悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~
第07話 お金は大事(迫真)
日曜日の昼前、オフィスにて。
「んじゃ、確認してみるか」
「で、どうなんですか、ガイアさん! お仕事の依頼きてますか!?」
「今から確認するっつってんだろ……」
オフィスの端っこに導入された、まぁまぁ上等なデスク。
その机上には、『幹部』と刻まれた大理石のプレートと、ノートPC。
便利屋業の開始を機に、ガイア用に用意されたデスクだ。
とりあえず、便利屋を始めるからには、告知して世間に知ってもらう事から始めるべきだと考えたガイア。
『些細な家事手伝い事から国家を揺るがす大事件まで、
何でも気軽にご相談ください。
指をパチンと魔法で解決いたします!』
そんなダラダラと長ったらしい宣伝文句を添え、ガイアはチラシを制作しホームページとかも作ってみたのだ。
そして、依頼があるならメールでアポを取ってね、という意図を込めてチラシにもHPにもアドレスを載っけてみた。
ガイアは今、そのメールボックスを確認している。
「早く早く!」
「うるせぇな、まだ電源入れたばっかでプログラム立ち上がってねぇっての」
「そうは言っても、早く見たいじゃないですか!」
本当、見た目相応にガキだ。
一応「義務教育は受け終わりました!」とか言ってたから、15歳以上ではあるんだろうが……
テレサの外見・中身両方を踏まえて精査してすると、ガイアは首を傾げざる負えない。
「ったく、そんなに急かすんなら、お前がやれよ」
起動中の画面で何か出来るというのならやってみろ。
「ひぇ? あ……いえ、私はー、その、こういう機械とは、反りが合わないというか……」
ヤケに目が泳ぎまくるテレサ。
「…………」
「な、何ですか?」
……ああ、そういう事か。
少し、妙だとは思っていた。
何でもかんでもアグレッシブに取り組むこの魔法少女。そんな彼女がまるで遠ざける様にノートPCをガイアのデスクに置いた事。
ガイアがホームページの作成をしている時、何の口出しもして来なかった事。
今朝から「もうメール来てるんじゃないですかね!」とガイアを急かすだけで、決して自分でPCに触れようとはしなかった事。
考えられる事は、1つ。
「……今時PCの一つもいじれねぇのかよ……」
「ち、違いますよ!? そ、そんな子供じゃあるまいし……あ! あれです! 『けんたいき』って奴です! 決してキーボードって何がどうなってんの、とか、そんな事は一切…その、あの!」
「別にPC操作できないくらいでそんな馬鹿にしねぇよ」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「…………はい、実は私、その……ちょっと複雑な操作がいる機械類は、こう、チンプンカンプンで……」
「……今時小学生でもネットサーフィンする時代なのになぁ……小学生でも。そう、小学生でも」
「やっぱり馬鹿にするじゃないですか!」
まぁ、何というか、テレサはいちいちリアクションが大きいので、そこそこイジリ甲斐がある。
「い、いいですもん! スマホさえ操作できれば日々快適ですもん! PCなんて贅沢品です! 多くを求めすぎるのはよくない事です!」
まぁスマホだって充分贅沢品の部類ではあるのだが、それ以上に突っ込むべき事がある。
「スマホ操作っつっても、お前メールと電話しかできねぇだろ。メールも誤字多いし」
「し、失礼な! パズルゲームだってやってます!」
「インストールしたのは?」
「いんすとーる?」
「そのゲームを、スマホで遊べる様にしてくれたのは誰だ?」
「…………チャールズ兄様ですよ」
「……つぅか、インストールって単語自体を知らないのは流石に予想外だったわ。今時小学生でも知ってるぞ。小学生でも」
「もういいです。私の負けです。好きにしてください」
「拗ねるなよ。俺も意地が悪かったよ…………子供相手に」
「本当に意地悪ですね!」
はいはい、と適当に流し、ガイアはマウスを操作。
メールボックスを開き、新着を確認してみる。
「……お前のファンは熱心だな……」
「え?」
メールボックスには、結構な量のメールが届いていた。
しかし、どれもテレサのファン達からの応援メッセージ。要するにファンレター的な物。
ちょくちょく迷惑メールが混ざっているくらいで、依頼のメールなんぞ1通も無い。
「皆さん、困り事とか無いんですかね……?」
「まぁ、基本ノー天気なのが国民性みたいな国だからな」
「良い国ですね!」
「ああ、王族がこんなんだからな」
「こんなんって何ですか!」
正直、スタートはこんなもんだろうとガイアは予想していた。
