河童転生~武士道とは河童になろうとも進み続ける事とみつけたり~

須方三城

壱:火中にて果て、川にて成る



 ――なつかしい記憶だ。


 拙者と姫の戦い……ではなく、とうとき日々の記憶。


「姫ェェェーーッ!! それ拙者の刀ァァァーーッ!! うぉおお畜生、姫君の癖に足速ェェェーー!!」
「ほっほっほっほ。よいではないか、よいではないか。少しくらい。父が南蛮なんばんより仕入れた【すいか】なる果物を斬るのに刃物がいるのだ。あれ皮かったい。妾あれ丸かじり無理」
「拙者の愛刀は包丁ではございませぬ!!」
「この国で初めて【すいか】を斬った刃物になるのだ。この美麗びれいな刃に更にハクが付くぞ。光栄であろう?」
「全然至極ゥッ!! んなもん斬ったって付くのは果汁かじゅうだけに決まっていましょう!! 返して武士のたましいィィィッ!!」
「足も時も既に遅し。えいッ☆ きゃっ、すいか汁ぶしゃあ☆」
「あぁあああああああぁぁッッッ!?」


 ――……本当、涙が出るくらい尊く、懐かしい記憶だ。
 まだ拙者も元服げんぷくしたての若造わかぞうで、姫も豆粒まめつぶみたいなちんちくりんだった頃。


 世の理不尽と言うものは、大体姫から教えてもらった。


「姫ェェェーーッ!! いやァァァーーッ!? そんな高い所にのぼらないでェェェーーッ!!」
「平気平気。そもそも、木に登らずして何が姫か」
「意味がわかりませぬゥ!!」
「まぁ、なんじゃ。いざとなればおぬしが腕を折ってでも受け止めれ」
「武士の腕を何だと思っておられるのですか!?」
「ほっほっほ……あッ」
「のぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!? 間に合ぁぁぁあああづあぁあああ腕が痛ァァァアアアアアッ!!」


 幼き頃の姫は……小さい癖に、暴力的なまでに天真爛漫てんしんらんまんで、たまにこう……思いっきり引っぱたきたくなる事さえもあった。


「姫ェェェーーッ!! ……って、あれ? 大人しく書を読んで……いないッ!! 偽物人形だとぉぉぉッ!? いつの間にこんな乱破らっぱめいたじゅつを!?」
「かかったな馬鹿め」
「あ、姫ッ、そんな所に……って、ぐべぇ!? 何この縄ッ!? 狩猟用の罠のたぐいか!? あんた一体どこでこんな知識と技術を身に付けてくるんだ!?」
「じゃあの。妾は祭へとおもむき、酸素すくいを求めてもがき苦しむ金魚達をすくわねばならんのだ」
「げッ、やはり城下の村祭に行かれる気か!! 待ッ……痛い!? ちょ、痛ただだだ動けば動くほど食い込む食い込むゥ!? なんぞこれェェェーーッ!?」


 女子おなごらしからぬするどい目つき顔つきに似合ったどう勇猛ゆうもうさたるや、もはや野獣やじゅうの類。
 姫、と言う存在は、もっとおしとやかで、女子の中の女子的な素敵女子だと思っていた時期が拙者にもあった。
 そんな夢見がちな虚像きょぞうは、あの野ろ…姫によって木端微塵こっぱみじんに打ち砕かれた訳だが。


 家臣の中では一番姫と歳が近い、と言う理由で守役もりやく――世話係に任命された拙者は、毎日毎日喉が枯れ果て、このまま弾け飛んでしまうのではないかと思うほどに叫ぶ羽目はめになっていた。


