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S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第45話 『臆病な武器屋の店主』

 

 ある晴れた日。
 いつも通り剣術の稽古が行われようとしたのだが、どういう事か今日のローラは私服だった。
 ヘソが出ている大胆な薄着だ。

 普段なら騎士のような戦闘服を身に纏っている筈が、村娘のような格好をしている。 
 モノホンの剣は相変わらず所持しているけど。

「あ、あの……稽古はどうするんですか?」

「今回は休みだ。私は買い物をしに海岸に行く」

「海岸に買い物?  もしかして海の方に市場があるんですか?  港もないのに?」

「チッ……お前はいつも質問が多い。少しは遠慮して話してくれ、男もどきの分際が」

(いや、男ですけどね)
 とローラに小さくツッコミを入れてみたが、何しているんだ……?  といった恐ろしい感じで、睨まれてしまった。

 珍しいことに彼女はユーモアってものを知らないらしい、流石は騎士になる為だけに生まれてきたような人だ。
 人の事をとやかく言う僕も、ユーモアに自信がない類だけど。

「この寒い時期にしか生息しない魚が取れるようになるから、大陸中の漁師と呼ばれる者らが海へと行って釣ってくるんだ」

「その魚とは?」

「『エメラルドフィッシュ』だ。奴らの宝石のような緑色の鱗は高く売れるらしいで有名だ」

 と、ありがたいことに説明してくれた。
 なるほど。

「では、私はもう行くぞ。いくら大量に販売していても、美味な程だけあって底がすぐ尽きてしまう。なので急いでくる、お前は適当に素振りでもしていろ」


 そうだ、僕も連れて行ってもらおう。
 いつもは屋敷の方で食事をとっている身だが、もしもの事があれば遅い。
 あれこれ困る前に、相場ぐらいはきちんと把握しておこう。

「……あのレイン師匠。ちょっとした頼みをしてもよろしいですか?」

「れいん?  それは誰の事だ?」

 あ……あまりに似ていたもので間違えてしまった。
 失敬失敬。
 口調が似ているし、剣術も教えてくれるるし。
 見た目もまあまあ似ているけど、性格はレインの方が断然良かった。
 あまり男性に嫌らしい目で見られたくないらしく『異性に肌見られてしまう以上の屈辱はない』と言い張りながら、長い服装を毎回着ていたのを覚えている。
 比べてローラはとにかく薄い、まるで誘っているかのようだ。

「……まあいい、言ってみろ」




 ※※※※※※



 年号『精暦10年』。
 精霊大陸、エルフと龍人の領土の境界の海岸付近の町『ユリネス』市場にてローラと共に買い物へと行くことになった。

 唐突に頼んでみせたことに、やや戸惑いをみせるローラだったが、「荷物運びをしてくれるなら」という条件に了承してくれた。
 現に僕は既にローラの所有物を持たされていた、全て一つのカバンに詰めているせいか重たい。

 中身は何なのと道中、徒歩で森を抜けていた時にローラに尋ねてみたが、冷たい目線を向けられながら無視された。

 心が痛いけど、そんなことよりもだ。

 川を伝って歩いた先には海岸、その側には賑やかな街が広がっていた。
 一見港町のように思える場所だが、海を渡ったりする船は一切ないらしい。

 主に漁師の乗る小舟等しか並べられていなかった。

「目的の市場はここだ」

 街の広場に辿りつくと、そこには数えきれない数の露天が立っていた。

 驚いた様子の僕を尻目に、ローラは懐から小さな布袋を取りだす。

 ローラは僕の方に視線を一瞬だけ交え、気に食わない顔ですぐさま逸らされた。
 心が痛い。

「……ごほん」

 なにか言いたそうにローラは布袋を手に咳払い。

「あの、どうかしましたか?  もしかしてローラさん、風邪……」

「いや違う、そういう訳ではなく、ただエルロンド様に頼まれた事があってな」

「頼まれた事?  なんですか、ソレ?」
  
「金だ。受け取れ」

 もう一度咳払いしてから、ローラはそっと布袋を僕の胸に押しつけた。
 手に取ってみると、かなり重い。

 結構の金額が納められていると見た。

「えっと……イマイチ状況を理解出来ないんですけど」

「ふん、エルロンド様からの命令だ。どうやら、お前には自身に見合った刃を持ち合わせていないらしいじゃないか。本来ならお前の指導者として失望しているところだが、事情も事情だ、仕方がないので大目に見てやろう」

