鮮獄嵐凄~思春期武士はロマンチックな恋がしたい~
05,愛しいあの子は火加減が下手
……ああ、一体何年ぶりだろうか。闘うために、この紅蓮の柄に指をかけるのは。
意を決し、ベルトにぶら下げた紅蓮の刀、その留め具を外して、鞘に納めたままに構える。
「どう言うつもりですか。真剣で闘り合うつもりは無い、とでも?」
「……これが僕のスタイルなんで……」
まぁ、嘘は言っていない。
僕は……ちょっとした刺激的な思い出、平たく言うとトラウマ的なモノがあるせいか、刀を抜こうとすると、身体が震えてしまって、動けなくなる。
刃を晒せば、また誰かを、今度は取り返しが付かない程に傷付けてしまうのではないか。
自分への信頼の無さが大きな杭になって、僕の身体を縫い止めてしまう。
僕が刀を使って闘うには、こうする他に無いのだ。
つまり、これが僕に取れる最も戦闘的なスタイル。
正直、今この状態ですら拒絶反応が起きていて、細かな震えが止まらないし、胸の辺りまで色々と何かがこみ上げてきてるけども。
「…………まぁ、良いでしょう。だからと言って、私は遠慮などしませんので」
ちょっとくらい遠慮してくれても良いんだよ?
「戦極武装、起動」
僕の心の声を蹴り飛ばす様に、鳳蝶さんの冷静沈着な声が響いた。
「刀剣型重級戦極武装【爆裂帰蝶】、行斬」
鳳蝶さんが構えた蝶々鍔の刀。水に濡れた様に煌めいていた美しい白刃が、七色に輝き始める。
――戦極武装、戦極に用いる武器の総称。
最も普及しているのは刀剣型だが、一応槍だったり薙刀だったり弓型のも存在する。
欄区は上から超級・重級・中級・軽級。上に行く程その殺傷能力とお値段はものすごく高くなる。特に重級と超級は、所謂【業物】と呼ばれる部類。
鳳蝶さんの戦極武装は、重級、上から二番目。業物。
覚悟はしていたけど、うん。いよいよ以て惨敗のフラッグがバタバタとはためき始めた風情を感じる。
……などと、余計な事を考えている場合じゃあない。
鳳蝶さんの刀、その七色に輝いていた刃が、散った。
一本の刃だったそれらが、色取り取りに煌く花吹雪……いや、違う。
あれは、【蝶々】だ。刃が散って、輝かしい無数の蝶々へと変わった。
蝶々達は優雅に翅を上下させて、鳳蝶さんの周囲を舞い踊る。
「お行きなさい」
鳳蝶さんが僕を指差して、ポツリとつぶやく。
すると、呼応する様に、無数の蝶々の中の一羽がヒラヒラとこちらへ飛んできた。
――鮮やかだ。
舞い散る七色の鱗粉が、旧校舎裏の薄暗闇によく映え……って、見蕩れてる場合じゃあない。
アレは明らかに攻撃、回避なり防御なり……
なんて、思考した一瞬の間。
こちらへ向かっていた一羽の蝶が、急加速して僕の懐に飛び込んできた。
ッ、しま――
視界が光に包まれた直後、まるで爆弾が炸裂する様な轟音が、目の前で響く。
全身が熱い。
全身が痛い。
特に耳の奥が痛い……って、あれ?
僕、飛んでる?
