Duty
chapter 16 第4の審判 -5
5 9月2日 約束
平森の言葉に胸を詰まらせ、陽太と桜は見つめ合った。
自分たちの身に起こった悲劇、『審判』によりおかしくなってしまったクラスメイト。
もしかしたら、平森が3年1組教室に『冷徹な秩序』を宿らせるため『審判』という呪いを生み出している張本人なのかもしれない。
もしかしたら、平森は第2の御影充になる存在なのかもしれない。
陽太も桜も、霧島もそんなことが頭を過ぎっていた。
しかし、今どう思考を巡らせても、最終的には心という奈落の底に沈んでいった。
陽太は言った。
――二人が助かる道はないのか?
――みんなが助かる道はないのか?
平森は言った。
――そんなものがあるのなら、最初からそうしているだろう。
――クラスメイトをフルイにかけ、罪人を処刑し、優秀な人間のみを抽出する。
『審判』とは、そういうものだ。
神谷陽太。
胡桃沢桜。
二人の目はずっと交錯して、そうしているうちに桜がゆっくりと瞼を閉じた。
そのとき、陽太はあることを思い出した。
――卒業旅行一緒に行こう?
荒んだ3年1組が、学校が嫌いだったあの日。
学校の屋上で、桜と交わした約束。
「駄目だ……俺、約束守れないみたいだ、桜」
陽太は心のなかでそう呟き、瞼を閉じている桜の顔を見つめた。
「でも、桜には生きていてほしい」
陽太の瞳から雫がこぼれ落ちた。
「ごめん。桜」
刹那。
桜が微笑んだ。
それは優しく、陽太を包み込むような微笑みだった。
そして、そんな桜の口が動いた。
陽太のもとまでは聞こえないくらい、小さく漏れた声だった。
しかし陽太には伝わった。
そして、その言葉が伝わった瞬間、桜が考えていることも同時に陽太に伝わった。
陽太は握った拳を解いた。
再び陽太の頬を雫がつたった。
桜の頬笑みのそばも涙がつたった。
教室には、平森の狂気じみた笑い声がこだましていた。
陽太は声を発しようとしても、胸が詰まって声が出ない。
桜も自分と同じ状態であることが陽太はわかった。
しかし、桜は必死の思いで声を形にした。
「今までありがとう。陽太」
桜は言った。
平森の笑いはさらに一段と高くなった。
「きゃははは! ほらみろ神谷陽太、好いた女に捨てられる気分はどうだよ! ざまあみろ偽善者! きゃははははは!」
平森は自らの目を押さえ、天井を見つめ、笑い続けた。
「女は力に弱い、権力に弱い! 何もかもが偽者のお前なんか選ばれるわけないだろ! ばーか! きゃははははは!」
平森の笑いを掻き消すように桜は言った。
「平森君。私は貴方なんか選ばない」
平森の笑いが途切れた。
教室に沈黙と緊張の張り詰めた空気が通う。
「……桜さん? 僕が聞き間違えたみたいだ。今なんて?」
桜は自らの顔から外した平森の靴にむかって唾を吐いた。
「私を殺したければ殺せばいいよ。大切な人を守れるのなら、私は喜んで罪人になる」
平森の頬が笑みのまま、ぴくぴくと硬直するのを見て、桜は続けた。
「私は、死んでも貴方なんか選ばない!」
「……」
平森は無表情で桜を見下ろした。
カッターナイフを持つ手に必要以上に力が込められているらしく小刻みに震えていた。
「なにそれ。純愛でも気取ってるつもり? 気持ち悪い。お前がこーんな馬鹿女だとは思わなかったよ」
平森は桜の髪の毛を鷲掴み、そのまま自らの腰の高さまで持ち上げ告げた。
「……っ!」
「あっそ。じゃあ死ね」
強張らせながらも、一切表情を崩さない桜の喉元に、平森はカッターナイフをあてがった。
そのとき、桜の喉元から一筋の血が垂れた。
「桜!」
それを見た陽太は、喉のつっかえが取れたように、やっとの思いで固まった身体を動かし声を発した。
桜は瞳を涙で潤ませ言った。
「さよなら。陽太。ごめんね」
――桜が微笑んだ。
――それは優しく、陽太を包み込むような微笑みだった。そして、そんな桜の口が動いた。
――陽太のもとまでは聞こえないくらい、小さく漏れた声だった。しかし陽太には伝わった。
「私は陽太のことが好き」
平森の言葉に胸を詰まらせ、陽太と桜は見つめ合った。
自分たちの身に起こった悲劇、『審判』によりおかしくなってしまったクラスメイト。
もしかしたら、平森が3年1組教室に『冷徹な秩序』を宿らせるため『審判』という呪いを生み出している張本人なのかもしれない。
もしかしたら、平森は第2の御影充になる存在なのかもしれない。
陽太も桜も、霧島もそんなことが頭を過ぎっていた。
しかし、今どう思考を巡らせても、最終的には心という奈落の底に沈んでいった。
陽太は言った。
――二人が助かる道はないのか?