 そういいローラは腰に手を当てて、広場の逆方向へと目を向ける。
 まるで何かを示しているようだ。
 イマイチピンとこない。


「しかし武器屋へと訪れろ、そこでエルロンド様か私の名前を出して武器を購入しろ。もし自身に見合う代物がないのなら、店主に頼んで特注しろ」

「……はあ」

 ローラの視線の方へと顔を移動させると、そこには武器や防具を身に纏ったゴツイ体格の亜人がわんさかと歩いていた。

 ああ、たった今ローラの視線の意味を理解した。そこに武器屋があるから行ってこい、という事か。
 確かに、あそこになら武器屋や防具屋、雑貨屋とかがありそうだ。
 いや、その前にだ。

「えっと………確かに、いま僕は剣一つすら持ち合わせていない無防備な状態なんですけど、急にどうかしたんですか?」

「別にどうもしない。ただ、次に行う稽古はハードでお前の命にも関わる。刃物の一本も装備しておかなければ、きっと重傷は免れないだろう」

「えぇ……」

 ポキコキと関節を鳴らすローラに圧倒され、汗だくになりながらは僕はすぐさま回れ右をする。

 そのまま武器屋を目指してダッシュ!  しようとしたが、ローラの呼びかけに足を止めてしまう。
 振り返ると、やや不機嫌な様子のローラが腕を組んでいた。

「……集合場所はこの街の西広場、3時間後だ。以上、行け」

 僕が先走った事を指摘する事なく、ローラは簡潔に集合場所と時間をだけ口にする。
 それだけ言うと彼女は、市場の人混みの中へと姿を消した。



 ※※※※※※



「魔剣ギルティアという、ちょっと呪いの掛かった剣が在庫で眠っているのだがアンタ、興味ないかい?」

 武器屋の店主のゴツイ男性にそう進められたが、正直に断った。
 魔剣ギルティア、歴史本によると龍人を抹殺するために作られた物騒な代物だ。
 冗談であろうと、まず使おうとは思わない。

 ゴツイ男性(店員)は苦笑いした。
 どことなく行きつけの酒場の店長の顔に似ている。

「んじゃ、魂喰サイズっていう物騒な鎌が店の裏にあるんだが、どうだ?」

「たましいぐらい……?  なんなんですかソレ?  ヤバイのなら買いませんよ」

「……じゃ、いいわ」

 目を泳がせながら言う店主に戦慄を覚えた。
 どんだけ危険なモノを買わせようとしているんだ、この男は……?

 しかも、ほとんどが殺傷の為だけに作られた武器じゃないか。
 血肉を眺めるのが趣味では無い。

 よってこの店主が勧めてきた武器は全てNG。
 と、店主の立つカウンターから離れて、武器屋をウロウロする。

 浮かない顔をしながら壁に飾られた様々な武器達を眺めていると、唐突に店主は渋い顔でカウンターを叩いた。

「!?」

「お前ぇさんは一体、どんな武器を求めようとしているんだよ!!?  わっかんねぇよ!  要望を言え、要望をさ!」

「あの、じゃオーダメイドを頼めますか……?」
「結局それかよー!」
「いやだって、自分って短剣しか使えないので。しかも、この店にあるのって全部デカイじゃないですか?」
「リーチが長い方が良いに決まっているだろうが!  そんなに短剣が振りたきゃな、酒場で料理を頼んだついでにフォークでもかっさらって使ってろ!」
「無理ですよ!?」
「無理じゃねぇ!!」

 と延々と続きそうなやり取りを何度も繰り返してしまった。
 終いには激怒した店主に「帰れ」って怒鳴られ、店から叩き出される。

 よろけながら、武器屋の出入り口の方を振り返った。
 直後に、ローラの言葉を思いだす。

 ーーーエルロンド様か自分の名前を出せ。

 少し躊躇いもありつつ、武器屋の扉をもう一度潜り抜けて来店。
 鬼の形相のゴツイ体をした店主が、正面で待ち受けていた。
  
 元いた時代でも、行きつけの酒場にこんな顔をした店長がいたものだ。
 別に怒っているわけではないらしく、生まれつきあんな顔だったらしい。
 お陰か食い逃げが最も少ない酒場と呼ばれていた。

