S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜
第4話 『幸運なボクは覚醒する』
意識を朦朧とさせながらボクは先の見えない深い森を1人静寂に包み込まれながら徘徊していた。
目的は定かではない、衝動によりボクの体が命令を無視するように進んでいくんだ。
次第に森の木々は減っていって、暗い森の先から赤い光が照らされていた。
それでもボクは顔をしかめたまま深刻そうに汗を垂らして、足を強引に制御させようと抵抗を試みる。
あの日の地獄が脳裏に蘇ってくる。
焼かれていく建物、殺されていく動物たち、破壊されていく血のこびりついた自然、ボクと妹を必死に逃がそうと身代わりになった両親。
頭を抱えながら広がっていく風景にボクは目を逸らし、現実を受け止めまいと抵抗をした。
それがまるで無意味かのように殺されていく人々たちの声が鼓膜に響いてくる。
ボクの名前を呼びながら皆言うんだ。
「逃げろ」と。 先急ぐボクの背後から数えきれない程の死体が転がり、女性が叫んでいる。
「ぃぃいっ! やめてくれっ! ーーー誰だよ!? ボクにこんなことをーー思い出させようとするヤツはーーーー お願いだからもうやめてくれ! 思い出したくない! 思い返したくない……!!」
耳を両手で塞ぎながらボクはその場を逃げていく。出来るだけ赤い光の届かぬ場所まで、走りながら遠くへと逃げる。
その途端、意識のスイッチが一瞬オフにされたかのように風景が真っ黒に染まり、そしてまた世界が変わった。
今度はある部屋にボクは椅子に座らせられていた。
目の前にはベットが設置されていて誰が横になっている。
「え、エリーシャ!? なんでこんな所なんかに!?」
ベットで横になっていたのは包帯だらけの妹エリーシャだ。
驚きのあまりに立った拍子に座っていた椅子が床に倒れてしまった。
すぐそばにいたエリーシャはそんなこともお構いなくボクを睨みつけて、乾いた声で嘆いた。
覚えている。
ボクは先ほどから今のビジョンを全て覚えている。
彼女がこれから口にする言葉も、勇者になった経緯も、ボクが冒険者を本格的に計画した理由も彼女の一言によるものだった。
『ーーー 魔王を殺したい……!! 復讐して、必ず1人残らず伐ち引かせてやる……! 勇者になって、それから邪魔するヤツらなんてみんな殺してやる!!』
怒りがごもった声、震える声で言い放ったおぞましい野望にボクは彼女に恐れを覚える。
エリーシャはそのまま気を失い眠ってしまった。
覚えているんだ。これまでの出来事も、勃発した悲惨な日々を、ボクを突き動かすきっかけになったオリジンを。
ここから始まったのだ。
ずっと昔から復讐がすでに、魔物や魔族、害とみなすようになった敵に抱く異様な憎しみ。
奮い立たせてくれたのは、なによりエリーシャだったのだ。
『……エリーシャ。お兄ちゃんは『ーーー』だから、その日が訪れた時は……頼むから、ボクを殺してくれ』
振り返ると、そこには過去若かった自分が立っていた。
ボクの体をすり抜けて、眠っている妹の頭を撫でてやり、涙を零しながら笑っている『ネロ・ダンタ』ボクが。
すべてをを投げ打つ覚悟を持った眼差しだ。
もう1人のネロがエリーシャの頭を撫でるのを止めると、背後で佇むボクの方へと振り返って表情を強張らせた。
ボクも返すようにもう1人の自分に言った。
「キミを1人にはさせない。だから、一緒に行こう」
もう1人のネロがボクの言葉を飲み込み小さく頷く。
『ーーーそれでいいんだね』
彼はボクへと一歩、二歩と小さな歩幅で距離を詰めて手を差し出した。
躊躇う理由などない、ボクは深い息を吐きだし自分を落ち着かせてから差し出された手を見た。
離さぬように出来るだけ力強くもう1人の自分の手を掴んで、目を大きく開きながら彼に微笑んでみせる。
それでも彼からの返答はない。
『行ってこい』
その言葉を最後に、ボクの忌々しい記憶がすべての感情をかき消していき、さらに胸を痛める憂鬱感が心から剥がされ、ボクの目の前で消滅する。
気がついた時には、ボクの見える風景は変わっていた。
「目を覚ましたようだね、おはよーう」
気配がして地面を横になった状態で夜空を見上げると、そこにはボクの顔を覗き込むようにニヤける少女のフィオラがいた。
「……ボクに一体なにをした?」
聞こえる、感じる、臭う。
人間の感覚である五感が大幅に進化でもしたかのように、あらゆるモノが感じ取れる。
「それは自分の目で、直に確かめてごらん?」
焚き火に照らされたボクらのわずかな隙を狙って食い殺そうと木々をカムフラージュにして、身を隠しながら様子を伺っているモンスターの数までもが手に取るようにわかる。
すぐさまボクは荷物にしまっていたナイフを数本抜き取り、背後から飛び出そうと助走をつけようとした直前のモンスターに向かってナイフを1本投げつけた。
ズサっ! ウギャン!!?