ああ、そうか、そう言う戦極武装か。
刃が変貌した無数の蝶々一羽一羽が、相手を吹っ飛ばす爆弾。
最初はヒラヒラと舞って、相手が一瞬でも視線を外したのを検知すると、全速力で接近して起爆する、と。
「づ、ぁぁ!!」
急いで、空中で身体を捻る。
鳳蝶さんの方に顔を向けて、着地を――
――目の前が、キラキラした蝶々で埋め尽くされていた。
「ちょッ――」
「一言。私は、可愛いハムスターを撫ぜる時でも全力を尽――」
鳳蝶さんの言葉は、途中までしか聞こえなかった。
◆
――所変わって、終刕高校二年ヰ組教室。
「……あいつは、あの小さな身体にどれだけの尿を貯めていたのだ……もしや体積のほとんどが膀胱なのか?」
一向に教室へやって来ない小さな友人を待つ美形男子高校生、朱日光良。
割と由緒ある朱日家にて生まれ育ったため、周囲の影響で口調は古風で堅いが、その精神性は立派な現代っ子である。
「……身体は子供、膀胱は巨人……うむ、次はこの辺をネタに弄ってやるか」
きっとあいつも、そう弄って欲しくてトイレに引き籠っているに違いない。
なんてとんでもない理屈に光良自らうんうんと相槌を打っていると……
「うぉぅ」
そこまで近くなく、そんなに遠くもない距離から「ズドァアアンッッッ……!!」と言う豪快な爆発音が響き渡った。
「………………?」
さっきまでいくつかの雑談しか無かった教室内が、ザワザワと全体的に響めき始める。
当然、光良も「何の音だ……?」と窓の外へと視線をやると……遥か向こう、旧校舎の辺りで、細い黒煙がいくつか登っているのが見えた。
先に窓辺に集っていた人混みから「なぁ今さ、旧校舎の方……何か、小さい人影みたいなのがピョーンッて空高く舞い上がってなかった?」「え? そんなん見えた?」「うん、豆粒みたいなのが錐もみ回転しながら……」などと言う珍妙な会話が聞こえる。
「…………まぁ、大した事ではないのだろう」
遠くに聞いても、高層ビルでも解体しかねない勢いの爆発音だったが……一向に校内放送がかかる様子も無い。
終刕高校の警備員は、かつて国家忍軍に所属していた事もある人員が多い精鋭部隊だ。校内で何か起これば数秒で原因を特定し、危険な事だったり未知の事態ならば、すぐにでも警戒を促す校内放送がかかる。
それが無いと言う事は、警備員達が音の発生源を既に突き止め「学校全体に関わる問題では無い」と判断したと言う事だ。
おそらく、何処ぞの阿呆が旧校舎の方で戦極武装の試運転でもしているのだろう。お元気な事で。
光良と同じ結論に達した者がほとんど、と言うか全員だったらしく、教室内のザワめきはみるみる小さくなっていき、窓辺の人だかりもすぐに解散。
一分もしない内に、新学年度へのワクワクに思いを馳せる雑談がそこらで再開された。
「……にしても、信市の奴、遅いな」
マジで膀胱大巨人なのか。
はたまた、何処ぞで油でも叩き売っているのか――
「存外、何らかの奇跡が起こって鳳蝶嬢と何か……まぁ、そんな都合の良い話は無いか」
……自身がその奇跡の引き金を引いた事など露知らず、光良はあはははと愉快に笑うのだった。
◆
「……正直、驚きましたね」
…………それはこっちの台詞なんですが…………
死ぬかと思った。本気で死ぬかと思った。
あとめっちゃ恐かった。
何あの火力。一体何を何トンくらい吹き飛ばすつもりだったの? 殺す気なの?
旧校舎裏を占領する様に茫茫と茂っていた草はほぼ全域焼き飛ばされ、根元からへし折れてしまった木すらある。僅かに火が燻る匂いもする。
咄嗟に刀を振り回して蝶々達を薙ぎ、直撃前に爆発させていなかったら、ヤバかった。
現に腕以外には直撃していないはずだのに、僕の身体は枝葉の天井を突き抜けて青空へ高く舞い上がったんだからね?
そして僕、実は高所恐怖症だからね? もう滝の様に流れる汗に紛れて涙も出てるからね?
