悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R24,悪の組織VS悪の組織(笑)②

 魔地悪威絶商会のオフィス。
 この日はいつもと違う事が起きていた。


 ポンッ、と言う快音が突如として響き、オフィス内にまさしくワープホール的な次元の歪みが発生したのである。


「……唐突に超展開だな……」


 もう何か色々慣れてきた感がある。
 ガイアは突然出現した次元の歪みに呆れの視線を送りながら、静かに雑誌を閉じた。


 まぁ、過去に1度、異世界に通じる穴を見てるし、実際に飛び込んだ事もある。
 似た様な不思議現象で何度も心揺さぶられる程、ガイアの童心は元気では無い。


「さて、どうしたもんか……」


 現在、オフィスはガイア1人。
 子供組とコウメはお買い物にお出かけ中だ。


「とりあえず、片付けるか」


 あいつらが帰って来る前に片付けないと、「何かいかにもワープできそうな穴が! ガイアさん! これ入ってみるしか無いんじゃないですか!?」とか騒ぎ出しそうで非常に面倒くさい。
 さっさと片付けよう、とガイアは立ち上がり、ワープホールの前へ。


 しかし、ここで大きな問題が発生する。


「……どうやったら片付けられるんだ、これ」


 いくらワープホールを拝むのが2度目とは言え、ワープホールを片付ける・塞ぐ方法をガイアは存じ上げない。


 下手に触って引きずり込まれても不味いので、物理的手法を試すのは少し気が退ける。
 一旦ググってみるか、とガイアがスマホで「ワープホール お片付け」と検索しようとしたその時、


「やっほい注意報!」
「うおぅ!?」


 元気良く意味不明なフレーズを叫びながら、ワープホールから緑髪の少年、アンラが飛び出して来た。


「さ、流石にビックリした……」
「やぁやぁ、ガイア、だっけ? とりあえずやっほい成功だね」
「あ、ああ、おう……?」
「ふむふむ、ここが例の組織のオフィスかぁ。ふーん、(笑)にしてはきちんとしたオフィスだね。で、あのテレサって子は今いない感じ?」


 肯定する意味を込めて、ガイアは頷く。


「あんた、一体何しに……って、ひとつしかねぇか」
「うん。そりゃあね。昨日の今日だし」


 アンラは昨日、テレサと「勝負」をすると約束した。
 その勝負の詳細は、後日、と言っていたし、その件についてだろう。


「にしても留守かぁ。待つのってあんま好きじゃないんだよね。行列の出来る店に並ぶのはワクワクするから好きだけど。……と言う訳で、勝負の詳細は君に説明しとくから、後であの子に伝えといてくんない?」
「あぁ、別に良いけど……」
「じゃあ、まずは勝負の基本的な形式ね」


 おほん、とアンラは咳払いし、楽しそうに語り始めた。


「せっかくの勝負だし、盛り上がりを重視して『5番勝負』にしようと思うんだ」


 アンラが指を5本立て、その掌をガイアに見せつける様に差し出して来た。


「丁度、今、僕を含めて5人、暇を持て余してる幹部メンバーがいるんだよね。だから皆巻き込んじゃおうかなと」


 随分軽いノリである。


「そっちはあの子含めて構成員が4人、で、昨日のトゥルー忍者の娘も協力してくれる関係なんでしょ? 丁度5対5だ。お互い組織の方向性も賭けてる訳だし、団体戦の方が雰囲気でると思わない?」
「思わないから、あんたとテレサの1番勝負でケリを着けないか」
「ダメー。僕の思いつきはまぁまぁ絶対だよ。順守してね。それが嫌なら僕に勝つことだ」
「……結局、勝負しなきゃ駄目なのかよ」
「うん。つまりどう転んでも僕は楽しい」
「………………」
「あと、今のリアクションで確信したけど、君は自分が勝負に参加するのが面倒くさくて嫌なだけでしょ」


 バレたか、とガイアは小さく舌打ち。


「仕方無いな……で、どこでどう勝負するんだ?」
「勝負の内容は秘密。サプライズ性重視だ。で、場所については、この先だよ」


 そう言って、アンラは自分が通って来たワープゲートを指差した。


「このゲートはね、僕が10分間の奮闘の末に作り上げた亜次元空間に繋がってるんだ」
「日曜大工よりもお手軽な所要時間で何作ってんだよ……」
「久々の作業だったからこれでも手間取った方だよ」
「………………」


