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瑠璃の誘惑。メロンパンの誘惑。

本宮 秋

第2章 憂虞、高揚、危機 -4-

第4話

石探しを始めた時とは違い、だいぶ重装備になって来た。赤い橋の入り口にスクーターを止め、買ったばかりのウェーダーを履く。ウェーダーの底は滑らない様になっているので安心して川の中に入って行ける。防水加工のリュックを背負い、川の流れと共に下流へ歩いて行く。
昨日は、川岸を歩いていた。川岸といっても岸などほぼ無く、せり出した木々を掻き分けながら苦労しながら下った。

ところが今日は…… 堂々と川の中を歩いて行ける。流石に水量の多い川なので川の中心には入っていけないが、邪魔な木々を掻き分ける事なくジャブジャブと浅瀬を進む事ができた。

あっという間に昨日、黒曜石が取れた小さな川原迄来る事が出来た。

「初めからナカさんの言う通りにすれば良かった」

こんなに楽だったとは……
やっぱり経験者、年長者の言う事は大事なんだと思った。
昨日黒曜石を取ったばかりなので、この小さな川原は軽くスルーして先に進む。

この川原を機に、両サイドが狭くなり始め、崖の様な渓谷の様な雰囲気に。
当然、川も狭くなる為より水量が多く流れも速くなる。

川の中を歩いても、常に端の方に目を配りしっかり黒曜石も探す。
何だか、目も慣れてきたせいかすぐ近くでは無くても見える様になってきた。

と、目前にあの大きな岩、

昨日、あの岩の上でメロンパンを食べ…… そして僅かな物音にビビった場所。
大きな岩を前にし、とりあえず上で休憩かなと思い登ろうとした時、岩の下に黒曜石が。

「こんな所に、隠れる様に。
どれどれ〜〜」

手に取り、

「えっ、何だ? この色は…… 」

真ん丸な形の黒曜石だか、外側の一箇所に緑色っぽい薄い筋が見えた。

「苔かな? 藻かな? 緑色だよな。中まで緑色が残っていれば…… 面白いんだけど」

とりあえず大きな岩に登りリュックからハンマーを取り出す。
まずハンマーで割る前に岩に緑色の部分を擦ってみた。
擦った所を目を凝らして見ると……

緑色が…… 残ってる。

それどころか…… 緑色だけでは無く…… 薄い青っぽい色が。
少し石を持つ手が震えた。

「とうとう…… 出たかも…… 」

一呼吸入れ息を整え、ハンマーを握る。
飛び散らない様、リュックや自分の足で黒曜石を囲みハンマーを振り下ろす。
力が入り過ぎて石が何処かに飛んでいかない様、加減しながら何度もハンマーを振り下ろす。

綺麗に半分に割れた。

半分に割れた黒曜石の一つを手に取る。
薄っすらと緑? 青? の色が見えなくも無い。ただ薄い。黒いガラス越しに薄っすら。
もう片方の割れた石を見ると…… 黒い。

どうやら片側の端っこの方に、色が入っている様だ。

「ん〜〜。どうするべきか。ここでこれ以上割るのはやめた方が良いかな? 」

一度、ナカさんの家に持って行って割る事にした。

「ヤバイ。どうしよう『瑠璃』だったら」

『瑠璃黒曜』を探していたのに、いざそれらしい石を見つけたら急にあたふたし困惑してしまった。
薄っすら色がある石を太陽にかざし、よくみて見る。

その時…… 強い風が吹いた。

石をじっくり見ていた時だったので、ホコリなのか石に付いていた砂なのか、分からないが目に入った。
目がショボショボする中、黒曜石はしっかり握っていた…… が、つい足を後ろに一歩下がってしまった。
と、岩の小さな凹凸にバランスをとられ…… 訳が分からないまま後ろ向きに川に落ちた。
あまりの一瞬の出来事に何も出来ないまま落ちた。

川に落ち、まず思った事。

黒曜石を握り続ける事。

しかしそれよりも大変な事が……
ウェーダーを履いていた事。

川歩きには便利だが、川に落ち水が入ると…… ヤバイ。動けない、沈む、命を…… 落とす。
それに気付き慌てて脱ぐ。
だが脱げない。パニックになった。
駄目だと思ったが、背中から落ち身体がくの字だったので、足の部分に空気が溜まっていて片足だけ浮いていた。
浮いた片足を上にあげ続けながら必死に泳ぐ。というより藻搔いた。
今迄の人生で一番必死になって、藻搔いた。おかげで川の端の方まで来れたが、流れが強く立てない。浮き輪がわりの片足も怖くて下げられない。

と、頭上に…… 橋。

「えっ! ヤバイ白い橋。越えてしまった」

ここからは両岸は渓谷。
登れる所も掴まれそうな物も無い筈。
何度も手に握りしめていた黒曜石を離そうとしたが、出来ずにいた。
ただ流されるだけ。

本当にヤバイと思い、黒曜石を手放そうと決心した。

「クソ! せっかく…… 手にしたのに」

命あっての『瑠璃黒曜』。
そう思い石を手放そうとした時、目の前に掴まれそうな岩。
崖の様な川岸に突如、切れ目が。
垂直な崖と崖の間に切れ目があり、岩や木が崩れ落ちていた。僅かな隙間だけ崖崩れがあったのか。
おかげで川の中にも岩が落ちていて、その岩に掴まる事が出来そうだった。
ただ相変わらず流れがキツイ。岩に身体毎ぶつかる様にして、何とかしがみ付いた。

本当に死ぬ思いを味わった。おかげで息が落ち着かない。心臓もドキドキが止まらない。
水が入り重たくなったウェーダー。
岩に登れない程、下半身が重い。仕方なく下半身が水に浸かった状態のままウェーダーを脱ぎ捨てた。
あっという間にウェーダーは流されて行く程の流れ。あんなに重いのに沈まずに流されていった。今日買ったばかりのウェーダー。でもしょうがない、命には変えられない。
岩場に上がり四つん這いのまま、ゼエゼエと言いながら助かった事を実感したが…身体は震えていた。

ギリギリで手放さなかった黒曜石。
四つん這いの顔の前にあった窪みに黒曜石を置いた。

「よかった、助かって…… 石も手放さなくて…… 本当によかった」

ホッとして黒曜石を見る…… と石の先に何かが視線に入った。
黒い…… 毛⁈ の様な、例えるなら…… 動物の毛の様な。

黒い毛の動物の足が見えた。


第4話    終

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