悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
R12,忍者の花嫁(強制)①
ナスタチウム王国、王城。
現在、この城のメイド達を取り仕切るメイド長は、若冠25歳。
歴代のメイド長でも最年少であるが、勤務歴は13年超とまぁ妥当と言えば妥当だったりする。
彼女の名はシノ・ニーレンベルキア。
諸事情により幼少期にナスタチウム王家に引き取られ、メイドとして仕えてきた。
特徴としては、字面通りの意味で鉄面皮と言っても差し支えない程に無表情である事と、やたら隠密行動に優れている事。
なので、自分でも「忍者的メイド」を自称していたりする。
今日も平和だ。
そんな事を考えながら、シノは庭園で花の世話をしていた。
第3王子、チャールズのお気に入りの庭園。
無表情のその下で、彼を密かに慕うシノとしては、その手入れは手を抜く道理など存在しないライフワークである。
「しかし、こうも平和だと暇になってしまいますね……」
シフトの関係上、この庭園整備が終わったらシノは丸々暇になってしまう。
別に働いているメイド達の手伝いに回っても良いのだが、そうしていると「きっちり休むべき時は休まないと」とチャールズがいちいち気を揉んでくる。
「仕方ありませんね、うん。仕方の無い事態ですよこれは、うん」
こうなったら、チャールズを陰ながら見守って、1日を過ごすとしよう。
主君の生活を必要以上に盗み見るなど感心できる行為では無いのだろうが、興味があるのだから仕方無い。
バレなきゃ良いのである。そしてシノは忍者的メイド。
今の所、バレた事は1度もない。
常習犯と言う奴だ。
「あ、シノさん!」
「テレサ様」
そんな感じで今後の予定を決定したシノの元に、チャールズの妹、テレサがてこてこと近寄って来た。
相変わらず、実年齢は女子高生に匹敵するにも関わらず、ランドセルが実にフィットしそうな見た目をしている。
「何か御用ですか?」
「いえいえ、声をかけてみただけです!」
本当、いつでも元気いっぱいである。
「今日は、会社の方へは行かれないのですか?」
「これから行きますよ。今日はガイアさんが良いモノを買ってきてくれると約束してますし!」
「良いモノ、ですか?」
「はい。なんでも、ガイアさんの通う大学の前にたこ焼き屋さんがオープンしたらしいのですが、そこで売っているたい焼きがすごく美味しいんだそうです!」
多方、その話をした所、テレサに全力で強請られ買ってくる約束をさせられた、と言う所だろう。
にしても、たこ焼き屋なのにたい焼きが評判になっているとは……店主も釈然としない気持ちだろうな、とシノは思う。
「ふむ……すごく美味しいたい焼き、ですか」
「シノさんも興味あります?」
「まぁ、多少」
シノ本人はそれほどでもないが、チャールズは甘いモノが好きだ。
午後はチャールズの観察に全ての時間を費やすつもりのシノだったが、少々気が変わった。
「情報の提供に感謝します」
「? よくわかりませんが、役に立てたのなら良かったです」
ガイアの通う大学については、以前に任された「城外に置けるテレサの身辺調査」の際に把握している。
と言う訳でシノは普段着に着替え、テレサの言っていたたこ焼き屋へと足を運んでいた。
美味いと評判になっている、と言う話を裏付ける様に、その大して大きくもないたこ焼き屋には長蛇の列が成っていた。
40分程並び、シノはようやく件のたい焼きを3つ購入する事ができた。
「成程、良い香りです」
紙袋の口を少しだけ開封し、匂いを確かめてみる。
今までに経験してきたどのたい焼きとも僅かに違う香り。
生地か、餡子か、はたまた別の何かか。とにかく、何かしら独自要素があり、それが人気の秘密になっていると容易に想像できる。
甘いモノが特別好きと言う訳でもないシノでも、何か惹きつけられるモノを感じた。
これを3時のティータイムの際に出せば、きっとチャールズは大いに喜んでくれる事だろう。
