この世界を終わらせる

りゅう

騎士の集い













「気をつけて行って来てね。無理だと思ったら必ず戻って来て、あなたの仕事は情報を得ることじゃない、生きて戻ることよ…」

出発直前のマルスにシャルロットはそう言いながら数枚のカードを渡した。

「これは?」

マルスはカードをピラピラと振りながらシャルロットに尋ねる。

「もしピンチになったら迷わずに使いなさい」
「………よくわからないけどわかりました。では行って来ます」

そう言いマルスは斥候の仕事をするためにエターナルノアへと向かった。

「さて、じゃあ行きますか」

マルスは指の鎖を解放して神獣を召喚する。指から伸びる鎖にはマルスよりも少し小さめの白い物体が付いていた。
マルスの神獣、ゴースト能力は様々、契約者を浮遊させることや契約者を透明化させること、そして1日に数回だけ受けた攻撃を無効化できる。

「浮遊、インビジブル」

マルスはゴーストの力で飛び上がりながら姿を消す。そして猛スピードでエターナルノアに向かった。



「おかえりなさいませ、アシュレイ様」

屋敷に戻ったアシュレイを屋敷の使用人が迎える。アシュレイはすぐに上着を脱いで使用人に渡し浴場に向かった。風呂に入り汚れた体を綺麗にしたアシュレイは使用人を全員集めた。

「俺は数日奴隷狩りで屋敷を留守にする。屋敷の番は任せた。あと、数年前の奴隷狩りで連れてこられた15歳くらいの奴隷を探しておけ、見つけたらその者の主人を特定しておいてくれ」

アシュレイはシャルロットの弟を探すように使用人に言い屋敷を後にした。


「アシュレイ、貴様の助言を受け入れて今回の奴隷狩りに騎士を3名追加することにした」

エターナルノアの真ん中にあるエターナルノアの中核、聖教会そこに呼び出されたアシュレイに聖王は告げる。

「貴様は3名の騎士と10000の兵士を率いて明日、奴隷狩りに出発せよ」
「承知いたしました。必ずや良質な奴隷を大量に捕獲して参ります」

奴隷狩りで捕らえられた奴隷はランク分けされる。強さや知識、容姿など様々な要因でランク分けされるわけだが、良質な奴隷はまず聖王に送られる。そして聖王が必要としなかった奴隷は売りにかけられる。恐らくシャルロットを捕らえて聖王のもとに送れば聖王は喜んでシャルロットを自分の奴隷にするだろう。だからシャルロットは聖王に見つからないように非合法でエターナルノアに連れてこなければならない。ぶっちゃけ中に入ってしまえば問題なく暮らせる。だからいかにしてシャルロットを中に連れ込むかが大切だった。これが奴隷狩りでさえなければシャルロットを自分の奴隷として連れ帰るのは容易かった。だが、奴隷狩りに自分が向かえばシャルロットは自分の前に立ち塞がるだろう。やるしかない…シャルロットを誰にも渡したくない、それがアシュレイの思いだった。

「明日出発か…早くて明々後日には到着するな…急いでリーダーに知らせないと…」

インビジブルで隠れながら様子を伺っていたマルスが呟く。そしてマルスは戦士のみんながいる場所へ戻ろうと歩き始める。

「そこにいるのは誰だ」

マルスが動いた際の空気の多少の揺れを感じたアシュレイがマルスに尋ねる。

「いるのはわかっている。姿を現せ」

アシュレイは剣を抜いてマルスに警告する。この場にはアシュレイとマルスの2人のみ、マルスがアシュレイに勝てる確率は限りなくゼロに近いだろう…
マルスはアシュレイに言われた通り姿を現わす。

「貴様、何者だ?」
「戦士マルスと名乗らせていただきましょうかね。騎士様」
「戦士にも神獣使いがいるのか…灼眼に神獣、なかなか厄介だな…ここで潰させてもらおう…」

アシュレイはそう言いながら剣を抜きマルスに向ける。アシュレイと対峙していたマルスは武器を持たない。

「貴様、舐めているのか?」
「いやいや、騎士様相手に真っ向から戦うわけないじゃないですか、それに僕の仕事はリーダーに情報を届けること…生きて帰ることです」

マルスはそう言いながら神獣の力を使い飛び上がる。

「室内で飛び上がるのは得策とは言えないな…」

アシュレイはそう言いながらマルスに剣を向けて氷の魔法を放つ。

「げ、神獣使いなのに魔法まで使えるんですか…めんどくさいなぁ…」

マルスはアシュレイの魔法を空中で躱しながら天井に向かう。
魔法は火、氷、風など様々な属性があるが1人1つの属性しか持つことができない。アシュレイは氷の魔法属性を持っているため氷魔法は使えるが他の属性の魔法は使えない。

「馬鹿め、天井は硬い、そう簡単には破壊できないぞ」
「破壊する必要なんてありませんよ。すり抜けますから」

マルスはそう言いながら神獣の力を使い天井をすり抜ける。外に出たマルスはエターナルノアを後にした。
アシュレイが一人になった部屋に2人の男と1人の女が入ってきた。

「アシュレイ様、騒がしいですが何かありましたか」

まだ6歳くらいの男の子がアシュレイに尋ねる。

「すぐに出撃する。外のスパイに情報を奪われた」
「アシュレイ様ともあろうお方が敵を逃がすなんて…敵はどんな卑怯な手を…」
「敵は神獣使いだ。外にも神獣使いがいるようだ。覚えておけ…」

アシュレイは自分を慕っていつも付いてきてくれる小さな男の子に言う。彼が今回の奴隷狩りのメンバーになってくれたのはアシュレイにとっては喜ぶべきことだった。彼ならアシュレイの言うことは必ず聞いてくる。シャルロットを捕えた後必ず力になってくれるだろう。

「アシュレイ殿、すぐに出撃するとは…」

小さな男の子の隣にいた銀髪の女フランが頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらアシュレイに尋ねる。

「そのままの意味だ。敵が情報を持ち帰ってから時間が経てば経つ程外の連中に準備をする時間を与えることになる。だから今すぐ出撃する。異論はあるか?フラン」
「いいえ、アシュレイ殿の言うとおりだと思います。すぐに兵を集めます」

フランはそう言い残して部屋を出て行く。

「ソーマとネルガルも出撃の準備をしろ。1時間後に出撃する」
「了解しました!」
「りょーかい」

小さな男の子ソーマは勢いよく。どことなく腑抜けている男ネルガルはめんどくさそうに返事をした。


「1時間後か…時間がないな…」

エターナルノアからの帰路でアシュレイ達の会話を盗み聞きしていたマルスが呟く。マルスの神獣、ゴーストの力でミニゴーストを生成しアシュレイ達がいた部屋に置いて来た。よってアシュレイ達の会話は全てマルスに聞かれていたのだ。
マルスが全速力で飛んでもシャルロットのもとまで数時間はかかる。敵が出撃してからシャルロットのもとまでたどり着くのに丸一日はかかるだろう。

「急がないとな…」

マルスはそう呟きながら全速力で宙を移動する。

そして1時間後、アシュレイを筆頭に3人の騎士ソーマ、フラン、ネルガルと10000の兵がエターナルノアの外へと飛び出した。











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