この世界を終わらせる

りゅう

始まりの物語












あなたと出会うんじゃなかった…こうして戦う運命になるのなら…」
「………騎士として貴様を討つ。悪く思うな」
2人は剣を交える。外の戦士と中の騎士、それぞれの使命を果たすために…


こんな世界…私が必ず終わらせる。
そう心に誓った1人の少女がいた。

この国の騎士として善良なる市民を守り抜く。たとえどのような犠牲を払っても…その犠牲が悪ならば問題ない…
そのような考えを抱く男がいた。

「この世界は間違ってる。人に善悪をつけて産まれながらに差別されるなんて………私は必ずこの世界を壊す」
長い赤髪の少女ははるか遠方に聳え立つ巨大な壁を見つめながら呟く。
「女がこんなところに1人で…危険だぞ…」
赤髪の少女が振り向くとそこには白髪の青年男性が立っていた。
「大丈夫よ。私は強いから…ご心配ありがとう」
「ふっ、そうか…」
男性はそう言いながら少女の側に座る。
「俺はこの景色が好きなんだ。外で唯一な…」
「あなた、中の人間なの?」
少女は身に凶悪な気配を纏いながら男性に尋ねる。もし男性が自身にとって不利益と成り得る存在なら即座に斬る覚悟だった。
「ああ、そうだ。月に1回くらいこの景色を見るためにここに来る。さて、長いは出来ないし戻るとしよう…気をつけて集落に戻るんだな…」
男性はそう言いながら近くに止めていた馬に跨る。
「あなたこそ魔獣に襲われないように気をつけて…」
「ふん、魔獣如きに俺は恐れを抱かない…俺は強いからな…」
男性はそう言い残して立ち去っていく。この世界の岬から立ち去っていく男性を見送った後少女も帰路に着いた。

それから少女と男性は何度も同じ場所で出会いいつの間にか2人の仲は縮まっていた。
「近々大きな奴隷狩りが予定されている…」
男性が小さな声で呟く。

「そう……」
「なあ、俺の奴隷になってくれないか?俺の奴隷になって俺と一緒に中で暮らそう。君は必ず俺が守るし不自由な生活はさせない…俺と一緒に来てくれ…」

この世界は理不尽だ。産まれながらに最高神により人に善悪がつけられる。善なる人間は世界の半分を囲む壁の中にある国エターナルノアで生活する権利を得る。悪と判定された人間は壁の外に追放される。壁の外の人間は壁の中には入れない。壁の中の人間の奴隷にされる者を除いては…

「君には幸せになって欲しい。このままだと君は他の奴らの奴隷にされるかもしれない…俺は君を奴隷にしても君に何かを強制したりはしない。ただ君を守りたい…だから俺と一緒に来てくれ…もし君に家族がいるなら君の家族もうちで面倒みよう」
「私の両親は私と私の双子の弟を産んだ時に殺されたわ…私たち兄弟は両親の親友が守ってくれて育て上げてくれた。そして両親の親友だったおじさんも私が7歳の時に行われた奴隷狩りの際、中の人間に立ち向かって殺された。そして2年前に行われた奴隷狩りで私の弟は中の人間に捕まって奴隷にされた…」

気づいたら私の両目からは涙がこぼれ落ちていた。出来るだけ思い出したくなかった。両親のことやおじさんのことは…

「私は中に行く。中に行って弟を取り戻してこの世界を変える。そのために私は力をつけて仲間を集めたの…私には使命がある。戦う使命が…」
少女は涙を拭き取り拳を強く握りしめてそう言い放った。

「………なるほど、最近戦士と呼ばれる革命派が外に結束されたと聞いた。お前もその1人なのか」
「ええ、そうよ。あといい加減お前って呼ぶのはやめていただける?私にはシャルロットという名前がある」
「シャルロットか…いい名だ。残念だ。お前が戦士ならば俺は騎士としてお前を討たなければならない」

男性はそう言いながら剣を抜く。
「そう。騎士だったのね…ならばあなたは私の敵…討たなければならない私の敵…いえ、私たちの敵よ」
シャルロットはそう言いながら剣を抜いた。お互いが剣を抜き構える。
「まだあなたの名前を聞いてなかったわね…」
「そうだったな…俺はアシュレイ、お前を愛する者だ。だが俺の使命を果たすためにお前を討つ」

「アシュレイ…いい名前ね。アシュレイ、私もあなたが好きだったわ…いいえ、今も好きよ」
「そうか…なあ、本当に俺の奴隷になる気はないか?お前の弟も探してやる。今すぐ俺とともに中に行こう」
「ごめんなさい。私には仲間がいる。それに私には…いいえ、私たちには意地がある!私たちの運命は私たちが決める!これ以上人の運命を最高神なんかに決めさせてなるものか!もう私たちは止まらないし誰にも止められない、こんな世界私が…私たちが終わらせる!」
そう、意地…私たちを強く動かすのは意地だった。それは最高神を討ちこの世の理不尽を変えるという決意でもある。
「………そうか、残念だ」
「あなたと出会うんじゃなかった…こうして戦う運命になるのなら…」
「………騎士として貴様を討つ…悪く思うな…」