 正味しょうみ、もう姫が憎たらしくて仕方なかった。
 一〇代の頃の思い出は、「姫が憎い」と言う感情が付属ふぞくするものばかりだ。


 憎たらしい。ああ憎たらしい。憎たらしい。


「はっはっは。まぁ許せ。ほれ見ろ、妾も姫らしく反省しておるではないか。ほれほれ、反省至極の体勢。姫の御御足おみあしぽろーん、いやーん。あー……反省しながら漫画絵巻まんがえまきを読むとどうにも甘味かんみが食いたくなるのう。ちょっと買ってまいれ。あれじゃあれ、南蛮渡来なんばんとらいの角がいっぱいあって色とりどりの砂糖菓子。確か名は……こんぐらっちゅれいしょん? なんか違うの……まぁ良い、とにかくあれが食いたい」
「【こんぺいと】にございます。そして一言、言わせていただきたい……反省してる姫の態度ではねェェェーーッ!!」


 でも、何故か。
 本当に何故か。


 本気で姫を斬ろうと思った事は無い(何度か「斬り捨てたい、その笑顔」と思った事はあるが、実行していないのであれは本気ではなく気の迷いだ)。


 むしろ、憎たらしい憎たらしいと思いつつも、この心は何時いつだって姫をおもい、その幸福を願い続けていた。
 姫の行動に叱咤しったの叫びをあげるのも怒りからではなく、「姫が良き未来を掴める様、その奇行きこう蛮行ばんこう狂行きょうこうへきを正し、まともな人間になって欲しい」と言う願いからだった。
 憎さ余って可愛かわいさ一〇〇乗倍とはよく言ったものであると思う。


 ――そんな姫もそれなりの歳になり、多少の落ち着きを得てくれた事で憎さは薄まり、素直に可愛がれる様になってきた頃。


「昔はよく、おぬしにも迷惑をかけたのう。思い返す度に至極腹筋大激痛。あーいとをかし。りゃくしていとをかー」
「……拙者はぴくりとも笑えませんが」
「して、おぬしは今日限りで妾の世話役の任を終えると聞いたが?」
「はい。相変わらず御耳が早い」
「妾を誰だと思っておる」


 また殿や重臣達の会議の様相ようそうを盗み聞きでもしてきたか。
 多少落ち着いてきたとは言え、やはり姫は姫。油断もすきも見せずとも手の付けようが無い。


「姫ももう妙齢みょうれい。身の回りの世話は、同性に任せる方が気も楽でしょう」
「別に。男に世話されるのが気になるなどと、そんな年頃の女子おなごめいた事は言わんが」
「あんた一応は年頃の女子でしょうが」


 その辺の意識に関しても、今後改革してもらいたい所存しょぞんだ。


「まぁ、なんじゃ。寂しくなったら何時でも妾の所にまいれ。仕方無いからもてあそ…遊んでやろう。この姫が手ずからな」
「はっはっは。なんと有り難く愉快な提案。是が非でも遠慮させていただきましょう」
「可愛くないのう。昔はもっと『ひめーひめー』と擦り寄ってきて可愛げがあったものを」
「はて、とんと身に覚えが……姫はとこで見た夢の話でもしておられるのですか?」
「言いよるわ」


 目つきは鋭くとも、口元を綻ばせるその微笑ほほえみは、まるで可愛らしい悪戯小僧いたずらこぞう
 姫でなければ流血沙汰りゅうけつざたになるまで小突こづき回している所だ。


 ――……拙者は姫のそばを離れる事になるが、それでも拙者の心はきっと、いつまでも、この姫を想い続けるのだろう。
 戦におもむき敵を斬る時にも、姫を守るためだと身体に力を漲らせるのだろう。


 最高に憎らしくも、最高に愛おしい。
 そんな不思議な感情を寄せる姫君のために、拙者はこの腕で、刀を振るい続けるのだろう。


「それでは姫。拙者はこれにて」
「うむ、ご苦労であった。また何か良い悪戯を思い付いたら呼ぶ故」
「悪戯以外の用件で呼ばれたならば、その時はさんじましょう」


 この身が朽ち果てるまで、姫の微笑みを守り続けよう。




 ――そう、誓ったはずだったのに――




   ◆




 ――姫は何処いずこか。


 左側が潰れた視界を頼りに、火の海をき分け、探す。
 甲冑かっちゅうが重い。血を流し過ぎたか、残った視界もかすんできた。


「ぐぅッ……」


 もはや、まともに歩く事すら難しい。


 ……仕方無い、武士の魂たる刀をこの様に使うのは気が引けるが……言っている場合ではない。


 姫も「美麗であるな」と褒め称えてくれた薄桜うすざくら色の刃が特徴の我が愛刀、正刳楼まさくる
 敵畜生の血糊ちのりで美しさを塗り潰されたその刃を地面に突き立て、杖代わりにして、どうにか歩き続ける。


