チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間【改】

北きつね

第一章 目覚め 第四話 リンとマヤ

 僕は、動物の声を聞きながら、微睡みの中にいられる。この時間が大好きだ。
 その静穏を壊す声が聞こえてきた。
「リン。どこにいるの?隠れていないで出てきなさい。」
「何?マヤ。何か有ったの?」
「やっぱりここに居たのだね。リン。」
「なんだよ?僕は忙し「何言っているの?どうせ、寝ていただけでしょ」」

 僕に最後まで言わせないで、僕が上っている木の幹を蹴る。

「村長が、リンの事を呼んでいたよ”すぐに来い”ってさ」
「いいよ。面倒だし、見つからなかったって言っておいてよ」
「ダメだよ。降りてこないのなら、木を蹴って落とすよ」

 すでに幹を蹴っているのに、そんな事を言われても、降りるわけがない。

「っば、バカやめろよ。この子たちを驚かすなよ」

 数匹の鳥が驚いて羽ばたく。

「そんな事言っても、リンみたいに、動物たちの声が聞こえないからわからないよ」
「だから、違うって言っているだろう。あぁぁわかったよ。すぐに行くよ、面倒だけどしょうがない」
「本当だね。待っているからね」

 マヤは僕の妹、妹と言っても、本当の意味では妹ではない。僕が、3歳になった時に、父さんと母さんが、冒険から帰ってきた時に抱えていたのが、”マヤ”だ。それから僕たちは兄妹になった。
 父さんも母さんも、マヤについては何も教えてくれない。ただ、”お前の妹だ”と、だけ言ってくる。マヤが、僕の事をどう思っているのかわからないが、一緒に過ごした10年で、僕も本当の妹だと感じるようになっている。兄の僕から見ても、マヤは可愛くなった。僕への態度は憎たらしい。夜中に両親が、なにか言い争っているのを何度も聞いている。聞けていないが、マヤに関する事だとおもう。パシリカが終わったら、僕とマヤに話しをしてくれると言っているのを聞いている。

(しょうがない。村長には世話になっているし行くか)

 村長は、両親が冒険に出てしまった時に、僕達の面倒を見てくれる数少ない大人だ。両親は、この村の生まれではなく、遠くの島国の生まれで、”探検家”と、言われている。具体的な事は解らないが、国の偉い人とかとも繋がりがあるような事を、村長が自慢げに話しているのを聞いた事がある。村周辺の魔物を、定期的に駆除したりしているので、村からは必要とされてはいるが、”変わり者”のレッテルを張られている。村の中では、かなり浮いた存在になっている。

 今、両親はこの村周辺を収める貴族様の依頼で、新しく現れた洞窟の探索に向かっている。問題がなければ、後2ヶ月位で戻ってくることになっている。

 小鳥たちに別れを告げて、幹から地面に降りた。
 マヤは律儀に待っていた。
「マヤ。村長はなんて言っていたの?」
「知らない。ただすごく難しい顔をしながら、”リンも呼んできてくれ”と、だけ言っていたよ」

 村長の家は村の端にある。それほど大きくはないが、治療院や、客を泊める為に、住民の家よりも大きく立派に作られている。

「おじさん。何?僕、忙しいのだけど?」
「リンか、早くここに座りなさい」
「ん?」

 マヤを除いた村の子供が5人座っている。

「全員が揃ったようだな」

 村長は話し始めた。
 僕達の村があるポルタ村は、トリーア王国に属している。属していると言っても、辺境の辺境で、もう他所の国と言う感じがしてしまう。領主さまの街までも3日の距離にある。

 村長の話は、事務的な話から一歩も出ていない。僕達7人は、パシリカを受ける為に、王都がある”ニグラ”に、行くことになる。ニグラから、ドムフライホーフに移動してそこで真命を授かって、ジョブの慧眼を受ける事になる。みんな解っていた事なのでなんの問題もないはずだ。

 村長が難しい顔をしている理由が解らない。僕やマヤが村を離れるのが寂しいとも考えられない。
 村長が沈黙のあとで言葉を続けた。

「お前たちも知っていると思うが、領主さまのご子息も今年パシリカを受ける事になっている」

 あぁあのバカ息子も僕達と生まれ年が同じになるのだったな。

「普段なら、領主様が護衛を雇って各村々を回って、ニグラに行く事になっているが、今年は『村々のパシリカを受ける子どもたちを一度領主の町まで集めてニグラに行く事にする』と、言うお達しがきた」