手応えのある音と鳴き声、木々に返り血が飛び散ってボクは確信した。
生命活動が途絶えた。
自分の華麗なるナイフさばきに見惚れている場合ではないと我に返り、手に残ったナイフをすぐさまボクらを囲みながら身を潜めている無礼なモンスターらに投げつけてみせる。
ズサ! ズサ! ズサ! と生命活動が消滅していく。
先ほど彼女を襲っていた狼の群れだろうか、かなり数が多い。
それでも投げたナイフの勢いは止まらい、狼らの肉と木々を貫通しながら数体を次々と沈黙させていく。
気がつけばボクらを囲んでいた脅威は全滅していた。
「フフフ、お見事!」
たったの1匹、親玉だけは除いてだが。
アオォォン!! 鳴き声により木々が揺れ、真正面から巨大な毛玉が姿を現した。
狼のような見た目だが普通より巨大で、さらに頭部が3つ胴体から生えていた。
森を探索する冒険者らを最近困らせている希少なモンスター『ウフベロス』だ。
ケロベロスにも似た姿をしているが、実物は火を吐いたりもっと巨大なため、ケロベロスに比べればウフベロスは雑魚だ。
真正面から牙を生やした口から唸り声を発しながら威嚇してくるが、不思議に恐怖や動揺の反応が湧いてこない。
昨日の自分なら、完全に腰を抜かして失禁しているだろう。
それなのに、ヤツに抱く感情は些細なものだった。
「かわいいな」
挑発しているつもりではなく、ヤツを見て第一印象に芽生えた感情だ。
ボクの言葉が通じたのかは分からないが、ウフベロスは激怒したかのように鳴き声を発しながら、爪で地面をめり込ませ口を開きながら突っ込んできた。
一方、ボクの隣にいた自称女神のフィオラは後ろに手を組みながらボクを面白おかしそうにジト目で顔を覗き込んでいた。
危機感がまるでない、無心のボクは手を前へとかざすとウフベロスは躊躇うこともなく腕に力強く噛み付いてしまう。
「………?」
ポカンとするボク。
(痛みがまったくない)
腕を動かすと自分よりデカイウフベロスの体が宙へと浮き上がった。
見た目によらず軽く感じた。
そのまま前方へと噛み付いたままのウフベロスを投げつけた。
ウフベロスは噛み付いていたボクの腕を離すと、手前に立つ巨大な木に体をおもっきり叩きつけて地面に倒れてこんでしまう。
木々は衝撃で崩れる。
噛み付かれた手を見ると、傷1つ付いていないことに気がついた。
試しにつねってみるが変わらず柔らかい皮膚だ。
「トドメを忘れないでね。私の加護を持っているキミだから余裕だけど、一般の人じゃ手が余ると思うから片付けたほうがいい」
横でなにを言っているかイマイチ理解できないが、彼女の言う通りに片付けておこう。
まだ余っていたナイフを構えると、ボクは集中するように息を吐き捨て、地面を蹴った。
逃げようとするウフベロスに余裕なんて与えさせない、ナイフを振り下ろした。
※※※※※※
「なっ、なんなんだ? この全身がみなぎるような感覚はっ? しかも、幸運しか取り柄のないボクがどうして!?」
気がつけば一撃でウフベロスを真っ二つに両断していて、そのすぐそばでボクは返り血を拭っていた。
「ウフフン! どうかしら? 私の『女神の加護』の効果は? 前よりとっても強くなった気がしないかしら?」
「どうもこうも。って、女神のカゴ……なにソレ?」
「左手をご覧なさい!」
左手の甲を見ると、そこには刻み込まれたかのような魔法陣が出現していた。
「ステータスプレートを見てみなさいよ? 声にならないと思うわよ」
「わ、わかったよ。落ち着いて」
なんだか上機嫌な様子で詰め寄ってくロリが微笑ましかった。
苦笑いをしながらボクはギルドカードの裏を見る。
そこにはステータスがすべて記載されていて、レベルが上がるごとに能力値の文字が赤く点滅する。
「うおっ! なんじゃコリャ!?」
