異世界でもプログラム

北きつね

第四十三話 透明な扉


 黒い獣の集団を駆逐して、下層に向う。
 次の階層には、魔物は居なかった。予想はしていた。黒い獣の集団は、一つの階層だけの魔物ではなかった。

「エイダ。黒い石が無いか調べてくれ」

『了』

 下層に向う階段を探しながら、黒い石を探す。

 階段を見つけるまでに、13個の黒い石を発見した。実際には、もっとあるのだろう。エイダの探索にも限界はある。

 黒い石が機能していることから、このダンジョンも制御室があるはずだ。
 最下層に設置されているはずの、制御サーバールームで”黒い石”を一斉に駆除したい。一斉の駆除が可能なら・・・。

 何も、得られない状態で階層を降りた。
 魔物は、黒い獣を駆逐してから遭遇していない。

 本当に、あの階層に集まっていたのか?
 ポップもしてこないのか?

 疑心暗鬼になってしまいそうだ。
 俺は、俺たちは、何か対応を間違えたのか?俺の作ったワクチンではダメだったのか?人為的に引き起こされた現象ではなく、ダンジョンの意思プログラムだったのか?

 ダンジョンの中なのに、魔物が出てこないと不安に感じてしまう。ダンジョンの仕組みを知った気になっていたが、まだ隠された機能がある。
 黒い石には、俺が、まだ気が付かなかった権能があるのかもしれない。

『マスター』

「どうした?」

『下層への階段があります』

 エイダが発見したのは、下層への階段だ。

「わかった」

 この草原の階層でも、数個の黒い石が発見できただけで、魔物は存在しなかった。
 それだけではない。

 少しだけ気になって確認をしていたのだが・・・。

「カルラ。採取はできたか?」

「いえ・・・」

 草原フィールドなら、採取が可能な物があるのだが、有益な物はもちろん、必要のない草を採取しようとして、地面から切り離すと、消滅してしまう。
 唯一、採取というか・・・。汲み取れたのは、池の水だけだ。

 木になっていた果物らしき物も、木から切り離すと消滅してしまう。

「わかった」

 何かが発生している
 エラーなのか?
 それとも、これが正常なのか?

 仕様書が欲しい。設計書が・・・。

「兄ちゃん?」

 アルバンが、下層に向う階段を指さして居る。
 魔物は見られない。やはり、階層主も居ないようだ。

「どうした?」

 俺は、階段に向って歩き始める。

「え?」

「え?兄ちゃん?見えないの?」

 カルラにも、何かが見えているようだ。
 俺にだけ見えない?

「エイダ!」

『マスター。階段の前に、扉が存在しています』

 扉?
 アルバンに誘導されるように近づくと、確かに何かが存在している。
 しかし、俺には何も見えない。

 どういうことだ?
 カルラにも見えているようだ。

 しかし、カルラとアルバンでは扉の色が違っている。

 俺とエイダ以外が、扉に触ると、微弱なダメージが入る。

 エイダでは扉は開けられない。
 俺では、扉が見えない。
 カルラとアルバンでは、扉に触ると継続ダメージが入る。

 階段があるのは、俺には見えている。

 扉を攻撃してみるか?

「カルラ。アル。少しだけ下がってくれ、扉を攻撃してみる。状況を見ていてくれ」

「はい」「うん」

 まずは、火からだ。
 確かに、扉がある。階段に吸い込まれる寸前で、何か着弾している。

 感覚的に、ダンジョンの扉だと思える。試しに、壁になっている部分に同じ威力の魔法をぶつける。
 多少の違いはあるが、同じような挙動をしめす。

「ダンジョンの壁のようだな」

 カルラもアルバンも同じ意見だ。
 そうなると、何かのトラップになっているのだろう。ダメージが入る扉は、今まで見た事がない。

「ねぇ兄ちゃん」

「なんだ?」

「おいらとカルラ姉が兄ちゃんを誘導して、扉を開けるのはダメ?あと、さっき気が付いたけど、カルラ姉とおいらでは、ダメージの種類が違うように思う」

「そうか?」

 カルラとアルバンが俺の攻撃を見て、違う色に見えたことから、カルラとアルバンで継続ダメージを離したら、違っていることが判明した。

 もしかして、俺が正しいのではなく、俺がイレギュラーな存在なのか?
 流れを見ると、俺が正しくて、カルラとアルバンが間違っているとは思えない。

 扉が見えるのが”標準”で、扉のダメージを受けないようにするのが、このトラップの意味なのでは?