今日の紅茶は甘さ控えめモノにして、たい焼きの甘味を引き立てて……とシノは算段する。
「ふふ、子供の様にはしゃぐ姿が容易に想像できます」
相変わらず無表情だが、その声は笑っていた。
チャールズは国王似だが、きっちり王妃の血も受け継いでいる。
彼が無邪気に喜ぶ姿は実にテレサと似て子供っぽい。
歳は離れていても、兄妹は兄妹と言う事だ。
そんな彼の姿を見る事が、メイドとして、片恋人として、シノはとても楽しみだ。
「………………」
ふと、胸中に湧きかけたとある妄想に、シノは珍しく表情を歪めた。
即座にその妄想を否定し、亡きモノにする。
その妄想の内容は、実に少女的なモノ。
シノの行動に感服したチャールズが、シノと共にキャッキャウフフな未来を築く。そんな淡い妄想だった。
「……そんな未来は、有り得るはずがない。有り得てはいけない」
強い意思を込めた言葉で、自分自身を諭す。
もう、何度めだろう。
数える事すらできない程に、彼女はこの手の妄想を思いつくたびに斬り捨ててきた。
王子と従者の恋。
それだけでも、王族のメンツに関わる一大事。そうそう世間に認められるモノでは無い。
それでもだ。シノがただ庶民の出だと言うだけなら、奇跡は望めたかも知れない。
しかし、現実はそれすら望めない。
何故ならシノの両親は『国賊』であり、彼女自身、その国賊としての行為に加担させられていた過去があるから。
10余年経った今でも、未だにその爪痕を探せば見つけられる様な、そんな大事件を起こした連中の一員だったのだ。
王家がシノを引き取ってくれたのは、当時何も知らずに巻き込まれていただけの子供だった自分に同情してくれただけ。
そんな身の上の人間が、国の宝とも言うべき王子との恋沙汰なんて、論外だ。
それを重々承知しているから、シノは妄想ですらそれを望もうとはしない。
何かの間違いで叶ってしまうかも知れないから、妄想は楽しいのだ。
何の望みも無い妄想ほど、虚しい事もないだろう。
だからシノは…
「む」
「あ、申し訳ありません」
うつ向いて歩いてしまっていたせいで、通行人とぶつかってしまった。
忍者的メイドである私とした事が、とシノは無表情の下でその失態にショックを受ける。
と、同時に、自身が衝突した人物を確認して、ちょっとだけ目を剥いた。
「……え……」
忍者だ。
シノがぶつかったのは、いかにも過ぎる紺色の忍者装束を身に纏った、長身の青年だった。
一見すると細身だが、ぶつかった際にシノが得た感触からして、着やせタイプか細マッチョであると推測される。
ヤバい、変な奴だ。
シノは無表情の下ですごく失礼な断定をする。
しかし、その断定、実はまさしくその通りだった。
「行列のできる人気店のすぐ近く……紙袋を持ち、憂いの雰囲気を纏う麗人……! ……素晴らしい。完璧だ。これは最早運命的だ……!」
静かに、忍者青年がつぶやく。
まるで空洞の様な黒い瞳が、シノを凝視して微動だにしない。
「あ、あの、本当に申し訳ありません。急いでいるので、これにて失礼させていただきます」
青年の視線に恐怖と言うか忌避反応を覚えたシノは、どうにかこの場を離脱しようとしたが……
「急ぐ事はない。さぁ、この出会いに感謝しよう」
何やら意味不明な言動と共に眼前に手を差し出され、止められてしまった。
「……あの、何か御用でしょうか?」
「当然。俺はこれからあなたにプロポーズをする所存だ」
「……はぁ……?」
何言ってんだこのイカレ忍者、と口にしかけてシノは言葉を飲み込む。
「プロポーズとは、世間一般の『婚約を申し出る的なアレ』で間違いありませんか?」
「無論」
「そうですか、ではお断りします」
他にも色々とツッコミ所はあったが、正直関わり合いになりたくないので重要な部分だけ否定しておく。
と言う訳でシノは立ち去ろうとしたが、今度は手ではなく雑誌を突きつけられて止められた。
「……なんですかこれは」
見た所、週刊ゴシップ誌の占いコーナーである。
「乙女座の所を見るが良い」
「…………」
