悪い魔法使い(姫)~身の程知らずのお姫様が、ダークヒーローを目指すとほざいています~

須方三城

第06話 路線変更(思い付き)

「何で昨日は出勤しなかったんですか!?」
「何でお前は朝っぱらからいちいち俺の家に来るんですか?」


 この現代社会、スマホという文明の利器があるだろうに。


 安眠を妨害されたガイアはやや不機嫌。
 授業が3限からなのでゆっくり寝れるはずだったのに。


「ガイアさん、電話だと取らないし、メールは返信しないじゃないですか!」
「たまには取るし、希に返信するだろうが」
「業務連絡に対しては逐一了解返信! 社会の常識(らしい)です!」


 こんな奴に常識を解かれる日が来るとは、ガイアは思ってもみなかった。


「で、昨日は何で事務所に来なかったんですか? ミーちゃんもどっか行っちゃって、1人で寂しかったんですよ!?」
「知るかそんなん……」


 ちなみにミーちゃんとはテレサのペットであり、形式上ガイアの同僚に当たる結構なデブ猫である。結構ふてぶてしい奴だが、餌さえ与えれば擦り寄ってくる実に正直な奴だ。


 まぁそれはさておき、


「昨日はバイト行ってたんだよ」
「バイトって……辞めたんじゃないんですか?」
「また始めたんだよ。今度はカラオケハウス」
「何故ですか?」


 何故、と来たか。この野郎。


「……強いて言えば、誰かさんが一向に給料をくれないからだな」
「うっ……だって、ウチのお金は受け取りたくないって言うから」
「そりゃあそうだろ」


 一般的な良識として、公務員の様に国のために働いている訳でも無いのに、国民の血税から給料がもらえるか。


 こいつのアホな会社に入って1ヶ月とちょっと経つが、ガイアはオフィスの掃除と、テレサが一応ダークヒーローを目指して行う行動の軽いサポートしかしていない。
 税金から金をもらえる要素が見当たらない。


「大体、あの活動内容でどうやって利益上げるつもりだったんだ?」


 オフィスがあるビルは、土地ごと購入しており、賃貸料金等は発生しない。
 土地やら建物やらの税金関係は、テレサの家柄上パスできている。
 この辺の電気水道は国営なので同上。
 だが、従業員の給料はどうしようも無い。
 あの会社では利益を上げる事など不可能だ。今の所、社内と社会のゴミの清掃しかしていない。


「うーん……どうにかなる気がしたんですけどねー……」
「見通しが甘いなんてレベルじゃない発言だなおい」
「世の中の悪の組織って、どうやって生計立ててるんですかね?」
「そりゃあ、人殺しとか犯罪絡みの依頼とか受けて……とかだろ?」
「ひ、人殺……」


 まぁこのほわほわ感MAXのわんぱくお姫様には到底想像もできない世界だろう。
 本来悪の組織だのダークヒーローだのに最も縁がない人種だ。


「こ、恐いんですね、悪の組織……」
「まぁ悪の組織だしな」


 ウチの様な悪の組織(笑)とは次元が違う。


「あ、でも良い事思いつきました!」
「ほう」
「閃きの瞬間ですよ!」
「いいからその良い事ってのを言え」
「はい!」


 少し勿体ぶって、テレサはパチンと指を鳴らした。


 虚空からボフンッと現れたのは、1冊のコミックス。
 以前のダークヒーロー物、では無い。


「お悩み解決の仕事を請負い、解決していく万事屋物語です!」
「……で?」
「主人公は、普段はのほほんとした中年ですが、暗い過去を持っていて、時にはダークサイドな一面を見せるんです! 一種のダークヒーローです!」
「……ふーん……」


 パラパラっとページを捲ってみる。
 確かに、普通のシーンではアホ面な主人公だが、戦闘シーンになると血に飢えた餓狼の様に描写されている。


「私、よくのほほんとしてるって言われるんで、この路線なら行けるんじゃないでしょうか! 悩める方々から依頼を受けて、かっこよく解決!」


 どうやら、さっき話に出た「悪の組織は犯罪絡みの『依頼を受ける』」という話からこの作品を思い出したらしい。


「まぁ、何でも屋って方向性は良いと思うぞ」


 それなら、金も入ってくる。
 つまり利益が生まれる。=給料が発生する。


 ガイアとしては是非ともそうしていただきたい。


「でも、お前暗い過去とかあんの?」
「えーと……あ、昨日、独りぼっちにされて寂しい思いをしました!」
「この漫画の主人公に謝れ」
「えぇっ!?」
「あと、ダークサイドな一面ってのも出せねぇだろお前」
「頑張ります!」


 頑張って出すものじゃないだろう。
 それではただの「悪ぶってる」で終わりだ。
 ダークヒーローどころか、最悪ただの痛い奴で終わる。


 この前もこんな感じのやり取りをした気がするが、根本的にダークヒーロー的要素が足りない。


「とにかく、今は少しでもダークヒーローに近づく道を模索すべき時です!」
「んじゃあ、あの会社は便利屋業にシフトするって形でいいのか?」
「はい!それで行きましょう! 目指せダークヒーローです!」


 多分ダークヒーローには一歩たりとも近づいちゃいない。
 その辺も理解できていない辺り、果てしなく遠い目標だという事がよくわかる。


 でもまぁ良いだろう。


 今までと違い、利益が見込める様になるのだから。







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