ダイヤモンドより硬く輝いて

歌さぶろう

第7話 葛藤


 初めての洞窟探索から2週間、毎日魔法の練習や、この世界について師匠の講義を通じて学んでいた。街へ出かけることも多くなり、次第にお店の人達とも仲良くなっていった。

「お?ノールドさんとこのケントじゃないか、相変わらずその赤いペンダント綺麗だねぇ…羨ましいよ」

「えへへ…そうですか?師匠がくれたんです!」

「それはそうと、どうだい?今日は質がよくて珍しい野菜が入ってるよ?」

「…なんです?これ?」

「コイツはミーリアルの農村マルガの特産品のマルガキャロットさ、ちょいと甘くて色んな料理に合うぜ?おひとつどうだい?」

「じゃあ…えっと、2つ下さい」

「おぉーい!ケントの坊ちゃんやー!安くしとくからうちでも何か買っていかんかー?」

「ちょいとお弟子さん、出来たてのパンがあるよ?見ていかないかい?」

「うわ、うわわ…い、一件ずつ行きますから、引っ張らないで下さーい!」

 今日も街に来て買い物。ここ2、3日は師匠がヴァントさんに用事があるらしく毎日街に来ている。昔馴染み同士話したい事があるのだろう。





 一方、ヴァントの鍛冶屋では…

「…そうか…」

「…うん、知り合いの商人の話では明日の朝には国境を跨いでこの街に来るらしい。旅行と称しているけど、狙いは…おそらく君だ」

 ノールドはズズッとコーヒーをすすりながら話半分で聞いていた。

「もうお前の淹れる美味いコーヒーも飲めんくなるのう…」

「…ねぇ、今からでも遅くない。逃げたらどうなんだい?」

「バカ言え、今逃げたとしてもいずれは対峙せにゃあならんじゃろうが、それにワシも歳だ。…もう、ええじゃろう…」

「あの子は!?ケント君はどうするんだい!君のことだ、何も言ってないんだろう!?」

「おいおい、この間も言ったろう。老体に響くぜ」

「そんなこと言ってる場合!?これじゃああんまりだよ!かわいそうだよ!?」

「…わかってるさッ!!」

 持っていたカップを握り割る。ノールドの手に血が滲むが、カップの破片を手から零す事は無く、むしろ離さず、深く握りしめる。

「そんな事ッ!分かっておるッ!!だから、だからこそワシはあの子に教えられる事を出来る限り教えておるんだッ!ワシが、ワシら7人が守ったこの世界の為とワシが居なくなった時のあの子の為にッ!」

「…ッ!…ユウキ・・・、君は…」

 その時、鍛冶屋の扉が開かれ、大量の荷物を抱えたケントが入ってくる。

「す、すいません師匠ぉ…安くてつい買いすぎてしまいました…ってどうしたんですか!その手!血が出てますよ!?」

「…あぁ、心配はいらんよ。くしゃみをした時にちょいとな、のうヴァント?」

「………」

「…のう?ヴァントや?」

「そう、だね…まぁ、ノールドなら大丈夫さ、もっと酷い時もあったもんね?」

(…そう、どんな酷い状況でも…みんなで乗り越えてきたじゃないか……なんで…)

気がつけば涙を流していた。幸いケント君は気付かれていない。そっと服の袖で涙を拭う。

「…さあて、ワシらはもう行くよ。カップを割っちまってすまんかったな」

「あ、あぁ…いいんだ、カップくらい…」

「すみませんヴァントさん、今度僕が市場でいいのを探しておきますね」

「いやいや、ケント君が気にすることじゃないよ…それよりも、ノールドをよろしくね…」

 ケント君の肩に手を置く。ノールドを助けて、とは言えない。第一彼は何も知らない。だが、明日には………そうだ…これから1番つらくなるのは、ケント君だ…大人の自分がしっかりしてなくてどうする…!

「…?よく、分からないですが大丈夫ですよ!師匠は僕が見てますから!それじゃ、ちょっとコレ重いんで先行きますね、ヴァントさん、また来ます!」

「あぁ、いつでも来ておくれよ…」

 と、ケント君が鍛冶屋から買い物の荷物を抱えて出て行く。
 …すまない、ケント君。そう心で彼に届かない謝罪をする…

「ヴァント…」

「…なんだい、ノールド…」

 外に出ようとしていたノールドが扉の所で振り返り、





「ありがとよ」





 …そう、言った。
 ノールドが出て行き、扉が閉まる。

「…ぁ…うぁ…」

 耐えていた感情が湧き上がり、耐えきれずに涙をボロボロ流す。

「…あ…ぁぁ…う、うぅ…どうして…君は…」

その後もただひたすらに泣き続けた。1人の友の為に、ただただ…

……………
………







 家に帰ってから師匠はすぐに特訓と称して魔法の練習を僕にするように言ってきた。

「よし、ケントや今日も『クリスタルダスト』の特訓じゃ!」

 クリスタルダスト、3日前に偶然発動した僕の新しい魔法。
 きっかけは、僕が師匠から貰った辞典のクリスタルのページを見ていた時に、台所の黒い悪魔『G』が現れた。その時とっさに「消えろ!」と魔法を使ってしまい。偶然に発動したのである。ちなみに効果内容としては、クリスタルの塵が光を反射させて周りの景色だけを写し、僕を中心に半径1メートル以内の僕と、僕の任意のモノを少しの間だけ見えなくする、といったものだ。つまり、その時は僕と一緒に『G』も見えなくなっていたという事である。