「テルメン夫妻が居たら護衛として一緒に行ってもらえれば安全だったが・・・、お前たちは少しでも安全の為に、商隊と一緒に行ってもらう事にした」

「おじさん。質問」

「なんだ。リン」

「領主の所に行くのはいいけど、その後はどうなるの?領主が護衛を雇ってくれているの?」

「・・・・ん」

黙ってしまった。

「おじさん!」
 煮え切らない態度に、少し語気を強めてしまった。

「今、他の村長とも相談しているのだが、ご領主が、ご子息もいる事だし十全な状態にして送り出したいと思っている」

「思っている?」

「ご子息が、な”俺がいるから護衛はいらない”』って、言い出しているらしくて困っておる」

「はぁ?馬鹿なのか?」
 パシリカ後ならそれでも良いかもしれないけど、ジョブに目覚めていない状態で、魔物に出会ってしまったらどうなるか子供でもわかる。領主もそんなことを、簡単に許すとは思えない。ボルタの村から領主の町までは、比較的平坦な道が続いて、商隊も通る道が整備されている。魔物は、森や泉や山岳地帯に生息していて、街道まで出てくる事は殆ど無い。

 しかし、領主の町からニグラまでは、街道沿いに進んでも、途中にマラガ渓谷を通らなければならない。海まで出て船で大陸を回るか、魔物の巣になっているイスラの大森林を、横切ってスナーク山を越えて行くしか無い。現実的な事を考えるのなら、マガラ渓谷を通るしかない。

 マガラ渓谷も深さが500メル以上はある。渓谷の幅が狭い場所に、作っている橋を渡る事になるが、橋まで100メルは降りなければならなく、その間には身を隠す場所も少なく魔物の格好の的になってしまう。そのためにも、護衛にLv.15程度の戦士を、複数雇う必要がある。パシリカの護衛には、ドムフライホーフに、着いた時にマルクトから護衛に対する報酬も出る。最初に、用意するものは、ドムフライホーフまでに必要になる食事代や必要経費だけになっている。パシリカは、国に取って大事な行事であり、ジョブを授かった子どもたちが、今後の国を背負う存在になってくれるように、大切にされている。

「なんでも、この前魔物狩りに出掛けて、コボルトを仕留めた事が関係しているようだ」

「コボルト?それだけで?おじさん。この村だけでも、独自で護衛を雇って行く事は出来ないの?」

「今、それを含めて話をしている。だが、ご領主のところに行くためには、3日後には村を出ないとならない。話をしている暇がない」

 村長が集まるにしても往復で2日以上は必要になる。もう遅かったのかもしれない。何を言っても無駄になりそうだ。

「おじさん。わかりました。明後日領主の所に向かい商隊と一緒に行けばいい?」

「そうしてくれるか?他の者もそれでいいか?」

 一様に不安顔であるが、諦めの感じで頷いている。
「わかりました。村長命令なのですよね。僕はそれに従います」

 それだけ言って部屋から出た。それを見て、マヤも立ち上がって、村長に一礼して、リンのあとを追った。
「リン、リン、待ってよ。どうしたの?」

 リンは立ち止まって、振り返った。
「マヤ。少し多めに鏃を用意しておいてくれ、あと必要ないかもしれないけど、護身用の短剣も用意して微量の毒を塗っておいてくれ」

「うん。解った。鏃は多めに用意するのはわかるけど、毒は魔物には効かないよ?」

「わかっているよ。魔物以外には有効だからな。野生動物もいるだろうからな」

「それでも、微量だと意味ないよね?傷つけても腫れて痕が残る位で致命傷にはならないよね?」

「なるべく動物や魔物を殺したくないからな。逃げてくれるのが一番だからな」

「そうだね。わかった、リンと私の分だけでいいよね」

「短剣は、マヤの分だけ用意すれば大丈夫だよ。僕は短剣が苦手だからな」

「解った。でも、私達だけじゃマラガ渓谷を超える事は出来ないよ」

「それも解っている。だから、なんとしても護衛をつけてもらうか、護衛が付いている商隊に潜りこむしか無いだろう?」

「そんなにうまくいくかな?」

「最悪は、マヤと二人で逃げ出して、他に、ニグラに向かう奴らと一緒に行く事も考えなきゃならないかも知れない。マラガ渓谷手前で、待っていれば何組かは、通るだろう」

「・・・そうだね」

 村長からの指示もあり、村での準備は問題なく終わった。村に立ち寄った商隊に合流して移動を開始する事が出来た。
 商隊には、護衛も数人居て、街道で問題になるような事はなかった。商隊の中では、マヤが子供の相手や料理をして過ごしていた。

「坊主。お前、テルメンの所の子供らしいな」

「そうみたいですね」

「なんだ!?そりゃ。お前も両親みたいに、探検家になるのか?」

「ならないですよ。そもそも、パシリカもまだですし、どんなジョブになるのかもわからないですからね」

「そういやそうだな」

 そう言って豪快に笑った。
 護衛の人は、両親を知っていて、何度か魔物退治を一緒に行った事があると言うことだった。
 すごいと褒めてくれていたが、両親の評判を外で聞くのは嬉しいけど、少しだけ恥ずかしい。

 街道には、数ケル進んだ所に広く開けた場所があり、商隊はそこまで進んで休む事になっている。他にも商隊が居て、安全の確保が簡単なことや、水・食料の融通もここで行われる。

 領主の城下町まで、予定通り3日で到達する事が出来た。

 魔物や、動物や、野盗に、襲われることなく進めたのが大きかった。

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