この世界を終わらせる

りゅう

絶望の始まり










エターナルノアから騎士達が出発した数時間後…
戦士たちは全員シャルロットの元へ集まった。

「出現する。マルス、あなたはなるべく人を遠ざけて」
「了解しました」

マルスはそう返事をして頭を下げる。

「クラニィ、敵のほとんどをあなたに任せることになる。ごめんなさい」
「リーダーが謝る必要はありません。必ず敵を殲滅いたします。ですからリーダーは最強の騎士との戦いに集中してください」
「クラニィ、ありがとう…他のみんなにはそれぞれ騎士の相手をしてもらいます。敵の騎士は3名、当初の予定通り3名ずつで当たってもらいます」

シャルロットの言葉に9人の戦士が頷く。全員覚悟は決まっているようだ。覚悟が決まっていないのはシャルロットだけだった。

「1時間後にそれぞれ出発します。それまでに準備を整えてください。この戦いに必ず勝ちましょう!」

シャルロットの言葉に全員が勢いよく返事をしてこの場はお開きになった。

「リーダー、具合でも悪いんですか?」

シャルロットが一人で外を見つめているとクラニィがシャルロットに声をかけた。

「大丈夫、ちょっと考え事してただけ…」
「そうですか、何を考えていたか教えていただいても?」
「私にもよくわからない、ただ、心の中に杭のようなものが刺さってなんか苦しい感じがするの…」

シャルロットは自身の胸を押さえながら苦しそうに呟く。

「………そうですか、リーダー、やっぱり今のあなたに最強の騎士の相手を任せられません」

クラニィはシャルロットに向けてきっぱりと言い放った。

「え、どうして…」
「リーダーに死んで欲しくないからです」

クラニィはシャルロットに対して即答した。今のシャルロットでは最強の騎士に勝てないと…
「リーダーは強いです。私なんかよりもずっとずっと強い、たぶん私なんかじゃ一生届かないくらい強いです。でも、リーダーは優しすぎます。その優しさは戦いにおいて枷になります。優しさを捨てろとは言いません。その優しさがリーダーのいいところですから…最強の騎士とリーダーがどんな関係かは知りませんがリーダーが最強の騎士を倒せないなら私が最強の騎士と戦います。今、ここでリーダーを失うわけにはいきませんから…」

クラニィはシャルロットにそう言いその場を去ろうとする。

「クラニィ、ごめんね。私が間違ってた。私は彼を殺したくない…でも、彼は私たちの敵、私の大切な仲間…いいえ、家族を不幸にする敵、私は彼を殺したくはない、でも私の大切な家族、クラニィやマルスたちが傷つくのはもっと嫌…だから私が彼を倒す。大切な家族のために…」

シャルロットの中にはまだ迷いがあった。だが、大切な家族を守るという自分にとって一番大切なことを思い出したシャルロットはアシュレイと戦う覚悟を決めた。覚悟を決めたシャルロットをクラニィが止める理由はなくなった。

「リーダー、必ず勝ってください。私も、私たちも頑張りますから」
「クラニィ、ありがとう。必ずまた生きて会いましょう」
「ええ、みんなで必ず。生きて会いましょう」

クラニィはシャルロットにそう答えその場を立ち去った。
 
  そして1時間後…
戦士は戦場に向かった。それぞれの使命を背負い戦場へと駆ける。

シャルロットは最強の騎士との決着をつけるために世界の岬へと向かう。
マルスは人々を避難させるためにあちこちを駆ける。
クラニィは敵兵を一掃するために敵が必ず通るポイントで一人仁王立ちをし敵の迎撃準備を整える。
他の戦士たちはクラニィから騎士を遠ざけるためにクラニィの少し前のポイントで身を潜めて待機していた。

騎士達がクラニィの元へ到着するまであと半日ほど、それまでの間クラニィは気を抜くことなく立ち続けなければならない。クラニィは自分が今。最前線に立っているということを自覚し最前線での敗北は許されないというプレッシャーと戦っていた。
最前線での敗北、それは各地での戦いが圧倒的に不利な状況になってしまうことを意味する。故にクラニィに敗北は許さない。例えどんなことが起きようと勝たねばならない、それが最前線に投入されたクラニィの使命だった。

各自が自身の持ち場に到着してから数時間後…

「来たか…思ったより早かったな…」

敵を確認したクラニィは神獣を召喚した。クラニィの神獣はヤマタノオロチと呼ばれる蛇型の神獣だ。八つの首の攻撃は敵を一瞬で壊滅させる。八つの首にはそれぞれに一つずつ能力が備わっている。

「アシュレイ様、何者かが進路を塞いでいる模様です。いかがいたしますか?」
「捕らえるか殺せ」

アシュレイがそう叫んだ直後、アシュレイに向けてあちこちからナイフが飛んで来た。アシュレイはそれをあっさりと躱し九つの影を確認する。

「三方向に散ったか…騎士達はそれぞれ敵を追え、兵士たちはこのまま前進し奴隷狩りに移れ」

アシュレイの指示に従いそれぞれが動き出す。そしてアシュレイはドラゴンの神獣を召喚し、それに飛び乗り世界の岬を目指して進む。
アシュレイがクラニィの上空を通過するがクラニィは見向きもしなかった。最強の騎士はシャルロットが必ず討つと信じていたからだ。
そして九人の戦士たちは三人に分かれてそれぞれ騎士を引きつけるのに成功した。九人の戦士たちはなるべくクラニィの戦いに邪魔にならない範囲に騎士達を連れ込み討ち倒すことが使命だ。誘い出すことに成功した戦士たちが次に目指すのは先日、大量の罠を貼り地形的に有利なポイントに騎士達を誘導することだ。

「この戦い、絶対に勝つ…私を認めてくれたリーダーのために…」

クラニィはそう呟きながら神獣と繋がる鎖を握る。
外の世界で神獣使いは忌み嫌われる。神獣使い、外の者にとっては脅威にしか感じられないのだ。神獣使いとして全てを失ったクラニィをシャルロットは救ったのだった。

仁王立ちするクラニィに大量の兵士たちが突っ込んで行く。クラニィはヤマタノオロチを操り八つの首で次々と敵を返り討ちにする。ヤマタノオロチはあっさりと大量の命を奪う。次第に敵兵は接近戦では勝機はないと判断した。そして弓を構え放つ。中には魔法の詠唱を唱えて魔法を放ってくる者もいた。

「ヤマタノカガミ」

クラニィは八つの首のうち一つの能力を発動させた。するとクラニィの前に巨大な壁が生成された。その鏡に矢や魔法が次々と当たる。すると矢は弾かれ魔法は反射された。

「何だよあれ…」
「強すぎる……」
「勝てるわけがない………」

などと言った絶望の声があちこちから上がって来た。中には逃走を始める兵士もいた。幸先は良好、現状ではクラニィの予定通りに事が運んでいる。あと少し、もう一押しすれば敵は統率を失い殲滅戦に移ることが出来るだろう。

「まったく、情けないな〜外の神獣使いなんかに苦戦しちゃって…」

敵兵に絶望を与えようとしたクラニィの前に現れた絶望、それは騎士の中でもかなりの手練れと呼ばれる少年、ソーマだった。ソーマの腕から繋がれた鎖の先端には死神、ハーデスの神獣が付いていた。巨大な鎌を手にした神獣、ハーデスはところどころ赤くなっていた。







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