で、でも、良かった……爆炎にガッツリ炙られた両腕の火傷を除けば、制服がブレザーもシャツもノースリーブになっちゃったのと、着地時にちょっと右足挫いたかも……程度で済んでいる。
……幼少期、父に頼んであのイカれた特訓に興じていなかったら、爆撃かそのあとの落下で死んでたと思う。
勝ったら交際しろ、と言う条件だから、本気で来ても殺す気では来ないだろう……と言う僕の予想は、どうやら大甘だったらしい。
鳳蝶さんはおそらく「最悪、殺してしまっても仕方無い。その場合は何か形見をもらって大事にしましょう」くらいの感覚できている……!?
「長袖のせいで気付きませんでしたが、その両腕の逞しさに無数の古い傷痕……成程。おそらくは、全身が似た様な状態なのでしょうね。……確かに、私の兄も、多少爆撃を受けたりスカイダイビングに失敗してアスファルトに突っ込んだりしても平気で笑っている人種ですが……見た目の可愛さに似合わず、貴方もそれなりに鍛えている、と言う事ですか」
流石にそんな化物みたいなお兄さんとは一緒にしないでください。
強がりでも平気だなんて言える火傷や捻挫の具合じゃあないからね? 今の僕に笑う気力は無いからね?
って言うか腕……マジでヤバいかも……特に左腕、火傷だけじゃあない。
感覚がやや鈍いと言うか……上手く力を入れられない。無理に力を込めようとすると一際傷み、腕の震えが激しくなる。
……この感じは経験がある……どうやら、爆発の衝撃で骨が砕けている様だ。
「この一撃で決められると思ったのですが……よろしい。次は、出し惜しみ無しでいきます」
……ああ、僕の見解は間違っていた様だ。
鳳蝶さん、僕を殺すつもりなんて無かったらしい。
あの火力でも、彼女は「殺さない様に加減し、多少出力を抑えていた」んだそうだ。
ヤバい、みるみる内に鳳蝶さんの元に七色の光粒子が帰還し、蝶々鍔の先に元の白刃を再形成していく。
……何度だって主の元へ帰還する爆裂蝶、故に銘を【爆裂帰蝶】か……とか、納得している場合じゃあない……!
「あ、鳳蝶さん……!? ちょっとタンマ、今以上のは流石に、死、死んじゃうから……!!」
「その時は……痛恨の極みですが、形見のひとつでもいただいて幕引きとしましょう。貴方の事は永遠に忘れません、我が尊き初恋の人」
あながち僕の予想は的外れでは無かった様だ。
確かに、戦極の上での殺人は罪には問われないけどさ、割り切りエゲつないね鳳蝶さん。流石だよ。その豪快さも、憧れた一要素だ。
「――爆裂帰蝶」
白刃の再形成が終了した途端、鳳蝶さんはまたしてもその刃を七色の蝶々群へと変貌させた。
一匹一匹は、然程威力が高い訳でもない小型爆弾。僕の体格でも軽く吹き飛ばされる程度だから、おそらく普通の体格の男性ならば衝撃に煽られて転倒させられる程度の火力だろう。
しかし……それが無数。無数だ。無数と言うのは、数えるのも面倒な群れ、と言う意味だ。
……そして、ものすごく気のせいであって欲しいんだけど……
「……あの……さっきより、増えてない……?」
「出し惜しみ無し、と言いました」
然様ですか。
◆
空ってこんなに広くて大きかったんだ。
知らなかった訳ではない、知らなかったはずがない。
それでも、改めて実感すると、驚かされる。
それもそうか。
地上から見える空は、建物や木のフレームで切り取られた限定的なモノ。
でも、空中で感じる空は、ありのまま広い。視界の全てが蒼く澄んだ空だけで埋まる。満たされる。
邪魔なフレームなど存在しない、空だけの世界。
僕、正直、高所恐怖症なんだけどさ。こうして上を向いて飛んでいると、不思議と恐くない。
なんでだろ、空が素敵だからかな。それとも、僕は実は高所恐怖症ではなかった、とか?