犯罪が絡む問題は警察に相談するだろうし、手近な問題はご近所さんにでも頼めば結構どうにかなる。『便利屋を利用する』という、半端な度合いの問題は、日常生活ではそうそう発生しない物だ。
テレサの「正義の魔法少女」としてのネームバリューがあるので、少しばかり淡い期待はしていたが、まぁ想定内。
便利屋だろうと客商売。地道に信頼と実績を獲得していく事が大切だ。
「ま、気長に行こうぜ」
「あれ? ガイアさん、どこか行くんですか?」
「バイト」
本日はお昼から夕方までのシフトである。
「私をまた1人にするんですか!?」
「慣れてるだろ」
「慣れてても寂しいですよ!」
ぐわしっ、と必死にすがり付いてくるテレサ。
よっぽど独りぼっちが嫌なのだろう。
気持ちはわかるが、ひたすら邪魔くさい。
「ミーちゃん! せめてミーちゃんが帰ってくるまで待ってください!」
「あのデブ猫、1度出てったら数日とか平気で帰って来ないじゃん」
「つまりそういう事です!」
「ふざけんな!」
「私よりバイトの方が大事なんですか!?」
「だから迷わずバイトに行こうとしてるだろうが」
「殺生な!」
天秤にかけるまでも無い。というか行動で察しろ。
「お金がそんなに大事ですか! お金じゃ買えない物ってあると思いませんか!」
「ああそうだな。いっぱいあるだろうな。でも家賃だの学費だのは金でしか払えないんだよこの野郎」
「家賃と学費……つまり、ガイアさんがこのビルに引っ越して学校を辞めれば、私は寂しい思いをしなくて良くなるって事ですか!」
「ああ…そうだな、そして俺の人生は取り返しの付かない事になるだろうな」
「ちゃんと養いますから!」
「結構だ」
テレサを引き剥がし、ガイアはPCの電源を落とす。
本格的にバイトへ向かう準備を始める。
「酷いです……もっと大事にされてると思ってたのに……」
「冷静に今までの自分の行動を振り返って、そう思ってたのか?」
だとしたらもうお手上げだ。
脳の病院に行け、と言いたい所だが、担当になる医師が可哀想なのでやめておこう。
「…………うぅ……うぅぅぅううぅ……」
「…………あーもう、わかったよ。バイト終わったらまたここ来るから」
「本当ですか!? いつですか!? 今!? 今なんですか!?」
「お前な……」
「とにかく待ってます! そしてそれまで感じた寂しさを力の限り愚痴ります!」
「…………」
やっぱもう1度来るの辞めとこうか。
面倒くさくなってきた。
「んじゃ、確認してみるか」
「で、どうなんですか、ガイアさん! お仕事の依頼きてますか!?」
「今から確認するっつってんだろ……」
オフィスの端っこに導入された、まぁまぁ上等なデスク。
その机上には、『幹部』と刻まれた大理石のプレートと、ノートPC。
便利屋業の開始を機に、ガイア用に用意されたデスクだ。
とりあえず、便利屋を始めるからには、告知して世間に知ってもらう事から始めるべきだと考えたガイア。
『些細な家事手伝い事から国家を揺るがす大事件まで、
何でも気軽にご相談ください。
指をパチンと魔法で解決いたします!』
そんなダラダラと長ったらしい宣伝文句を添え、ガイアはチラシを制作しホームページとかも作ってみたのだ。
そして、依頼があるならメールでアポを取ってね、という意図を込めてチラシにもHPにもアドレスを載っけてみた。
ガイアは今、そのメールボックスを確認している。
「早く早く!」
「うるせぇな、まだ電源入れたばっかでプログラム立ち上がってねぇっての」
「そうは言っても、早く見たいじゃないですか!」
本当、見た目相応にガキだ。
一応「義務教育は受け終わりました!」とか言ってたから、15歳以上ではあるんだろうが……
テレサの外見・中身両方を踏まえて精査してすると、ガイアは首を傾げざる負えない。
「ったく、そんなに急かすんなら、お前がやれよ」
起動中の画面で何か出来るというのならやってみろ。
「ひぇ? あ……いえ、私はー、その、こういう機械とは、反りが合わないというか……」
ヤケに目が泳ぎまくるテレサ。
「…………」
「な、何ですか?」
……ああ、そういう事か。
少し、妙だとは思っていた。
何でもかんでもアグレッシブに取り組むこの魔法少女。そんな彼女がまるで遠ざける様にノートPCをガイアのデスクに置いた事。
ガイアがホームページの作成をしている時、何の口出しもして来なかった事。
今朝から「もうメール来てるんじゃないですかね!」とガイアを急かすだけで、決して自分でPCに触れようとはしなかった事。
考えられる事は、1つ。
「……今時PCの一つもいじれねぇのかよ……」
「ち、違いますよ!? そ、そんな子供じゃあるまいし……あ! あれです! 『けんたいき』って奴です! 決してキーボードって何がどうなってんの、とか、そんな事は一切…その、あの!」
