悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

第13話 贔屓は良くない事です(拗っ子感)

『ご覧ください! デパートに立て篭っていた強盗団が次々宙を舞っております!』


 真昼のオフィス。
 ガイアはノートPCで適当にネットサーフィンをしながらテレビを見ていた。


 今テレビで放送されているのは、ここからそう遠くないデパートのライブ中継。
 少し前に強盗団が押し入ったらしいのだが……


『見えました! 最近噂の『正義の魔法使い』です! おおっと! 逃走を図った強盗団残党のワゴン車を持ち上げるあの獣人族の少女は彼女の仲間でしょうか!?』


「……何してんだあいつら……」


 アシリアちゃんに可愛い服を買ってあげます!
 アシリア、服買われるの満更でもない。


 1時間程前に、そう言って出て行ったテレサとアシリア。
 ついでに今週号のジャンプ買ってきてくれと頼んだのだが……


「子供って本当に元気だよなー……」


 ガイアにも、所構わずはしゃぎ回っていた頃はある。子供の頃に。
 画面の向こうの2人の少女程の規模では無いが。


「つぅか、とうとうTVデビューか……」


 またメールボックスがファンレターで埋め尽くされるのか、とやや溜息を吐きながら、ガイアはマウスを操作する。








 そして日は暮れ、夕方。


「ただいまガイアさん! 今日のアシリアちゃんすごかったですよ!」
「ああ、テレビで見たよ。ワゴン車持ち上げて走り回ってたのだろ」
「えぇ!? ガイアさん驚かせ甲斐が無いです!」


 だったらもう少し目立たない様にやれよ、とも思う。


「ねぇねぇガイア。アシリアお仕事頑張った」


 何やら満足げなアシリア。
 出て行った時のテレサのお下がり一式と違い、買ったばかりっぽいモフモフ感たっぷりの防寒服で全身を固めている。


「ああ、偉いな……正確には仕事じゃないけどな」


 元々は「ダークヒーローを目指す」という会社の方針だったので、悪党をシメるのも仕事といえば仕事だった。
 しかし業務内容が便利屋にシフトした今、そういう活動はボランティアの類だ。


 仕事よりボランティアの方が、圧倒的に出動回数が多いのが現状だったりするが、今に始まった事ではない。


「あ、あとこれ頼まれてた雑誌です!」
「おう、ありがとよ」
「ガイアさんが素直にお礼を言いましたよアシリアちゃん!」
「珍しいの?」
「……俺をなんだと思ってんだ」


 普段テレサに暴言等々を容赦無く浴びせたりするのは、あくまでもテレサがそういう事をするからである。


 ……まぁ少しくらいは「こいつ、馬鹿にするといちいち反応デカくて面白いな」的な気持ちも無くは無いが。


 何にせよ、ガイアはきちんと一定の常識をわきまえている。
 礼を言うべき場面ではちゃんと…


「…………」


 テレサが買ってきた袋に入っていたのは、週刊誌にしてはやたら太い1冊。
 ガイアの目がおかしく無いのなら、これは別冊マガジンだ。


「……せめてジャンプ系列で間違えろよ……」
「どうしたんですか?」


 考えてみればこの2人にお使いを頼んで、まともに完遂されると思っていた自分が浅はかだったとガイアは気付く。
 自分がバカだったと今回は諦めよう。
 それに買ってきてもらっといてケチをつけるのも……


「あ、そうそう、それでやってる『進撃の隣人』って話題ですけど面白いんですか?」
「読んだ事無いから知らん」
「え? その雑誌購読してるんじゃないんですか?」
「……お前な」
「あ、もしかして読み飛ばしって奴ですか!? 漫画家さんと編集してる人に失礼ですよ! 雑誌を買うならちゃんと全部読んであげてください!」
「……………」
「大体お金無い無い言ってるのに、そんな贅沢な娯楽の楽しみ方して…」 
「ジャンプとマガジンじゃカタカナ4文字ってとこしか合ってねぇんだよぉぉぉ……!」
「何の話ですかってか何でいきなりアイアンクロー痛たたたたたたたた!?」