……ああ、いつまでも、ふわふわと空を感じていたいのに。
時間だ。地球が僕を呼んでいる。
ふふふ、あはは、一気に冷や汗が吹き出してきた。
うん、やっぱり僕は紛れもない高所恐怖しょああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!
「ひぃ、ッ、あ、あばあ!!」
着、地ィッ!!
…………ひぃー……ひぃー……も、もうヤダ……もう本当にヤダ……!!
何で、何で日に何度も高い所から落とされなきゃあならないんだ。僕、高所恐怖症なんだってば……市姫にどんだけ強請られたって石にかじりついてでもジェットコースターに乗らなかった(結局乗る事になったけど身長制限に生命を救われた)程度には高所恐怖症なんだよ……!?
もう汗の一滴も出ない。水分が足りない。
着地の度に足の骨に一本ずつ亀裂が増えていってる気がする。
入学から一年間、僕の身体には決してフィットしようとしなかったブカブカの制服も……なんと言う事でしょう。もう上着が一糸も残ってない。上半身真っ裸だ。ズボンも裾が焼け焦げて踝丈になってしまっている。
「……プリチーなサイズ感に似合わない古傷だらけの無骨な肉体……ギャップ萌え、とでも言いましょうか」
肉体的なダメージはともかく精神の摩耗が酷くて意識が半混濁しているせいか、鳳蝶さんが何を言っているのか理解できない。
「ッ……!」
もう空を体感するのは御免被る。
それに、もう流石に両腕が限界だ。特に左腕。
痛みがすごいのはあるけど、ただ痛いだけなら我慢も効く。
不味いのは痛覚の問題では無く、骨や筋肉繊維をメタメタにされ過ぎて物理的に腕としての機能を失いつつある事だ。
これ以上、爆撃を防ぐ(と言うか逸らす)度に骨を砕かれ続けたら……あと三回ともたず、刀を握れなくなる。
「しかし、実にしぶとい。本当に我が兄に匹敵するしぶとさです。それでいて、わんわんと泣き疲れた小児の様なその顔……!! ああ、この衝動こそが俗に言う『壊れる程になんとやら』……!!」
……あの……鳳蝶さん、何か興奮してません?
ま、不味い……推測でしかないが、おそらく、あの爆裂蝶の量は鳳蝶さんの気概の影響下にある。つまり、鳳蝶さんが盛り上がれば盛り上がるほど、蝶の量は増え、自動的に火力も上昇するはずだ。
口角が少ししか上がっていないのでわかり難いが、鳳蝶さん、普段よりも頬や耳が紅潮している。
かなりテンションが上がっていると見た。
僕の顔や半裸体を見て興奮してくれている、と言う一点だけを考えればちょっぴり嬉しくはあるのだが……次の爆撃は、今までとは比べ物にならない……!?
撃たせる訳には、いかない。
あの蝶は、何処までも追跡してくるし、速度も凄まじい。しかも一定時間目標を捉えきれないと群れを分かち多方向からの挟撃に切り替えてくる。
躱し切るのは至難の極み。
……だが、活路が無い訳ではない。
あの戦極武装には、【隙】がある。
爆裂帰蝶は、速射できない。
正確には「一斉射を速射できない」。
鳳蝶さんは毎度、一撃で決めるつもりか、全ての蝶を僕に差し向ける。
そしてその蝶が全て消費される度に、一々、元の白刃を形成してから、また蝶へと変貌させている。
あの鳳蝶さんが、無意味に余計な手順を入れるとは思えない。
蝶を一度使い切る度に元の白刃を戻しているのは、仕様上の欠点だろう。
つまり、白刃を再形成しているインターバルタイムこそが、致命的な隙であり、最大の好機ッ……!!
まだ、鳳蝶さんの刃の再形成率は半分もいっていない。だが、あと一秒もしない内に再形成を完了するだろう。
今、仕掛けるしかない。
走って、間に合うか。
……間に合ったとして、最初の数撃を躱されたら、どうなる?
