君の嘘は僕を救う

モブタツ

  翌日。
  いつもの外出用の私服に着替え、家を出て、駅まで徒歩数分。そこに彼女はいた。
「おはよ〜!」
  こちらに向かって元気よく手を振る彼女の笑顔は、辺りの物陰をも明るく照らしてしまいそうなくらいに眩しいものだった。
「おはよう。早いね」
「うん!早起きしちゃってね…あはは」
  集合時間の30分前。万が一のことを考えて早めに家を出たのに、彼女はすでに集合場所のベンチに座っていた。
  ただ、遊園地は10時に開くはずなのだ。
「まだ、開かないよね?」
「ん?何が?」
「…遊園地」
  …他に何があるんだろう。
「え!?そうなの!?」
「知らなかったんだ」
「全く知らなかった!じゃ、ここで座って話そうよ!あ、その前にトイレ行きたい!」
  考えていることはすぐに言葉に出てしまう癖があるのだろうか。忙しい人だ。
「分かったから、落ち着いて」

  彼女と交代するように僕が行き、帰ってきたとき、僕は不思議な光景を見てしまった。
  彼女が着けている腕時計。その画面から出ている光。いや、最初は光に見えたのだが、今は違った。
  光で形成された光の画面が、腕時計から何もない場所に映し出されていたのだ。
  どんな原理なのか。こんな腕時計、社会に浸透していたらテレビで紹介されるはず。僕が知らないはずがない。
  そして、その光でできた画面を『彼女はタッチパネルのように指で操作して』いた。
  光の画面が消えると、彼女は寂しそうに、静かに一度だけ深いため息をついた。
「具合でも悪いの?」
「うわぁ!?びっくりした」
  彼女は驚き、もう一度ハッとしてから僕の顔を見つめた。
「…いつからいたの?」
「今帰ってきたばかりだけど」
  やっぱり、さっきの『あれ』は見ていけないものだったのだろうか…。
「そっか。あ、そろそろ開くかな?」
「50分か…そろそろ開くんじゃないかな」
  僕は珍しく、探り合い…駆け引きをしてみようという気持ちになる。
「その時計、なんかハイテクそうな見た目してるよね」
  彼女の歩みが止まる。まだ僕に背中を向けたままなのに、なぜか焦りを感じることができた。
「どこで売ってたの?」
「パパが持ってたのをもらっただけだから。知らない」
  前を見たまま話す。なぜこちらを向かないのかは分からないが、やはり、彼女には何か事情がある。
「あ!あれすごい!」
  指を指した先にあったものは。
「あぁ、ジェットコースターか」
  それだった。
「…じぇっとこーすたー…って言う名前なの?」
「…え?」

  良い家の出身の子なのだろうか。彼女は遊園地の中に入った後も、アトラクションの殆どの名前を知らなかった。
  ここで、ある疑問が生じる。
  僕と昔に行った(?)と言っていた遊園地に来たのに、アトラクションの名前を知らない。開園時間も知らない。ましてや「改札」と言う言葉もぎごちない。
  一度来た場所のはずなのに、なぜそこまで知識がないのだろうか。
  それとも、記憶喪失…その影響なのか。
「司は何にする?」
  彼女の言葉で、僕は我に帰った。
  遊園地に入ってから2時間ほど経っただろうか。園内のアトラクションを半分制覇し、今は甘いものを食べようとクレープ屋の前にいるところである。
「うーん…」
  目の前にあるメニューを見て唸る。
  これも良いがこれも捨てがたいと、そんな調子で決まらない。
「抹茶とチョコで迷ってる?」
  …その通りだ。
「え、なんで分かったの」
「何となく、かな」
  僕は苦味の少ない抹茶か、苦味がマイルドなチョコのお菓子が一番好きだ。逆に、他のものは眼中にない。僕の好みを、彼女は知っていたのだろうか。
「ここは抹茶の方が美味しいよ」
  お店の前で言うことではないが、大切な助言だ。
「ここの抹茶は、まろやかな感じなんだよねぇ。ここのチョコは、苦味が強いからさ」
  そこまで言って、彼女はハッとなった。
  僕も、あれ?と言う気持ちになる。
「どうして僕の好みを知ってるの?」
「え、えっと…」
  おかしい。やっぱり、何かがおかしい。僕は小さい頃から、男の子なのに甘いものを好きなのは女の子みたいだからと言う理由で両親と姉以外には教えたことがない。言ったとしても、それは嘘をついているはず。
  どうして僕の好きな食べ物を知っているような口調で話したのだろう。
「勘、かな」
  頭に手を当て「えへへ…」といかにも誤魔化すような笑い方で、彼女は答えた。
  不思議な少女だ。謎が多すぎる。
  もしかしたら僕も記憶喪失になっているのではないかと思ってしまうくらい、この子との昔の記憶は消えていた。
  ただ、彼女と一緒にいると、気疲れしてしまう気がした。
  …考えることが多いからだ。
「君って、やっぱり不思議な人だね」
  人柄も。言動も。その腕時計も。
「次に行くアトラクション、決めようよ!」
「…はいはい」
  でも、彼女と一緒にいる時間はとても楽しいような気もした。

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