「ふむ、消えていられるのは…2、3分が限度か…」

「はい。まだ全然慣れてないから魔力の消費が黒曜弾の…多分体感からして…3倍以上ですね…」

「クリスタル、水晶は様々な用途に使われておる。杖の装飾にする事で所有者の魔法の性能を高めたり、魔力を上げたりと色々じゃ、それを作り出すとなるとそりゃあ魔力が大幅にかかりよるわ」

〔水晶:クリスタル、地殻から産出される代表的な鉱物のひとつであり、透明度がないものが『石英』、無色透明のものが『水晶』と呼ばれる。水晶の結晶は普通、六方晶系の柱状結晶体で産し、それらが双晶をなしたものや塊状や粒状、鍾乳状で発見されることもある。一般的に無色透明なものをクォーツと呼んでいるが、この仲間にはアメジスト、ローズクォーツ、スモーキークォーツ、シトリン等の種類が存在する。硬度7〕

「しかも、お前さんの魔法ではクリスタルの塵を纏うておるだけじゃからな、魔力で着いておるとはいえ、強い風が吹いたりしたら剥がれてしまうじゃろう」

 …師匠はいつもより、なんというか気合いが入っていた。それに急いでいるような…

「ほれ!もう一度じゃ!早うせんか!」

「は、はい!」

 …何か様子がおかしい。…更年期?いや、師匠の歳だともうボケが…って師匠何歳なんだ?
 その日の練習は夜遅くまで続いた。終わった時には魔力切れでヘトヘトになり、床にベタっと横たわっていた。

「ケント、ほれケント!」

「…ゔぇ?なんです…師匠?」

「明日はまたフィールドワークに行くでな、リュックに辞典と探索用のツールと、それから食料、着替えやお前さんが旅をするなら必要だと思う物を入れるんじゃ」

「…旅…ですか?」

「あぁそうとも…次はのぅ、旅の練習じゃ2、3日分のを用意するのじゃ」

「分かり…ましたぁ…じゃあ明日の朝に…」

 そういうと師匠は「ならん!!」と声を荒らげた。師匠のこんな声をを聞くのは、初めてで、ビックリしてしまう。

「今すぐじゃ!すぐに用意せい!」

「…どうしたんです?師匠?どうも帰ってきてから様子が変ですよ?」

 すると師匠は「すまん」と言い、深呼吸した後いつものように話し始めた。

「すまんな…その…明日からの旅のフィールドワークが楽しみでのう!は、ははは!」

「…分かりました、すぐに用意しますね。あ、食べ物の中に師匠の好きなミンダジャーキー入れときますね!今日安かったんですよ!」

「あ、あぁ…すまんのう」

 部屋へ向かい、大きめのリュックをベッドの下から取り出す。旅が楽しみだなんて…師匠も子供っぽいところがあるんだな…さて、行った先で料理しなきゃいけないかもしれないから…フライパンも持っていこうか…

……………
………







ケイニックへ向かう帝国の馬車内では…

「何もみんなして付いて来なくてもよかったのに」

「いいえ!なりませんわ!わたくしの騎士団長であるシン様に何かあったら…!」

「そうだよシン、勇者だからって1人で行くことないよ!私だって戦えるよ!」

 馬車の中には神々しい鎧を纏った帝国騎士団長で勇者のシンと呼ばれた青年と金髪のロングヘアで青いドレス姿の少女と、緑髪のサイドテールで戦士の姿をした少女がいた。

「今から行くのは過去の英雄の所だ、力が落ちてるとはいえ、2人を危険に晒すわけにはいかないと思ったんだけど?」

「えー、そう言わないでよ〜」

「全く…しょうがないなぁ…」

「それで、その英雄の方はドラゴンよりも強いのでしょうか…」

「え?ドラゴン?初めて来た時に目の前にいたからパンチしたら倒れたんだけど、強いの?」

「えぇ!?」

「え…」

「え…もしかして、また俺何かマズイことした…?」

「当たり前だよ!ドラゴンを倒すなんて!」

「騎士が何人いようと倒せませんわよ!」

「…てっきりこの世界・・・・のドラゴンが弱いのかと…」

 2人の少女は驚いたままで、シンの話を聞いていた。一方のシンも何がそんなに驚きなのかという顔をして、話は続いていく…ある男の元へと向かいながら…

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