仕方無いので、言われた通り乙女座の欄に目をやる。
「『今週は行列のできる人気店に足繁く通ってみよう! 長年の悩みが解決するかも!』」
「重要なのはその続きだ」
「……『ラッキーパーソンは、紙袋を抱きかかえて、憂う様な雰囲気を醸し出している麗人!』……」
「そう、まさしくあなたの事だ!」
……まぁ、確かに、ここは行列のできるたこ焼き店のすぐ近く。
そしてシノは現在、たこ焼き屋の紙袋を抱き、少ししょんぼりしていたかも知れない。
「長年の悩み……つまりこれは我が一族の『後継者問題』の事と見た!」
「はぁ、後継者問題ですか、そりゃ大変ですね。帰ります」
「まぁ待つんだ! あなたにも無関係な話ではないのだから!」
「いや、全力で無関係だし無関心なんですけどびっくりするくらい」
そろそろこの忍者を痴漢として適切に処理しても問題ない気がしてきた。
「とにかくだ。後継者問題の解決、そしてラッキーパーソンはあなた。すなわち俺とあなたは結ばれるべきだと言う神の意向を感じないか!?」
「感じません。いい加減にしてください」
「結婚しよう!」
「話聞いてましたか? 既にプロポーズについてはお断りをしたはずです」
「何故に?」
「何故にって……そりゃあそうでしょう。初対面の方のプロポーズを受け入れる人間がこの世に居ると思うのですかイカ…非常識ですよ」
いくらチャールズと結ばれる希望が無いとは言え、初対面の変な奴と婚約する道理は無い。
「成程、理解した。つまり、後日きちんと準備を整えてからまた来いと言う事だな」
「いえ、何か重要な部分が曲解されている気がします」
「そうでもない」
「そうでもあります」
「まぁ、お互いにゆっくり理解を深めていけば良い」
駄目だ、何かもう駄目だ。
シノは溜息ひとつ吐き捨てて、無言で立ち去ろうとした。
「では、また後日。新居と指輪と花束を用意してからまた伺う」
不穏なワードが聞こえたが、無視して行く。
どうせ、この忍者はシノの事など何も知らない。
後日また出会う可能性など、ほとんど無いのだから。
現在、この城のメイド達を取り仕切るメイド長は、若冠25歳。
歴代のメイド長でも最年少であるが、勤務歴は13年超とまぁ妥当と言えば妥当だったりする。
彼女の名はシノ・ニーレンベルキア。
諸事情により幼少期にナスタチウム王家に引き取られ、メイドとして仕えてきた。
特徴としては、字面通りの意味で鉄面皮と言っても差し支えない程に無表情である事と、やたら隠密行動に優れている事。
なので、自分でも「忍者的メイド」を自称していたりする。
今日も平和だ。
そんな事を考えながら、シノは庭園で花の世話をしていた。
第3王子、チャールズのお気に入りの庭園。
無表情のその下で、彼を密かに慕うシノとしては、その手入れは手を抜く道理など存在しないライフワークである。
「しかし、こうも平和だと暇になってしまいますね……」
シフトの関係上、この庭園整備が終わったらシノは丸々暇になってしまう。
別に働いているメイド達の手伝いに回っても良いのだが、そうしていると「きっちり休むべき時は休まないと」とチャールズがいちいち気を揉んでくる。
「仕方ありませんね、うん。仕方の無い事態ですよこれは、うん」
こうなったら、チャールズを陰ながら見守って、1日を過ごすとしよう。
主君の生活を必要以上に盗み見るなど感心できる行為では無いのだろうが、興味があるのだから仕方無い。
バレなきゃ良いのである。そしてシノは忍者的メイド。
今の所、バレた事は1度もない。
常習犯と言う奴だ。
「あ、シノさん!」
「テレサ様」
そんな感じで今後の予定を決定したシノの元に、チャールズの妹、テレサがてこてこと近寄って来た。
相変わらず、実年齢は女子高生に匹敵するにも関わらず、ランドセルが実にフィットしそうな見た目をしている。
「何か御用ですか?」
「いえいえ、声をかけてみただけです!」
本当、いつでも元気いっぱいである。
「今日は、会社の方へは行かれないのですか?」
