S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜
第35話 『処刑』
昔の遥か昔に、とっても平和な大陸がありました。
平和で争いが存在しない様々な領地。
異なった種族同士での助け合い、支えてくれる神的存在の賢者様。
賢者様は何でも知っています。
過去に起きた出来事、これから起こるであろう未来。
全てを見通せるその眼で賢者は、絶望のない世界の為、正しき道を歩み続けました。
賢者の名前は『ミア』
魔族と人族のハーフとして産まれたせいか、人々に敬遠されるたった1人の存在でした。
それでも、彼女は白い未来を望んでいました。
生まれたこの世界で嫌われ続けようとも、行き場を失おうとも、ミアは祈り続けました。
大切な『命』という存在を守るために。
棚に置かれた大量の本を読みながら、ミアは世界の理と歴史、魔力適正がないのにも関わらず魔法に関する法則を独自に学んでいきました。
鍛錬も怠りません。
いつか訪れるであろう、新たな生命の誕生の為にも。
『精霊樹』が作り上げる、白い未来を創造する為に。
ミアは生きる事を続けました。
※※※※※※
そして遂に、その時が訪れる。精霊樹の管理者であるミアに『賢者』の称号が与えられ、ちっぽけだったミアの存在が認められるようになっていった。
『賢者ミア・ブランシュ・アヴニール』
誕生した『精霊樹』によって魔族だけに限らず、全世界の生きとし生けるものに力が授けられるようになった。
それが後に人族の脅威である『魔力』だと発覚した時、人族は休戦を願う。
よって魔族と人族との間で繰り広げられていた過酷な戦争が静まり返った。
それから異なった国を持つもの同士が協定を結んだことによって、世界に本当の平和というものが訪れた。
『今や魔力を持つようになった我ら人間は、魔族である貴方たちとは変わらない存在となった。争う意味はもう無い』
その言葉を胸に、人々は武器を握る手を緩め、守るべき者の為に振るうようになっていた。
数年もの月日が経過。
今じゃ偉人である『賢者ミア』を目にする者は少なくなり、ひっそりと精霊樹の中で暮らしているだとか、もうとっくに死んでいるとの噂が絶えずに立てられていいたが、管理者であるミアは精霊樹と一体化にならなければならない運命を担っていた。
さもなけれな精霊樹は朽ち果ててしまう。
過酷だが、ミアは自身の運命を受け入れていた。
『特異点』として精霊樹を支えながら、与えられた魔力によって命を永らえる。
ミアの絶命は同時に、精霊樹の消滅を意味している。
かつて『精霊大陸』と呼ばれていた魔族の住処がいずれ、『黒魔力』の棟梁である魔王の君臨によって『魔の大陸』として世界が変わり果てようとーー
ーー精霊樹が滅びない限り、ミアは生き続けるのだ。
※※※※※※
現在、魔族の血を引いた亜人しか生息しない精霊大陸東部『龍人』の一族が治る領地内の街、そのはずれにある精霊樹の魔力によって生み出された広範囲にまで広がる森林に、密かに建てられている族長家にただいまボクは滞在しているところだった。
色々な理由で此処にとどまることになっている。
その事についてシオンに伺うと『ウチの同族は危険だから』とのことだ。
師匠レインの祖母が執筆した本にも載っていたけど、『龍人』は血の気が多くて他族を警戒しては攻撃をしてしまうらしい。
だから、恩人である若き族長のシオンに『キミの事がいずれ、街や村だけじゃなく全大陸中の人々に知れ渡ってしまうだろうけど、なるべくこの家からは出ないでくれ』との忠告だ。
もちろんボクも、知り得ない土地へと勝手に踏み入ったりする馬鹿な行為はしない。
争いもごめんだ。
そんな事を思っていると、族長シオンとその妹であるリリルの住む家に誰かが尋ねてきた。
ゴンゴンゴン、ゴンゴンゴンゴン!!