「ッ……くそ……何と言う、日か……!!」


 目の前で殿とのを討たれ、大恩師を殿軍しんがりにまでして、はうはうのていで城へ逃げ帰れば―――既に城は敵軍の別働隊に包囲され、炎上していた。


 こんなひどい話があるか。
 むごい仕打ちがあるか。


 どうにか城を包囲していた敵は殲滅せんめつできたが、このザマよ。
 これでは「生きている」と言うより「死に損ねている」と言った方が似合いだ。


 だが、それでも今は有り難い。


 今、拙者は確認せねばならん事があるのだ。


「……姫……!! 姫は……何処かッ……!!」


 どうか頼む。


 見つからないでくれ。


 どうか、どうか逃げおおせていてくれ。
 もうこの城にるのはむくろと拙者のみであれ。


 異国の覇天蓮ぱあどれ共が謳っていた【父神でえうす】とか言うのに祈っても良い。
 こんな惨状さんじょうでは、【神】だのと言う気狂イカレ共の都合の良い幻想でしかない偶像ぐうぞうだろうと、すがりたくもなる。


「姫ッ……姫ェ……!! が、はッ……ぃ、め…」


 ッ……熱気を、吸い過ぎて喉が焼けたか……もはや、まともな声も出ん……


 姫がいそうな場所で、まだ見ていないのは姫の寝所しんじょのみ。
 寝所にいなければ……きっと、姫は無事だ。
 何せ、あの御方おかたは幼少の頃には猿の様な身のこなしで無邪気な悪意を振りまき、城内の者をひとり残らず阿鼻叫喚あびきょうかんさせた「稀代きだいの悪戯小僧」と言っても過言では無いごうの者。
 特に、年齢が近いからと言う理由で長きに渡り世話役を務めていた拙者は、姫の理不尽に叫び続け、何度喉をやられた事か……


 あの姫が一度「逃げる」と決めたならば、敵の手なんぞ余裕で振り切り、何処どこぞで不敵ふてきなあの笑みを浮かべていても不思議ふしぎではない。


 ……だから、どうかいないでくれ。


 どうか「逃げる」と言う選択をしていてくれ。


 どうか――




「……ッ……」




 一気に、力が抜けたのを感じた。


 膝から崩れ落ちるのを、こらえる事ができなかった。


「……ぃ、ぇ……」


 姫、と言いたかった。
 しかし、喉が焼けただれ、気力も今まさに燃え尽きた拙者では、たったそれだけの言葉をつむぐ事すら叶わなかった。




 この戦国乱世せんごくらんせい
 当主討死うちじにしらせを聞き「逃げ恥をさらすならば」とその身内が腹を切り自害じがいする事は、特に珍しい事ではない。




 ……然様さようでございますか。
 それが、姫の選んだ道であると。


 冬をも越える花の如く、したたかで気高い姫ならば……そう言う選択をする可能性も、低くは無いだろうと思ってはおりました。
 再起さいきはかり落ちびてくれる事を望まなかったと言えば嘘になりまするが……それが姫の御意思であれば。


 ――拙者も、御供させていただきます。


 師匠せんせいが言っておられた。


 武士道とは、死ぬ事とみつけたり。


 武士たる者、生き方の振る舞い同様、死に様にも気を使え。
 死とは生の集大成である。
 今までの生に反さず、悔いず、恥じずに済む様に死ね。
 故に、死ぬべき時を、決して見誤みあやまるな。
 急ぎ過ぎても、悠長ゆうちょうに構え過ぎてもならぬ。
 ここぞと言う刹那せつなを見極めるべし。
 死とは、生涯においてたった一度しかおとずれぬ晴れの舞台と心得よ。


