Duty

Kfumi

chapter 6 第2の審判 -6

6  6月21日 レイ


 とても嫌な気分であった。
 そんな気持ちを洗い流すかのように、
 陽太は校舎廊下に設置されている水飲み場で顔を洗った。
 思い切り、何かを吹っ切るかのように。
 夕焼けが漂う放課後の世界は、目を瞑ることで一瞬のうち暗闇に覆われる。
 ぐるぐると瞳をどれだけ動かそうが、闇である。
 この世界には自分だけしか存在してはいないのではないかと思ってしまうほど、
 孤独で疎外された闇。
 絶対に自分しか見ることのできない闇なのである。
 ふと陽太はとてつもない恐怖に襲われた。
 孤独感・疎外感・闇……
 それが陽太の心に呼応しているような感覚であった。
 怖い、早く目を開けなければ、
 このまま闇に包まれ沈んでいくのではないか。
 そう陽太は感じた。

【――ゆ、る、……さな】

「神谷陽太」

 はっと陽太は驚いた。
 そして、その声で一気に現実に引き戻された。

「え……だ、誰だ?」

 陽太は水に濡れた顔で、目を瞑ったまま答えた。
 目を開けて誰か確認したいが、できない。

「まだ……続く」
 
 陽太の背筋に物凄い悪寒が走った。

「え……?」

「これはまだ始まりに過ぎない」

「おい! 誰だ、お前!」

 陽太は声を荒げる。

「これは、復讐」

 さらに陽太はゾッと凍えるような感覚を味わった。

「なんだと……?」

「……」

「復讐だと? 何の復讐だ! おい!」

「……」

「答えろ! お前は誰だ!」

「レイ」

「……れい?」

 タッタッとその人物が去っていく音が聞こえた。

「待て! くそ!」

 陽太は慌てて水滴の付いた目頭を上げた。
 そして水でぼやける視界の中で、去っていく生徒らしき姿を捉えた。

 気がしたのだが……。

* * * * *

 ゆっくりと瞼を開けた。
 気が付いたらそこはベッドの上であった。
 周りを見渡してみると、どうやら陽太の自宅、自らの部屋のようだ。
 帰宅し、億劫になる話をしたく無いが為、母・波絵の視線を掻い潜り、そのままベッドに倒れこんだ、
 そして……。
 陽太は体を起こし、フルフルと頭を振った。
 窓の外は暗く、どうやら眠ってしまっていたらしい。

「夢……か?」

 陽太は何かを思い出すように、いまだ重い瞼を閉じた。

「どんな……夢だっけ?」

 しかし、そこに浮かんでくるものは無限に広がる静かな闇だけであった。

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