S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜
第39話 『エルフ領へ』
精霊大陸。
精霊樹の最も近くに位置するエルフ領『フェリア』と呼ばれる街。
たどり着いて早々トレースにとある場所へと急かされていた。
街を行き交う人々は全員、白い肌や黒い肌を持つ長耳のエルフだ。
ジュリエットを目にした瞬間、住人らがどよめき始める。しかし声をかけてくる者は誰して1人もいない。
無理もない、亜人しか居ないであろう場所に人族が立ち入っているのだから。
もし人族しか居ない場所にオークを投入してみろ、泣き叫びながら人々は逃げ惑うだろう。
まだマシな方だ。 
 
道中に手を繋いでこようとするトレースに、ジュリエットは圧倒的なまでの拒否を何度も繰り返す。
やっとの事で諦めたトレースは非常にしょんぼりしていた。
街の建物は思ったより普通だ、ほとんどが石造りで木造建築物が圧倒的少ない。
「それで、あれが精霊樹だ。見たことは無いのか?」
エルフ族戦士長トレースは、頭上の方に腕を高く伸ばして指を立てる。
森の生い茂った木々のせいで見えなかったが、上を見上げれば空……ではない、大陸を飲み込まんばかりの巨大さを誇る大高木が佇んでいた。
あれがかつて、人族に魔力を与えた『精霊樹』。
空を覆っている、なのに明るい。
ジュリエットは此処まで案内され辿り着くまで疑問に思っていた。
太陽まで覆ってしまっているのに、何故こんなにも?
「……ねぇ、トレースさん」
「トレースでいいよ、どうかしたのかい?」
生臭い肉の塊を手に、ニッコリしながらトレースはジュリエットの方へ振り返る。
アウトな絵面だ、まるであの勇者候補が遂に人を殺してしまったような光景だ。
「太陽が出ていないのに、どうしてこんなにも明るいのかな?  と思いまして。一体この明るさはどこから差し込まれているんですか?」
「人族だから知らないも当然だよね。単純、精霊樹を見てみて」
彼の言う通り、ジュリエットは上を見上げる。
何かが精霊樹の枝にぶら下がっていた、実のようなモノだが目を背けたくなるほど明るく光を放っていた。
それがいくつも、無数にぶら下がっている。
目が焼かれそうなのでジュリエットは目を逸らし、平然とソレを見上げるトレースの方に視線を移動させた。
「あれは、発光する……実?」
「そうだ、あれは精霊樹だけに実るって言われている『誠の実』。強い光を放っているようだが、未だ誰もあの高さまで到達したことが無い。だから光を放つ肝心な原由がまだ明かされていない」
『誠の実』
光を放つ実という事は、冒険者が戦闘時に使用するアイテム『太陽閃光弾』と似た原理だろうか。
素材は、大きな衝撃を与えたら発光すると言われる赤い鉱石『太陽石』。
そんな事を考えていると、突然トレースが立ち止まりその背中にジュリエットは顔を打ち付けてしまう。
「痛っ!?」と声をこぼしてしまう。
「ちょっ……急に止まらないでくださいよ!」
「………」
何事なんだと思いながら前の方を見ると、そこには長耳の老人と数人の衛兵のような人達が立って、こちらの方を見ていた。
「……族長様。このような所までお越しくださるだなんて、手を煩わせて申し訳ありません!」
急にトレースの雰囲気が変わる。
老人との距離を詰めてから片膝を地面につけると、トレースは深々しく頭を下げた。
ゴホン、と老人が咳払いする。
「よい、頭を上げよ」
「ハッ」
まるで操り人形のように、トレースは老人の指示に頭を上げた。
その目は少し真剣だ。
「さて、どうして人族なんかが我々の街に足を運んだか……戦士長、説明してくれるな?」
「勿論でございます!」
※※※※※※
トレースはジュリエットと遭遇した経由、精霊大陸の事は無知、彼女の正体を細かに説明した後、族長と呼ばれた老人にジュリエットはある所まで案内される。
数10分歩いて辿り着いた所は、いかにも貴族が住んでそうな屋敷だった。
外には数人の衛兵っぽい服装を着た、美形な顔立ちをした男たちが出迎えてくれていた。
しかし、どれもジュリエットの好みではない、あくまで可愛いモノが好きでイケメンには靡いたりはしない。
それから屋敷の中まで案内されたが、内装は現在ネロの所有する屋敷より落ち着いた感じだった。
特に目がチカチカとなりそうな塗装もされていないし、廊下に飾られている絵も少ない。所々の壁に汚れがついているようだが、気にする程でもないし来客の身としてジュリエットにソレを言う覚悟はなかった。
再び、数分経って辿り着いた場所は応接間のような所。
非常に家具が少ないスペースが空いた部屋に入るわ、ジュリエットはソファーに座らされた。
その周囲を取り囲むように長耳の衛兵らが並ぶ、という非常に落ち着かない絵面。
まさに尋問されそうな人の気持ちジュリエットはなっていた。
ジュリエットの隣に馴れ馴れしい感じでトレースが座ってくる。
ジュリエットはソッコウに彼との距離を離した。
