君の嘘は僕を救う

モブタツ

[君が見てきたモノ]1

  今からちょうど8年前。僕は一度死にかけた。歴史に残る大震災。僕が住んでいた家は全壊。いつもお世話になっていたその「家」に、僕は潰された。二階にいたのが幸いだったのか、圧死することは免れたが、もしも僕がその場に留まっていたら津波が来て死んでいたかもしれない。
  そして、僕の命は見知らぬ人に助けられた。なぜか僕の名前を知っていたため、僕の知り合いだったのかもしれないが、頭を強くうち、意識がぼんやりとしている中だったことと、その人はフードを深々と被っていたこともあって、顔は見れていない。
「司?なにぼーっとしてるの?」
  そんな風に昔の事を思い出していると、幼馴染の美乃梨(みのり)は僕の視界にひょっこりと顔を出した。
「いや…別に」
「また考え事?ほんとに堅物くんだなぁ…」
  僕と美乃梨は物心ついた頃からいつも一緒にいた。幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。高校も一緒で、挙げ句の果てには同じクラスにもなってしまった。
「ほら。帰ろ?」
  そして、今は登下校を共にする仲だ。
  どういう経緯になったのか、僕は美乃梨の部活が終わるまで本を読み、終わったら一緒に帰るという流れがいつの間にか出来上がっていた。
  他愛のない雑談から、他人の恋話。昨日のニュースの話から、今日の朝ごはんの話。
  不思議なことに、いつも話が途切れることは一度もなかった。
  学校を出てから、住宅街を通り、商店街の隣を抜ける。団地の敷地内の隅っこに坂がある。そこを登りったところに、見晴らしの良い公園があった。
「じゃ、また明日ね、司」
「うん。また明日」
  ここで美乃梨とは別れる。そのまま公園に入り、ベンチに座って文庫本を開く。ここで30分くらい時間を潰すのが日課だ。
「…………」
  この公園の周りは人通りが少なく、ましてや時間は午後6時。日が暮れ始めている。子供が遊ぶ時間ではないので、本当に人はいなかった。
「………………」
  小説内では話がクライマックスに差し掛かっている。
「…………………………」
  僕はどんどん小説内の世界に引き込まれて行った。面白い。今回の本は結構当たりのようだ。
「ねえ。ねえねえ」
  珍しい。この公園に人が来るなんて。誰かを呼んでいるということは、二人組だろうか?
「ねえ。君だよ。君」
  否。一人だ。どうやら僕を呼んでいるようで。
「ぼ、僕?」
  前を見ると、いつもここを通る女の子がいた。髪が長くて、目がぱっちりしている。いかにも「元気」な女の子。
「いつもここで本読んでるよね?」
「そうだけど…何か用?」
  僕の言葉を聞き、彼女は目をキョロっと見開いた。
「あ、えっと…クライマックスのところ申し訳ないね…別に怪しいものではないから、安心して!」
「…そんな心配はしてないんだけどね」
「今読んでる本って、なんていう本?」
「…これだけど」
  どうしてそんなことを聞くのだろうか。不思議な子だ。
「あ!この人だ!」
…ん?
「これ、面白いよね!私も読んだよ!」
  今何か、おかしかったような気がする。
「君、名前は?」
  この子は勢いがすごい。コミュニケーション能力というか、そんな感じのものを持っているのだろうか。
「…司」
  僕の名前を聞いた彼女は、嬉しそうに眩しい笑顔を見せた。
「司…ね。私は咲凜(えみり)。よろしくね」
「咲凜…?変わった名前だね」
「…この時代ではね」
「え…?」
「また明日もここに来る?」
  今何か…。
「う、うん。もちろん。」
  やっぱり何か…おかしかった気がする…。
「じゃあ、もう真っ暗になっちゃうし、また明日話そ!」
  何を?
  何を話すんだろう。
  今初めて会った人に。
「別に良いけど…どうして?」
「?」
「今会ったばかりなのに、どうしてそんなに…仲良くしようと思うの?」
  どうしてそんなに悲しそうな顔をするのだろうか。
「君とは…一度だけ会ってるんだ」
「そうなの?」
「うん。まぁ、忘れちゃっても無理はないね。じゃ、また明日ね!バイバイ!」
「あ……」
  呼び止める前に、彼女は遠くに消えてしまった。
  あの子は…なんだか不思議な子だった。誰とでも仲良くできそうなオーラを出していて、明るくて、笑顔が眩しい。僕とは正反対の人だ。こんな人と接点はないだろうと思っていたのに。どうして僕に声をかけたんだろう。
  そして、あの子はどこか不自然な言い方をしていた気がする。
  彼女は何者なのだろうか。
  様々な疑問が脳内を回る中、僕はゆっくりと帰路を辿った。

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