シャルロットとアシュレイは剣を交えた。最初の一太刀でお互いの実力を計りあった。実力は完全に互角だろう。この勝負どちらにも負けられないという使命があった。
シャルロットの剣とアシュレイの剣がぶつかり合う。自分が愛する敵を討つためにお互い剣を振るった。剣の腕は完全に互角、力はアシュレイの方に分があるがシャルロットは力で足りない分を技術で補っていた。

「素晴らしい剣技だ。敬意を払おう。お前の剣技は敬意を払うに値する」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ。あと、いい加減名前で呼んでよ…」
「ふっ、お前が俺に勝てたら名前で呼んでやろう」

2人は剣を交えながら会話をする。2人の剣は凄まじく早い。おそらく一般人がみたら剣が今どこにあるのかすらわからないレベルだろう…

「ズルいわ…私があなたに勝ったらあなたはもう喋れないじゃない…」
「たしかにそうだな…さて、そろそろ俺の剣の実力は完全に把握できただろう?この剣の打ち合いにそろそろ飽きた…」

アシュレイはそう言いながらシャルロットから距離を取る。

「お互い本気でやろう」

アシュレイがそう言いながら自身に纏う空気を変える。アシュレイが放つオーラはとても冷たいものだった。だが、シャルロットにはそれが暖かく感じた。

「そうね。本気でやりましょう」

シャルロットはそう呟きながら自身の身に纏う空気を変える。シャルロットが放つオーラはとても暖かいものだった。そしてシャルロットの右目が黄色から真っ赤に変化する。

「………灼眼の一族か」
「少し違うわ…私には灼眼の一族の血が少し流れてるだけ…だから右目しか灼眼になれない」
「なるほど、灼眼の一族の血は完全に絶えたかと思っていたのだがな…面白い。久しぶりに本気でやれそうだ」
「悪いけど私が本気になったらあなたは私に勝てないわよ」

シャルロットはそう言いながら腰にぶら下げていたもう一本の剣を抜く。

「お前、二刀流だったのか…」
「灼眼で身体能力が強化されてる時だけね。普段は一本よ」
「そうか…では無駄話はこれくらいにしよう…」
「そうね…出来れば永遠にこの時間を過ごしたいけど…私たちはお互いの使命があるものね…」

シャルロットはそう呟きながらアシュレイに右手の剣を向ける。シャルロットの赤い瞳には熱い雫が溜まっていた。

シャルロットとアシュレイの剣が再び交わる。アシュレイが放つ剣撃をシャルロットは身軽な身のこなしで躱す。そしてアシュレイにカウンターを撃ち込む。

「甘い」

アシュレイが剣を握っていた手とは反対の手に巻きつけていた鎖を解く。

「なっ、神獣使いか…」

シャルロットは慌ててアシュレイから距離を取る。アシュレイの左手の鎖にはドラゴンのような神獣が繋がれていた。

「神獣を使うのは久しぶりだな…」
「そう。私も灼眼を使うのはかなり久しぶりよ」

二人は再び互いに剣を向ける。

「「これで終わらせる」」
「ヘル・インフェルノ」
「フローズンレイ」

シャルロットは二本の剣を交差させて目一杯振り切る。すると剣と剣が交わる場から巨大な火の塊が発生した。
アシュレイは剣を突き出す動作をする。アシュレイが剣を突き出すのと同時にアシュレイの神獣が氷の息を放つ。
巨大な火の塊と氷のブレスがぶつかり合う。巨大な土煙が巻き上がりお互いの視界が塞がれる。

「まさか、私の本気をくらって生きてるなんて…」
「俺も驚いた。俺の全力を受け止める奴がいるなんてな」

お互い地面に倒れながら言う。シャルロットの灼眼は元の目に戻りアシュレイの神獣は消えていた。

「リーダー、今のは一体何が?」

シャルロットの横に長い金髪の女性が駆け寄ってくる。

「なっ、神獣使い…リーダー、あいつは私が引き受けます。下がってください」

金髪の女性は慌ててアシュレイに剣を向けた。

「クラニィ、やめなさい…その人に手を出すことは許しません」
「な、リーダー、何言ってるんですか?今がこいつを仕留める絶好のチャンスなんですよ」
「いいから下がりなさい」
「………はい」

シャルロットの指示に従いクラニィは渋々後ろに下がった。

「今回は引き分けね。次に会った時は決着をつけるわよ」

シャルロットはそう言いながらクラニィに撤退の指示を出す。

「後悔するぞ、今そいつに俺を殺させないことを…」
「いつかまたこの世界の岬で会いましょう。あなたは私が殺す。そして、私は殺されるならあなたがいい…」

シャルロットはアシュレイにそう言い残して撤退した。その場に残されたアシュレイはしばらく休んだ後にエターナルノアに戻った。













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