 ……武士として、拙者が死ぬべき時は今だろう。


 幼少期には憎たらしく思った事も多々あったが、うやまい愛した我が姫君。
 その死に様に追従ついじゅうし、自ら腹を切りて死のうではないか。


 ……そう言えば、いつぞや寺の僧侶そうりょ共が殿に語っていたな。
 輪廻転生りんねてんしょう――生命いのちは死した後は魂だけとなり、天にのぼるか地にちて、また新たな生命となる……と。
 天に昇れば人として、地に落ちれば虫けらや畜生として生まれ変わる。生前に犯した罪の分だけ魂は重くなり、地へ堕ちやすくなる。逆に、とくを積めば、魂はその徳を階段の如く踏みしめて天へと向かう。
 だから寺に献金けんきんをして徳を積めだとかなんとか……


 とにかく「今生こんじょうを終えた者には、人か畜生かの差はあれど必ず次の世での生が待っている」と言う事だろう。


 ……まぁ、所詮しょせんは僧侶の言う事。
 仏門ぶつもんだなんだと気取っているが、南蛮由来のイカレ共の妄言もうげんと大差はあるまい。
 それでも今この状況、そんな現象が本当に起こるのであれば……と期待してしまうのは人情、か。


 成程。宗教と言うのがどう言う風に伝播でんぱしていくものか、よくわかった気がする。


 窮地きゅうちおちいれば、人はわらにだってすがりたくなるのだ。今まさに痛感つうかんしているとも。……そして、どうせなら上等な藁にすがりたく思うのだ。
 その上等な藁が、神や仏と言う物。都合の良い救済者くぜいしゃ


 ……そうだ。神・でえうすよ。イカレ共の戯言ざれごとの通りならば、確かの方は輪廻転生をもつかさどるそうだな。
 人の魂の行く末すらも意のままである、と。ふざけた話だ。
 だが、今の拙者に取ってはとても興味深い話である。


 祈りならくれてやる。
 だから、こたえろ。
 その手腕、拝見させていただく。


 ……まぁ……期待はせぬがな。


「ぉ、う……か、ぁ…つ、ぃお、世で、お……ぃめの…そあ、に……」


 ――どうか、次の世でも、姫のおそばに――






   ◆




せぬ」


 …………昔、聞いた事がある。


 かつて前代未聞の栄華隆盛えいがりゅうせいを見せた平家へいけの武士達は、源氏げんじに討ち滅ぼされた後、怨念おんねんを多くこの世に残したと。
 その怨念が、全国各地にて夜な夜な蔓延はびこる物の怪や妖怪と言った【化生者バケモノ】と成り果てるのだと。


 初めて聞いた時、拙者は「何を馬鹿な」とそれを一笑で済ませた。


 くだらん。
 死人に口はなく、声一つあげる事はできぬ。やかましくりんりんと鳴く夜虫にすらおよばんと言う事だ。それが死人だ。
 まぁせいぜい、立派に生きていたのならば、死した後も名や生き様を語り継がれる事はあるだろう。
 しかし、語り継がれるのは生前の所業、語り継ぐのは生者の所業。死後は勝手な妄想以外で語られる事は無く、死人に口は挟めない。
 結局、死人には何もできはしないのだ。


 そんな無力な死人の念が、あの厄介にして手強い化生者に変わるなど、与太話よたばなしも良い所。
 飯を含んでいる時に聞けばまさしく失笑噴飯しっしょうふんぱんな話。


 ――だと、思っていたのだがなぁ――


「…………」


 ……ああ、ここは川だな。
 どうにも間違う事はできない程にここは川だ。
 両岸りょうがん砂利じゃり雑草ざっそうだらけのきしはさまれ、上流から下流へと真水が流れていく。
 大の大人でも腰まで浸かる程の深さはあろうに、川底がまるっと見通せる清流である。
 見た事も無い魚や虫の類がちょろちょろと泳いでいるのも確認できる。


