君の嘘は僕を救う
3
  彼女から連絡があったのは、僕の電話番号を彼女に教えたその日の夜。本当に公衆電話からかけているようで、電話番号は非通知だった。
『こんばんは。司。明日、何か予定ある?』
  スマホ越しに聞こえる彼女の声に、僕はかなり驚いてしまった。コミュニケーション能力のようなものがあったとしても、流石にここまで思い切ったことが言えるだろうか。
「特に何も」
  そして彼女のすごいところは、彼女の話し相手までを話しに引き込む力があることだ。会話にぎこちなさがなく、話し相手と自分自身だけの空間を作り出す、そんな力だ。
『よかったぁ…。明日ね、ちょっと、一緒に出かけて欲しいんだ』
「どこに?」
『遊園地!』
  遊園地?僕と咲凜の2人っきりで?
「…どうして僕となの?」
『だからぁ!私が覚えているのは君のことだけなんだって言ったじゃん!だから、2人で一緒に行動するの。そうしたら、記憶が戻ってくるかもしれないじゃん!』
「まぁ、そうなんだけど。じゃあどうして遊園地に行くの?」
  そこまで僕が喋ると、しばらく彼女の声が聞こえなくなった。代わりに聞こえてきたのは何か本のようなものをペラペラとめくるような音だ。
『…パパに…親に教えてもらったの。私が司と行く場所。その中に遊園地があったからさ』
  …何かおかしくはないだろうか。
「『私が行った場所』じゃないの?」
『え?』
「いや、だから『私と司が行く場所』じゃなくて『私が昔行った場所』をお父さんから聞いたんじゃないの?」
『あ、え、えっと…その…記憶がないから、かなぁ〜…行った覚えがないからさ。あはは』
  なるほど。
  僕は今の言葉を聞いて、あることを確信した。
「そっか。まぁ、いいよ。一緒に行っても」
『本当に!やったぁ!』
  時々彼女から発せられる違和感のある言葉。不自然な反応。作り笑いの声。
  彼女は、何か大切なものを隠しているのではないだろうか。
  それは僕には言えないこと…?
  記憶がなくなり、唯一覚えていた存在である僕「司」にも言えないことなのだろうか。
「その代わりさ」
『ん?なーに?』
  僕は相手が何か隠して、それを知りたいと思ったとき、探り合いのような、駆け引きのようなものがとても苦手だ。
  だから、僕はすぐに聞いてしまう。
「その代わり、君が隠していることを、僕に教えてくれない?」
『……え?』
  本当に、僕は人付き合いが苦手だ。
『…………何を言ってるの?』
  長い沈黙の後、怯えるような声で僕に問いかけてきた彼女の声は、どういうことなのか、電話越しでもわかるくらいに震えていた。
「いや、別に。なんでもない」
  これ以上踏み込んではいけないような気がした僕は、もう質問はしなかった。
「集合場所とか集合時間とかはどうするの?」
『あ、えっと、そうだよね…』
  今度は、彼女の奥でピコンという、機械の音がした。
「…?」
『えっと…最寄駅の…かいさつ…に、9時に集合で』
  改札という発音がぎこちないが、これ以上は家庭の事情に触れてしまいそうなので質問するのはやめておこう。
「分かった。じゃあ、また明日ね」
『うん!また明日!』
  電話を切った瞬間、部屋の中は僕の吐息の音以外何も聞こえなくなってしまった。
  彼女は何者なのか。この疑問の謎は深まるばかりだ。
  そして、彼女は何もかも知らなすぎる。知識がない。ケータイも持っていない。いくら記憶が無くなったからと言っても、流石にそんな記憶まで消えるものだろうか。
  いや、彼女には不自然で、かつ意味深な言動が多く見受けられた。
  過去に、彼女は何か経験しているのではないだろうか。
  彼女は何をしてきたのか。
  彼女は何を経験したのか。
  彼女が見てきたモノは、何なのだろうか。
『こんばんは。司。明日、何か予定ある?』
  スマホ越しに聞こえる彼女の声に、僕はかなり驚いてしまった。コミュニケーション能力のようなものがあったとしても、流石にここまで思い切ったことが言えるだろうか。
「特に何も」
  そして彼女のすごいところは、彼女の話し相手までを話しに引き込む力があることだ。会話にぎこちなさがなく、話し相手と自分自身だけの空間を作り出す、そんな力だ。
『よかったぁ…。明日ね、ちょっと、一緒に出かけて欲しいんだ』
「どこに?」
『遊園地!』
  遊園地?僕と咲凜の2人っきりで?
「…どうして僕となの?」
『だからぁ!私が覚えているのは君のことだけなんだって言ったじゃん!だから、2人で一緒に行動するの。そうしたら、記憶が戻ってくるかもしれないじゃん!』
「まぁ、そうなんだけど。じゃあどうして遊園地に行くの?」
  そこまで僕が喋ると、しばらく彼女の声が聞こえなくなった。代わりに聞こえてきたのは何か本のようなものをペラペラとめくるような音だ。
『…パパに…親に教えてもらったの。私が司と行く場所。その中に遊園地があったからさ』
  …何かおかしくはないだろうか。
「『私が行った場所』じゃないの?」
『え?』
「いや、だから『私と司が行く場所』じゃなくて『私が昔行った場所』をお父さんから聞いたんじゃないの?」
『あ、え、えっと…その…記憶がないから、かなぁ〜…行った覚えがないからさ。あはは』
  なるほど。
  僕は今の言葉を聞いて、あることを確信した。
「そっか。まぁ、いいよ。一緒に行っても」
『本当に!やったぁ!』
  時々彼女から発せられる違和感のある言葉。不自然な反応。作り笑いの声。
  彼女は、何か大切なものを隠しているのではないだろうか。
  それは僕には言えないこと…?
  記憶がなくなり、唯一覚えていた存在である僕「司」にも言えないことなのだろうか。
「その代わりさ」
『ん?なーに?』
  僕は相手が何か隠して、それを知りたいと思ったとき、探り合いのような、駆け引きのようなものがとても苦手だ。
  だから、僕はすぐに聞いてしまう。
「その代わり、君が隠していることを、僕に教えてくれない?」
『……え?』
  本当に、僕は人付き合いが苦手だ。
『…………何を言ってるの?』
  長い沈黙の後、怯えるような声で僕に問いかけてきた彼女の声は、どういうことなのか、電話越しでもわかるくらいに震えていた。
「いや、別に。なんでもない」
  これ以上踏み込んではいけないような気がした僕は、もう質問はしなかった。
「集合場所とか集合時間とかはどうするの?」
『あ、えっと、そうだよね…』
  今度は、彼女の奥でピコンという、機械の音がした。
「…?」
『えっと…最寄駅の…かいさつ…に、9時に集合で』
  改札という発音がぎこちないが、これ以上は家庭の事情に触れてしまいそうなので質問するのはやめておこう。
「分かった。じゃあ、また明日ね」
『うん!また明日!』
  電話を切った瞬間、部屋の中は僕の吐息の音以外何も聞こえなくなってしまった。
  彼女は何者なのか。この疑問の謎は深まるばかりだ。
  そして、彼女は何もかも知らなすぎる。知識がない。ケータイも持っていない。いくら記憶が無くなったからと言っても、流石にそんな記憶まで消えるものだろうか。
  いや、彼女には不自然で、かつ意味深な言動が多く見受けられた。
  過去に、彼女は何か経験しているのではないだろうか。
  彼女は何をしてきたのか。
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