悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R20,学生だけが使える魔法(学割)



 魔地悪威絶紹介オフィス。


 暇を持て余し中のガイアは、ソファーに座り、漫画雑誌のページを適当にめくる。


 一方、ガイアと対面する形で向かいのソファーに座っているテレサの手にはポケットティッシュ。
 おそらく、街頭でもらってきたモノだろう。
 どう言う訳か、テレサはそれを不思議そうに眺めていた。


「……ガイアさん」
「何だ?」
「『学割』ってなんですか?」


 多分、ポケットティッシュの中に入っている何らかのチラシに「学割」と言う文言があったのだろう。
 彼女が不思議そうに眺めていたのは、それだったらしい。


「学生割引の略だ。学生限定で色んな料金を割り引いてくれる企業戦略サービスだよ」


 んな事も知らねぇのか、と思わないでも無いが、ガイアはちゃんと回答。
 テレサの育ち上、無理も無い所はあると理解している。


「学生ってのは基本的に金が無ぇからな。こういうサービスをやってる所を贔屓にすんだ」
「へぇ、理に適ったサービスですね」


 普通、学生はお小遣い制、働けてもバイト止まりだ。
 そしてバイトをしていても、その給料の中から生活費や学費、ケータイ料金を親に収める者も少なくないだろう。


 ほぼ確実に、学生と言う生物は金に困窮している。
 そんな彼らを狙い撃ちにするためには、「学生へ配慮したサービス」を全面に押し出すのが効果的。
 最近の若向け娯楽施設じゃあ学割が効かない方が珍しいくらいだ。


「でも、ホテルを利用する学生さんっているんですかね?」
「ホテル? まぁ、いるんじゃないか。修学旅行生向け、って事もあるだろうし」
「そうですね。ふむふむ。これでまた1つ、私は賢くなりました! ありがとうございます!」
「どぉいたしまして」
「お礼にこのポケットティッシュを贈呈します!」


 まぁ、どこかで必要になるかも知れないし鞄にでも入れておくか……とガイアはテレサからポケットティッシュを受け取る。


「…………」


 そしてその中に入っているチラシを見て絶句。


「……ラブホ……?」
「らぶほ?」
「あ、いや、何でもない」


 ポケットティッシュに収まっていたチラシは、とあるラブメイク&ベビーメイクな施設のモノだった。
 そして右端に「学割対応」とデカデカ表示されている。
 利用料金と『玩具』のレンタル料金に割引が入るんだそうで。


(……ま、まぁ、大学生も学生だしな……)


 うん、きっと大学生を狙ったサービスに違いない。
 しかし、学割システムがここまで波及しているとは……とガイアは驚きを隠せない。


「そう言えば、ガイアさんも学生ですし、学割をブイブイ利用しちゃってるんですか?」
「ん? あぁ。まぁな」


 友人と遊びに行く時にはとても重宝している。


「そこのラーメン屋とか、学生なら替え玉1回無料とかやってるぞ。あれも1種の学割だな」
「本当ですか!? 羨ましいです!」
「……お前、金持ちなんだから羨ましがる事も無ぇだろ……」
「学生しか食べられない無料替え玉の味って、何かすごそうじゃないですか! お金じゃ買えない味ですよ!?」


 ……普通の替え玉と味は変わらねぇよ。


「うぅ、私も面倒臭がらずに高等教育受けて、大学進学を目指すべきでした……」
「そこまでかよ……」
「そこまでですよ! 持つ者に持たざる者の気持ちは理解できません!」


 学割程度で大袈裟な、とガイアは溜息。


「そんなに言うんなら、学生替え玉の味、体験してみるか?」


 絶対に普通の替え玉の変わらんとガイアは思うが。


「え、体験できるんですか!? 私でも!?」
「俺が頼んだ学生替え玉をお前が食えば良いじゃん」
「それは私の望む学生替え玉じゃありませんよう! 私が食べたいのは私の学生替え玉です!」


 ……いつも通り妙な所で面倒くせぇ。


「……私の学生替え玉……うぅ、期待したのに……ガイアさんに弄ばれました……」
「弄んだってお前な……つぅか、そうだとしても俺がお前を小馬鹿にして弄ぶなんていつもの事じゃねぇか」
「自覚あるんならやめてくださいよう!」
「善処を検討しておこうとは思っておく事にする気もなきにしもあらず」
「多分ですけど、善処する気は全くないですね!?」


 まぁな、とガイアは肯定しかけるもギリギリで堪える。


「あ、そうだ!」


 ここで、テレサが何かを閃いた。


「何か閃いたのか?」


 このパターンはどうせロクな事じゃないんだろうなぁ、と思いつつも、一応ガイアは聞いておく。


「ウチも学割導入してみましょう! 学生さんからの依頼が増えるかも!」
「……なぁテレサ、一応この会社って、『ダークヒーロー』を目指して起業したんだよな?」


 今では遠い過去の事の様に思えるが、それがこの魔地悪威絶商会が誕生した最大の理由だったはずだ。


「はい。それが何か?」
「……いや、まぁ……何だ。お前がそれで良いなら良いけど」
「はい! では早速告知していきましょう! ガイアさん、ホームページに書いてください! 学割料金で半額、それと学生さんは替え玉1回無料!」
「替え玉て」


 多分、「1度依頼したら次回の1回分無料にしちゃいましょう!」的なニュアンスだろう。
 ……学生がそんな頻繁に便利屋を頼る事も無いと思うが……何よりもガイアが釈然としないのは……


(……ダークヒーローからどんどん遠ざかっている様な気が)


『学生のお悩み相談に特化したメニューのある便利屋』と『ダークヒーロー』を結び付けるのはかなり困難な気がする。
 テレサは全く気付いていない様子だが。


「……まぁ、良いか」


 うん、今更だし。
 と言う訳でテレサに言われた通り、ささっとホームページを更新しておくとしよう。





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