悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

R18,てるてる坊主パーティ(狂気)



 曇天の空。
 雨が降ってもおかしくない、誰だって家を出る時に傘を持つ空模様だ。


「梅雨ですね」


 魔地悪威絶商会のオフィス。
 窓の外を眺めながら、テレサがつぶやいた。


「私としては過ごしやすいです……ごめんなさい」


 いつも通り謝っちゃいるが、コウメは珍しくやや上機嫌だ。


「湿気がすごい」


 アシリアが手ぐしでしきりに髪を撫で下ろす。
 その動きには、猫が顔を洗う動作に通じるモノを感じる。


「中途半端な空模様だよな」


 雨が降り出してもおかしくはない、と言うが、実際にはまだ雨は降っていない。ただただ薄ら暗く、ジメジメしている。


「うーん、これでは今日予定していたお出かけはちょっと考えた方がイイかもですね……」
「アシリア、楽しみだったのに……」


 しゅん、とアシリアの耳が垂れる。


「うっ……」


 この気候に喜んでいたコウメだが、そのアシリアの様にすごく罪悪感を覚えたらしい表情。
 ただでさえコウメは後ろ向きなのだ。普通の人間でもちょっと「うっ」となる状況に置かれた時、彼女が感じる「うっ」感は半端ではない。


「そ、そうだ、て、『てるてる坊主』を作りましょう!」
「てふてふぼーず?」
「だ、駄目ですよう!」


 何故か、テレサが血相を変えてコウメの意見を否定。


「何でそんな必死に……」


 ガイア的にはむしろ、テレサなら喜んでやるクチだと……


「だっててるてる坊主って、誰かを生贄に吊るす事で太陽の神の機嫌を…」
「よし、とりあえずいつも通りお前は阿呆だな」






「吊るすのはティッシュとかで作った人形なんですね……びっくりした……」


 そりゃあ、コウメの様な奴が突然「誰かの生命を引換に晴れを呼ぼう」なんて提案するなど驚天動地だ。


「まぁ、見本としちゃこんなモンだな」


 ガイアはテッシュを適当に数枚取り、輪ゴムで首部分を縛って極一般的なてるてる坊主を作る。
 マジックペンを使い、「・v・」的な顔も描く。


「かわいい」


 アシリアも作る、とアシリアもテッシュを取る。


「……こんな可愛いモノを、窓辺に吊るす……結構狂気的な絵面に感じるのは私だけですか?」
「いや、まぁ、1体や2体ならそんな悍ましい光景にはならないんじゃ……」
「コツ掴んだ、結構楽しい」


 一瞬目を離した隙に、アシリアはてるてる坊主の量産体勢に入っていた。
 獣人の手先の器用さと俊敏さを最大限に活かし、1秒間に平均4体のてるてる坊主を生み出していく。
 1体1体のクオリティも非常に高い。


「ストップ! ストップだアシリアァァァ!」


 このまま行くとテレサの懸念通り、窓辺が狂気の首吊り乱舞パーティーになってしまう。


「何? ガイア。アシリア呼んだ?」
「とりあえず手を止めろ!」
「てふてふぼーずを吊るしたら晴れるんでしょ? ならいっぱい吊るしたらその分早く晴れる!」
「あらやだ子供らしい! でも本当に待てアシリア!」


 一心不乱にティッシュを貪りてるてる坊主に変えていくアシリア。


 犬猫の手が届く所にティッシュ箱を置いてはいけない。
 どうやらその鉄則は、獣人アシリアにも適用されるらしい。


「なんだかアシリアちゃんすごく楽しそうです……私も!」
「待てコラ阿呆! もう既にアシリアが作った分だけで50の大台突破してんだぞ!?」


 しかもコウメもしれっと既に3体ほど仕上げてやがる。


「あ、本当にこれ結構楽しいです!」
「うぉぉぉい! 狂気的だなんだと最初に言い出したのお前だろうがぁぁぁぁ!」
「うふふ……うふふ……」
「コウメ! 恐いから! その薄ら笑いでてるてる坊主作ってる姿は怖いから!」
「……ゾーン入った」
「アシリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「賑やかですね」
「お前、トゥルー忍者(妹)!? 何でいんの!? ってか何でお前まで作ってんの!?」


 いつの間に現れたのか、カゲヌイまでてるてる坊主量産に参加していた。


「兄の処分が正式決定しまして。今回の被害額分、しばらく王城で馬車馬の如く住み込み強制労働だそうです。そして、ぶっちゃけ私、王都での暮らしにちょっと憧れてまして。しばらく兄の元に転がり込んでしまおうかと」
「それとここに来てる理由に何のつながりが!?」
「以前お伺いした時、何か楽しそうな所だと思ったので遊びに来ました。よろしくピース」
「やかましいわ! つぅかあんたはあんたで手早いな!?」
「真の忍者ならば、秒間10体は容易い、です」
「……アシリア……負けない……!」
「ほほう。真の忍者に挑みますか。良い度胸です」
「競わんでいいから!」
「新しいテッシュ箱追加です!」
「うぉぉぉおおおぉぉい!?」


 ガイアの悲痛な叫びは、誰の耳にも届かなかったと言う。





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