 カルラとアルバンの違い。
 性差は存在している。種族も違う。しかし、俺が見えていないことから、アルバンと俺の違いに性差や種族の違いは当てはまらない。

 エイダにも扉があることは認識できている。
 しかし、エイダにはダメージが入らない。扉を開けることもできそうもない。

 属性か?
 俺は、全ての属性を持っている。だから、ダメージが入らない?

「アル。今から、アルに属性を付与する。扉の変化を報告してくれ」

「わかった」

 実験の結果、属性が扉の色に影響しているのがわかった。
 上位属性を付与しても、状況は変わらない。しかし、全部の属性を付与すると、扉が消える。

 俺が見えない理由はわかった。
 次は、罠の解除に取り掛かる。属性を付与している時に、”もしかしたら”レベルだが解ってきた。

 実験を継続した。
 俺の想像通りだ。

 CMYKに属性が対応している?
 ”火”=C
 ”風”=M
 ”水”=Y
 ”土”=K

 まぁ違っていても困らない。どうせ、パターンが解らないのだから、全部のパターンを試す。
 値の調整は難しそうだ。

 そして、扉を開けるには?

 今の状況では、四属性の攻撃を値合わせで行えばいいように思う。

 これは、プログラムを作れば、それほど難しくない。
 エイダを入れて、4つの属性が攻撃できる。タイミングを合わせるのは、トリガーを設定すればいい。

 込める魔力が違っても、プログラムで調整を行えばいい。
 端末を起動して、簡単にスクリプト程度のプログラムだ。それほど時間は掛からない。パラメータで、数値を渡せるようにしよう。

 この罠?は、今までにないまっとうな物だ。
 この場所には、本来はフロアボスが出ているのだろう。戦ってから、次にポップするまでに、罠を解析して、理解して、対策を行わなければならない。かなり、難しい。俺たちは、この場で魔石にプログラムを入れ込んで実験を行うことができる。

 何度目の調整で、扉が白く浮かび上がった。
 俺が見えたということは、罠の解除に成功したのだろう。

 割合を見ると、Kに込めた魔力を100とすると、CMYが40だ。
 リッチブラックの割合か?記憶に間違いが無ければ・・・。だけど・・・。

 憶測は意味がない。

 白くなって表示した扉は、俺が触っても大丈夫だ。カルラやアルが触っても大丈夫。

 さて、開ける方法は?

「旦那様。押しても開きません」

 そうだよな。
 俺が力を込めてもダメだ。

 扉を眺めていると、色が薄くなっていく、そうか、制限時間があるのか?

 もう一度、同じ攻撃を当てれば、白い扉が現れる。パターンの変更は無いようだ。よかった。

 反対色をぶつけてみるか?
 リッチブラックの反対は、ホワイトでいいのか?色は詳しくないから解らない。

 総当たりで試すしかないか・・・。

 全部を0にするのはプログラムが架けないと無理だ。
 0の属性を放出する?

 扉が開いた。

 できたから、深くは考えない。もしかしたら、各属性を持った者が扉を押せば開いた?

 今の階層が終わりだと嬉しいが・・・。

 違った。
 今度は、普通の階層だ。

 エイダがいうには、70階層だ。
 階層は、洞窟に変わって、道が続いている。
 奥には、大きな扉があるだけだ。

 扉を開けると、オルトロスがこちらを睨む。

「アル!カルラ!できるか?」

「もちろん!」「はい」

 二人の返事を聞いて、部屋に踏み込む。

「中央を、俺。赤い瞳をカルラ。青い瞳をアル。エイダは補助。行くぞ!」

 何をしなければいいのかは解っている。
 オルトロスとは、ウーレンフートで戦っている。

 対処も解っている。
 3つの頭が同時に咆哮をあげる時にだけ注意すれば、あとは中央を攻めている者に前足の攻撃が付与される。それ以外は、尻尾と後ろ足にだけ注意すれば大丈夫だ。

 先に、カルラが攻めていた赤い瞳を持つ頭が沈黙する。
 そうなると簡単だ。直後に青い瞳の頭も沈黙する。

「アル。カルラ。離れろ!」

 二人が離れたのを確認して、刀を構え直す。
 雷属性を纏って、足を飛ばす。あとは、作業だ。攻撃に注意しながら、ダメージをあてる。

 アルとカルラも、持っている遠距離の攻撃手段でダメージを与える。

 扉に入ってから、40分。
 オルトロスは光の粒になって消えた。そこには、魔法陣が一つと、奥に繋がる扉が現れた。

 どうやら、最下層の攻略に成功したようだ。

「異世界でもプログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く