悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

第08話 第1王子の悩み(お前もか)

 王城。
 第1王子、ウィリアムの執務室。


 第3王子チャールズはウィリアムに呼び出され、その場所へと足を運んだ。


「ようチャールズ」


 チャールズを出迎えたのは、上質なソファーに座って読書に勤しむ人物。
 ムキムキ、とまではいかないが健康的なガタイの眼鏡男。
 この執務室の主、ウィリアムだ。


「珍しいですね、何か用ですか? 兄上」
「まぁな。……少しばかり、悩みがあってな」
「悩み?」
「……結構、重大な事だ」


 あの見た目に反して軽薄な態度が目立ち「この王あってあの王子あり」と言われた程のウィリアムが、真剣な表情を見せる。


「……あれ、デジャヴ?」
「何の話だ?」
「いえいえ、こっちの話ですよ。で、その悩みって……」
「実はな……」


 執務室に緊張が張り詰める。




「……最近、テレサの帰りが遅いと思わないか」




 はい、やっぱりややデジャヴでした。


「いやぁ、本当にテレサって愛されてるよね」
「当然だ! 可愛いからな!」


 ウィリアムが何かのリモコンを取り出し、そのスイッチを押すと、室内に異変が起きる。
 壁にかけられた無数の絵画や肖像画がバターンとひっくり返る。
 現れたのは、全部テレサの写真。
 生まれたての頃から最近の奴まで。
 1つの額に何十枚と貼られている物もある。


「ほぅらこんなに可愛いーっ! イッツァヴェリィキュゥゥゥゥゥゥットッ!!」
(父上より深刻だなこれは……)


 執務室を普段からこの状態にしたいとウィリアムは思っているのだが、テレサに1度見られて「……あの、流石に気持ち悪いです」と言われてから、こんなギミックを仕掛けている。


「こんなに可愛いテレサが夜遅くに帰ってくる……ウィリアムお兄様は心配!」
「テレサだってもう子供じゃないんですから……」
「子供だよ! テレサは一生子供だ! 一生ちっさいし可愛いし可愛くて俺もうダメ!」
(ドン引き過ぎて俺もうダメ……)


 何で同じ兄弟なのに、妹に対してこんなに温度差が生まれてしまっているのか。
 不思議でならない。
 いや、まぁチャールズだってテレサの事は可愛いとは思うが、流石にこれは……


「うぅ……テレサぁ……」
「そんなんだから奥さんと口聞いてもらえないんですよ……」


 先日ウィリアムの妻は、「……判断ミスったかなぁ……」とか遠い目でブツブツつぶやいていた。


「口も聞いてくれない妻すらいない奴に言われたくない」
「よぉーし、そこになおれ兄上この野郎。粛清しちゃうぞ☆」
「はっ! 久しぶりに稽古を付けてやろうか! 弟には容赦しないぞ、ただし…」
「ただし?」
「場所を変えよう。なんなら土下座してもいい。場所を変えよう。頼む」
「……ああ、テレサの写真が傷つくかもしんないからか……」


 何かこう、本当に土下座までしそうな兄の雰囲気のおかげでチャールズは少し落ち着く。
 まぁ簡単に言うと若干ドン引きして熱が冷めただけだ。


 剣を鞘に収めながらチャールズは深々と溜息。


「……でも、テレサは本当にもう子供って歳じゃないですし、自由に……」
「何歳になっても親から見れば子供は子供だ!」
「あんた親じゃなくて兄だろ」
「目から鱗!」
「盲目になり過ぎですよ兄上!?」


 テレサの事となると本当に色々と見失うウィリアム。


「もう俺ね、ひしひしと思うわ。この流れでテレサが彼氏とか連れてきたら殺…荒れるね」
「殺る気満々過ぎて怖いです兄上」
「お前だって思うだろ」
「いや、相手によりますが、命までは……」


 何か、この人にはテレサの部下のガイアって人の話を聞かせてはいけない気がするなぁ、とチャールズは思う。
 チャールズは色々テレサからガイアに付いても聞かされている。


「ガイアさんっていう部下がいるんですよ」
「へぇ、男?」
「はい! 大学生で、元自称勇者です!」
「あー自称勇者……」
「たまに意地悪ですけど、優しいし面白い人ですよ!」
「楽しそうだね、テレサ」
「はい!」
「頑張ってね、何をしてるかはよくわからないけど」
「私頑張ります!」


 何てやり取りがあったが、これをウィリアムに置き換えるとおそらく……


「ガイアさんっていう部下がいるんですよ」
「男!? いや女でもテレサを夜遅くまで連れ回す様な輩は殺…許さないぞお兄様は!」
「え、えーと、男です。あと大学生で元じ…」
「そのクソ野郎の居場所を教えなさい、テレサ。絶対殺…ちょっと話をね」
「クソ野郎って…確かにたまに意地悪ですけど、やさ…」
「意地悪……? よし」
「ウィリアム兄様? 聞いてますか?」
「うん、全力で殺す」
「ウィリアム兄様ーっ!?」


 って事になり、1人の国民の尊い命が散る事になるだろう。


 テレサが未だウィリアムにガイアの事を話していないのは偶然だろうが、今後も絶対聞かせてはいけない。


「ちょっと俺の部下にテレサの外での様子を確認させて来ようかな……」
「っ!?」


 言ってる傍からガイアに死亡フラグが立ってしまった。


「そ、そんな事してバレたら嫌われちゃいますよ兄上!」
「俺の好感度なんぞくれてやる。最も優先すべきはテレサに悪い虫が付かない様にする事だ」


 うーん、もうちょっと狂気が抜ければ良い兄なのだが……


「それとお仕事中のテレサの写真欲しい……」
「…………」


 まぁとにかくだ。
 このままでは不味い(ガイアの命が)。


「お、俺がやらせますよ! 兄上は公務があるでしょう!?」
「そうか、助かるチャールズ。ちゃんとお仕事中のテレサの写真も撮ってこさせてくれよ。仕事中なのにうたた寝しちゃう所とか欲しい」
「承知しました……」


 とりあえず、上がってくる報告と写真を全てチャールズが検閲し、ガイアの存在を匂わせる物を全て消しておこう。
 こんな事で妹の数少ない友人をジェノサイドさせる訳にはいかない。





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