「これから行きますよ。今日はガイアさんが良いモノを買ってきてくれると約束してますし!」
「良いモノ、ですか?」
「はい。なんでも、ガイアさんの通う大学の前にたこ焼き屋さんがオープンしたらしいのですが、そこで売っているたい焼きがすごく美味しいんだそうです!」
多方、その話をした所、テレサに全力で強請られ買ってくる約束をさせられた、と言う所だろう。
にしても、たこ焼き屋なのにたい焼きが評判になっているとは……店主も釈然としない気持ちだろうな、とシノは思う。
「ふむ……すごく美味しいたい焼き、ですか」
「シノさんも興味あります?」
「まぁ、多少」
シノ本人はそれほどでもないが、チャールズは甘いモノが好きだ。
午後はチャールズの観察に全ての時間を費やすつもりのシノだったが、少々気が変わった。
「情報の提供に感謝します」
「? よくわかりませんが、役に立てたのなら良かったです」
ガイアの通う大学については、以前に任された「城外に置けるテレサの身辺調査」の際に把握している。
と言う訳でシノは普段着に着替え、テレサの言っていたたこ焼き屋へと足を運んでいた。
美味いと評判になっている、と言う話を裏付ける様に、その大して大きくもないたこ焼き屋には長蛇の列が成っていた。
40分程並び、シノはようやく件のたい焼きを3つ購入する事ができた。
「成程、良い香りです」
紙袋の口を少しだけ開封し、匂いを確かめてみる。
今までに経験してきたどのたい焼きとも僅かに違う香り。
生地か、餡子か、はたまた別の何かか。とにかく、何かしら独自要素があり、それが人気の秘密になっていると容易に想像できる。
甘いモノが特別好きと言う訳でもないシノでも、何か惹きつけられるモノを感じた。
これを3時のティータイムの際に出せば、きっとチャールズは大いに喜んでくれる事だろう。
今日の紅茶は甘さ控えめモノにして、たい焼きの甘味を引き立てて……とシノは算段する。
「ふふ、子供の様にはしゃぐ姿が容易に想像できます」
相変わらず無表情だが、その声は笑っていた。
チャールズは国王似だが、きっちり王妃の血も受け継いでいる。
彼が無邪気に喜ぶ姿は実にテレサと似て子供っぽい。
歳は離れていても、兄妹は兄妹と言う事だ。
そんな彼の姿を見る事が、メイドとして、片恋人として、シノはとても楽しみだ。
「………………」
ふと、胸中に湧きかけたとある妄想に、シノは珍しく表情を歪めた。
即座にその妄想を否定し、亡きモノにする。
その妄想の内容は、実に少女的なモノ。
シノの行動に感服したチャールズが、シノと共にキャッキャウフフな未来を築く。そんな淡い妄想だった。
「……そんな未来は、有り得るはずがない。有り得てはいけない」
強い意思を込めた言葉で、自分自身を諭す。
もう、何度めだろう。
数える事すらできない程に、彼女はこの手の妄想を思いつくたびに斬り捨ててきた。
王子と従者の恋。
それだけでも、王族のメンツに関わる一大事。そうそう世間に認められるモノでは無い。
それでもだ。シノがただ庶民の出だと言うだけなら、奇跡は望めたかも知れない。
しかし、現実はそれすら望めない。
何故ならシノの両親は『国賊』であり、彼女自身、その国賊としての行為に加担させられていた過去があるから。
10余年経った今でも、未だにその爪痕を探せば見つけられる様な、そんな大事件を起こした連中の一員だったのだ。
王家がシノを引き取ってくれたのは、当時何も知らずに巻き込まれていただけの子供だった自分に同情してくれただけ。
そんな身の上の人間が、国の宝とも言うべき王子との恋沙汰なんて、論外だ。
それを重々承知しているから、シノは妄想ですらそれを望もうとはしない。
何かの間違いで叶ってしまうかも知れないから、妄想は楽しいのだ。
何の望みも無い妄想ほど、虚しい事もないだろう。
だからシノは…
「む」
「あ、申し訳ありません」
うつ向いて歩いてしまっていたせいで、通行人とぶつかってしまった。
忍者的メイドである私とした事が、とシノは無表情の下でその失態にショックを受ける。