驚くのも無理もない。なんせステータスプレートの数字がすべて赤く点滅していたからだ、それも強めに。
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 ー STATUS ー
LV:36
名前:ネロ・ダンタ 性別:男 年齢:18歳
筋力:20 → 200
体力:12 → 157
魔力:5 → 100
敏捷:25 → 200
防御:18 → 150
魔防:13 → 180
運 :200
スキル(技能):女神の加護LV MAX
自身のパラメータをすべて大幅に上昇。
仲間に効果を付与できるが24時間に一回限りである。
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手の力が抜けてしまい、手に持っていたステータスプレートを落としてしまう。口をあんぐりと開けて唖然としてしまう。
そばにいたフィオラはボクの落としたステータスプレートを拾うと、中身を確認してうすく笑った。
「まあ、こんな所かしら……って、うわ!? 本当に幸運が高いんだね〜ネロ様は」
ステータスを見たフィオラは興奮した様子で口元に手を当てて頰を染めていた。
それにしても、幸運値のパラメータは相変わらず変動はナシ。
そもそも人間の通常幸運値は100までが限界なのに、それを凌ぐかのように元々ボクの幸運値は高い。
すべてのステータスが幸運値と並ぶように数値が底上げされていた。
あんぐりと開いていた口を閉ざし、フィオラからステータスプレートを受け取って中身を再確認する。
「こ、こ、これじゃ、基礎ステータスが勇者並みじゃないか!? もしかしてこの……」
左手の甲に刻まれた印を目に当てる。
「はは……はは。なんてことだ……ははは!」
手を顔に当てながらボクは、自身に起きた大きな変動に面白おかしくなり笑う。
嬉しさよりも驚きが大きいだろう、ボクの目は死んでいた。
「これなら、ボクにでも最強のパーティを設立できるよ! よっし! よっし! 」
それでも受け入れると素直に嬉しくて、無意識に拳を握りしめてガッツポーズをしてしまった。
横でボクを面白そうに眺めるフィオラの存在に気がつき咳払い。
「ごほん。なんと言うか、これってキミのおかげなんだよね?」
「うんうん。ネロ様のために頑張ったんだよ! それと私のことはキミじゃなくて、気軽にフィオラって呼んでね。私、貴方を気に入っちゃったみたいだからさ!」
そういえば彼女はボクが目を覚ましてから敬語口調をやめていた。
もしかして同行を前提で、馴れ馴れしくしたのだろうか? まあどっちにしろフィオラのおかげだ、本当に運がいい。
「わ、わかったよフィオラ。それとね、ありがと」
「お礼ならこっちが言いたいわよ。 ネロ様の役に立つこそ今の私の使命だから!」
「そうか……ならさ、ボクとパーティを組まないかい? ちょうど人員を探していてさ」
「パーティとは何なのかあまり存知ていないけど! いいわよ、人員になりましょうや!」
ポンとフィオラは自信満々な笑みを浮かべて、大きな胸を揺らしながらボクの前へとつきだしてきた。
噴射しそうな鼻血を抑え込んで、見ていないフリをする。
そんなフィオラに、ボクは握手を求めて手を差し出す。
どういうことなのか、それを見たフィオラは耐えきれず笑う。
「フフフ! 本当に面白いお方、ますます気に入っちゃったわ!」
「いいからさ、握ってよ恥ずかしいから」
フィオラは差し出されたボクの手を、小さくて弱々そうな自分の手を差し出そうとしたが、まずは赤い手袋を外してから改めてボクの手を掴んだ。
新たなパーティは、今ここで設立された。
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