ダイヤモンドより硬く輝いて

歌さぶろう

第12話 冒険者協会

 馬車に揺られて3日目の朝、僕達はヴォズベ帝国の首都であるヴォリアラントへと到着した。
 御者の人が言うには、ミーリアルへ向かうにはここで1度食料などの補給をしてから向かう為、今日1日はこのヴォリアラントで過ごさなければならない。その1日を利用して、僕とシラヌイさんは冒険者協会に来ていた。
 冒険者協会とは、冒険者となる為に登録証を出したり、冒険者が依頼を受けたり報酬を受け取ったりという様々な事が出来る場所で、街にはそれぞれ支部が存在しているらしい。

「さ、着いたぜ。ここが帝国で1番デカイ冒険者協会だ!」

 この街の冒険者協会は西洋風で煌びやかな装飾が施されていて、豪華絢爛な城と見紛うほどで、冒険者と思われる人の数が非常に多い。

「…すごい…これが冒険者協会…」

「ああ、つってもここまですげえのは帝国くらいなもんだぜ?見ろ、扉にまでステンドグラスが嵌め込んである」

 中に入ってみるとさらに豪華で、置かれている家具も高級そうな物ばかりである。僕達は20程ある受付の内の1つへ行き、「冒険者志願です」と述べた。だが…

「冒険者志願、ですか…はぁ…では試験を受けていただきますね」

 と、何故か面倒そうに対応される。さらに、試験という言葉を聞いてシラヌイさんが「お、おいちょっと待てよ!」と受付の若い男性に詰め寄る。

「試験ってどういうことだよ!俺が冒険者を志願した時はそんなの無かったぜ?」

「最近、軍の大規模な兵士の解雇があってその兵士のひとが冒険者の方に流れて数が増え過ぎてましてねー、上層部が試験制度を採用したんですよ」

「はあ!?試験の内容は?」

「えー、その時来ている依頼の中の1つを受けていただき、無事に達成出来たら、ですね」

「…今どんな依頼がある?」

「こちらです」

 と、シラヌイさんは差し出された数枚の依頼書をふんだくり、目を通す。するとすぐに、

「アホか!素人にこんな強い魔物を狩れとか遺跡調査とか出来るかよ!アホか!?」

「…出来ないなら仕方ありません、冒険者は諦めて下さい」

「…なら、俺が手伝ってやる。ケント、好きなの選びな………出来れば、その…ちょいと簡単そうなやつを…」

「試験は1人で行なっていただきます、協力は無しです」

「嘘だろおい…」

 「だ、大丈夫ですよ!シラヌイさん!僕1人でなんとかしてみますから!」

 僕も依頼書を見てみる。よくわからない魔物の討伐依頼が3件に、遺跡調査が1件、護衛依頼は…4人以上いないと受けられないか…後は…と、1枚の依頼書が目に入った。

「…ん、森の調査?えーと…」



[近頃、森で人影のようなものを見かけます。他の人は動物か何かを見間違えたのではないかと言いますが、あれは明らかに人だったと思います。それにもし魔物だった場合が心配です。調査願います   報酬:20リト」



 …へぇ、こんな依頼もあるんだ…これなら僕にも出来そうかな。

「えっと…これにします」

「あん?どれどれ……あー、まあこれなら…まぁ、うん…報酬はシケてやがるが…大丈夫か」

「…では、試験料として50リトいただきます」

「え」「嘘だろぉ!?」

 試験料って、お金取るの!?しかも報酬は20リトなのに試験料は50リト!?僕の手持ちは…35リトちょうど…15リト足りない…

「払わないのなら、試験もナシ。帰って下さい」

「…わかったよ!パンとジャーキー3枚とチーズの借りを返す時だ!ケント、財布ごと俺の全財産を持っていけ!」

 シラヌイさんはボロボロの財布を投げてくる。でも…そんな…

「シラヌイさん…!でも!」

「いいんだよ、言ったろ?倍以上にして返すってな!」

「…足りません」

「え?」

「足りません…」

 …シラヌイさんの財布を開いた時、衝撃だった。これがシラヌイさんの全財産…

「…あー、そういや数えるくらいしかないんだった…いくらある?」

「えっと、13リト78プトです」

「…そうかぁ…もうちょっとあると思ったんだがなぁ…じゃなくて!どうする、あとちょっと足りねぇぞ!」

 …イチかバチか…!

