Duty
chapter 9 調査 -4
4 7月6日 後悔と殺意②
休日ということもあり、商店街だけでなく、この公園も人だかりとなっていた。
近隣の小学生より小さな子供たちや、親子連れなども見られる。
中央に置かれた大きくて綺麗な噴水から飛び出る水飛沫に太陽が反射して輝いている。
そんな公園の端にあるベンチに伊瀬を座らせた。
隣にミキが座り、遅れて金城がやって来た。そして二人に缶ジュースを渡す。
「ほれ」
「お、金城さんきゅー」
金城は缶の音を鳴らし開けて、渇いた喉を潤すように一口流し込む。
伊瀬は缶ジュースを受け取るとやっと我を取り戻したかのように、金城にお礼を告げた。
「あ、ありがとう……ございます」
しかし、飲まずにただただ黙って、俯いていた。
そんな伊瀬を見つめ、金城は口を開く。
「伊瀬、お前なんで万引きしようとした?」
「……」
隣のミキもじっと伊瀬の返答を待つように見つめていた。
「そんなことしたらさ、あの……えっと、言いたくないけど……」
伊瀬は重い口を開いた。
「わかってます。『罪人』になるかもしれませんよね?」
「おい。わかってんなら何故?」
「だからやったんです」
伊瀬は一切迷いが無い口調でそう告げた。
頬を汗が一滴伝う。そして堕ちていく。
金城とミキは意味がわからないとでもいうようにしばらくの間、そんな底辺階級のクラスメイトを見つめていることしかできずにいた。
やっと言葉の咀嚼が終わったのか、金城が伊瀬に向かって言った。
「お前、大丈夫か? 自分で何言ってるのかわかってるか?」
伊瀬は完全に落ち着きを取り戻したかのように落ち着いた口調で続けた。
「……ずっと嫌いだったんです」
「……え? 何が?」
「五十嵐君たちのこと、金城君や仲居さんのことも含めて。ずっと嫌いだったんです。正直、何度も何度も、頭の中で貴方たちが死ぬ姿を夢見て、思い描きました」
金城は黙って、そんなC軍少年の姿を見つめていた。
ミキは思わず、声を荒げた。
「ちょっとアンタね、今そんなこと……五十嵐に対してそんなこと言わなくて――」
「五十嵐君が憎くて、最初の、あの意味のわからない『審判』って出来事が起こって、皆が団結して五十嵐君が有罪になったとき、凄く嬉しかったんです」
金城は一口ジュースを飲んだ。
「でも本当に死ぬなんて思わなかった。僕があのとき意見しなかったら、死ななかったかもしれないんです。こんなことになっていなかったかもしれない……っ! 僕はっ……」
伊瀬の目から再び涙が零れ始めていた。
物凄い恐怖と罪悪感、そんなものを伊瀬は誰よりも感じているのかもしれない。
「だから罪人になろうとしたのか?」
ジュースを飲み干したのか、缶を潰しながら、金城は抑えた声で伊瀬に尋ねた。
ゆっくりとすすり泣く声を上げながら、伊勢は黙って頷いた。
そんな泣き声に反響するかのように金城の舌打ちが響いた。
「伊瀬。てめえ、自意識過剰になってんじゃねえぞ」
金城が伊瀬の胸倉に掴みかかり、激しく啖呵を切った。
「……え」
「てめえはC軍だ、調子に乗ってんじゃねえ! てめえ一人の意見が教室に反映なんかされるわけねえだろ! てめえ一人が意見を変えたから、あのクラスの何かが変わるとでも思ってんのか! 身の程知らずにも程がある!」
「……ひん……ひっ」
伊瀬は涙を溢しながら、金城を見つめていた。
「俺たちが殺したいくらいに憎いのは、あの糞みたいなスピーカーの奴だっ! 五十嵐だってきっと微塵もお前のことなんざ気にしてねえよ! お前程度の人間があのときの審判に影響なんて及ぼしているわけねえだろうが! 勝手に罪悪感なんて感じてるんじゃねえぞ!」
金城は胸倉を離し、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。
伊瀬は大粒の涙を流しながら、ただただ黙って、俯き「ごめんなさい」と呟いていた。
ミキは何かを考えているのか、涙を堪えているのか、静かに地面を見つめている。
「お前が死んだら哀しむ奴だって居るだろが。もうこんな真似するんじゃねえよ」
公園に響き渡るのではという程の声を荒げ、伊瀬は泣いた。
そして、「……ごめんなさい……っ! ごめんなさい!」と泣き叫んだ。
* * * * *
一人の少年が歩いていた。
ふと脇の公園を見ると、楽しそうに子供たちや親子連れが休日を謳歌しているのが見えた。
少年は、なんて無様で愚かな人間たちなのだろう、と思った。
何が楽しいのか、何をそんなに笑えているのか、こんな奴らは社会のゴミである。
こんなゴミどもはいずれどこかで自分の足を引っ張るであろう。
だったら、自分のようなこれから成功者となる人間の視界に入ってくることすら許されない。
この世からゴミを処分することの何が悪いというのであろうか。
そう、あのとき、やっとこの手で処刑することができた、あの教室に蔓延っていた一人のクズのように。
少年はそう思い、冷たい眼差しを公園から外し、去っていこうとした。
そのとき、噴水から噴出されていた水が絶たれ、きらきらと太陽が反射した水滴が落ちていく遥か向こうで、語り合う3人の生徒の姿を発見した。
少年は驚き愕然とした様子で目を見開き、その3人の姿を凝視した。
少年の目からはその3人の姿が何か痛みを共有する仲間のように映った。
少年は鋭い刃のような殺意を3人に向けた。
何よりもその3人のうちの一人に対して、激しい憎悪を露わにした。
「そうか伊瀬君。キミは僕を裏切るんだね。……絶対に許さない」
