この世界を終わらせる

りゅう

戦争準備













「クラニィ、みんなを集めて、至急作戦会議を開きます」

拠点に戻ったシャルロットは慌ててクラニィに戦士を全員集めるように指示を出す。

「了解しました。すぐに収集いたします。リーダーは先に会議室でお待ちください」
「ええ、任せたわ…」
シャルロットはクラニィにそう言い残して会議室に向かう。

「リーダー、戦士11名全員集まりました」

クラニィが会議室で椅子に座り眠っていたシャルロットに言う。

「ん。あっ…ごめんなさい。眠ってしまっていたみたいです…さて、ではさっそくですが本題に入ります。先程私はエターナルノアの騎士と戦闘しました。その際近々エターナルノアの連中が大規模な奴隷狩りを企んでいることが判明しました。私たちはこの奴隷狩りを阻止するために動きます」
「奴隷狩り…ですか。奴隷狩りを阻止出来れば我らの存在を外にいる人間や亜人たちに広めることができる。成功すれば戦力を増量できる可能性がありそうですな……ここで成功して戦力を増大出来ればエターナルノア陥落に大きく近づく。絶対に成功させねばなりませぬな…」

戦士の中で最年長54歳の老人、ラミットさんがそう呟く。

「ラミットさんの言う通りです。現在、世界の中心に位置するエターナルノアから四方あちこちで奴隷狩りが行われています。当然、奴隷狩りに刃向かう者もいますが、それらは少数、ですが今回私たちが勝利を収めればエターナルノアの連中に勝てる外の組織がある、と広めることができる。奴隷狩りを阻止する…それは難しいことですが絶対に成功させます」

シャルロットが全員に向けてそう言うとその場にいた者は全員黙って頷いた。

「では作戦を考えます。今わかっている情報は近日奴隷狩りが行われるということともう一つ、次の奴隷狩りにはエターナルノア最強の騎士と名高い冷徹の騎士が参加する可能性が高いことです」
「冷徹の騎士!?」
「あの、最強と呼ばれしドラゴンの神獣使いか…」

全員がざわめく。それほどまでにアシュレイの名は世界中に知れ渡っていた。

「冷徹の騎士は世界の岬に現れます。冷徹の騎士は私が討つ。異論のある方は挙手を…」

シャルロットの意見に異論を唱える者はいなかった。この場にいる全員がシャルロット以外にアシュレイの相手が務まるものがいないと誰もがわかっていたから…

「では、異論はないみたいなので先に進めます。今までの奴隷狩りだと騎士の投入は基本1人、ですが今回は大規模な奴隷狩りになるようなのであと2人ほど騎士が加わる可能性があります」

エターナルノアには騎士と兵がいる。騎士はエターナルノア内に100名、全員が神獣と契約を交わす実力者だ。兵は約100000人、騎士1人につき1000人の兵を従えている。アシュレイはその中で最強とまで言われていた。

「そして…騎士が何人来るかによってこちらの戦力をどうするか決めなければなりません」
「……エターナルノアからここまでは丸1日かかる。ただ、僕なら1時間あれば十分だし、僕の神獣は斥候向けだ。僕が斥候を引き受けよう」

シャルロットがチラ見していた少年、マルスがシャルロットに向けてわかりましたよ。とでも言うかのような表情を浮かべて答える。

「マルスさん以外適任がいません。お願いします。ごめんなさい…一番危険な仕事を任せてしまって」
「気にしないでください。リーダー、その代わり戦闘は他のみんなに任せますからね」
「ええ、必ず勝ちます。だからまずは情報戦で勝利を掴んでください」
「了解しました」

シャルロットに情報収集の全てを託されたマルスは嬉しそうにシャルロットに返事をする。

「さて、残りは戦力分けですね…私は1人で十分、マルスは斥候で戦闘はあまり得意ではない。よってマルスは斥候の仕事を終えた後周りの人々の避難誘導をお願いします。もし敵と遭遇した場合の判断はマルスさんに全て任せます」
「わかりました。絶対に人々を守り抜きます」