 もう、なんだろう。
 何でもありか。
 まぁ何でもありなんだろうな。


「ちなみにこの空間の名前は『絶対悪の根城アーリマハル』! 覚えてね!」
「へいへい……」


 まぁ、その辺はさておき、


「アーリマハルは5階層に分かれてる。それぞれの階層に、僕ら5人の内の誰かが1人ずつ待機しておくから、君達にはその階層ごとに1対1で勝負をしてもらう」
「……で、勝ったら次の階層に進んでいい、って事か」
「うん。ちなみに敗者はその時点でアーリマハルから弾き出されるシステムさ。相手の人員を全て弾き出した陣営の勝利、って感じだよ」
「その階層ごとの勝負の内容は……」
「もちろん、こちら側の人員で決めさせてもらう。まぁ、心配しなくてもイカサマとか、自分だけに分がある様な勝負はふっかけないさ」
「それだと、つまらないからか?」
「そうそう! うん、僕らの事、わかってるみたいだね」


 アンラ達は『この勝負に勝ちたい』訳では無い。ただ『この勝負を楽しみたい』。
 ならば、勝負事の醍醐味を台無しにする様な真似はしないはずだ。


「勝負開始は今日の夕方6時くらいから。時間が来たら、このゲートを通ってこっちに来てね。以上、じゃあ、逆やっほい!」


 元気良く手を振って、アンラはゲートの中へと飛び込んだ。


「……やれやれだな……」


 ガイアとしては、テレサとアンラの勝負を見守るつもりでしか無かったのだが……本当、やれやれと言う言葉しか出てこない。


 とりあえず、テレサ達の帰還を待っている間に、カゲヌイを呼び出しておこ…


「いやはや、自由な少年ですね。そう思いませんか、ガイア氏」


 いつの間にか、カゲヌイはガイアが読みかけていた雑誌を横取りし、ソファーで読みふけっていた。


「……タイミング良いな」
「呼ばれる気がしたので」


 予知能力かよ、と突っ込んでも、どうせ「真の忍者なので」と言う返答が帰って来る事は予知できるのでやめておく。


「ただいまですガイアさん! 今日のおみやげは甘納豆ですよ! 皆で食べましょう!」
「アシリア、甘納豆も嫌いじゃない」
「……良いですよね甘納豆……あ、私なんかに食べさせる甘納豆は無いですよね柱の根元に溜まった埃でも舐めてろって感じですよねごめんなさい」


 と、ここでテレサ達もタイミング良く帰って来た。


「もうちょい早く帰って来てくれれば……」
「はい? …って、なんですか、このいかにもワープできそうな穴は!? ガイアさん! これ入ってみるしか無いんじゃないですか!?」
「落ち着け阿呆。とりあえず説明するから待てコラ」


 真っ直ぐにワープホールに飛び込もうとしたテレサをとっ捕まえ、ガイアは溜息。
 とりあえず、さっさと説明するとしよう。








 ってな訳で夕方6時。
 山へと帰り行くカラスの鳴き声が響き渡る頃。


「消灯、戸締りオッケーです! エコと防犯の心!」


 電灯が消え、夕日の明かりだけが照らし出す魔地悪威絶商会オフィス。
 準備を整え、ガイア達はワープホールの前に立つ。


「暇な幹部5人、か……」


 1人はアンラとして、残りは4人。
 一体、どんな奴が待っているのやら。


「タルトタタンさんがいたら、多分じゃんけん勝負ですね」
「タルトタタン……?」


 何故ここで、とあるドジっ子姉妹の失敗から生まれたタルトの名前が出てくるのか。


「ガイアさん、もう忘れちゃったんですか? ほら、ドゥモさんの工房で会ったアーリマンの人です。あのおっきい人!」
「……タルウィタートか」
「……でしたっけ?」


 相変わらずこの姫様の記憶器官は盛大に狂っている様だ。


「例えあの大きい人が相手でも、アシリア、負けない。あの時と違って、アシリアには『新必殺技』がある」
「いや、だからアシリア、そういう勝負じゃなくてだな……」


 指をパキパキ鳴らし尻尾をブンブン振り回してやる気満々なのは良いが、今回はゲーム…遊びを用いた勝負だ。
 新たな必殺技とやらがどんなモノかは知らないが、十中八九出番は無いだろう。


「え、えぇと……私なんかが役に立つんでしょうか……」
「コウメさん、ババ抜き強いじゃないですか! きっと大丈夫ですよ!」
「それに、こちらの陣営にはこの真の忍者、もといゲーム大好きアドレッセンス生娘カゲヌイちゃんが付いています。敗北は有り得ません」