「別にPC操作できないくらいでそんな馬鹿にしねぇよ」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「…………はい、実は私、その……ちょっと複雑な操作がいる機械類は、こう、チンプンカンプンで……」
「……今時小学生でもネットサーフィンする時代なのになぁ……小学生でも。そう、小学生でも」
「やっぱり馬鹿にするじゃないですか!」
まぁ、何というか、テレサはいちいちリアクションが大きいので、そこそこイジリ甲斐がある。
「い、いいですもん! スマホさえ操作できれば日々快適ですもん! PCなんて贅沢品です! 多くを求めすぎるのはよくない事です!」
まぁスマホだって充分贅沢品の部類ではあるのだが、それ以上に突っ込むべき事がある。
「スマホ操作っつっても、お前メールと電話しかできねぇだろ。メールも誤字多いし」
「し、失礼な! パズルゲームだってやってます!」
「インストールしたのは?」
「いんすとーる?」
「そのゲームを、スマホで遊べる様にしてくれたのは誰だ?」
「…………チャールズ兄様ですよ」
「……つぅか、インストールって単語自体を知らないのは流石に予想外だったわ。今時小学生でも知ってるぞ。小学生でも」
「もういいです。私の負けです。好きにしてください」
「拗ねるなよ。俺も意地が悪かったよ…………子供相手に」
「本当に意地悪ですね!」
はいはい、と適当に流し、ガイアはマウスを操作。
メールボックスを開き、新着を確認してみる。
「……お前のファンは熱心だな……」
「え?」
メールボックスには、結構な量のメールが届いていた。
しかし、どれもテレサのファン達からの応援メッセージ。要するにファンレター的な物。
ちょくちょく迷惑メールが混ざっているくらいで、依頼のメールなんぞ1通も無い。
「皆さん、困り事とか無いんですかね……?」
「まぁ、基本ノー天気なのが国民性みたいな国だからな」
「良い国ですね!」
「ああ、王族がこんなんだからな」
「こんなんって何ですか!」
正直、スタートはこんなもんだろうとガイアは予想していた。
犯罪が絡む問題は警察に相談するだろうし、手近な問題はご近所さんにでも頼めば結構どうにかなる。『便利屋を利用する』という、半端な度合いの問題は、日常生活ではそうそう発生しない物だ。
テレサの「正義の魔法少女」としてのネームバリューがあるので、少しばかり淡い期待はしていたが、まぁ想定内。
便利屋だろうと客商売。地道に信頼と実績を獲得していく事が大切だ。
「ま、気長に行こうぜ」
「あれ? ガイアさん、どこか行くんですか?」
「バイト」
本日はお昼から夕方までのシフトである。
「私をまた1人にするんですか!?」
「慣れてるだろ」
「慣れてても寂しいですよ!」
ぐわしっ、と必死にすがり付いてくるテレサ。
よっぽど独りぼっちが嫌なのだろう。
気持ちはわかるが、ひたすら邪魔くさい。
「ミーちゃん! せめてミーちゃんが帰ってくるまで待ってください!」
「あのデブ猫、1度出てったら数日とか平気で帰って来ないじゃん」
「つまりそういう事です!」
「ふざけんな!」
「私よりバイトの方が大事なんですか!?」
「だから迷わずバイトに行こうとしてるだろうが」
「殺生な!」
天秤にかけるまでも無い。というか行動で察しろ。
「お金がそんなに大事ですか! お金じゃ買えない物ってあると思いませんか!」
「ああそうだな。いっぱいあるだろうな。でも家賃だの学費だのは金でしか払えないんだよこの野郎」
「家賃と学費……つまり、ガイアさんがこのビルに引っ越して学校を辞めれば、私は寂しい思いをしなくて良くなるって事ですか!」
「ああ…そうだな、そして俺の人生は取り返しの付かない事になるだろうな」
「ちゃんと養いますから!」
「結構だ」
テレサを引き剥がし、ガイアはPCの電源を落とす。
本格的にバイトへ向かう準備を始める。
「酷いです……もっと大事にされてると思ってたのに……」
「冷静に今までの自分の行動を振り返って、そう思ってたのか?」
だとしたらもうお手上げだ。
脳の病院に行け、と言いたい所だが、担当になる医師が可哀想なのでやめておこう。
「…………うぅ……うぅぅぅううぅ……」
「…………あーもう、わかったよ。バイト終わったらまたここ来るから」
「本当ですか!? いつですか!? 今!? 今なんですか!?」
「お前な……」
「とにかく待ってます! そしてそれまで感じた寂しさを力の限り愚痴ります!」
「…………」
やっぱもう1度来るの辞めとこうか。
面倒くさくなってきた。
「コメディー」の人気作品
書籍化作品
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