マルスは勢いよく返事をする。

「さて、残る戦力ですが、神獣使いのクラニィは一人で十分でしょう?」
「むしろ私の場合は周りに味方がいない方が助かります。私の神獣は凶暴ですから…」
「わかった。クラニィの神獣は敵の殲滅に向いている。クラニィは敵の兵をひたすら薙ぎ倒してください騎士と遭遇した場合の戦闘も許可します。ただし複数の騎士と遭遇した場合は撤退し他のものとの合流を優先してください」
「わかりました」
「残りは9人ですか…残り9人には3人ずつに分かれて小隊を組んでもらいます。小隊長はラミット、ペトラ、バイパーに一任します。小隊のリストはこれです。騎士と戦闘する際は必ず小隊のメンバー全員で交戦してください。とりあえず今から9人は小隊での動きの確認やサイン決めなどをしておいてください。マルスは今から斥候へ向かう際のルートの確認、そして出発する準備を進めてください。クラニィは私と一緒来てください。少し話があります」

シャルロットはクラニィを連れて会議室を出る。シャルロットとクラニィに続いてマルスが会議室を出る。そして残された9人は小隊に分かれて連携のパターンなどを決め始めた。

「リーダー、話ってなんでしょうか?」

歩きながらクラニィがシャルロットに尋ねる。

「………先程はごめんなさい。せっかくあいつを討つチャンスだったのに…」
「リーダー、これは私の本当の考えです。決して気休めで言うわけではありません。私はリーダーの判断は正しいと思っています」

クラニィの口からは意外な一言が放たれた。だが、その言葉は責められると覚悟していたシャルロットにとってクラニィが気を使って言っているだけだろうとしか感じられなかった。

「理由としては、あそこで私があの騎士を殺していたらおそらく今回の奴隷狩りで私たちに勝機はなかったでしょう。私があそこであの騎士を殺していたら、最強の騎士が討たれた、と中の連中は大慌てするでしょう。そして奴隷狩りで大量の戦力が投入されれば私たちに勝ち目はなかった。今回、私たちが勝っても中の連中は大慌てするでしょうね。ですが奴隷狩りは最高神の指令がないとできない…ですから今回の奴隷狩りを凌ぎ切れればある程度次まで時間が空くはず。その間に戦力を強化し次に備える時間があるはずです。ですから今回、私たちが勝つためにあの騎士は生かしておくべきだったと思います」
「あの騎士が上に戦力の増量を求めたらどうするの?」
「中の連中は自分たちの力に過信しています。たとえ最強の騎士が戦力増量を求めてもおそらく上からは相手にされないでしょう…ですから、リーダーの判断は正しいかと…」

たしかにクラニィの言うことは正しかった。シャルロットは結果的に今回の奴隷狩りで勝てるための道に進んでいた。

「リーダー、いえ、シャルロット様、あなたの勝利を私は信じています。シャルロット様の元には何人たりとも近づけさせません。シャルロット様、必ずあの騎士を倒してください」

ずっとシャルロットのことをしたってきたクラニィはシャルロットの勝利を確信しながら言った。

「わかりました。クラニィ、私は絶対に勝ちます。あなたにはこの戦いでみんなの中に犠牲者が出ないように上手く立ち回ってあげてください」
「わかってます。必ず、勝利に貢献します」

クラニィの返事を聞いたシャルロットは会議室に戻った。

「みんな、聞いてください、ある程度の作戦が決まりました。まず3小隊は騎士を兵から引き離してください。そして騎士が離れたタイミングでクラニィが兵を壊滅させます」
「ふう、なかなか無茶を言ってくれますね…」

シャルロットの策を聞いたクラニィがため息を交えながら呟く。

「あら、勝利に貢献してくれるのよね?」
「わかってますよ。敵兵は1人残さず滅ぼします」

やれやれと言うかのような表情でクラニィはシャルロットに答える。

「では、クラニィ、ここの指揮はあなたに任せます」
「お出かけですか?」
「ちょっと地下に行ってくる。だいぶ体が鈍ってた。鍛え直してきます」

シャルロットはそう言い残して地下に向かった。


 






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