 1番槍はお任せを、とカゲヌイが薄い笑いを浮かべる。


「それでは皆さん! 行きましょう! いざ、タージマハルへ!」
「アーリマハルな」
「とうっ!」


 先陣を切り、テレサが一切の躊躇いなくワープホールへと飛び込んだ。
 ガイア達もそれに続く。


「んおっ」


 一瞬の浮遊感。ジェットコースターが下りに入る刹那に覚える、あの胃が浮く様な感覚。


 直後、ガイア達5人は、どこか見覚えのあるパン工房の中にいた。


「ここって……」


 じめじめとした洞窟内に広がるパン作りを目的とした工房。
 作業台とオーブンと棚、必要最低限のモノしかないその室内風景は……


「ドゥモのパン工房か……?」
「お前達と初めて会ったのは、ここだったからな」
「!」


 よく響く重低音の声。
 一陣の風がガイア達の間を吹き抜けたと思った瞬間、その巨漢はガイア達の目の前に立っていた。


 野球場の芝を思わせる緑の短髪に、褐色の表皮に覆われた巨躯。
 特注であろうジャージに身を包んだその男を、ガイア達は知っている。
 若返りのパンの一件で遭遇したアーリマン、タルウィタートだ。


「アンラから、相手の特徴を聞いてすぐにピンと来た。『悪の組織を経営する快活な少女』など、そうはいないからな」
「タルトタタ…」
「タルウィタートな」


 さっき訂正したばっかだろうが。


「いつかまた会う事になるかも知れないと直感していたが……こういう形は少々予想外だったよ」
「お互いにな」


 ガイアだって、まさかアーリマンとゲーム対決をする日が来るとは思ってもみなかった。


「さて、アンラから大体の話は聞いているな?」


 タルウィタートはその無骨な指で軽く手近な壁に触れた。
 瞬間、その壁に1枚の扉が出現。


「俺に勝てたら、この扉を通って次の階層へ行っていいぞ」


 一目でワクワクしている事が伺える。
 そんな童心溢れる表情で、タルウィタートが笑いかけてくる。


「さぁ、早速始めよう。まずは誰から来る?」
「では、先程も言いました通り、1番槍はお任せを」


 と言う事で、こちらからはカゲヌイが1歩前へ。


「ほう。あの時はいなかった奴だな。新顔か?」
「まぁ、それに近いです。で、タルウィタート氏。一体どの様な勝負を?」


 どうせじゃんけんだろ、とガイアが思っていた矢先、


 ブチミチィッ! と言う快音と共に、タルウィタートのジャージ、その両袖の生地が破裂した。
 その両腕の筋肉のパンプアップにより、内側から引き裂かれたのだ。


「ふふふふ……今日の俺は一味違う。本気の本気で勝負に臨む所存だ……」


 タルウィタートがその両拳をゆっくりと持ち上げる。
 禍々しい謎オーラがその腕にまとわり付いていた。


「改めて名乗ろう……俺はアーリマン・アヴェスターズ所属、実行部隊総隊長、タルウィタート・テンペスターだ!」


 正式な名乗り。溢れ出る異質のオーラ。
 じゃんけんを提案してきた時とは明らかに様子が異なる。
 そのもたげられた両手は、何を目的としているのか。
 一体、タルウィタートはどんな勝負を……


「さぁ、始めよう……『じゃんけんほいほい』を……!」








「勝ちました」
「そんな、バカな……ッ!?」


 ああ、この光景は大分予想通りだ、とガイアは力無く笑う事しかできなかった。


 チョキであり、勝利のVサインでもあるピースを高く掲げるカゲヌイ。
 その目の前で両手両膝を付き、敗北のショックに打ちひしがれるタルウィタート。


 そんなタルウィタートの周囲に、光の渦が逆巻き始める。


「ふっ……敗者はこの空間から弾き出される。俺はもう、ここまでか……」


※すげぇシリアスな風につぶやいていますが、この男はじゃんけんで負けただけである。


「短い間だったが、楽しかったぞ。お前達に会えた事を、俺は忘れはしない」


※すげぇシリアスな風につぶやいていますが、この男はじゃんけんで負けただけである。


「さぁ、行け。この俺に勝ったんだ。そう簡単に、負けてくれるなよ」


※すげぇシリアスな風につぶやいていますが、この男は以下略。


 そんな感じで、タルウィタートは光の渦の中へと消えた。
 ……何やら死別するライバルみたいな雰囲気で色々とつぶやいていたが、まぁ、普通にこの空間から弾き出されただけで、生命に別状は無いだろう。


「……とりあえず、1勝だな。うん」
「余裕の勝利です。まぁ、真の忍者なので」


 ワープホールをくぐる前は少し不安を抱えていたガイアだったが、この1戦で確信した。
 この勝負、間違ってもシリアスな方向には転ばねぇ、と。


「この調子で、じゃんじゃん行きましょう!」





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