鮮獄嵐凄~思春期武士はロマンチックな恋がしたい~

須方三城

00,ああ、なんと平和な現代社会



 校舎裏と言う場所は、実に便利だ。
 なにせ木と雑草くらいしか無いものだから、基本的に人の気が無い。現役の校舎でもそれだのに、取り壊しを待つばかりの旧校舎の裏ともなると、更にそれが顕著になる訳だ。
 つまり何が言いたいかと言えば、校舎裏とは人目を全く気にせずに【色んな事】ができる場所である……と言う事だ。


 特に、強気な少女が【刀】を用いて気弱な少年を脅すには、うってつけの場所と言えるだろう。


「か、勘弁してください……!」
「図に乗らないでいただけますか?」


 小さな少年の弱々しい懇願の声は、冷た過ぎる少女の一声に切り捨てられた。容赦や躊躇いなど無い一刀両断。最早見事。
 滑らかな輝きを放つ刃が、涙目の少年の首筋にあてがわれる。


「ひィッ……!?」
雄大おだ信市しんいち。貴方の行為は許されはしない。例え世界中の神仏が雁首を揃えて貴方を許せと啓示したとしても、私は決して許さない。許したくない。貴方は、絶対に吐いてはいけない【嘘】を吐いたのですから」
「だから、僕は【嘘】なんて……ただ……」
「……先程の意味不明な弁解の繰り返しですか。見苦しい。【嘘】を誤魔化すための【嘘】など」
「し、信じてよ! 僕は嘘なんて……」
「無理ですね。いくら容姿が平均より幼くとも、貴方は健全な男子高校生。だのに【この状況】で【その主張】……有り得ない、自分で言っていて思いませんか? さぁ、もう妙な抵抗はやめにしましょう。非効率的です。神妙に、かつ可及的速やかに、責任を取っていただけますか?」
「い、嫌だ……こんな形で責任を取る流れは絶対に嫌だ……!」
「…………そうですか。これは致命的な主張の相違ですね……こうなっては是非も無し。【戦極イクサ】をしましょう」
「ッ……!?」


 それは、日常を破壊する最悪の言葉。宣戦布告。その布告を受けてしまえば、最悪、【死ぬまで】戦わなければならなくなる。


 平和な現代社会に置いて、揉め事を迅速かつ後腐れ無く処理するための【決闘行為】。
 それが【戦極イクサ】だ。


「貴方も【武士】でしょう。今すぐ責任を取るか、私と【戦極イクサ】をしてから責任を取らされるか、ささっと選んでください。ささっと。個人的な事情で申し訳無いのですが、実は私、少々気が短い方なのです」
「ッぃ……も、もう土下座でも何でもするから、まともに話を聞いてくださいッ!」
「大変愉快な提案ですね。では【戦極イクサ】をしましょう。何でも・・・、してくださるのでしょう? 今、貴方はそう言いましたよ。それとも、また貴方は嘘を吐いたのですか……? ……それはそれは……」
「違ッ……」
「では、【戦極イクサ】成立ですね」
「ひッ」


 時は泰平安寧の平聖へいせい時代。
 地は武士の国、日本国。


 今時、老若男女人々は当然の様に刀とスマートフォンを携帯して街を往く。


 民事的な揉め事は、主に【戦極イクサ】、たまに裁判で解決される。
 両者合意の決闘である【戦極イクサ】は、言うならば「話し合いの場に少々刃と暴力を持ち込むだけ」の平和的和解方法。
 ……まぁ、「【戦極イクサ】を拒否すれば、一族郎党まとめて非国民扱いを受ける風潮がある」ので、真に両者合意で行われるケースばかりかと言えば、実はそうでもないのだが……
 建前上、【戦極イクサ】はラフ&ピースな殺し合い。
 ミンナ納得デキルッテ、素敵ダヨネ。アハハ。


 ――それが、平聖の世の常識ことわりである。







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