君の嘘は僕を救う

モブタツ

  電話のボタンを押す。彼の…司の、端末の通話コード…電話番号だ。
  プルル、プルルと短い音が何度も耳元から聞こえてくる。
  すごい。
  本当にこんな音がするんだ。
  突然、呼び出し音が止む。司が電話に出たのだ。
  手帳にメモしておいたセリフを読み上げる。
「こんばんは。司。明日、何か予定ある?」
  そして彼も、私の手帳に書いてあるような事を答えた。
『特に何も』
  うん。順調。
「よかったぁ…。明日ね、ちょっと、一緒に出かけて欲しいんだ」
  唐突に言ってしまったが、問題はない。
『どこに?』
  彼はこう尋ねてくれるからだ。
「遊園地!」
  よしよし。すごく順調。このまま何もトラブルなく終わりたい。
『…どうして僕となの?』
「だからぁ!私が覚えているのは君のことだけなんだって言ったじゃん!だから、2人で一緒に行動するの。そうしたら、記憶が戻ってくるかもしれないじゃん!」
『まぁ、そうなんだけど。じゃあどうして遊園地に行くの?』
  思いがけない彼からの質問に、私は静かにあたふたとしてしまう。
  こんな質問が来るなんて聞いてないよ。
  何か、返事をしないと。質問されてからもう十数秒は黙ってしまっている。
  嘘はダメだ。『記憶を無くしたという嘘』以外は、つきたくない。
  私は慌てて手帳をめくる。電話ボックスの中でめくっているせいか、ペラペラと大きな音が響いてしまった。
「…パパに…親に教えてもらったの。私が司と行く場所。その中に遊園地があったからさ」
  とっさに出た言葉。嘘はついていない。
  うまくごまかせただろうか。
  彼は何も言わない。数秒黙り込んだ後、彼は不思議そうに口を開いた。
『『私が行った場所』じゃないの?』
  何かおかしな事を言っただろうか…?
「え?」
『いや、だから『私と司が行く場所』じゃなくて『私が昔行った場所』をお父さんから聞いたんじゃないの?』
  鋭い。鋭すぎる。
  やっぱり、相手は司君なんだ。
「あ、え、えっと…その…記憶がないから、かなぁ〜…行った覚えがないからさ。あはは」
  再び、沈黙の時間が流れる。
  私は手に汗を握り、返事を待つ。
『そっか。まぁ、いいよ。一緒に行っても』
  良かった。失敗したのかと思った。
「本当に!やったぁ!」
  これで一安心だ。
  と、思った時。
『その代わりさ』
  電話は続いた。
「ん?なーに?」
  何気なく、聞き返す。
『その代わり、君が隠していることを、僕に教えてくれない?』
「……え?」
  あまりにも予想外の事を言われ、驚いて全身が固まってしまった。
「…………何を言ってるの?」
  何か、何か言わなくちゃ。
  私が司君に、いや、司に、隠している事。
  それは、司以外にも明かすことはできない。私一人での戦い。
『いや、別に。なんでもない』
  これからも、私は彼のこの優しさに助けられるのかもしれない。彼の気遣いに満ちたその言葉を聞いた私は心からそう思ったのだった。
『集合場所とか集合時間とかはどうするの?』
  そうだ。まだそれを決めていなかった。
「あ、えっと、そうだよね…」
  私は慌てて腕時計の電源をオンにする。
  ピコンと大きな音が鳴ってしまい、彼に聞こえたのではないかとさらに慌ててしまった。
“最寄駅の改札 9時”
  時計のメモ機能に書いてあったこの文字を見て、私は頭が真っ白になってしまった。
  これは…かいさつと…読むのだろうか…?
「えっと…最寄駅の…かいさつ…に、9時に集合で」
『分かった。じゃあ、また明日ね』
  彼のその反応からすると、きっと読み方は合っていたようだ。
「うん!また明日!」
  こんな調子で、私は上手くやっていけるのだろうか。
  もう、不安で不安で仕方がない。
  私は彼を救えるのか。
  いや、救わなければならない。
  それは、彼が私にとってかけがえのない存在なのだから。

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