君の嘘は僕を救う

モブタツ

  翌日。
  学校が終わり、僕と美乃梨は、病院の下で咲凜と合流した。
「司の小さい頃の話?」
  美乃梨が咲凜に聞き返すと「そう!」と目を輝かせながら僕を見た。
「なんか可愛い話とか、面白い話!ない!?」
「そ、そうだなぁ…昔のことって言ったら、震災の話くらいしか…」
  姉のいる病室に向かう途中、廊下で僕の歩みが止まった。
「あ…ごめん司。この話は…」
  司にとっては辛い話だよね、そう続けようとした美乃梨を、僕は止めた。
「まだ、咲凜には話してなかったね」
「……?」
「暗い話でもいいのなら、話すけど」
「暗い話…いいよ。司の話ならなんでも聞く」
  君は僕の恋人か?と少し疑問に思ったが、気にしないことにする。
「僕が8歳の頃。あ、もちろん美乃梨も咲凜も8歳だね。その時、大震災があったでしょ?僕はその時、自分の家にいたんだ」
「うんうん」
「二階建てだったんだけどさ。二階の、自分の部屋にいた。その時、親とお姉ちゃんはそれぞれの用事で外出してた」
  熱心に聞く咲凜を見て、不思議な子だなと改めて思う。
「家に僕しかいなかった時、震災が起きたんだ。大きな揺れだった。家はあっという間に潰れ、僕は瓦礫と倒れてきたタンスに潰されて身動きが取れなくなった」
  コツコツと靴の音が響く廊下で、僕はさらに続けて話した。
「お姉ちゃんも親も、すぐに僕達の家があった場所に駆けつけてくれたんだ。でも、瓦礫の量が多すぎて僕を見つけてはくれなかった。間も無く、津波が来ると言われて3人は連れていかれてしまった」
「それで、司はどうやって助かったの?」
「知らない人が、瓦礫の中から出してくれたんだ。怪我はないかって聞かれて、なぜか僕の名前も知ってた。僕を背負って避難所まで送り届けてくれたんだ。僕が家族を探しに行っている間に、その人はいなくなっちゃったから…その人が誰だったのかは分からないんだけど」
  そこまで言うと、姉のいる病室に着いた。
「その女の人の顔は見たの?」
「いや、フードを被っていたから見れてないんだ」
  そんな話をしながら、僕達は病室に入る。
  ベットの上には、目を覚ました姉がこちらを驚いた顔で見ていた。
「お姉ちゃん!よかった。目が覚めて…」
「私…気を失っていたのね」
「よかった…お姉さん、死んじゃうんじゃないかって心配したんだから…」
「………」
  咲凜は、近くで黙って見ていた。姉は、なぜか咲凜を見ようとはしない。
「ねえ司?私、喉が乾いたから、何か飲み物を買ってきて欲しいんだけど」
  そう言いながら、姉はベットの横に設けられているの机の引き出しを開け、財布を取り出した。
「これで、人数分の飲み物を買ってきてくれない?」
  差し出された千円札を受け取る。
「分かった。行ってくる」
  病室を出ると、中から「うちも行ってくる!」と美乃梨の声が小さく聞こえた。

  咲凜だけを病室に残し、美乃梨と僕は自動販売機のあるコーナーに向かった。
「ねぇ。司?」
  隣を歩いていた美乃梨が、僕の視界にひょっこりと顔を出す。
「どうしたの」
「なんか、あの子、言ってることおかしくなかった?」
  あの子、とは、咲凜のことだろう。
「僕もそう思う」
  そう。彼女はまた、おかしなことを言った。
『その女の人の顔は見たの?』
  この言葉。
「司、『女の人』なんて一言も言ってないのに…」
  彼女の言う通り。僕は一度もそんな事は言っていない。
  それに、もう一つ不自然なことがあった。
  それは、病室に入った時のこと。姉の前に来た時、彼女はなにも喋らなかった。あの、誰とでも仲良くできそうなオーラを持つ彼女が、自己紹介すらしなかったのだ。
「………司?」
「え?あぁ、ごめんごめん。無視するつもりはなかったんだけど…」
「どうせ考え事でしょ?堅物くん♪」
  だから、今病室に2人っきりにしてしまったのはまずい気がする。気まずい雰囲気が流れているような、そんな気がするのだ。
「…ねえ。司」
  自動販売機の前に着き、美乃梨はずらりと並んだ飲み物を眺めながら言った。
「あの子、何か隠してるんじゃないかな」
  僕も同じ考えだった。

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