 せっかくお咎め無しで済ませようと思っていたのに、煽る様な質問してくるからだ。


「ううぅ…最近DVがひどいですガイアさん」
「誰が誰とドメスティックだこの野郎」


 これはただただ純粋なバイオレンスだ。


「ねぇねぇガイア」
「んだよ?」


 ガイアの袖を引っ張り、アシリアはスっとテレビを指差す。


 つけっぱなしのその画面には、チーズが蕩けるハンバーグの映像。
 目に見えて濃厚そうなデミグラスソースが溶けたチーズと混ざり合う様が実に食欲を引き立てる。


「今日はあれが食べたい。作って」
「ハンバーグはできなくもねぇが、あのレベルは……」
「え?」


 そんな2人の会話にテレサが違和感を覚える。


「が、ガイアさん?何か私の時とリアクション違くないですか?」
「何がだよ?」
「だって、私が手料理を要求したら、『面倒くせぇ』って突っぱねたじゃないですか!」
「しゃあねぇだろ。毎日毎日外食させる金なんて無ぇんだし」
「……あれ? そういえば、アシリアちゃんってここ数日御飯はどうしてたんですか?」


 アシリアは家が無いので、このビルの3階の居住スペースに居候している。
 お昼は基本テレサと外食だが、考えてみるとそれ以外の時はどうやって食いつないでいるのか、テレサは知らない。


「……はぁ? もしかして気づいてなかったのか?」
「何がですか?」
「いつも帰る前に俺が晩飯作ってってんだよ、アシリアの分。翌朝の分まで米炊いて、朝はふりかけ飯が主体だ」
「アシリアはのりたま派」
「そんなの聞いてないです!」
「アシリアふりかけについて語ったの初めてだから仕方無い」
「そっちじゃないです! ガイアさんが御飯を作ってるって事です!」


 まぁそっちも今初めて言った事だ。


 だが普通明言しなくても気づくだろう。
 こっちは一切隠す様な事していないのだから。


「ここ最近俺が帰る時に三階寄るのはなんだと思ってたんだよ……?」
「てっきりアシリアちゃんをお風呂にでも入れて上げてるのかと…」
「アシリアお風呂くらい入れる! ……ちょっとシャワー怖いけど」


 お湯が自分に向かって一点集中的に降り注ぐなんて、自然界では絶対に無い現象だ。多少恐怖を覚えるのは仕方無いだろう。


「お風呂の件は置いといて……ひどいですよ! これは目に余る贔屓です! 私とアシリアちゃんとでガイアさんの対応が違い過ぎます!」
「贔屓ってお前な……」


 必要性と効率の問題だ。
 ガイアだって好き好んでアシリアの飯をこさえている訳では無い。
 料理はできるけど、得意という訳では無いし好きという訳でも無いのだ。


「あ、わかりました! ガイアさんさては噂に聞くロリコンさんですね!」
「それだとお前にも優しいはずだろうが」
「それもそうで…って、私はそんな幼く無いです!」
「一瞬納得しかけたなお前……」
「うぐっ……」


 まぁ外見的な事だし。
 何より子供呼ばわりされる事にコンプレックスを感じているという事は、多少なりとも歳不相応に幼く見える自覚はあるのだろう。


「……もういいです。流石に今回は本当にショックです」


 前回の如くオフィスの隅で膝を抱えて座り込むテレサ。


「平等に愛されていると信じていたのに……」
「俺はお前らの保護者か何かか……」


 フン、とテレサは完全に拗ねっ子モードに突入。


 ああ、クソ面倒くさい。


「……なぁアシリア。このまま無視して帰ったらどんなリアクションすると思う?」
「よくわかんないけど、多分ガイアは今、すごくひどい事を言ってると思う」


 まぁ流石に冗談だ。
 テレサを馬鹿にしたりいじったりするのは、あくまでもそのリアクションが面白いから。
 ガチ凹みされては、こちらとしても気分が悪い。


「……わかったよ。今日はお前の分も晩飯作ってやるから、それで機嫌なお…」
「本当ですか!?」


 立ち直り早いな。子供かよ。


「私もさっきのハンバーグみたいなのを所望します! デミです! チーズです!」
「アシリアもよくわかんないけどデミでチーズなのがいい!」
「…………」


 何だろう。何故かふと幼稚園の先生ってこんな感覚なのかな、と思った。


 非常に面倒くさい。
 だがまた拗ねられたらそれはそれで面倒くさい。


 ガイアは深い溜息をつき、材料を買うためにスーパーへと向かう事にした。





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