君の嘘は僕を救う

モブタツ

  私はいくつもの失態を重ねてしまった。司の好物は家族にしか教えていなかったはずなのに、私は知っているような口調で、というか知っていることを隠さずに話してしまった。じぇっとこーすたーという乗り物は「こっち」で知っているのは当たり前なようで、知らない方がおかしいらしい。
  まだ「記憶をなくしているから」という理由で言い訳ができているが、そのうち大きな失態を犯してしまいそうで怖い。
  そして私は昨日、司にあることを聞かれた。
『どこの学校に通っているのか』
  そこまでは考えていなかった。あの時、私が思わず息を呑んでしまったのは、きっと彼にも伝わってしまっているだろう。
  今日は司のお姉さんの所に会いに行く。先日、容態が急変してしまったらしいので、そろそろ薬の効果が効いてきても良い頃のはずなため。また、私が司の友達であるということを証明するためだ。
「司の小さい頃の話?」
  美乃梨ちゃんが私に聞き返してきたので「そう!」と目を輝かせて言ってみる。
  小さい頃の話は、私が幼い頃に本人つかさから良く聞かされていたのだが。
「なんか可愛い話とか、面白い話!ない!?」
「そ、そうだなぁ…昔のことって言ったら、震災の話くらいしか…」
  廊下で彼の歩みが止まった。
「あ…ごめん司。この話は…」
  司にとっては辛い話だよね、そう続けようとした美乃梨を、彼は止めた。
「まだ、咲凜には話してなかったね」
「……?」
「暗い話でもいいのなら、話すけど」
「暗い話…いいよ。司の話ならなんでも聞く」
  自分で言っておいて「やばい…今のは『僕の恋人か?』とか思われちゃったかも」と心配をしてしまう。
「僕が8歳の頃。あ、もちろん美乃梨も咲凜も8歳だね。その時、大震災があったでしょ?僕はその時、自分の家にいたんだ」
「うんうん」
「二階建てだったんだけどさ。二階の、自分の部屋にいた。その時、親とお姉ちゃんはそれぞれの用事で外出してた」
  …だからあの時、司君しかいなかったんだね。
「家に僕しかいなかった時、震災が起きたんだ。大きな揺れだった。家はあっという間に潰れ、僕は瓦礫と倒れてきたタンスに潰されて身動きが取れなくなった」
「それで、司はどうやって助かったの?」
「知らない人が、瓦礫の中から出してくれたんだ。怪我はないかって聞かれて、なぜか僕の名前も知ってた。僕を背負って避難所まで送り届けてくれたんだ。僕が家族を探しに行っている間に、その人はいなくなっちゃったから…その人が誰だったのかは分からないんだけど」
  そこまで話すと、司のお姉さんが入院している病室に着く。
  だから、私は最後にこれだけは聞いておきたかった。
「その女の人の顔は見たの?」

  私の顔は、しっかりと見たのか。と。

「いや、フードを被っていたから見れてないんだ」
  そう。私はあの時、フードを深々と被った。顔を見られないために。
  私達は、ゆっくりと病室に入って行く。
  美乃梨ちゃんが顔をしかめてこちらを見ていた。
   病室に入ると、ベットの上で、目を覚ました司のお姉さんがこちらを驚いた顔で見ていた。
「お姉ちゃん!よかった。目が覚めて…」
「私…気を失っていたのね」
「よかった…お姉さん、死んじゃうんじゃないかって心配したんだから…」
「………」
  お姉さんは私と目を合わせようとはしなかった。
  どうしよう。
  司には「司の姉と咲凜は今日が初対面」ということを演じないといけない。司のお姉さんには「司は前から友達」ということを証明しないといけない。
  なのに、一言も話すことができない。
  緊張が邪魔をしているのか、それとも何か失敗することを恐れているのか。話を切り出すことができない。
「ねえ司?私、喉が乾いたから、何か飲み物を買ってきて欲しいんだけど」
  突然、司のお姉さんはベットの横に設けられているの机の引き出しを開け、財布を取り出した。
「これで、人数分の飲み物を買ってきてくれない?」
  差し出された千円札を、司が受け取る。
「分かった。行ってくる」
  司は黙って病室を後にし、「うちも行ってくる!」と美乃梨ちゃんも元気に飛び出して行った。
  二人がいなくなったのを確認し、お姉さんは私に優しく微笑んだ。
「…あなたにはお礼を言わなければいけないわね」
  病気が治った。そういうことだろう。
「私は薬を渡しただけですよ。それに、私の頼みごとだって聞いてくれたんですから」
「咲凜ちゃん、よね。そろそろ、訳を教えてくれてもいいんじゃない?」
「………っ」
  …やっぱり、そうなるよね。

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