と、同時に、自身が衝突した人物を確認して、ちょっとだけ目を剥いた。
「……え……」
忍者だ。
シノがぶつかったのは、いかにも過ぎる紺色の忍者装束を身に纏った、長身の青年だった。
一見すると細身だが、ぶつかった際にシノが得た感触からして、着やせタイプか細マッチョであると推測される。
ヤバい、変な奴だ。
シノは無表情の下ですごく失礼な断定をする。
しかし、その断定、実はまさしくその通りだった。
「行列のできる人気店のすぐ近く……紙袋を持ち、憂いの雰囲気を纏う麗人……! ……素晴らしい。完璧だ。これは最早運命的だ……!」
静かに、忍者青年がつぶやく。
まるで空洞の様な黒い瞳が、シノを凝視して微動だにしない。
「あ、あの、本当に申し訳ありません。急いでいるので、これにて失礼させていただきます」
青年の視線に恐怖と言うか忌避反応を覚えたシノは、どうにかこの場を離脱しようとしたが……
「急ぐ事はない。さぁ、この出会いに感謝しよう」
何やら意味不明な言動と共に眼前に手を差し出され、止められてしまった。
「……あの、何か御用でしょうか?」
「当然。俺はこれからあなたにプロポーズをする所存だ」
「……はぁ……?」
何言ってんだこのイカレ忍者、と口にしかけてシノは言葉を飲み込む。
「プロポーズとは、世間一般の『婚約を申し出る的なアレ』で間違いありませんか?」
「無論」
「そうですか、ではお断りします」
他にも色々とツッコミ所はあったが、正直関わり合いになりたくないので重要な部分だけ否定しておく。
と言う訳でシノは立ち去ろうとしたが、今度は手ではなく雑誌を突きつけられて止められた。
「……なんですかこれは」
見た所、週刊ゴシップ誌の占いコーナーである。
「乙女座の所を見るが良い」
「…………」
仕方無いので、言われた通り乙女座の欄に目をやる。
「『今週は行列のできる人気店に足繁く通ってみよう! 長年の悩みが解決するかも!』」
「重要なのはその続きだ」
「……『ラッキーパーソンは、紙袋を抱きかかえて、憂う様な雰囲気を醸し出している麗人!』……」
「そう、まさしくあなたの事だ!」
……まぁ、確かに、ここは行列のできるたこ焼き店のすぐ近く。
そしてシノは現在、たこ焼き屋の紙袋を抱き、少ししょんぼりしていたかも知れない。
「長年の悩み……つまりこれは我が一族の『後継者問題』の事と見た!」
「はぁ、後継者問題ですか、そりゃ大変ですね。帰ります」
「まぁ待つんだ! あなたにも無関係な話ではないのだから!」
「いや、全力で無関係だし無関心なんですけどびっくりするくらい」
そろそろこの忍者を痴漢として適切に処理しても問題ない気がしてきた。
「とにかくだ。後継者問題の解決、そしてラッキーパーソンはあなた。すなわち俺とあなたは結ばれるべきだと言う神の意向を感じないか!?」
「感じません。いい加減にしてください」
「結婚しよう!」
「話聞いてましたか? 既にプロポーズについてはお断りをしたはずです」
「何故に?」
「何故にって……そりゃあそうでしょう。初対面の方のプロポーズを受け入れる人間がこの世に居ると思うのですかイカ…非常識ですよ」
いくらチャールズと結ばれる希望が無いとは言え、初対面の変な奴と婚約する道理は無い。
「成程、理解した。つまり、後日きちんと準備を整えてからまた来いと言う事だな」
「いえ、何か重要な部分が曲解されている気がします」
「そうでもない」
「そうでもあります」
「まぁ、お互いにゆっくり理解を深めていけば良い」
駄目だ、何かもう駄目だ。
シノは溜息ひとつ吐き捨てて、無言で立ち去ろうとした。
「では、また後日。新居と指輪と花束を用意してからまた伺う」
不穏なワードが聞こえたが、無視して行く。
どうせ、この忍者はシノの事など何も知らない。
後日また出会う可能性など、ほとんど無いのだから。
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