「あの!今僕の持ってる35リトを前払いにして、報酬から残りを引いてもらったり出来ないですか!?」

 そういうと、受付の人は「ふーむ…」と唸ったあと、

「…その前払いと…そうですね、利息として報酬の全てでならいいでしょう」

 と言った。

「なっ…!?おいケント、やめとけって!お前、無一文になっちまうぜ!?」

「いいんです、シラヌイさん…ここでやらないとそれこそ強くなれない気がするんです…ここで立ち向かわないと…!」

「お前…」

「では、よろしければこちらにサインを…」

 差し出された書類にサインする。普通なら馬鹿な行いなんだろうけど、やらなくちゃいけない。そんな気が僕を駆り立てた。逃げるのはやめだ!逃げたらまた、師匠みたいに誰かを…

「それでは、試験の一環ととして森にいる魔物を1匹倒し、身体の一部を持ち帰って下さい」

「え…魔物…」

 そんな、いくら試験の一環とはいえ魔物を!?

「おい、受けたのは森の調査だろ!?なんで魔物なんだよ!」

「いえ、本当に調査しているか判断出来ませんからね。これぐらいは…」

「ふっざけんな!詐欺じゃねぇか!おいケント、こんな依頼、破棄しちまえ!」

「破棄なされる場合は報酬額の3倍の金額を納めていただかないとなりませんが?あぁ、お支払い出来ない場合は憲兵に突き出させていただきます」

「ぐっ…こんのやろォ…!」

「おっと、手を出さないで下さいね?全て上層部がお決めになられたんですよ?帝国騎士団長で勇者であらせられる、シン様がね」

「シン!?シンだって!?」

 まさか…シンが冒険者協会を…ここで折れたらシンに負けるのと同じだ…やってやる!!

「…勝てばいいんですよね?」

「えぇ、そうすれば貴方も冒険者ですよ?」

「やります…!負けられないんです!」


……………
………



 依頼の場所はグェドの森という場所らしく、冒険者協会から出て早速向かうことにした。

「…シラヌイさん、ここまでありがとうございました。」

「…いいのかよ、お前ミーリアルへ行かなくて…」

 グェドの森は近いものの、探索となると1日以上かかるだろう。だから僕は馬車を降りてまずは試験を優先することにした。だからシラヌイさんとはここでお別れだ。

「行きたいですけど…まずは試験に合格しなきゃなんで…またどこかでお会いしましょう」

「…すまねぇな…俺も残ってやりたいんだが…」

「いえいえ、いいんですよ。ここから先は僕の戦いですし」

「そうか…体には気をつけるんだぜ?」

「はい!シラヌイさんこそお気をつけて!」

「ははっ…オジサンにはキツイかもな………それじゃあな…ケント、達者でな」

 こうして、シラヌイさんとはお別れした。ちょっと寂しいけれど、これでよかったんだ…巻き込むわけにはいかない。

「…さて、と…グェドの森へ行くぞ!」

 僕は1人、街の外へと向かっていった…






 ケントとかいう坊主と別れて、馬車の御者の所へ行き、ケントが残る理由を話し、宿代が無いもんで馬車の荷台で休ませてもらう。だが、どうにも休めない。どうしてもあの坊主の事が心配になってしまう。

「…クソッ…こんなんじゃ、まるっきり恥ずかしい大人じゃねぇかよ…」

 後悔ばかりが頭をよぎる。だが、俺みたいなオジサンに何が出来るってんだ…クソ…

「…無事に、試験通過しろよ…あと、」

 俺みてぇなクソッタレには…なるんじゃねぇぞ…

……………
………





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