色々な物語
暗闇の森と不思議な女性
暗闇なんて怖くなかった。
僕はあの日、彼女と出会ったから。
ずっと忘れないだろう。
●●●
「どうしよう……」
僕はある日森を歩いていたら迷子になってしまった。もう日は暮れて、月の光も入ってこない完全な暗闇になってしまった。
「とりあえず歩こう」
そう言ってそのまま歩いていると空けた場所に着いた。
「ここは……」
そこは暗闇だったが、なにか神秘的なものに見えた。
『あら、珍しいわね』
不意に声が響いた。
「だ、だれ!?」
僕は周りを見回したが、暗くてなにも見えなかった。
『そんなに驚かないで』
突然目の前に月の光が入ってきた。その光の先には人が立っていた。
「驚かしたみたいでごめんなさいね」
月の光に反射する黒髪に白い肌。それに加え、美しい声と顔に僕は見蕩れてしまった。
「あなたは一体……」
かろうじて出せた声で質問する。
「あら、私に質問?うーん、私は……森の巫女ってとこかな」
「巫女?」
たしかに服装は巫女っぽいが。
「そんなことより、私な君に聞きたいんだけど、なんでここに来れたの?」
「森で歩いていたら偶然ここに来て……」
「ふーん。結界は機能してるはずなんだけど」
不思議な女性はぶつぶつとなにか言っているが、聞こえない。
「ま、いっか。君をこの森から出してあげる」
「ほんとですか!?」 
僕は女性の言葉に喜んだ。
「ただし、一つ注意があるの」
「なんですか?」
「ここに来たことは他言無用。誰にも言わないこと。」
「はい」
「それと帰る途中になにがあっても振り向かず真っ直ぐ進むこと。分かった?」
「は、はい」
「よろしい。なら、あの道を真っ直ぐ行きなさい。そしたらここを出られるわ」
「ありがとうございます」
僕は女性が差した方へと歩いていく。
●●●
その後、僕は無事に森を出られた。歩いてる時は周りが真っ暗だったが、不思議と怖くはなかった。
1日経った今でも僕はあの光景が忘れられない。そしてあの声と顔も。今も思い出すと顔が赤くなり、胸が熱くなる。もしかしたら僕は恋をしたのでは?
「いやいや、そんなこと」
首を振ってその考えを追い払うが火照った体と顔は治らなかった。
(もう一度会えるかな)
僕は満月を見ながらそう思った。
●●●
「まさか、人が来るなんて」
女性が月の光を浴びながらそう言う。今の女性の髪は黒から金になり、狐の耳があった。
「私としたことがとんだ失態ね」
誰もいない森で自嘲する。
「あの子とも会うことは二度とないかな。でも……」
もう少し君を知りたかった。
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