色々な物語

ちぃびぃ

其の肆:弁当

キーンコーンカーンコーン

お昼の始まりのチャイムが鳴った。俺は席から立ち上がると鞄を持ち、足早に教室を出た。向かうのは屋上。俺の聖地だ。 

屋上は基本的に誰も来ない。来るやつは大抵リア充どもだ。だから俺は屋上に出たあと梯子を使い、更に上に行く。そこは貯水タンクだけが置かれてあり、少し窪みになっていて屋上に来たヤツらからは見えない。

「ふぅ」

時間は有限なので座ると鞄から弁当を取り出し、蓋を開けて頬張る。天気は快晴。雲一つない青空で輝く太陽が眩しかった。

「ごちそうさま」

弁当を鞄に戻し、しばらくぼーっとする。俺は高校に入ってから2年間昼休みをここで過ごしている。友達?なにそれ、おいしいの?って思ってる。

「今日もいい出来だったな……」

俺は弁当は自分で作っている。家が母子家庭で母には負担をかけたくないからだ。まあ、弁当と言わず、炊事、洗濯など家事全般は一般の主婦並にはできるようになった。

「っ、やべ、そろそろ昼休み終わっちまう!」

俺は鞄を持ち、教室へと戻った。




いつも通りの面白みのない日常を続けてから数日、いつもとは違う日常が起きた。

俺は昼休みが始まると同時に鞄を持ち席を立って足早に教室を出ようとすると、声を掛けられた。

「ねぇ君、お昼一緒に食べない?」

振り向くとそこには学年、いや学校一と云われる可愛さを持つ少女がいた。俺とは釣り合わない高嶺の花だ。

「なんで?」

「え、なんでって言われても……」

少女は俺の問いに口ごもる。

「お昼は有限だ。なにもないなら、俺は行く」

そう言って教室から出ようとすると止められた。いや、止まざるを得なかった。

「え、ま、待って!」

俺の腕に少女が抱きついてきた。その瞬間、教室中の男子の視線が俺を貫いた。

「お、おいっ」

必死に振り払おうとするが引っ付いて離れない。そして男子からの視線が殺気を持って殺そうとしてくる。

「と、とりあえず来いっ」

とりあえずここに居たらマズいと思い、俺は少女を連れたまま、屋上へ向かった。

「へー、屋上って入れるんだ」

「ぼけっとしてないでこっち来い」

「分かった」

少女をいつもの場所に案内してやる。あまり人が来ないとはいえ、なにがあるか分からないからな。

「こんな場所があるんだねぇ」

少女が感心している横で俺は弁当を食べながら聞く。

「で、何の用だ」

「え?」

少女がキョトンと首を傾げる。

「……なんで声掛けたんだよ」

「え、え〜とそれは……」

「・・・・・(じとー)」

見つめられること数分、少女は答えた。

「い、一緒に食べたかったから」

「なんで?」

「なんでって言われても……」

少女がまたも答えに詰まる。

「まあ、いいか」

視線を弁当に戻すと何事も無かったかのように食べる。少女もそれを見て自分の弁当わわ食べ始めた。

「・・・・・」
「・・・・・」

二人とも話さず、無言の時間が続いた。そんな時間も長くはなく、不意に予鈴の音が響いた。

「もう、時間か。早いな」

俺は鞄に弁当を戻すと少女に言った。

「お前は先に戻れ」

「ふぇっ?」

ぼーっとしていた少女は急に声を掛けられ驚いたようだ。

「一緒に戻ったら怪しまれるだろうが。だからお前だけ教室に戻れ」

「あ、うん。分かった」

少女は名残惜しそうにしていたが、頷くと教室に戻っていった。

「……ふぅ」

俺はしばらく空を見上げていた。あの少女を相手にするのは疲れた。

「さすがにもうないよな?」

俺は誰に言ってるのか。少し笑いながら教室に戻った。

●●●

一方、教室に戻るまでの少女は頬を緩ませながら歩いていた。

(ふふふ、やっと話せた!しかもお昼まで一緒に食べれるなんて……)

少女は彼のことが好きなのだ。理由?理由なんてない。毎日「お昼どこ行くんだろう」って見ていたら自然と好きになっていたのだ。

(お昼になるとすぐどっか行っちゃうから早めに言わないとダメだもんね)

油断するとすぐに頬が緩み、にやけてしまう。

(明日こそちゃんと話せるようにしないと)

今日はあまり話せなかったので明日は頑張ろうと思うのであった。




そして次の日、俺は昨日言ったことを後悔した。昼休みではない休み時間に少女は俺の席に来た。それだけで男子の視線が集まる。俺に。

「ねぇ」

(油断してたぁぁぁ!昼以外来ないと思ってたのに!やっぱり昨日だけじゃ分からないな)

「……何の用」

(ここは早く終わらせるために用件を聞いてさっさと戻ってもらおう)

「えっとね……」

(もっとお話したいから時間延ばさないとっ)

「お昼ってどうするの?」

(あの場所気に入ったのか?なら……)

