咲かない花

せつな

あなたの気持ちが、分からない

それはあまりにも突然の報告だった。

「私、真樹くんに告白した。」

舞華は口から出そうになったオレンジジュースをごくんと飲み込み愛佳を凝視する。
その顔は嘘をついているようには見えなかった。

「昨日…先に家に帰るって言ったけど、本当は舞華に会いたくなかったからなの。」

ドックンと心臓が嫌な音をたてる。

「愛佳…。」
「真樹くん。好きな人がいるんだって。」

愛佳はいつものように愛らしく笑う。
だけど、舞華にはそれが無理をした笑い方だとすぐに分かる。
分かるからこそ、苦しい。

「…愛佳。」と伸ばした手を叩かれる。
驚きと絶望感で目の前が真っ白になる。

初めて、否定された。

「ねぇ、舞華は真樹くんが好きなの?」
「…何、言ってるの。そんなはずないでしょ?」

私が好きなのは…愛佳だよ。
そう言えたら、どれほど楽だろう。

「…知ってた?一階の東棟から美術室ってよく見えるんだよ。」

『東棟から美術室の電気がついてるのが見えたので。』

どうして、その言葉を思い出したのかわからない。
ただドクドクと心臓が早くなり額には嫌な汗が流れる。
嫌な想像ばかりしてしまう。

「ねぇ、どうして嘘つくの?昨日、2人で抱き合ってたのに、どうして?」
「違う!あれは、違うの!」
「何が違うの!?嘘ばっかり…私もう舞華と一緒に居るのが辛いよ。」

苦しそうに顔を歪め、大きな目からはポロポロと涙がとめどなく流れる。

こんなときでも、君は美しい。

「…愛佳。信じて。」
「…無理だよ。」

どうして上手くいかないんだろう。
私はただ、愛佳の側にいたいだけなのに。

涙を拭うことも、抱きしめることも、遠ざかるその背中を追いかけることもできない。
何もできない自分に腹が立って仕方がなかった。

舞華はグッと手に力を込め走る。
ただ一心に。

放課後だからといって、人がいないわけじゃない。
数人の生徒がチラチラとこっちを見ている。
廊下を必死に走っている姿はきっと滑稽に写っているに違いない。
しかし、今の舞華に人目を気にするほどの余裕なんてなかった。

「真樹」

そこには来るのを分かっていたように1人、静かに座っている真樹がいた。
そして優しく微笑みながら、「舞華先輩」と私の名前を呼ぶ。

「東棟から、愛佳が見てたの知ってたの?」

もしかしたら、ただの思い違い。
なのに現実は、どうしてこうも残酷なのだろうか。

「…はい、知っていましたよ。俺はずっと壊れてしまえばいいと思っていましたから、壊れたようで良かった。」

何も言わず、真樹に近づき思いっきり振りかぶり頬を打つ。
ジンジンと手が痛い。
女の力といってもきっと真樹も痛いのだろう。
だけど、許せなかった。

「…謝らないから。」
「はい。」
「…許さない。あんたを一生許さない!」
「はい。」

なんで…笑ってるの?
そんなに私が嫌い?
私が何をしたっていうのよ。

舞華はヒリヒリと痛み手を握りしめ、逃げるように教室を出た。

なんであいつが、そんな事をしたのか分からない悔しさと愛佳に信じてもらえなかった悲しさが舞華の足取りを重くさせていた。

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