 して、拙者がしているのは……岩だ。
 川のど真ん中にでんとたたずむ、朽木くちき色の風情ふぜいある岩石だ。こけは一筋も無い。大きさも色合いも形状も状態も実によろしい。是非とも屋敷の庭にえたい逸品いっぴんだな。


 ……空は青し。雲は高い。気候も心地良い。これは秋の時節とみた。まぁ秋にしてはやや暖か過ぎる気がしないでもないが、そう言う日もあろう。
 おや、あの空飛ぶ蜥蜴とかげは一体何ぞ。風の噂に【怒羅豪矛どらごん】なる化生者が確か蝙蝠こうもりの如き翼を持つ巨大な蛇の様であると聞いた事がある。まさかそれか?


 ああ、にしても空は青し。本当に青し。誠に青し。もうどうしようも無い程に青し。あー、何かあの雲の形は姫に似ておるなーはっはっはっは蹴散らしたい。


 ……………………ふむ、まぁ、そろそろ観念するとしよう。
 何だ、この緑色の肌は。若葉の様な青々しい緑色で、表面はやや湿しめっておるわもちもちしとるわ……単刀直入に言ってまるでかわずのそれ。姫の悪戯によく用いられたので馴染なじみ深い。
 川の水面みなもうつるこの奇面きめんは何だ。鼻から上だけを見ればただ緑色の肌をした凡夫ぼんぷの顔と言えなくもないが、肝心の鼻から下にはまるでかもの様に立派な太いくちばしが生えておる。


 ……まるで、噂に聞く【河童かっぱ】ではないか。


 まぁ、ただの河童ならば、そう大きな問題では無い。
 化生者なんぞ少々厄介で手強い程度の獣風情。敵意あれば斬って捨て、そうでもないのなら気に止めずに放って置けば良い。


 問題なのは、拙者の動きに合わせて水面に映る河童も同様の動きを見せると言う事だ。


 試しに、己の胸を軽く叩いてみる。ぴたぴたぴたぴたと水気のある音が響く。手には筋肉質な堅い弾力と共に、ひんやり、かつ、ぬめりとした感触が伝わる。
 指を折って数を数えてみる。ああ、拙者の数えに合わせて、水掻みずかきのついた緑色の指が折れ曲がっていく。


「…………………………」


 あー、空が至極青しこの上無いなー……




 ………………………………河童った。




 拙者、至極、河童ってる。


 解せぬ、解せぬ解せぬ解せぬ。まだ言えるぞ、解せぬ。それ程に解せぬ。


 本気か。
 まさか本当に、拙者の死後の念が化生者になったと申すのか。


 まぁ、確かに無念ではあった。
 戦国乱世のことわりに君主をうばわれ、逆恨さかうらみだとは理解しつつも、世を恨んだ。


 しかしだ。
 拙者は思い切ったはずだ。


 一丁死んで、来世なんてものがあるのであればそこに賭けてみようと。
 世を恨みつつも、未練みれんなんぞは無かったはず。


 ……まさか未練はなくとも世を恨んでいるだけでも怨念として扱われてしまうのか。
 しかしよりにもよって河童とは……気味の悪い……生前の拙者はそれほど水にえんは無かったはずだが……


「…………………………」


 眉間みけんを押さえてしばし考えてみても、やはりこの状況は、拙者の怨念が河童と化してここに在ると言う結論にしかいたれない。と言うか、それ以外に現状の解釈かいしゃくの仕様が無い。
 経緯は不明だが、結果としてはそうでしかない。


「ぬぅ………………むむ」


 まことに解せぬわ、などとうなっていると、不意に腹が鳴った。


 ……化生者の身でも腹は減るのか……


「……えぇい、仕方無い……一旦いったん、考えるのはやめだ」


 師匠せんせいよりたまわった武士の心得。


 腹が鳴ったならば、とにかく、腹拵はらごしらえを最優先せよ。


 腹が空では赤子の手を捻るのにも苦労すると言うもの。
 まず、飯を確保せんとな。



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