ダイカッパーは流れない

須方三城

12,物語は終わらない。

 河童の様に時は流れに流れ、半年後。
 年が明け、四月半ば。春麗らか。


 晴天に恵まれた朝の河川敷には、色取り取りの花々が咲き乱れている。
 ……まぁ、鮮やかな花々よりも圧倒的に花を成さない雑草の青の方が多いが。自然と言えば自然である。


「ふむ。本日も世界は清々しく素晴らしい」


 生まれて来て良かった。
 河川敷で深呼吸に胸を膨らませ、染み染みとそんな事を思う学ラン姿の男子高校生。


 相変わらず筋骨隆々とした逞しき男児、我らが皿助べいすけである。
 半年程度では衰えない。むしろ以前よりハツラツとしている感さえある。これが若さ。実にフレッシュ。


「……しかし、俺はまだ未熟だな……始業式は明日だったとは」


 一度学校まで足を運んでから「そもそも今日はSUNDAYじゃねぇの」ってなった。
 道理で月匈音つくねはいくら起こしても起きてくれない訳だ。せめて「あんた馬鹿なの?」を連呼する前に始業式は明日である事を教えて欲しかった。


「まぁ、良しとしよう。おかげでこんなにも晴れ晴れとした気分を味わえているのだからな」


 転んだ後にタダで起きやがってやる義理は無い。皿助はそう言う男である。


「…………ふむ。にしても、懐かしいな」


 この河川敷に足を運ぶ度に思い出す。
 この場所から始まった、奇妙な妖怪達との日々を。


 あの後……天狗姫・天跨テンコとの戦いの後の事を、少しだけ話しておこう。


 端的に言えば、あの後、すぐに問題は『解決』した。
 天跨は「二度と晴華パカを性的な目で見ない」と言う妖怪誓約書を妖怪保安局に提出したのだ。
 これにより、天跨が晴華に妙な事をすれば、妖怪保安局が動ける。実質、天跨は晴華に手出しできなくなったのである。


 皿助による『制裁』が効いた…と言うのもあるだろう。
 だが、後に冠黒武カンクロウから聞いた話だと……天狗山にて、『更に堪える制裁』が彼女を待っていたらしい。


 そう、彼女は『罪』を犯していた。『禁機キンキ』を持ち出したと言う『重罪』。
 それが彼女の父……天狗族族長様にバレたのだ。幸い陰陽師連盟にはバレていなかったので大騒動には発展しなかったらしいが……そう言う問題じゃあない。


 よって、天狗族族長は、天跨に罰を課した。


 その罰の名は『公開お尻ペンペン』。


 ……流石に南無三としか言えない。


 まぁそんな訳で、肉体的にも精神的にもボッコボコのフルボッコを喰らって真っ白に燃え尽きた天跨は、晴華に促されるまま誓約書を書いて提出した……と言う流れだ。


 とにかく、だ。
 天跨の野望は潰え、晴華や皿助の生活にはすっかり以前の平穏が……


「もしもぉぉ~し……」
「……?」


 不意に、横合いから声。明らかに皿助に向けられたモノだ。


 声の方へ視線をやると、そこに立っていたのは……


「……失礼。貴方は一体……」


 市販されている紺色のジャージに身を包んだ、坊主頭の中年男性。
 服装や髪型、体格からは実にスポーツマン的雰囲気が漂っている。手に持っているのは大きなゴミ袋と塵取り挟み。


 皿助には全く見覚えが無い人物だ。


「いやねぇ……俺は杷木蕗はきふき創路そうじっつぅんだけどねぇ……『それ』よ、『それ』……」
「?」


 杷木蕗と名乗った男性が塵取り挟みで指したのは、皿助の足元。
 そこには、どこからか飛んできたのか、小さな紙切れが転がっていた。チラシか何かの切れ端だろうか。


「成程、ゴミ拾いをされていらっしゃるのか。素晴らしい」
「ふふ……まぁ、俺はいわゆる『綺麗好き』だからねぇ……」


 皿助は紙切れを拾い上げ、杷木蕗の持っていたゴミ袋へと入れた。


 ボランティア的川原のゴミ拾い。実に殊勝。


奥武守おうもり町、この町は良いねぇ。俺はつい最近引っ越して来たんだがね……この町はあんまりゴミが落ちてない。『民度』って奴が良いんだろうねぇ……でもまぁ、ちょぴっとばかしはこうして落ちている訳だよ……『ゴミ』が」


