Duty
chapter 17 転生 -1
1 9月2日 偽り①
平森隆寛は搬送された病院で死亡が確認された。
厳密に言えば、搬送されている時点で既に遺体だった。
助かる一縷の望みさえ、そこにはなかった。
おぞましい現場は、生徒たちと静間の証言から平森隆寛が図った自殺として警察に処理された。
陽太も桜も、霧島でさえ、『審判』という言葉は口が裂けても言えなかった。
きっと精神病院に連れて行かれるか、集団薬物中毒として処理されるのが目に見えていた。
宵崎高校3年1組の生徒たちが次々と不可解なことから死亡している惨事。
そして、遂に陽太たちが警戒していた平森隆寛までも。
おかげで平森が『審判』を企てている犯人ではないということはわかったとはいえ、事態は深刻だった。
陽太と霧島が桜を保健室に送り届けると、保健教諭は桜の衰弱具合から病院に向かわせた方がいいとのことで車で病院へと向かった。
兎にも角にも、桜が『審判』に裁かれることがなく身の安全が保障されたことから、陽太の身体のちからが抜けてしまった。
足に力が入らず、腰が砕けてしまった。
情け無いことに霧島に支えられたが、霧島は何も言わなかった。
「わるい。大丈夫だ」
陽太は頭を振り、霧島から離れた。
「さすがに疲れた」
陽太は霧島に背中を見せたままそう告げたが、霧島のほうはやはり何も言わなかった。
そのまま陽太と霧島は職員室に向かった。
そうすると自らのデスクで椅子に浅く腰掛け項垂れている静間を発見した。
まわりの教師たちは逆に気を遣ってか、静間には声をかけずにいた。
おそらくだが、宵崎高校の理事たちは変な噂を掻き消すのに忙しいだろうと陽太は思った。
職員室の入り口で止まっていると、背後から声をかけられた。
「大変だったな」
振り向くと体育教諭の海藤が立っていた。
わかっているはずはないが、そのような台詞を吐いてきた。
いつもの厳しい熱血漢から想像もできないような強張った顔をしている。
「キミたちもだと思うが、静間先生もかなり疲弊している。何かあったら他の教師でもいいから頼りなさい」
陽太たちは軽く会釈をして、職員室の入り口を開けた。
『御影充』という名前を思い出すと教師を信用する気になどなれなかった。
どうせ他人事。頼っても守るフリしかしてはくれないだろう。もう気休めはいらない。
進んでいくと静間が顔を見上げて陽太と霧島の顔を覗いてきた。
「ああ、キミたちですか」
と頭をかき、椅子に座りなおした。
静間の短い髪には少ないが白髪が混じっているように見え、いつもはシワひとつ無いスーツにもどこかしら汚れが目立った。
まるで静間の精神状態を物語っているように窺えた。
「大丈夫ですか」
陽太は尋ねた。
「先生よりも、自分たちのことだけを心配しなさい」
静間は疲れた笑みを浮かべた。
陽太たちに心配をかけないようにしているのがバレバレだった。
「神谷君に霧島君。キミたちは今まであんなに壮絶な現場に立ち会ってきたのですか?」
「……はい」
霧島が表情を崩さずに答えた。
「そうですか……」
静間が心痛な面持ちでいった。
「あれは何なのですか」
「……」
陽太も霧島も返答に困った。その様子を見て静間が続ける。
「『Mの悲劇』……まさか本当に御影充君の……」
「『呪い』の具現化だと、僕たちは考えています」
霧島が答えた。
静間は嘲笑するように笑みを浮かべた。
「情けないですね。そう言われても否定できない。それに先生は勿論、彼の母である御影浪子先生を含めた当時の教師たちが本当に情けない」
俯いた静間の目元から涙が流れたように見えた。
平森隆寛は搬送された病院で死亡が確認された。
厳密に言えば、搬送されている時点で既に遺体だった。
助かる一縷の望みさえ、そこにはなかった。
おぞましい現場は、生徒たちと静間の証言から平森隆寛が図った自殺として警察に処理された。
陽太も桜も、霧島でさえ、『審判』という言葉は口が裂けても言えなかった。
きっと精神病院に連れて行かれるか、集団薬物中毒として処理されるのが目に見えていた。
宵崎高校3年1組の生徒たちが次々と不可解なことから死亡している惨事。
そして、遂に陽太たちが警戒していた平森隆寛までも。
おかげで平森が『審判』を企てている犯人ではないということはわかったとはいえ、事態は深刻だった。
陽太と霧島が桜を保健室に送り届けると、保健教諭は桜の衰弱具合から病院に向かわせた方がいいとのことで車で病院へと向かった。
兎にも角にも、桜が『審判』に裁かれることがなく身の安全が保障されたことから、陽太の身体のちからが抜けてしまった。
足に力が入らず、腰が砕けてしまった。
情け無いことに霧島に支えられたが、霧島は何も言わなかった。
「わるい。大丈夫だ」
陽太は頭を振り、霧島から離れた。
「さすがに疲れた」
陽太は霧島に背中を見せたままそう告げたが、霧島のほうはやはり何も言わなかった。
そのまま陽太と霧島は職員室に向かった。
そうすると自らのデスクで椅子に浅く腰掛け項垂れている静間を発見した。
まわりの教師たちは逆に気を遣ってか、静間には声をかけずにいた。
おそらくだが、宵崎高校の理事たちは変な噂を掻き消すのに忙しいだろうと陽太は思った。
職員室の入り口で止まっていると、背後から声をかけられた。
「大変だったな」
振り向くと体育教諭の海藤が立っていた。
わかっているはずはないが、そのような台詞を吐いてきた。
いつもの厳しい熱血漢から想像もできないような強張った顔をしている。
「キミたちもだと思うが、静間先生もかなり疲弊している。何かあったら他の教師でもいいから頼りなさい」
陽太たちは軽く会釈をして、職員室の入り口を開けた。
『御影充』という名前を思い出すと教師を信用する気になどなれなかった。
どうせ他人事。頼っても守るフリしかしてはくれないだろう。もう気休めはいらない。
進んでいくと静間が顔を見上げて陽太と霧島の顔を覗いてきた。
「ああ、キミたちですか」
と頭をかき、椅子に座りなおした。
静間の短い髪には少ないが白髪が混じっているように見え、いつもはシワひとつ無いスーツにもどこかしら汚れが目立った。
まるで静間の精神状態を物語っているように窺えた。
「大丈夫ですか」
陽太は尋ねた。
「先生よりも、自分たちのことだけを心配しなさい」
静間は疲れた笑みを浮かべた。
陽太たちに心配をかけないようにしているのがバレバレだった。
「神谷君に霧島君。キミたちは今まであんなに壮絶な現場に立ち会ってきたのですか?」
「……はい」
霧島が表情を崩さずに答えた。
「そうですか……」
静間が心痛な面持ちでいった。
「あれは何なのですか」
「……」
陽太も霧島も返答に困った。その様子を見て静間が続ける。
「『Mの悲劇』……まさか本当に御影充君の……」
「『呪い』の具現化だと、僕たちは考えています」
霧島が答えた。
静間は嘲笑するように笑みを浮かべた。
「情けないですね。そう言われても否定できない。それに先生は勿論、彼の母である御影浪子先生を含めた当時の教師たちが本当に情けない」
俯いた静間の目元から涙が流れたように見えた。
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