一方、ジュリエットらと向き合うように族長の老人はどさりとソファーに座ってから、すぐそばの使用人のような女性に指示を出した。
「お茶を持ってこい、来客用のだ」
「かしこまりました」
使用人は丁寧に頭を下げてから、部屋から出ていった。
老人の話しはそれからすぐ始まる。
「どうも初めてまして、儂はこのエルフの領地を治める者であり一族の族長、名は『エルロンド・ヴォルン』と言う。皆からは領主や族長だと呼ばれておるが、刃すら持てぬただの死にかけのジジイ当然。支配する能力も低下していっとるし、やる事は執務室で書類仕事ぐらい。まったく、先代が族長だったからその唯一の血縁者である儂が継承しろだの、くだらないルールを作った奴のせいで嫌々自由が奪われてもうて……すまん、喋りすぎた」
「お茶です」
「どうも」
よく滑る舌で愚痴りだす族長のエルロンドに、驚きを隠しきれないジュリエットは口を半開きさせていた。
エルロンドは使用人がいま持ってきたお茶のカップを持ち上げ、中身を静かにすする。
「ふぅ、やはり緩いお茶が一番好きだ。それで人族よ、つぎはお主だ」
「え、私ですか?  えぇと……」
自己紹介しろって流れか、とジュリエットはすぐ勘付いた。
隣を見ると、トレースは目を半開きにさせジュリエットを見ていた、まるで「早くした方がいいぞ」と訴えかけるように。
しかし、どう自分を紹介するかが問題だ。
素性を偽りなく全て打ち明けた所で、未来から来たことを信じてくれるだろうか?
否、普通の人間なら鼻で笑ってしまう。
ジュリエットは悩みながら、頭の中で思考錯誤を繰り返してみた……その結果。
「ファンブル大陸の西南部に位置する聖国『セレストリア』出身。冒険者として僧侶をやっていますジュリエット・シルヴァと申します」
「ほう、ファンブル大陸という事はやはり人族という事か?」
「はい、おっしゃる通りです。しかし、それだけではございません。私はーーー」
ここは真実を打ち明けて、手助けしてくれと頼むべきだと判断したジュリエットは続ける。
その瞬間、エルロンドがニヤッと不気味に唇の両端をつりあげジュリエットの言葉を遮った。
「ここでない、未来から来たと?」
「え?!」
先読みされたかのように、満面の笑みで言われてしまった。
愕然としながら言葉を詰まらせるジュリエット。
それを面白おかしそうに眺めるエルロンド。
「ど、どうして!?」
「落ち着け若いの。お主が此処に来るなんて最初っから分かっていたわい、ちょっと半信半疑だったので問い詰めてみたが、真実かい?」
身を乗り出すジュリエットの動揺する表情を見て笑いながら、興味津々にエルロンドは聞いた。
首を上下に動かし、決してジュリエットは否定したりはしなかった、もし此処で「違いますよ~」と言えば追い出されかねない。
「……誠か。ふん、流石はミア様というべきか予言が的中したわい」
ガハハハハ!  と笑い出すジジイに、少しドン引きした様子のジュリエット。
そういえば、自分の分のお茶も用意されていた。気づいてすぐジュリエットはカップを手にして、中身をすする。
緩い、いや本題はそこでない。
「予言?  ミア様って……もしかして、かつて精霊樹を管理していた『賢者ミア』?」
「お主の世界がどうこうかは知らんが『かつて』という事は、精霊樹の管理者はミア様ではなくなったと言う事か?」
「いや、あまり詳しい話はしない方が良いと思いますが、ある強大な者の出現により賢者ミア様の消息は不明という事になっていて、こちらの世界の精霊樹が機能しているかも……」
「壊滅的状況だな、まあそれもまた運命だ」
指をパチンと鳴らすエルロンド。
顔を俯かせるジュリエットに、指示で使用人を駆けよらせる。
肩を掴まれてちょっぴり驚いた様子をみせるジュリエットだったが、使用人らは彼女に優しく微笑みかける。
「え、えと……」
「言っていなかったが、儂らエルフは代々から来客者を歓迎する為の風習のようなものがある。お主が来ることを事前にミア様に聞いた日から、街の皆がお主にオモテナシする為の計画を立てていた。さて、行くぞ」
ソファーから立たされ、使用人に連れていかれるジュリエット。
続いて衛兵らと、エルフの領主であり族長のエルロンドが続く。
最後にトレースが………腕を組んで硬直していた。
(えっ、未来から?  なにそれ、聞かされていないけど。彼女未来人だったの?   えぇ……本当になにそれ、可愛い子なので彼女と夫婦になろうかと考えていたが……えぇ)
応接室に唯一取り残された戦士長トレースは、そんはことを考えながら虚しい気分に囚われてしまう。
これから始まろうするジュリエットへの『歓迎会』が、この屋敷で開催されることも知らずにトレースはソファーで冷えたお茶を前に、考えながら硬直するだけだった。
エルフ族長のエルロンドがジュリエットだけではない、未来から訪れてくるであろうもう1人の存在を知っていた。
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