君の嘘は僕を救う
3
  全く。
  平日のど真ん中に人の家に泊まって、明日の学校は大丈夫なのだろうか。
  と、僕は一瞬だけ明日が祝日なのを忘れてしまっていた。
「ワイシャツ、アイロンかけといたわよ」
  普段は僕がやる仕事だったのだが、美乃梨のワイシャツもあったので、洗濯やアイロンなど、家事は全て姉が行なった。
「えぇ!?ありがとうございます!」
  美乃梨が勢いよく頭を下げる。
  姉のパジャマを借りたため、少しだけサイズがぶかぶかになっていた。
「あの、お姉さ…」
「もう。無理しないで、昔みたいに『お姉ちゃん』でいいのよ?」
  あぁ、あの時はまだ女の子らしかったよ。美乃梨が。
「じ、じゃあ…お姉…ちゃん?」
「どうしたの?」
「その…なにか手伝えることがあったら、なんでも言ってね?」
「ふふ…ありがと。大人になったのねぇ」
  まるで親子みたいな会話だ。
  僕は2人だけの世界を邪魔しないよう、自室にこもったのだった。
  自室と言っても、昔は姉も美乃梨も自由に出入りしていた。中学校に入ってからは年齢の関係もあってか、美乃梨はなにかを気にして入らないようになったが、姉は相変わらず自由に出入りしている。
「………」
  僕の部屋には、ベランダが付いている。そこからの眺めは少しだけ良い。特に夜景が綺麗だった。
  そんな景色を、僕は黙って見ていた。
  今日も夜景が綺麗だ。
  少しだけ高台にある僕の家は、街の風景を一望するかのように佇み、僕と姉を守ってきてくれた。
  そんな家から、僕は今日も顔を出し、ため息をついた。
  ここからの景色は昔から変わらない。僕が両親と住む家を無くし、姉とこちらに越してきた、あの時から。僕が学校で傷ついて帰ってきた時も、受験に合格し、喜んで帰ってきた時も、家は温かく迎え入れてくれて…
「………ふぅ」
  事の終わりに、ここでため息をついていたのだ。
『つーかさ』
  ベランダにいた僕は、背後からの声にハッとなり、その声の主が美乃梨だと言うことにすぐに気が付いた。
「美乃梨?」
  ドア越しに声をかけたようだ。姿は見えない。
『…入ってもいい?』
「いいよ。別に言わなくてもいいのに」
  ゆっくりとドアが開く。先ほどと変わらない、姉のパジャマを着た美乃梨が少しだけ他人行儀で部屋に入ってきた。
「お、お邪魔しまぁす…」
「だから、別にいいって。小さい頃から何回も入ってるでしょ?」
  彼女は僕の言葉を聞き、少しだけ驚いたように僕の顔を見た。
「司、少しだけ雰囲気変わったよね」
「…そう?」
「そう。前は『構わないよ』とか、『幼い頃から』とか言ってたのにさ。少しだけ柔らかくなったと言うかなんというか…」
  言われてみれば、そんな気がする。
「咲凜のお陰かな」
「咲凜ちゃん…ねぇ…」
  美乃梨は頬をぷくーっと膨らませた。
  …気がした。
「あの子…やっぱり、なんか不思議だよね」
「…僕もそう思うよ。いくつか引っかかる部分があるしね」
「引っかかる部分?」
「そう。僕と彼女が初めて会った時、彼女は僕が読んでる本がクライマックスに差し掛かっていることを知っているように話しかけてきた。『クライマックスのところ申し訳ない』と」
「へぇ…えっと、いくつかってことは、他にもあるの?」
「あるよ。僕は住所を教えてないのに、遊園地からの帰り『わざわざ遠回りしてくれてありがとう』と、彼女は言った」
「え……」
「しかも、僕の味の好みを知ってたんだ。美乃梨とお姉ちゃんにしか言ったことないのに」
「あぁ〜。あの女の子みたいな味の好みね」
「だから他の人には言わないんだよ」
「なんで知ってたんだろうねぇ」
  会話が一段落し、僕が一瞬だけ視線を美乃梨に移すと、美乃梨はこちらを見ていたようで、ふふっと微笑んだ。
「いつぶりだろうね。こうやって、一緒にここから外の景色眺めるの」
「小学生…以来かな」
  美乃梨は家族のような存在だ。
「久しぶりだけど、やっぱりここって、なんかいいね」
  昔から変わることのない夜景を、美乃梨は噛みしめるように眺めていた。