かなり強いノック。扉を叩いている本人がどれだけ慌てているのかが分かる。
急いでシオンは玄関にむかって、叩かれる扉を開けようとする。
途端、
「我は誇り高き龍人の長、シオンだ。どういった要件でーーー」 
シオンが我が家の扉を開けて外に顔を出すと、後ろに控えていたボクにでも分かる物騒な歓迎会が目の前で開かれていた。
狩猟を目的とした槍のような武器を構えた、鋭い目つきでボクを睨みつける恐ろしい集団。
その先頭には、リンカより露出度の高い服装を着ているリーダーらしき女性が同様に槍を構えて警戒していた。
目線はやはりボクの方に向けられていた。
「ーー殺傷を目的とした武器を何故むける?」
シオンが言葉を終わらせると、先頭の女性が目を細くさせながら答えた。
「何をおっしゃっているか……貴方は分かってらっしゃるのですか?  掟をご存知ないとは言わせませんよ?」
「掟?  ……またキミ達はそれか。
言っておくけど、現族長の権利は今や僕にある。キミ達が守るべきなのは過去の掟ではない、僕の言葉唯一だ」
腕を組みながら、かなり上から目線でシオンは彼女に反論する。
しかし、周囲を取り囲む集団は表情を一切変えたりはしなかった。
「貴方の言葉に従うのも掟です、が。代々から受け継がれてきた掟を覆す権利は貴方にはございません。『許可もなく領土内に侵入した場合、その者を処刑する』。我々、龍人だけに限らず魔族の血を引いた、あらゆる亜人共通の掟でございますよ」
「それはつまり、我が家に招き入れた友人を無慈悲に殺せ?  そういうことかい?」
機嫌の悪い表情を浮かべるシオンの目が、ボクの方へと向けられる。
そしてすぐさま集団の方へと視線が戻された。
「おっしゃる通りです」
「……それで、それをして何かを達成できると?」
「はい?」
「見てみなよ、キミ達が領内に侵入したと恐れている彼を」
シオンの親指が、背後で身構えるボクに差される。
そのせいか、ボクを目的としている集団が注目するように見つめてきた。
「それが、どうかしたのですか?」
「どう見ても、非力な子供じゃないか?  
それなのにキミ達は掟だのルールだの抜かして、よってたかって僕の友人であり、未来ある子供のネロくんを痛めつけ見世物にする気かい?  その後、屈辱を負わせた後に殺傷処分ときた。大人気ないぞ」
シオンの言葉に集団がどよめき始める。
すると先頭に立っていた女性が武器をゆっくり下ろした。
どうやら、最初から戦闘を勃発する気はないらしい。
それでも、納得してないような口調で女性がシオンに聞いた。
「しかし、掟を易々と破るといく事は……同族であろう、」
「ふん……!  僕は掟なんかより異なった人種を受け入れる、その心を大切にした方がもっといいと思う」
その言葉に焦りを感じたのか、次々と龍の尻尾を生やした集団が槍を下ろしていく。
精霊樹が誕生してから、人族にも魔力が与えられるようになった。
おかげか、人族との協定が結ばれて以来から亜人達に平和が訪れているのだ。
目の前にいる奴(ボク)は、非常に人間の姿と重なって見えたのか、これ以上の問題を起こしてはいけないと彼らでも理解していた。
「つまり、その人族を受け入れろ、そうおっしゃりたいのですか?」
シオンが笑う、それも満面の笑みで。
こちらから見たら後ろ姿だけど、イケメンなのが雰囲気で分かる。
「ははは!  人族?  何の話をしているんだい?  僕はあくまで異なった亜人を受け入れろって……だって同じ魔族じゃな……ん?」
シオンが言葉を詰まらせ、家の中にいるボクの方へとゆっくり顔を向けてきた。
非常に嫌な予感がした。
笑顔が消えてるもんね。
「な、なんでしょうか?  あまり見つめられると、恥ずかしいですよっ」
「キミって、人族なの?」
……ん?
※※※※※※
うん。
結論から言って、受け入れたりはされなかった。
シオンも仕方ないなぁ、と易々と集団にボクを預けてしまった。
現に高い位置にボクは吊るされてしまっている。
  それを良いことに龍人の連中らは焚き火の準備を行っている最中だった。
しかも、吊るされたボクはただいま下着だけしか着ていない。
烈しい羞恥心がボクの顔を赤らめる。
  誰得シュチュエーションなの!?
「人族なら許す、けど魔族なら掟は破っちゃ本末転倒だ」
「ちょっ!!」
杖を持った身長の低い老人が、口に含めていた油を吊られたボクの顔面にめがけて吐き出す。
臭っ!?
「な、なにをするんですか!?」
「うむ。これなら燃えやすくなるじゃろ」
「燃やすだって!? ……誰をです?」
「お主に決まっておるじゃろ?  今日は贅沢できるぞぉ」
え?  ちょっと、ええ。
老人にかけられた油。
燃えやすくなる。
「………」
つまり油プラス炎。
相性抜群の組み合わせすぎて、声すら出せない。
察した瞬間、とてつもない程の顔芸を披露してしまう。
恐怖という表情を。
つまりボクはこれから、燃やされ、そして食料として食べられるーー
ーーーということなのだろう。
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