「昨日の場所で食べる。なんかあるならそんとき言え」

「え、あ、うんっ、また後でねっ」

少女は驚いたようだが、すぐに笑顔になって席に戻っていった。そして男子からの視線も外れた。

●●●

昼休みになると俺はすぐに教室を出た。その理由は少女に声を掛けられたくないからだ。

「はぁ、人と話すのがこんなに疲れるとは」

弁当を頬張りながら愚痴る。

「どれもこれもあいつのせいだ」

「誰のせいなの?」

「っ!?」

突然声が聞こえてきて喉に詰まった。

「(ごくごくごく)」

「あ、危なかった!」

「だ、大丈夫?」

心配そうに声をかけてくるのは勿論学校一の美少女だ。

「き、急に声を掛けてくるな」

「ご、ごめんなさい」

「まあいい……」

俺は残った弁当を食べる。

「……君の弁当って誰が作ってるの?」

会話がなさすぎるのも嫌なのか少女が話しかけてくる。

「俺が作ってるよ」

無視するのもあれなので答える。別に隠す気はないし。

「え、うそ」

「嘘じゃないぞ」

心から驚いたようだ。

「なんで自分で作ってるの?」

「俺ん家は母子家庭だから母さんにはあまり負担掛けたくねぇんだよ」

「そうなんだ」

「おぅ」

「そ、それならさ、私がお弁当作ってあげようか?」

「は?」

「だ、だから私が君にお弁当作ってあげようか?」

「……なんで?」

「なんでって言われても……」

(手料理食べてもらいたいなんて言えないし、どうしよ)

「ていうか、作れんの?」

「つ、作れるよ!人並みには!失礼だよっ」

「はは、わりぃな」

「っ、い、いいよ別に。気にしてないから」

顔を背けられたので怒っているのかと思い回り込む。

「やっぱり気にしてんじゃないのか?顔真っ赤だぞ」

顔を覗き込まれた少女は更に真っ赤になった。

「〜~〜~〜〜〜っ」

(だ、だめっ。まともに顔見れないよぉ)

実は顔を背けたのは初めて彼の笑顔を見たからだ。少しの間見蕩れてしまい、顔が赤くなったのをばれないようにするためだった。結局はもっと赤くなったのだが。

「そ、それでどうするの?」

「迷惑じゃないのか?」

「一人も二人も変わらないし、そこまで迷惑じゃないけど」

「なら、お願いするか」

「ほんとに?」

「ああ」

「じゃあ、明日から持ってくるね!」

「おぅ、よろしくな」

少女は教室に戻ったようだ。

「明日から俺一人で食べれない?」

重大なことに至ったようだ。

「どうっすかなぁ。母さんになんて言おう……」

俺は母さんの分も弁当を作っているので、一つ減ったのがバレる。

「聞かれたら正直に話すか」




次の日の朝俺の家は少し騒がしかった。

「なんで弁当一個だけなの?……は!まさか私の分はないのか!」

案の定、母さんが聞いてきた。

「ちげぇよ!クラスのやつが弁当作ってきてくれるって言ってきたから甘えるだけだ」

「ふーん(ニヤニヤ)」

「なんだよ、そんなニヤニヤして」

「その子って女の子?」

「ああ、そうだけど、なんでそんなこと聞くんだ?」

「なんでもなーい(ニヤニヤ)」

「なんだよ。ていうか、そのニヤニヤやめてくれ!」

「あんたも隅に置けないわね〜」

そう言いながらどこかへ行ってしまった。ニヤニヤしながら。

「ホントなんなんだよ……」

そう愚痴りながらも朝の準備をしていく。

●●●

一方、少女の朝はもっと騒がしかった。

「あら、朝から張り切ってるわねぇ」

「あ、お母さん、おはよう」

「おはよう」

「もうすぐ空けるからもうちょっと待ってて」

「いいのよ。そんな急がなくても……ところで」

「?、なにお母さん」

「なんでお弁当二つあるのー?(ニヤニヤ)」

「っ、えっと、それは……」

「それはー?(ニヤニヤ)」

「も、もうっ!お母さんには関係ないでしょっ!」

私はお母さんに背を向けお弁当を鞄に入れた。

「まずは胃袋から掴むのねー、さすが私の娘」

「だから、もういいって!」

朝から騒がしい二人だった。

●●●

その日の昼休み俺は屋上に行くとそこには少女がいた。

「なんで先に居るんだ?」

「たまたま?」

「何故、質問を質問で返す」

「そ、それよりもさ早く食べよ?」

「……そうだな」

俺は少女の横に座る。

「は、はいこれ」

「おぅ、ありがとな」

少女から差し出された弁当を受け取る。中身は卵焼き、唐揚げ、和え物など他にも数種類ほどあった。

「すげぇな、本当にこんだけ作ったのか?」

「うん、そうだよ」

「じゃ、いただきます」

まずは卵焼きから口に入れる。中はトロッとしていた。半熟だ。卵焼きは中身を半熟にするのが少し難しいので大半は堅焼きなのだ。唐揚げも外はカリッ、中はジューシーな仕上がりで冷めていても美味しかった。他のおかずも思わず声をだすような美味しさだった。

「ごちそうさま」

「ど、どうだった?お口に合った?」

「すげぇ美味かった。俺より料理上手いんじゃないか?」

「え、そうかな?」

「お前は良いお嫁さんになるな」

「ふぇ、そ、そんなこと、な、ないよっ」

「ホントだって。お前は面倒見いいし、可愛いし、料理だってできるじゃん。良いお嫁さんだよ」

「〜~〜〜〜っ!そ、そんなに褒めないでよっ!」

「ははは、照れてるのか」

「も、もう!からかわないでよ!」

傍から見れば恋人のような言い合い。だが、二人を見ているものはなにもない。これは二人だけの秘密の場所なのである。

こうして俺の静かな昼休みは一人の少女により、騒がしくなった。

                                                                                                 
                                                                                        〜終わり〜


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