――みんなが助かる道はないのか?
平森は言った。
――そんなものがあるのなら、最初からそうしているだろう。
――クラスメイトをフルイにかけ、罪人を処刑し、優秀な人間のみを抽出する。
『審判』とは、そういうものだ。
神谷陽太。
胡桃沢桜。
二人の目はずっと交錯して、そうしているうちに桜がゆっくりと瞼を閉じた。
そのとき、陽太はあることを思い出した。
――卒業旅行一緒に行こう?
荒んだ3年1組が、学校が嫌いだったあの日。
学校の屋上で、桜と交わした約束。
「駄目だ……俺、約束守れないみたいだ、桜」
陽太は心のなかでそう呟き、瞼を閉じている桜の顔を見つめた。
「でも、桜には生きていてほしい」
陽太の瞳から雫がこぼれ落ちた。
「ごめん。桜」
刹那。
桜が微笑んだ。
それは優しく、陽太を包み込むような微笑みだった。
そして、そんな桜の口が動いた。
陽太のもとまでは聞こえないくらい、小さく漏れた声だった。
しかし陽太には伝わった。
そして、その言葉が伝わった瞬間、桜が考えていることも同時に陽太に伝わった。
陽太は握った拳を解いた。
再び陽太の頬を雫がつたった。
桜の頬笑みのそばも涙がつたった。
教室には、平森の狂気じみた笑い声がこだましていた。
陽太は声を発しようとしても、胸が詰まって声が出ない。
桜も自分と同じ状態であることが陽太はわかった。
しかし、桜は必死の思いで声を形にした。
「今までありがとう。陽太」
桜は言った。
平森の笑いはさらに一段と高くなった。
「きゃははは! ほらみろ神谷陽太、好いた女に捨てられる気分はどうだよ! ざまあみろ偽善者! きゃははははは!」
平森は自らの目を押さえ、天井を見つめ、笑い続けた。
「女は力に弱い、権力に弱い! 何もかもが偽者のお前なんか選ばれるわけないだろ! ばーか! きゃははははは!」
平森の笑いを掻き消すように桜は言った。
「平森君。私は貴方なんか選ばない」
平森の笑いが途切れた。
教室に沈黙と緊張の張り詰めた空気が通う。
「……桜さん? 僕が聞き間違えたみたいだ。今なんて?」
桜は自らの顔から外した平森の靴にむかって唾を吐いた。
「私を殺したければ殺せばいいよ。大切な人を守れるのなら、私は喜んで罪人になる」
平森の頬が笑みのまま、ぴくぴくと硬直するのを見て、桜は続けた。
「私は、死んでも貴方なんか選ばない!」
「……」
平森は無表情で桜を見下ろした。
カッターナイフを持つ手に必要以上に力が込められているらしく小刻みに震えていた。
「なにそれ。純愛でも気取ってるつもり? 気持ち悪い。お前がこーんな馬鹿女だとは思わなかったよ」
平森は桜の髪の毛を鷲掴み、そのまま自らの腰の高さまで持ち上げ告げた。
「……っ!」
「あっそ。じゃあ死ね」
強張らせながらも、一切表情を崩さない桜の喉元に、平森はカッターナイフをあてがった。
そのとき、桜の喉元から一筋の血が垂れた。
「桜!」
それを見た陽太は、喉のつっかえが取れたように、やっとの思いで固まった身体を動かし声を発した。
桜は瞳を涙で潤ませ言った。
「さよなら。陽太。ごめんね」
――桜が微笑んだ。
――それは優しく、陽太を包み込むような微笑みだった。そして、そんな桜の口が動いた。
――陽太のもとまでは聞こえないくらい、小さく漏れた声だった。しかし陽太には伝わった。
「私は陽太のことが好き」
コメント