居たのがデレラだったから。
 もし普通の奴と一緒だったなら、むしろ増田が囮にされていただろう。


 ドゥル子に喧嘩を売って増田が今もなお生きているのは、運が良かっただけでしかない。


「ぐっ…な、なんと言われ様とアーリマンは我輩の敵である!」
「あっそ。じゃ、せいぜいギャグで済みそうな死に方ができる様に、短冊でも吊るしとくことだね」


 軽く手を振り、アンラは土手を下っていく。


「……む、むぅ……」


 まるで相手にされていない。
 悔しい様な、ホッとした様な、複雑なプルプルである。


「やはりアーリマンは恐ろしいのである……早く使い物になる契約者を見つけなければ……!」


 改めて決意し、増田は使命に燃え、プルプルする。


「必ずやアーリマンを討ち滅ぼ…ん?」


 何か、ふんわりしたモノが増田の頭上に舞い降りた。
 それは、黒い羽。


 なんか、つい最近、嫌になるくらい見た記憶がある。


 続けて響く、奴らの鳴き声。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいっ!? 昨日のカラス共!?」


 そう、昨日、ドゥル子の能力によって増田を『餌』として認識する様になった、カラスたちだ。
 今日も山で待つ子供たちのために、餌を求めて飛び回る。


 そして今、餌を見つけた。


「みぎゃす!? 集るなつつくなついばむな蹴るな! やめっ、あ、だから目はらめぇッ! ひぎぃっ!」


 ……増田の戦いは、始まったばかりである。





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