 ほら。と杷木蕗が持ち上げたゴミ袋には、既にそこそこの量のゴミが溜まっていた。


「時に少年……知ってるかい? イタリアの『ローマ』…オードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』なんかで有名な街だぁ。観光名所で言えば『コロッセオ』なんかも有名だねぇ」
「当然知っているが…ローマがどうにかしたのですか?」
「いやねぇ、この前、漫画で読んだんだけど……ローマのゴミ回収日程、『燃えるゴミは月・水・金』…らしいんだよ。この奥武守町の『燃えるゴミの日』は『月・木』だけだ…そう。週にたった二回……二回ぽっち。前に住んでた町もそうだった。『綺麗好き』の俺としてはさぁ……ローマ市民が羨ましくて羨ましくて……だってさぁ~……この町じゃあ、木・金・土・日と最大四日分もゴミを溜めなくちゃあならないんだよ? 溜まったもんじゃあないっつぅかさぁ~……」
「は、はぁ……」


 一体何の話をしているのだろうか。
 少々、奇特な方なのかも知れない。


 まぁ、その辺はどうでもいい。


 皿助は丁度今、暇。
 杷木蕗のボランティア的ゴミ拾いを手伝うのもやぶさかでは……


「杷木蕗さん、俺も…」
「ゴミだよゴミ……ゴミゴミゴミゴミ……耐えられない。毎日回収して欲しいくらいだ……耐えられないんだよ、ゴミが目の前にあるのが……」
「……? あの、杷木蕗さ…」
「特に、『陰陽師』っつぅ『ゴミ』が目の前にあんのが耐えられなくてよぉ~ッ!!」
「ッ!?」


 突然ッ。そう、余りにも突然ッ!!


 いきなり、杷木蕗が塵取り挟みを振り上げ、皿助の脳天目掛けて真っ直ぐに振り下ろしたのだ。


「何をするッ!?」


 皿助は手刀でシュパァッと襲い来る塵取り挟みを切断。
 そのままバックステップで杷木蕗から距離を取る。


「杷木蕗さん…いや、お前、一体どう言うつもりだ……!? それに、『陰陽師』……今、『陰陽師』と言ったか!?」
「うじゅるぁ!! 今ので『綺麗にできる』と思ったのによぉぉ~!! 小癪な陰陽師だぜぇぇ!!」
「……!?」


 どう言う事だ。突然過ぎて意味がわからない。


 皿助は杷木蕗の発言から推理できるだけ推理してみる。


 杷木蕗はゴミ拾いをする綺麗好き。
 そして何故か、陰陽師をゴミと認識している。
 加えて、皿助を陰陽師だと勘違いしている。


「ッ、ま、まずは誤解を解くべきかッ!! 聞け! 俺は確かに『示祈歪己シキガミ』を使えるが、陰陽師では……」
「黙らっしゃァ!! 陰陽師殺すべしッ!! 慈悲は無い!!」
「くっ……止む無しかッ!!」


 襲い来る杷木蕗。この勢い、話を聞いてくれそうにない。
 ひとまず制圧する必要がありそうだ。


 皿助は杷木蕗の顔面目掛けて張り手を放つ、が……


「ぱぉッ!!」
「ッ、ぐぅあ!? 痛いッ!!」


 杷木蕗のチョップが、皿助の張り手を横方向から薙ぎ払う。
 凄まじい威力だ。とても痛い。腕の骨が折れかけた。


「ぱぱぉう!!」
「…ぐッ……!!」


 杷木蕗の追撃は蹴り。
 今のチョップの威力から、杷木蕗の蹴りを生身で防ぐのは自殺行為だと皿助は判断。全力で飛び退って回避。


「今の腕力……人間……じゃあないなッ!?」
「当然だうだらァ!!」
「ならば……遠慮は無しで行くッ!!」


 皿助は両手を合わせ、合掌。


「示祈歪己発動ッ!! 真化巫至極マカフシギ!!」


 真化巫至極を発動し、己の肉体を強く作り変えようとした……が……


「……!?」
「あぁぁん? 『発動する訳がない』だろうがよぉぉ~? この『俺』が目の前にいるってのに!! おバカなスカタンなのかァァ~テメェはァ!?」
「発動する訳がない、だと……?」


 一体それはどう言う……いや、皿助は『知っている』ッ!
 示祈歪己が使えなくなる……そんな現象を、既に体験している。


「……天狗族の禁機キンキ……!?」
「ほぉう……俺の『親機』の事を知ってんのかァ! まぁ知ってるわなァ!!」
「親機だと……!?」
「ふん……まぁ良いぜ。冥土の土産に教えてやるぜ……俺は、俺『達』は……」