そして、平森隆寛は静かに怪しく笑みを浮かべた。
休日ということもあり、商店街だけでなく、この公園も人だかりとなっていた。
近隣の小学生より小さな子供たちや、親子連れなども見られる。
中央に置かれた大きくて綺麗な噴水から飛び出る水飛沫に太陽が反射して輝いている。
そんな公園の端にあるベンチに伊瀬を座らせた。
隣にミキが座り、遅れて金城がやって来た。そして二人に缶ジュースを渡す。
「ほれ」
「お、金城さんきゅー」
金城は缶の音を鳴らし開けて、渇いた喉を潤すように一口流し込む。
伊瀬は缶ジュースを受け取るとやっと我を取り戻したかのように、金城にお礼を告げた。
「あ、ありがとう……ございます」
しかし、飲まずにただただ黙って、俯いていた。
そんな伊瀬を見つめ、金城は口を開く。
「伊瀬、お前なんで万引きしようとした?」
「……」
隣のミキもじっと伊瀬の返答を待つように見つめていた。
「そんなことしたらさ、あの……えっと、言いたくないけど……」
伊瀬は重い口を開いた。
「わかってます。『罪人』になるかもしれませんよね?」
「おい。わかってんなら何故?」
「だからやったんです」
伊瀬は一切迷いが無い口調でそう告げた。
頬を汗が一滴伝う。そして堕ちていく。
金城とミキは意味がわからないとでもいうようにしばらくの間、そんな底辺階級のクラスメイトを見つめていることしかできずにいた。
やっと言葉の咀嚼が終わったのか、金城が伊瀬に向かって言った。
「お前、大丈夫か? 自分で何言ってるのかわかってるか?」
伊瀬は完全に落ち着きを取り戻したかのように落ち着いた口調で続けた。
「……ずっと嫌いだったんです」
「……え? 何が?」
「五十嵐君たちのこと、金城君や仲居さんのことも含めて。ずっと嫌いだったんです。正直、何度も何度も、頭の中で貴方たちが死ぬ姿を夢見て、思い描きました」
金城は黙って、そんなC軍少年の姿を見つめていた。
ミキは思わず、声を荒げた。
「ちょっとアンタね、今そんなこと……五十嵐に対してそんなこと言わなくて――」
「五十嵐君が憎くて、最初の、あの意味のわからない『審判』って出来事が起こって、皆が団結して五十嵐君が有罪になったとき、凄く嬉しかったんです」
金城は一口ジュースを飲んだ。
「でも本当に死ぬなんて思わなかった。僕があのとき意見しなかったら、死ななかったかもしれないんです。こんなことになっていなかったかもしれない……っ! 僕はっ……」
伊瀬の目から再び涙が零れ始めていた。
物凄い恐怖と罪悪感、そんなものを伊瀬は誰よりも感じているのかもしれない。
「だから罪人になろうとしたのか?」
ジュースを飲み干したのか、缶を潰しながら、金城は抑えた声で伊瀬に尋ねた。
ゆっくりとすすり泣く声を上げながら、伊勢は黙って頷いた。
そんな泣き声に反響するかのように金城の舌打ちが響いた。
「伊瀬。てめえ、自意識過剰になってんじゃねえぞ」
金城が伊瀬の胸倉に掴みかかり、激しく啖呵を切った。
「……え」
「てめえはC軍だ、調子に乗ってんじゃねえ! てめえ一人の意見が教室に反映なんかされるわけねえだろ! てめえ一人が意見を変えたから、あのクラスの何かが変わるとでも思ってんのか! 身の程知らずにも程がある!」
「……ひん……ひっ」
伊瀬は涙を溢しながら、金城を見つめていた。
「俺たちが殺したいくらいに憎いのは、あの糞みたいなスピーカーの奴だっ! 五十嵐だってきっと微塵もお前のことなんざ気にしてねえよ! お前程度の人間があのときの審判に影響なんて及ぼしているわけねえだろうが! 勝手に罪悪感なんて感じてるんじゃねえぞ!」
金城は胸倉を離し、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。
伊瀬は大粒の涙を流しながら、ただただ黙って、俯き「ごめんなさい」と呟いていた。
ミキは何かを考えているのか、涙を堪えているのか、静かに地面を見つめている。
「お前が死んだら哀しむ奴だって居るだろが。もうこんな真似するんじゃねえよ」
公園に響き渡るのではという程の声を荒げ、伊瀬は泣いた。
そして、「……ごめんなさい……っ! ごめんなさい!」と泣き叫んだ。
* * * * *
一人の少年が歩いていた。
ふと脇の公園を見ると、楽しそうに子供たちや親子連れが休日を謳歌しているのが見えた。
少年は、なんて無様で愚かな人間たちなのだろう、と思った。
何が楽しいのか、何をそんなに笑えているのか、こんな奴らは社会のゴミである。
こんなゴミどもはいずれどこかで自分の足を引っ張るであろう。
だったら、自分のようなこれから成功者となる人間の視界に入ってくることすら許されない。
この世からゴミを処分することの何が悪いというのであろうか。
そう、あのとき、やっとこの手で処刑することができた、あの教室に蔓延っていた一人のクズのように。
少年はそう思い、冷たい眼差しを公園から外し、去っていこうとした。
そのとき、噴水から噴出されていた水が絶たれ、きらきらと太陽が反射した水滴が落ちていく遥か向こうで、語り合う3人の生徒の姿を発見した。
少年は驚き愕然とした様子で目を見開き、その3人の姿を凝視した。
少年の目からはその3人の姿が何か痛みを共有する仲間のように映った。
少年は鋭い刃のような殺意を3人に向けた。
何よりもその3人のうちの一人に対して、激しい憎悪を露わにした。
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