「まぁたアンタか、今度は何の用だ?  冷やかしだったら承知しねぇぞ」

「いえ、買う気ではいますよ?  ただ、やっぱり僕は短剣しかイケない腕なので……」

「ふん、ロクに鍛錬もしなかったのが見え見えな発言だ。お前に見合う武器というより、俺の武器がお前に見合わねぇんだよ」

 余計なお世話だ……と言いたいところだけど、彼の言う通りだ。
 鍛錬を怠って、毎日ぶっつけ本番に挑んでいた自分が悪い。

「……そのようですね。自分って、驚く程に弱いので」

「ふん、外見だけで判断できるわい」

 ただ誰かに追いつく為だけに剣を振るっていたS級パーティ時代が、身に染みてしまったのだろう。
 周りが凄腕で、自分が鍛えたところで………と1度や2度は思ったことがあった。
 けど追いつきたいと、できるだけの鍛錬を繰り返したが才能に恵まれずに放棄してしまった。

 だからこそ今度は、一人でも多くの人を守れる為だけに剣を振るってみせるんだ。

「で、どうしたいんだい? お客さん」

「やっぱりオーダメイドを頼みます。原材は自分がなんとかしてみせますので」

 できるだけ低く頭を下げて、店主に頼んでみせる。
 しかし、彼は良い表情をせずに僕を面倒そうな目で見下ろしていた。

 僕はそこで、二人の人物の名前を口にした。

「エルロンド様と、ローラさんにも頼まれてきました。自分の武器を買ってこい……と」
  
 口にした瞬間、面倒くさそうな顔をしていた店主の雰囲気が一変した。

「な………………な、な、なにぃ!!?」

 驚愕の真実を耳にした人のような反応。

 まさかここまで……?  
 という店主の想像以上のリアクションに目を見開いてしまったが、店主の眼球の方がえぐり出そうな勢いで驚いている。

 即座に店主は立ち上がってみせると、僕の体をジロジロと見て、顔を青く変色させた。

 何がなんだか理解できないけど、ジロジロと見られるのは恥ずかしい。
 そんなことを思いながら、店主から顔を逸らした。

「荒ぶりまくって……どうかしたんですか?」

「ど、どうもこうも何故もっと早く言わなかったんだ!  お前をあのまま追い出していたら、ローラに斬られていたところだ!!」

(え、ローラに斬られ……?)

 動揺しながら店主は僕の方へと近づき、腕に触れる。
 そして腰、手のひら、脚、あらゆる所をペタペタと確認するように触れられる。
 まさに「ボーイミーツおっさん」のような光景だ。他に客がこの武器屋に居なくて良かったと心から思う。

「ふん、身体能力は常人の2倍程度か。
 しっかり鍛えている所は鍛えているようだが、俺の作る武器を握れるほどの実力はない。まあ、いいか」

 店主はそういってメモを取りながら、そばにあった武器を手に取って渡してきた。

 斧のような形をした武器だが、鋭くはない。
 どちらかと言えば鈍器のようなものだ。
 持ってみると、かなり重いが戦えないわけではない。

「確か、短剣だったけか?  いいだろう、作ってやろう

「え? いいんですか!?」

「まあな……事情があって言えないがローラには昔、酷いぐらい世話になってな。その恩返しをするって感じだ」

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 なるほど、だからあんなに怯えていたのか。きっと、過去にローラとの間に何かがあったのだろう。
 シゴかれたり、骨を折られたり、殺されかけたり、としょっちゅうの自分とローラを思い返した。
  
 本当に笑えないぐらいにロクな思い出が、全くこれっぽちも思い浮かんでこなかった。





「ぷっくしゅ」

 町『ユリネス』の賑やかな市場で一人、どこぞの誰かの噂によってローラは小さなクシャミをする。

 前触れもなく訪れたクシャミに違和感を覚えつつ、彼女はエメラルドの色をした魚を求めて市場で奮闘するのであった。


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