 その時ッ。
 ザッパァッ!! と言う激しい水の音と共に、川の中から巨大な何かが飛び出した。


「ッ!? あ、あれは……」


 その緑色の輝きに包まれた巨大を、皿助はよく知っている。
 傍から見るのは初めてだが、間違い無い。


「だ、ダイカッパー!?」


 そう、ダイカッパーだ。
 二〇メートル級のゴリラ寄りなめっちゃゴツい人型ロボット、ダイカッパー。
 半年程前まで、皿助が変身していた『機装纏鎧きそうてんがい』。


『見つけましたよッ!! 観念しなさいッ!!』
「ッ!! その声は……」


 ダイカッパーから響いたのは、皿助のよく知る『とある少女』の声だった。


「チィッ!! まぁたテメェかァ!! 何で妖怪が俺達の邪魔をすんだよぉ!!」
『問答は何度もしました!! もう問答無用で行きます!! そいやッ、ダイカッパァァ…キィィィィックッッッ!!!』


 川から飛び上がった状態から斜め一直線。
 ダイカッパーが、流星の如く飛来。杷木蕗がいた地点へ、とんでもない威力の蹴りをブチかました。
 余りの衝撃に土や草葉が舞い上がり、軽い煙幕ができる程の威力だ。


『……ッ。相変わらず、逃げ足が早いですね……』


 煙幕が晴れると、そこに杷木蕗の影は無し。どこかへと消えてしまっていた。


「ちょ、ちょっと待て……ダイカッパー……その声……まさか……!!」
『! あ! もしかして……べーちゃん!? べーちゃんですか!?』


 この声に、べーちゃんと言う呼び名……間違い無い。


「晴華ちゃん!!」


 間違い無い。皿助の心友、河童姫の晴華だ。


「先日の手紙で機装纏鎧を起動できる様になったとは聞いていたが……随分と様になっているじゃあないか」
『えへへー……それほどでも!』


 ダイカッパーが照れた様に頭の覇皿バサラを撫でる。なつかしい所作だ。


「ん? と言うか待て。色々と聞きたい事がある! 何故ダイカッパーで登場してあの男を……いや、それよりも……『また』とか云々と……色々と説明してくれ!」
『……実はですね……ちょっと、ここ数ヵ月程、妖界郷がゴタゴタしてまして』
「有事か? それも、妖界郷だって?」


 どうやら、今度は河童族とか天狗族とか種族単位の話では無いらしい。かなりの大事の様子。


『半年前、テンちゃんが禁機を持ち出したのは覚えていますか?』
「ああ、当然だ」


 皿助に取っては最終決戦だ。忘れるはずがない。


『それをキッカケに、「目覚めて」しまったみたいなんです……禁機の「子機」が』
「禁機の、『子機』……だと……!?」
『大昔、妖怪と陰陽師はとても激しく対立していました。禁機はその時に作られたモノです』
「ああ、聞いている」
『その際に、禁機をサポートする目的で作られたのが「子機」……通称「禁機忌子キンキ・キッズ」。さっきの、人間に扮していた「自律稼働式機装纏鎧」です』


 自律稼働式機装纏鎧。
 即ち自らの意思で動く機装纏鎧……アンドロイド的な機装纏鎧と言う事か。


沌輝無咎王ドン・テングオーの子機達は……範囲は小規模ですが「示祈歪己封じ」機能を持ち、人間に化けて陰陽師達の隙を突く……親機が封印されたのにリンクして、活動停止していたのですが……』
「成程……理解した」


 天跨が禁機を起動してしまったのをキッカケに、子機は目覚め、そして『目的』を果たそうとしているのだ。


 陰陽師絶対殺すマンこと禁機の最大目的、陰陽師の滅殺。


『目覚めた禁機忌子キンキ・キッズは「四体」ッ!! その内「三体」が、既に人間界へと逃げてしまいました……私は、少しの間ですが「人間界に住んでいた」と言う事で今回、「禁機忌子キンキ・キッズ討伐」のメンバーに選ばれたんです!!』


 それに、テンちゃんが禁機を持ち出してしまった直接の原因は私ですし……と晴華が静かにつぶやいた。


「……やれやれな話だな」
『全くです』


 本当、やれやれだ。
 そんな話を…心友が困っていると言う話を聞いてしまっては、皿助は居ても立ってもいられなくなるに決まっているではないか。


「晴華ちゃん。遠慮は無しで言ってくれ。何か…俺にできる事はあるか?」


 美川皿助と妖怪達との奇妙な物語は、まだまだ当面終わりそうにない。










 第一部 パラダイム・フラッド編 完ッ!!


 第二部 禁忌超越きんきちょうえつ編へッ!!


   TO BE CONTINUED →







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