簡単な話だ。超至近距離で、爆裂蝶を浴びせられる。
あの鳳蝶さんが、自身の武器の欠点を把握していないはずがない。
むしろ、それを逆手に取って活用する戦術も、あらかじめ考えておくくらいはしているはずだ。
きっと、この欠点に僕が活路を見出す事は読まれている。
普通に仕掛けてもきっと、躱される……!!
……だとすれば、僕の活路はただひとつ。
――遠距離からの【不意打ち】。
僕には、その術がある。
この距離から今すぐに、鳳蝶さんを攻撃する術がある。
僕が今構えている、この紅蓮の刀……父さんから受け継いだ雄大家の家宝とも呼べる戦極武装。
簡単に言うと、この刀は【炎を吹く】。火力や温度は調整できるので、炎を常温の塊として飛ばしてあの刀を弾けば……そうすれば、鳳蝶さんを余り傷付けない様に【不意打ち】、次の爆撃を防ぐ事ができる。
……でも、それをするためには、戦極武装の起動――つまり、抜刀する必要があるのだ。
刃を抜く。
それを考えただけで、まるでサビだらけの歯車が引っかかり合う様な音が聞こえた気がした。
身体が、動かなくなる。
「……ッ……」
恐い。
また、恒ちゃんの時みたいに――
頬に、手に、鮮血が付着する温かく湿った感触がした。
錯覚だ。わかっている。あの時のフラッシュバック。
幼い僕はただ、調子に乗っていたいじめっ子野郎の腕の一本でも斬り落としてやろうとしただけだった。
散々自分を苦しめた所業、その起点となった腕を落としてしまえば、問題は解決する。そう思っていた。
僕自身苦しむのが嫌なのはもちろん、虐げられる事で、恒ちゃんを心配させるのが嫌だったから。一刻も早く解決するために。
でも、僕が斬ったのは、恒ちゃんの背中だった。
恒ちゃんが、いじめっ子を庇ったのだ。
……不幸中の幸い、傷は深くなかったが……あと半歩踏み込んでいたら――
恒ちゃんは何時もの笑顔で「気にしないで」と笑ってくれたが……そんなの無理に決まっている。
恒ちゃんへの罪悪感だけの話じゃあないんだ。
恐いんだ。自分自身、その凶暴性が。
簡単に人の腕を斬り落としてやろうと考え、そして嬉々として実行しようとしたその野蛮さが。
僕はもう、自分を信じられない
恒ちゃんを傷付けてしまった浅はかな自分を、信頼する事ができない。
自分を信じる事が、どうしようもなく恐い。
自分に抜き身の刀を握らせたくない。
あの日から、刃を抜いた事は一度も無い。
……いや……刃を抜けた事は一度も無い。
この紅蓮の刀を父から譲り受けた時も、抜く事ができなかった。
「……で、も……!!」
でも、今、ここで抜けなきゃあ、ダメだ。
ここで抜けなければ、僕は確実に、負ける。
負けたく、ない。
僕には、叶えなきゃならない理想がある。
鳳蝶さんと、素敵な思い出を作るために。
ここで負ける事は、決して許されない。
「ぃ、戦極武装……起動ッ……!!」
今、この一度だけで良い。一瞬だけでも良い。
自分を、信じろ。
自分を、恐るな。
「か、かた、かたな、が……」
神様でも仏様でもこの際なら魔王様でも誰でも良い。
恐怖を踏み付けて、一歩だけ、前に進ませて欲しい。
「ッ……」
いや、僕は、進まなければならない。
後悔をしないために……一片の憂いも無い満面の笑顔で、大好きな鳳蝶さんと生きていくために。
未来のために、今、過去を踏み越える必要があるのならば――
「刀剣型超級戦極武装【天火刀・逸式】……行斬ッ!!」
現実から目を背ける様に堅く瞼を閉ざし、死力を尽くして柄を引き抜いた、その瞬間。
――【僕】の意識は、暗転した。
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