  平日のど真ん中に人の家に泊まって、明日の学校は大丈夫なのだろうか。
  と、僕は一瞬だけ明日が祝日なのを忘れてしまっていた。
「ワイシャツ、アイロンかけといたわよ」
  普段は僕がやる仕事だったのだが、美乃梨のワイシャツもあったので、洗濯やアイロンなど、家事は全て姉が行なった。
「えぇ!?ありがとうございます!」
  美乃梨が勢いよく頭を下げる。
  姉のパジャマを借りたため、少しだけサイズがぶかぶかになっていた。
「あの、お姉さ…」
「もう。無理しないで、昔みたいに『お姉ちゃん』でいいのよ?」
  あぁ、あの時はまだ女の子らしかったよ。美乃梨が。
「じ、じゃあ…お姉…ちゃん?」
「どうしたの?」
「その…なにか手伝えることがあったら、なんでも言ってね?」
「ふふ…ありがと。大人になったのねぇ」
  まるで親子みたいな会話だ。
  僕は2人だけの世界を邪魔しないよう、自室にこもったのだった。
  自室と言っても、昔は姉も美乃梨も自由に出入りしていた。中学校に入ってからは年齢の関係もあってか、美乃梨はなにかを気にして入らないようになったが、姉は相変わらず自由に出入りしている。
「………」
  僕の部屋には、ベランダが付いている。そこからの眺めは少しだけ良い。特に夜景が綺麗だった。
  そんな景色を、僕は黙って見ていた。
  今日も夜景が綺麗だ。
  少しだけ高台にある僕の家は、街の風景を一望するかのように佇み、僕と姉を守ってきてくれた。
  そんな家から、僕は今日も顔を出し、ため息をついた。
  ここからの景色は昔から変わらない。僕が両親と住む家を無くし、姉とこちらに越してきた、あの時から。僕が学校で傷ついて帰ってきた時も、受験に合格し、喜んで帰ってきた時も、家は温かく迎え入れてくれて…
「………ふぅ」
  事の終わりに、ここでため息をついていたのだ。
『つーかさ』
  ベランダにいた僕は、背後からの声にハッとなり、その声の主が美乃梨だと言うことにすぐに気が付いた。
「美乃梨?」
  ドア越しに声をかけたようだ。姿は見えない。
『…入ってもいい?』
「いいよ。別に言わなくてもいいのに」
  ゆっくりとドアが開く。先ほどと変わらない、姉のパジャマを着た美乃梨が少しだけ他人行儀で部屋に入ってきた。
「お、お邪魔しまぁす…」
「だから、別にいいって。小さい頃から何回も入ってるでしょ?」
  彼女は僕の言葉を聞き、少しだけ驚いたように僕の顔を見た。
「司、少しだけ雰囲気変わったよね」
「…そう?」
「そう。前は『構わないよ』とか、『幼い頃から』とか言ってたのにさ。少しだけ柔らかくなったと言うかなんというか…」
  言われてみれば、そんな気がする。
「咲凜のお陰かな」
「咲凜ちゃん…ねぇ…」
  美乃梨は頬をぷくーっと膨らませた。
  …気がした。
「あの子…やっぱり、なんか不思議だよね」
「…僕もそう思うよ。いくつか引っかかる部分があるしね」
「引っかかる部分?」
「そう。僕と彼女が初めて会った時、彼女は僕が読んでる本がクライマックスに差し掛かっていることを知っているように話しかけてきた。『クライマックスのところ申し訳ない』と」
「へぇ…えっと、いくつかってことは、他にもあるの?」
「あるよ。僕は住所を教えてないのに、遊園地からの帰り『わざわざ遠回りしてくれてありがとう』と、彼女は言った」
「え……」
「しかも、僕の味の好みを知ってたんだ。美乃梨とお姉ちゃんにしか言ったことないのに」
「あぁ〜。あの女の子みたいな味の好みね」
「だから他の人には言わないんだよ」
「なんで知ってたんだろうねぇ」
  会話が一段落し、僕が一瞬だけ視線を美乃梨に移すと、美乃梨はこちらを見ていたようで、ふふっと微笑んだ。
「いつぶりだろうね。こうやって、一緒にここから外の景色眺めるの」
「小学生…以来かな」
  美乃梨は家族のような存在だ。
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